第1回ミッションの派遣概要

派遣期間:

2001年7月15日(日)〜7月19日(木)5日間

派遣先:

ロシア沿海地方ウラジオストク、ナホトカ、ウランゲリ

ミッションの構成:

関東にある建材等・食肉・水産物輸入販売会社3社、経済産業省ロシア・NIS室、ロシア東欧貿易会より合計7名

主要目的:

極東産品の輸入のための現地調査。

対象品目:

住宅建材、家具、レンガ、水産物他

訪問先:

製材工場、建材店、中小企業木材加工研修センター、製材所、木材加工・家具工場、水産会社、水産加工工場、レンガ工場、食肉工場他、その他ウラジオストク市内の販売店、スーパー、市場等視察
(滞在期間中2グループに分かれ訪問)

主要日程:

7月15日(日)15:40新潟発19:10ウラジオストク着
7月16日(月)企業訪問(ウラジオストク)
7月17日(火)企業訪問(ウラジオストク)
7月18日(水)企業訪問(ナホトカ、ウランゲリ)
7月19日(木)企業訪問、14:50ウラジオストク発 14:15新潟発

訪問後の成果:

商談継続中

その他:

現地にて日露通訳、車両傭上。訪問企業に関する企業情報、接触のアレンジは、総領事館の協力を得て、経済産業省がサポート

ロシア極東マイクロ・ビジネス支援(第1回)
〜ウラジオストクを訪問して〜

平成13年8月
経済産業省通商政策局
ロシア・NIS室 係長 木村 欣央

 本事業の第一段として、ロシア極東マイクロ・ビジネス支援のため、ロシア市場に関心はあるが、ロシアと直接取引の経験がない園芸・建築資材、水産、畜産の輸入・販売会社とともに小さなグループを形成し、平成13年7月15日〜19日、ウラジオストクを訪問した。
 その結果、ロシアの業者と取引を行う上で商談・契約に至るまでに生じる問題点の一般的な傾向が判明したので、紹介する。
 ただし、以下は、あくまで今回の調査における私個人の見解であること、また、今後の日露間の経済交流の拡大、ロシア極東における日本企業のビジネス・チャンスの拡大を願い、敢えて問題点のみを抽出し、簡略化したことを予めお断りしておく。

 まずは、ロシア側の抱えている点を具体例を挙げながら説明する。

<売り手意識の欠如>
 今回訪問したウラジオストクの業者は、外国との貿易の経験が少ないことから、日本とは異なった独自の商慣習が見受けられた。
 交渉を始めるに当たり、日露の通訳が必要となるが、通常、売り手側が当然準備するはずだが、ロシア側にその点の認識はなく、買い手である日本側が通訳を用意した(勿論、中には日本語が分かる者が同席し、専門用語など分かりにくい部分について、通訳の補助を行った業者もあった)。

<不透明なバザール式価格交渉・価格設定>
 次に、契約条件の交渉に進むことになるが、ここでも独特な商慣習に遭遇する。
 まず、価格の切り出し方について述べると、ロシア側は、最初から、商品の相場、原価・コストなどを計算しても日本側が到底理解できないような高い金額を提示してくる。あるいは、質量を問わず、はじめに日本側に金額を提示させるケースが多く見られる。これは、ロシアが有史以来、市場主義経済を経験しておらず、契約の前提である信用の価値を理解していないことから生じていると考えられる。今、高く売れればそれでよいとする、いわゆるバザール経済、物々交換が、このようなロシア人の思考のベースにあると見られる。そこで、日本側としても、予め少なめの金額を提示して折り合いを付けざるを得ないといえる。一方、日本の企業もこのようなロシア式の価格交渉に慣れておらず、なかなか次のステップに進みにくいのではないだろうか。あまりにも高い金額を最初から提示されると、値下げ交渉をするよりも、そんな理不尽ことを言ってくるような相手と取引はしたくない、信用できないと思い、取引自体を諦めてしまうこともありえよう。
 また、ある業者は、自社が扱っている商品の国際市況や相場を把握していないことから、一方的な(あるいは独善的といったらよいのか)価格設定を行っている。このように、商品の相場を無視した高い価格を設定されてしまうと、中国から輸入(ロシアから原材料を輸入して、それを中国で加工したものを購入)した方がむしろ安いといったケースもよく見受けられる。これでは、ロシアと直接取引を行うメリットはなくなってしまう。
 さらに、価格設定、金額の提示に関しても、ロシアの業者は、商品をロシアでの工場で渡す場合の値段は提示できるのだが、ほとんどの業者は、日本の港(仕向け地)での引渡し(CIF:運賃・保険料込み渡し)の場合はもちろんのこと、ロシアの港(積載地)での商品の引渡し(FOB:本船渡し条件)の場合でさえ、その値段を提示できなかった。これは、ウラジオストクでは、貿易業務を専門に行う日本のような商社がほとんどなく、また、生産業者が輸出業務を直接行うのが通常だが、その生産業者も輸出の経験がほとんどないため、輸送手段・ルートの確保、運搬費用、海上保険、輸出税、通関に係る費用などの算出ができなかったことによると思われる。ただし、一部の業者では、日本の港での商品の引き渡し(CIF)で、国内代金の概ね3割増し見当との回答があった。

