ロシア極東マイクロビジネス支援(第4回)
〜ウラジオストク、ハバロフスク、コムソモリスク・ナ・アムーレ訪問記〜

 

平成14年11月

 

経済産業省ロシア・NIS 室

                                                ロシア一係長 相田 裕之

 

 平成14年10月20日から25日にかけて、ロシア極東マイクロビジネス支援事業の第4弾として、農業・林業用の機械、家具及び建築・土木用の鋼材等について関心のある日本企業とともに小さな訪問団を形成し、ウラジオストク、ハバロフスク及びコムソモリスク・ナ・アムーレを訪問したので、その概要について紹介したい。

  なお、当該概要については、私個人の印象、見解によるものであることを予めご了承願いたい。

 

1.農業・林業用機械

(1) ハバロフスク市行政府

 公園・街路樹や道路等の管理に必要な機材の納入について商談を行った。現在は主にドイツからの輸入品(STIHL社、BOSCH社等)が多い反面、日本製品についてはほとんど情報がなく、今までも扱ったことがないという。今後は、日本製品の輸入についても検討してもらうべく、無料サンプルの提供や、通関業務を扱うことのできるパートナー企業探し等を行うこととなった。

 

(2) ガーデニング用機材・工具等販売店

 チェーンソー、草刈り機、ドリル、発電機等、世界のトップメーカーの商品が数多く陳列されており(やはりドイツ製が多く見受けられた)、店内は一般ユーザーや関係業者等で賑わっていた。日本製については、発電機に搭載するホンダのエンジンの人気が高いという。また、現在、低級〜中級の丸形ノコギリを中国から輸入しているが、技術的にサイズの大きなものは中国では製造されていないので、今後は日本製の丸形ノコギリ(大きめのプロの業者が扱うもの)の輸入についても検討したいという話があった。極東地方においては、日本製の製材機械が多く利用されているが、中国製の部品を使用した場合に精度上の問題が生じるため、日本製の良さを再認識しているという。

  また、ウォーターポンプについては、極東において販売している店はまだ無く、需要はあると思われるので、日本から仕入れて販売してみたいとのことであった。その他、ガーデニング用の芝刈り機や発電機についても、関心が高いという。先方からは、スペアパーツや保証期間等についての要望もあったため、後日、日本側のメーカーと交渉を行うこととなった(因みに、先方の話によると、ロシアにおける保証期間は6か月とのことであった。)。

 

(3) 小型農業用機械販売店

 輸入品は価格が高いので従来、ロシア製のものを中心に販売していたが、日本からの輸入についても関心があるという。関心分野としては、小型のミニトラクター、ウォーターポンプ、小型発電機等であるが、これらはロシア国内でも売れると考えられるため、輸入を検討したいとの話があった。また、日本製の中古農業機械についても扱ってみたいという要望もあった。

 

(4) 木材製材機械販売店

 スウェーデンのHusqvarna社のチェーンソーを扱っている企業を訪問した。 Husqvarna社は、モスクワに生産工場を持っているためストックも多く、ロシア国内のコンピューターによる注文に対して素早く供給する体制が整っているとのこと。したがって、日本からは、Husqvarna社が扱っていない機械の納入が検討されることとなった。

 

<参考>

@ロシアでは、ここ数年建築ブームにあるが、外壁のレンガの隙間を埋めたり、コンクリート製の壁を修復するための建築用資材もよく売れているとのこと。さらには、一戸建て家屋(レンガ造りが人気)等の増加に伴い、修復を専門に行う業者も現れたと聞く。

A 最近では、郊外に会社が建てられ、周辺には芝生を植えるケースが多いとのこと。一戸建て家屋の増加とともに、芝刈り機もよく売れているという声も聞かれた。

Bガーデニング用や製材用のみならず、多くのロシア人は、週末に郊外のダーチャ(日本語では「別荘」と訳される。)で、野菜(ジャガイモ、トマト等)を作っていることから、小型の発電機や吸排水用のウォーターポンプ、雑草を刈り取るための草刈り機等の需要はあるのではないかと感じた。

C日本製品の品質の高さについては定評があるが、価格上の問題から、中古の農業用・林業用機械に対する需要も高いと見られる。

 

2.中古建機

 電動式の日本製中古フォークリフト(ただし、バッテリーは新しいもの(日本製)に交換)を販売している会社(ウラジオストク)を訪問。主にシベリア鉄道を利用してモスクワへ販売。極東においては、電動式のものはガソリンやディーゼル式のものに比べて扱っている会社がまだ少いため、販売実績も好調とのこと。また、購入時から1年間の保証期間を設け無償で修理を行っているとのことであった。今後は、ロシアにおいても、市場経済化の進展により、こうしたユーザー獲得のための顧客サービスが益々展開されていくものと思われる。

 

3.時計

  ハバロフスクで時計を販売している会社を訪問した。ロシア製の時計としては、POLJOT社やVOSTOK社等のものが有名であり、主にモスクワやサンクト・ペテルブルクで生産されているとのこと。種類としては、手巻き式、自動巻き式及び電池式のものがあるが、なかでは自動巻き式のものが売れており、売れ筋の価格帯としては、日本円換算で、1,000円から2,000円程度とのことであった。

  同行した日本企業の方は、日本への輸入を検討中であり、今後、連絡を取り合うこととなった。

 

