ロシア極東マイクロビジネス支援(第3回)

〜ナホトカ、ウラジオストクを訪問して〜

 

平成14年5月
経済産業省ロシア・NIS室
ロシア一係長 相田 裕之

 

 

 平成14年4月21日から25日にかけて、ロシア極東マイクロ・ビジネス支援の第3弾として、製材、特にパレット用の製材とその生産設備、中古枕木について関心のある企業とともに小さな訪問団を形成し、ナホトカ及びウラジオストクを訪問したのでその概要(主にナホトカ)について紹介する。

 なお、当該概要については、私個人の印象、見解によるものであることを予めご了承願いたい。

 

1.ナホトカ市経済部・商工会議所との意見交換

 

 ナホトカ市は、ウラジオストク空港から車で約3時間のところにあり、人口約18万人を有する港町である。沿海地方においては、ウラジオストクに次ぐ都市であり、極東における漁業や海運の中心地として発展してきた。ナホトカ市は自由経済特区にも指定されており、韓国との工業団地建設が進められている。日本との関係も深く、1970年代に日本との協力で建設されたボストーチヌイ港は、シベリア・ランドブリッジの積替基地として重要である。広大な敷地を利用して、効率的にコンテナ等を運んでいる。

 日本とは、舞鶴、敦賀、小樽と友好都市になっており、昨年市政50周年を迎え、記念式典が開かれたと聞く。

 先方に、マイクロビジネス支援の趣旨(小さくても魅力的な案件の成功事例を通じて、日ロ間の経済交流の拡大を目指す)を説明したところ、当方の考え方にご賛同いただいた。行政レベルでも、今後、極東ロシア企業と日本企業の間のビジネスパートナー探しを支援する事業を展開する意向とのこと。そして、最初は小さいビジネス案件であっても、それらをまとめることにより、将来的には大きなビジネスに育てる役目を果たしていきたいというお話しも伺った。

 また、在ウラジオストク日本国総領事館から、日本との取引を希望するロシア企業のリストの入手希望について申し出たところ、早速、当日の夕刻、当該リストが当方に届けられ、日本企業との取引拡大に積極的に取り組もうとする意向が感じられた。

 

2.視察・商談状況

 

(1)製材

 今回の訪問の目的の一つは、パレット(フォークリフトに付属する荷物置台)用の製材(樹種は落葉松(から松))を安定的に供給することのできるパートナー探しである。

 樹種、必要とする製材のサイズ及び仕上がり具合、取引数量そして価格と、チェックする内容及び交渉する項目は多岐に渡っていた。購入を希望する日本企業側からは、日本から持参したメジャー及び水分含有率測定器で製品の仕上がり具合の入念なチェックが行われた。特に水分含有率に気を配っておられたようである。十分に乾燥ができていないと、日本に搬入した際にサイズが変わってしまい、コンピューターの製造ラインが止まってしまうことがあるとの理由であった。

 また、交渉においては、様々な意見交換が行われた。例えば、今回必要とする樹種は落葉松であるが、落葉松は材質が固いので、生産能力が赤松等に比べると半分に落ちてしまうこと。製材の幅としては150cmのものが必要であったが、ある企業では120cm幅しか生産できないというところもあった。さらには、生産に踏み切るには、ある程度の生産量を確保する必要があるが、希望取引量が少なく、輸送上のコストが問題となるという意見もあった。

 最終的には、ナホトカにおける5つの製材業者との交渉を行ったが、そのうち1社との間で、落葉松の製材の購入について、具体的な合意に至ることができた。

(2)機械設備

 極東ロシアの製材業者において、実際に現場で使われている製材機等の状況等を視察し、日本製の中古機械に対するニーズの把握を行うことも今回の訪問の目的であった。

 ある工場では、中古の日本製の送材車及びオビノコがあった。「日本製の製材機械は、中古でも性能上も問題はない」という説明を受けた。据え付けについて質問したところ、日露合弁企業において経験のあるロシア人からの指導を受け、自分達で据え付けを行ったとのこと。ロシア人は、自動車の部品も自分で取り付けるという話を聞いたことがあるが、製材機械についても同様のようだ。