<日本企業との取引の仕方>
 これもよくいわれることだが、日本企業の取引の傾向を勉強していないことから生じている点も挙げられる。そもそも、日本企業は、一般的に、あまり知られていない地域への進出には慎重な対応をとっているが、一社が進出すると、我も遅れないために、あるいはあの企業が取引しているからウチも出てみようかといった理由から、多くの企業が後から続いて進出する傾向が見られる。これが分かっていれば、最初に来た日本企業を特に優遇することにより、その後に続くであろう日本企業との取引の拡大を期待するといった、従来と異なった対応を取ることもできよう。

<ロシアの加工技術、規格・デザイン>
 次に、技術面について述べる。
 確かに、小さな工場では、技術においても劣っていたが、一部の比較的大きな工場では、韓国企業などの外国資本と提携し、技術指導を受けていたりして、技術的な問題はほとんどないと見られる。
 例えば、木材の加工技術では、他国と比して技術力は遜色なく、日本へ大量に輸入している南米のある国よりもむしろ技術が上と見られる工場も見付かった。この工場では、韓国などとの外国貿易の実績もあることから、国際商慣習、貿易実務もよく理解していた。
 このように、よく探せば、日本企業の取引相手ともなり得る会社も存在する。ただし、現在、ロシアの国内市場の活況(アパートメントの建築ラッシュ)から国内需要も十分にあり、そのために国内での商品の価格も比較的高額となっており、輸出に係るコストを勘案すると、輸出意欲が減退してしまうとの意見もロシア企業側から聞かれた。
 また、ロシアの規格、デザインは、日本の求めているものとは異なる場合も多いので、この点をよく確認し、注文の際には細かく指示を出す必要がある。さらに、木材に関しては、乾燥するための設備が貧弱であるため、乾燥が不十分であるなどの問題も見受けられた。

<ロシアのムラ社会>
 これは商慣習ではないかもしれないが、よく見受けられる点について述べる。ロシアは、いわゆるムラ社会であると言われており、仲間である場合とそうでない場合の扱いの差が大きい傾向があることに注意する必要がある。
 例えば、紹介者がいないと、アポイントメントの取得自体も難しい。また、提示される価格は、仲間である場合とそうでない場合の差は非常に大きい。情報も仲間内にしか流さず、仲間ではない者も含めたロシア側全体での情報の共有化はなされていない。逆に言うと、一旦、仲間として認められると、その扱いは格段に向上するといえる。
 今回は、ロシア東欧貿易会と関係の深い中小企業センターの所長及びウラジオストク市を通じて、業者とアポイントメントを取得したため、多くの方々と面談することができた。これは非常に幸運であったと言えよう。

<経営・技術研修の意義>
 以上のように、ロシア極東の特異な商慣習などは、外国との貿易経験が少ないことから生じていると考えられ、日本の商慣習、貿易手続などを教える経営研修の意義は大きいと思われる。また、ロシア東欧貿易会を通じて日本が支援を行っている中小企業センター(木材加工場)に設置している加工機械は、日本の業者が使用しているものと同じものであり、かつ同センターの技術レベルは高く、研修の成果は高いものと思われる。

<通訳・意思疎通のために>
 次は、日本側について述べる。中小企業では、ロシア語ができる社員がほとんどいないため、現地で通訳を雇う必要があるが、専門用語を巧く使いこなせる通訳を捜すことが難しいと言える。今回、木材については、専門用語が分かる通訳をたまたま見つけることができた。そこで、現場にてスムーズに意思疎通を図るためにも、写真付きのパンフレットなどを日本から持っていくと、専門用語の説明、相互理解に非常に役に立つといえる。