4.家具

 主にソファーや応接セットの輸入を検討するため、ウラジオストク及びハバロフスクの家具工場やショールームを訪問した。ロシア国内では、家具に対する需要が旺盛であるが、実際、訪問した日本企業の方によると、どの訪問先でも多くの顧客で賑わっていたとのこと。また、ハイセンスで高所得な客層をターゲットとし、デザインをよく研究したセンスの良いソファーを販売している店も見受けられ、今後とも、この業界が同地域における主要な産業として更なる発展を遂げる可能性があるとの感想であった。

 

5.製鉄

 建築・土木用の鋼材の輸入を検討するため、コムソモリスク・ナ・アムーレにある製鉄所を訪問した。旧国営製鉄所の分割民営化によって設立された企業。工場は1942年に建設されものであり、老朽化が著しい。スクラップ(くず鉄)を原料とする電炉で、月間の生産能力は40,000d。訪問した日本企業の方によると、日本側から、テスト的に建設資材向けのL型鋼材を輸入することを考えている旨を先方に伝えたが、日本側の要求する梱包状態(様式)や数量・価格面等で隔たりがあるとのこと。後日、輸入を希望する鋼材の詳しい組成データを先方に伝えた上で、製造が可能であるかの回答と見積もりを提示してもらうことで合意したとのことであった。

 

6.まとめ

  今回の訪問を通して感じた今後の日露ビジネス上の問題の一つとして、ロシア側企業における、基本的な貿易実務についての知識不足が挙げられる。特に中小企業では、L/C(Letter of Credit:信用状)を把握していないところが多いが、これは、ロシアにおける銀行と中小企業との信頼関係がまだ構築されていないことが一因と思われる。したがって、当面、ロシアの中小企業への輸出については、前払い金による決済が主として行われるものと思われる。

 また、今回の商談の中で、日本とロシア極東部との貿易の上で、税関の問題がネックとなっているという話をよく耳にした。例としては、次のとおりである。

 

@近年、ロシアでは購買力の向上から、新品の自動車タイヤの需要が高まっており、輸入タイヤの販売も好調。しかしながら、極東税関においては、新品タイヤの輸入実績があまりなかったため、どの規則を適用するかについて混乱するケースがある(2ヶ月前に1本当たり6〜8jであった輸入税が、最近、急に20jになった。)。

A世界との貿易に慣れているモスクワ税関とは異なり、極東の税関では書類審査が極めて厳格であり時間がかかる。

B日本から極東へ輸出する場合、直接、極東に持ち込むよりも、モスクワからシベリア鉄道を経由して入れた方が安いという不合理な状況が発生している(これは、荷物の量や人件費等の相違により、モスクワよりも極東の関税が相 対的に高くなっていることが一因と思われる。)。

 

 上記のような事情から、極東から貨物を入れるのではなく、モスクワで通関する方法もあるが、概して中小企業の場合、取り扱う貨物量は少ないことからコスト的に見合わないこととなる。やはり、日本からの距離的な優位性を生かして、直接、極東へ輸出することを考えたい。その場合に専門の通関業者を利用するということも選択肢の一つになると思われる。 

 

 ロシア極東地域とのビジネスを進める上では、以上述べたような様々の障害もあることは事実であるが、その反面、中小ビジネスについては、たくさんの可能性があるのではないかと思われる。 

  現在、ロシアでは、建築ブームに湧いているが、今後、市場経済化の進展とともに、ロシア極東地域においても、生活関連品の需要が益々高まっていくものと思われる。以前、我々が販売店・商業施設等を視察した際にも、相当高値の商品が実際によく売れているとのことであり、極東地域における購買力は確実に高まってきていると感じた。

 また、ロシア極東地域では、日本に対する関心が高く、日本人とビジネスを行いたいというロシア企業が数多くあるとも聞いている。

  さらには、今回、20〜30歳代の若手経営者と面談する機会があったが、同行した日本の企業の方々によると、概して、有能な経営者であり、商談についても適切かつ柔軟な対応であるとのことであった。このような若手経営者等の台頭により、ロシアにおけるビジネス慣習が、着実に良い方向に進んでいくとともに、よいパートナーに巡り会う機会も増えていくものと思われる。

 

 経済産業省では、引き続き、小規模でも魅力的な案件を発掘するため、参加企業のニーズにきめ細かく対応するミッションを、現地の日本国総領事館の協力を得て、ロシア極東に派遣したいと考えている。ご関心をお持ちの方は、経済産業省ロシア・NIS室又はロシア東欧貿易会経済協力部へご一報いただければ幸いである。 

 

<参考>

 今回、日本側参加企業の方におかれては、様々の商品について写真付きのパンフレットを多数用意して商談に望まれたことから、相手側との意思疎通を図る上で、多いに功を奏していたようであった。やはり通訳を介して口頭で説明するだけよりも、視覚的要素を加えた方が、相手方の理解を得る上で有効であると思われた。

 また、相手側は漠然とプライスリストを要求することが多いが、FOB(積載地での貨物の引き渡し:本船渡し)や、CIF(仕向け地での貨物の引き渡し:運賃・保険料込み渡し)についてよく理解されていないことがあるため、価格交渉にあたっては、相手側のニーズをできるだけ正確に聞き出すとともに、関税等を含めた輸出入に係る全体的なコストについて、じっくりと話し合う必要がある。

    さらには、ロシアの中小企業では、会社概要や名刺を作成していないケースがあるので、今後の商談をフォローする上で、確実に連絡のつく、電話番号、ファックス番号、E-mailアドレス等を聞き出すことも重要である。

 

 

<備考>

 今回のミッションには、経済産業省通商政策局ロシア・NIS室の相田(筆者)及びロシア東欧貿易会経済協力部の原氏が参加した。

 

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