 また、中古機械を搬入してから、実際に生産することができるまでの期間はどの程度か質問したところ、搬入された機械の据え付け、当該機械を扱う訓練期間を含め、注文に合った品質の製材が作れるまでには3か月程度かかるとのことであった。

 訪問先では、いくつかの企業から、日本製の中古機械(フォークリフト、送材車、オビノコ、及びプレナー(かんな)等)についての照会があった。

 

(3)中古枕木

 今回は、日本の企業が園芸、ガーデニング、公園等に利用するため、シベリア鉄道で不要となった枕木をウラジオ鉄道総局から購入する商談が行われたが、価格面で今後引き続き、交渉が行われることとなった。

 

3.中小企業研修センター視察

 

 中小企業研修センターは経済産業省とロシア経済省の合意に基づき、ロシアにおける中小企業の育成支援を目的として、1993年度より社団法人ロシア東欧貿易会が実施している事業で、94年1月、我が国より貸与された機械・設備を備えた食品加工、水産加工、木材加工、金属加工、高度加工、経営研修の6分野のセンターが市内の各大学内に設立されている。

 今回視察に訪れた中小企業木材加工研修センターでは、木材加工技術の向上を目指しており、家具の完成品を作ることを目的としている。

 技術レベルについては高く、品質についも日本の市場でも十分通用するのではないかと思う。特に寄せ木づくりの4つ足テーブルを見せてもらったが、精緻なデザインで高級感を醸し出していた。

 

4.まとめ

 

 今回の訪問を通じ、今後の日露間の貿易を促進する上で重要だと思ったことの一つとして、お互いに信頼のできるパートナーを探すことが挙げられる。

 じっくりと、 相手と顔を付き合わせて商談をすることにより、相手の商談に対する気持ちの持ち方が伝わってくるものである。

 特に、これから、ロシアの企業から、製品を購入しようと考えている企業にとっては、とにかく現地に出向いて、作業現場、製品の仕上がり具合を確認することが非常に重要だと思う。パートナー探しは、安定的かつ継続的な取引を行う上で重要であると思われるが、それは、現地の作業環境等の視察及び直接的な交渉を行うことにより確認することができるものと思う。そのような点で、当該ロシア極東マイクロビジネス支援は、今までロシアの企業と馴染みが薄かった日本の企業との商談の機会を提供する事業として、有意義であると思う。

 また、私がウラジオストクに訪問した際に、現地の駐在事務所の方から、極東経済の明るい兆しについてお話しを伺うことができた。具体的には、ここ数年、建築ブームにより内需が拡大していることから、家具や建築資材等の「物回り」が良くなってきていることを指摘されていた。さらに、1年以上前は、閑古鳥が鳴いていたスーパーマーケットも、ここのところお客の入りがよくなってきているとのこと。一般の人々も徐々にではあるが、購買力が付いてきたのであろうとの見方をされていた。

 経済産業省では、引き続き、小規模でも魅力的な案件を発掘し、成功例を積み上げていくことを目的に、小規模ではあるが参加企業のニーズにきめ細かく対応するミッションをロシア極東に派遣したいと考えている。また、現地の在ウラジオストク日本国総領事館でも、今後、日本との取引を希望するロシア企業の情報を積極的に収集する意向を示している。

 ロシア極東との取引を考えている企業の方は、是非、経済産業省ロシア・NIS室又はロシア東欧貿易会経済協力部へご一報いただきたい。

 

<参考>

 

 新聞等でも報道されているが、去る3月、国際協力銀行と民間3行(東京三菱、みちのく(青森市)、北洋(札幌市))は、ロシアにおける大手商業銀行であるロシア連邦外国貿易銀行(VTB)に対して、ロシア政府からの政府保証を求めない形で、80億円を融資することを決定した。(80億円のうち6割の48億円は国際協力銀行、4割の32億円は民間3行が3等分して融資)

 これは、日本製品のロシアへの輸出拡大が狙いであり、ロシア企業が本邦企業からの設備を購入する際の資金を供給するためのものである。

 関係者によれば、この80億円のうち10億円については、極東地域優先枠があるということなので、極東ロシアへ機械設備等の輸出を考えているが、資金の回収に不安を持っておられる日本企業の方々の参考になるのではないかと思われる。

 

マイクロ・ビジネスのトップに戻る