<有望な分野を見つける>
 それではどのような商品が有望だろうか。ロシア極東は、木材や水産物が豊富なので、これらを加工したものが有望と見られるが、次の点にも注意したい。日本国内の港間の海上輸送費は高いので、単品の価格が安いものを輸入する場合、仕入れ原価に占める輸送費の割合が高くなり利益が少なくなってしまう。このため、国内で高く売り捌くことができる商品(単品で高額に販売することを見込める)を輸入するか、仮に単価の安いものを輸入する場合には、ロシア極東との定期航路をもつ沿岸にある企業との取引が有利と思われる。
 なお、今回、畜産関係の業者もメンバーとして参加していたが、食肉加工に関して、味、価格ともに日本のマーケットでも通用すると考えられる製品を生産している工場が見つかった。しかし、日本では、そもそも食肉の輸入は家畜伝染病予防法で原則禁止されており、また、同法施行規則により加工品の輸入が認められる基準を満たすとして農林水産大臣の指定を受けた施設は、現在のところ、ロシアにはないため、今回、取引を断念せざるを得なかった。おそらく、食肉関係の輸入は当面難しいと見られる。

<ロシア式交渉への対応>
 さて、契約条件を交渉していく段階では、既に述べたことだが、日本の企業は、ロシア式の価格の交渉の仕方に慣れておらず、なかなか次のステップに進みにくいといえる。最初に、予想していた金額に比べ、あまりにも高額を提示されると、値下げ交渉をするよりも、面倒になって取引自体を諦めてしまう場合も多いであろう。ここは、日本側としても、最初は、思い切って低めの値段を提示したり、国際相場などを説明しつつ、根気よく折り合いをつけていく必要があろう。
 また、日本の業者は、中国との取引が豊富なため、中国の規格で原価を計算することが多いが、ロシアでは規格が異なることから、価格設定も異なる点にも注意を要する。例えば、集成材の場合、中国では、端を切り落とした廃棄部分を集めて作っているものは非常に安くなるが、ロシアの規格では、中国規格では捨てていた部分も板として使用しており、廃材の部分利用ではないので、必然的に集成材の価格が高くなってしまう。
 今回、園芸の資材の輸入に関心のある会社の参加があった。園芸の場合、建築資材であるレンガを使って花壇を作るなど、日本では建築資材を転用している。しかし、ロシアでは、このような園芸の経験・歴史がないため、日本側からサイズ、デザインなどを細かく指示、注文して生産させる必要がある。今回も事前に依頼してロシア側にサンプルを用意して貰ったが、日本側が想像していたものと全く異なっていた。

<トラブル防止のために>
 最後に、トラブルを未然に防ぐために、是非とも行って頂きたいことについて若干の例を挙げたい。必ず契約書など文書で細かく条件面を確認しておく必要がある。特に日本では、契約する際、契約書(書面)で確認をすることよりも、人的な信頼関係を重視していることが多いため、この点、特に注意が必要である。また、これもロシアに限ったことではないが、検品の際は、必ず立ち会う必要があろう。

<まとめ>
 以上、敢えて問題点ばかりを列挙したが、まだまだ問題点はあるものの、ロシアの潜在的なポテンシャルは高く、よく探せば、取引の相手たるべき企業も見つけることはできる。また、ロシア極東には外国企業の進出もまだ少ないことから、積極的にロシアに進出し、可能性のある商品の発掘や、具体的商談を持つことができるようになれば、意外なことに短期間で契約まで結びつく可能性は高いかもしれない。
 我々としても、本ミッションを通じ、日露間の貿易・投資の妨げとなっている具体的な問題点を一つ一つ探っていき、少しでもその妨げがなくなるように改善を申し入れたり、問題点を紹介・周知して参りたい。
 本ミッションを契機として、日露企業間の交流が行われ、その結果、小さな成功事例が積み重ねられることで、それが日露間の経済交流の拡大、日本企業のビジネス・チャンスの拡大につながることを期待している。
 まずは小さくとも最初の一歩を踏み出してみることが肝心であり、多くの企業の参加を期待している。そして、サクセスストーリーが一つまた一つとできあがっていくことを是非望みたい。
 問い合わせは経済産業省ロシア・NIS室(TEL:03−3501−2838)または、ロシア東欧貿易会経済協力部に御連絡願いたい。

 最後に、今回の調査は、外務省、在ウラジオストク日本総領事館及びロシア東欧貿易会の多大なる御協力により行われたので、この場を借りて感謝申し上げる。

以上

<参考>
 最近では、ロシアでも企業の信用を調査し、希望する条件を満たす企業を依頼者に紹介、取引を斡旋する業者(コーディネーター)も現れたと聞くが、今回の調査では分からなかった。また、水産工場の中には、比較的上手な日露の通訳を用意していた所もあったと聞いている。

<備考>
 今回のミッションには、経済産業省通商政策局ロシア・NIS室の木村(筆者)及びロシア東欧貿易会の佐藤経済協力部長が参加した。

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