ロシア極東マイクロ・ビジネス支援(第5回)

〜ウラジオストク訪問〜

                                 

          平成15年6月

                                         経済産業省ロシア・NIS室

                                経済産業事務官

田中  一成

 

 平成15年4月20日から24日にかけて、ロシア極東マイクロ・ビジネス支援の第5弾として、医療機器(主に眼科機器)、携帯電話、木材、加工食品(白樺樹液)の分野で対露ビジネスに関心のある企業とともに小さな訪問団を形成し、ウラジオストクを訪問したのでその概要を紹介する。

 なお、当該概要については、私個人の印象、見解によるものであり、経済産業省全体としての見解ではないことを予めご了承願いたい。

 

1.商談状況

  今回は、対露ビジネスに関心のある業種が上述の通り多岐に渡ったことから、すべての商談に同行することはできなかったが、同行した機会が比較的多かった携帯電話を中心に、今回の状況を御報告申し上げる。同行できなかった業種については、事後的に商談の感触を参加企業から聞き取ったものである。

 

(1)眼科機器

 今回の目的の一つは、日本の眼科機器をロシア側に売り込むことである。眼科機器は今回のミッションの中では、扱う商品の単価が高かったが、日本製品に対する絶大な信頼もあってか、ロシア側からの関心は非常に高かった。特に、医療機器は一般に高度な専門技術を要することから、技能の研修やアフターサービスの有無について、活発な質問等が寄せられていた。また、日本側企業に対して、ロシア極東地域における支店設置の予定の有無について質問してきた企業もあった。残念ながら、今のロシア極東地域における人口規模、取引規模では支店を作ることは難しいとのことであったが、日本側からは、当地できちんとアフターケアできるのであれば、その企業に対して当地での代理店指定をすることも可といった前向きな提案もなされた。

  決済方法については、最初のうちは前金とし、取引が成功裡に続けば後払いとすることも検討するというスタンスを採用していた。このことは、全般的に「前払い社会」であるロシアにおいて、無用のトラブルを避けるためには有効な手段であると思われる。

  結局、ロシア側4社と面談を行い、1社から受注に成功し、また1社はめがね用レンズ加工機械にも関心有りとのことで、規格・価格リスト等の詳細は別途やり取りを続けることとなった。

 

(2)携帯電話

  現在、ウラジオストクでは、GSMによる通話方式(欧州で主に普及している無線通信方式)への移行が進んでおり、この方式への移行を機に加入者アップを狙っている企業もある。ウラジオストクでは、近年、携帯電話の売上は順調に増えており、とあるロシア企業(通信)から聞いたところ、沿海地方全体で携帯電話に加入している人は既に10万人を越えているとのことであった。どの販売店も、年々、着実に売上は伸びているとのことであり、ウラジオストクにおける所得水準の向上とともに携帯電話の利用者が増えていることが窺える。

  今回は、携帯電話販売取扱店及び携帯電話通信会社あわせて5社をまわったが、どの訪問先でも言われたことは、携帯電話の販売には、その販売機種ごとにロシア通信省の認可が必要である、ということである。しかもその認可までには最も順調に進んで約2ヶ月、費用は約3500ドルかかるとのことであった。なお、液晶表示はロシア語であることが認可の絶対条件である。「最も順調に進んで」というのは、例えばノキアやモトローラといった、ロシアでも広く国民に浸透した有名メーカーによる機種で、かつ許認可手続に熟知したロシアン・パートナーを経由した場合である。初めて携帯電話ビジネスに参入する者が上記認可を取ろうとすると、もっと長く期間がかかるだろう、とのことであった。

  今回のミッションで訪問したロシア企業側が求める大体の傾向としては、多少値段は高くても品質が良く、使いやすいものを望むようである。たとえば、液晶はカラーで軽いものが好まれ、バッテリーについても、ニッカドよりは多少値段が上がったとしても電池が長持ちし重量も軽いリチウムの方が好まれるとのことであった。とある販売店で、どんな機種が一番売れているかと聞いたところ、価格が100ドル前後で、欧州企業のブランドのものとのことであった。日本メーカーによるものもあり、200〜300ドル前後で売られていた。100ドルといえば当地では平均的な労働者の月給に迫る価格であるが、それにもかかわらず売れているということは、消費者の品質・機能に対する要求が高くなっていることの現れといえよう。ただし、現段階では、あくまでもまず確実に通話ができるものが求められているのであり、インターネットを見ることができたり、カメラ機能が付いたり等の日本では既におなじみの機能については、現段階では不要というのが、ウラジオストクにおける携帯電話販売会社の見方である。

  結局、販売会社一社から関心があり、そこから日本側にロシア語フォント用ソフトを送った上で、日本側でロシア語入力ができるかどうか試してみることとなった。価格面はフォントの問題がクリアになってから具体的な話に入るということになった。

 

(3)木材

  本件については、当方が同行していないので、事後的に概略を聞き取ったところによることを予めご了承いただきたい。

  今回のミッションで、日本企業は広葉樹(楢、ブナ等)の買い付けに関心があるとのことで、ウラジオストク郊外の製材工場を訪れた。

  良質の木が見つかったので、価格面でのやり取りを今後続けることとし、条件が合えば、再度ウラジオを訪問するかもしれないとのことであった。

 

(4)白樺樹液

  本件については、当方が同行していないので、事後的に概略を聞き取ったところによることを予めご了承いただきたい。

  白樺樹液の販売について、ロシア国内の基準では、白樺樹液に砂糖を混入させないと販売できない。これは、砂糖が防腐剤の役割を果たすためである。参加した企業によれば、砂糖を入れると甘過ぎで味が落ちる。日本に輸出するのであれば、砂糖が入っていないものでもよいかどうか、ロシア企業側に照会をかけており、その確認を待つこととなった。

  今回参加した日本企業は、ウラジオストクからは離れた都市で工場の視察をすることになっていた。しかし、モスクワからの許可が下りなかったため、工場を見ることはできなかったとのことである。工場視察については、アポイントを取る段階でロシア側に申し伝えており、事前に必要な書類も送っていた。不許可になった原因は未だはっきりしておらず、未だ不透明感の残るロシアの許認可体制をうかがわせる結果となった。

 

2.まとめ〜変わったロシアと変わらぬロシア〜

 今回は「極東マイクロビジネス支援」として第5回目の訪問となったが、これまでの訪問と比べてどのように変わったか、または変わらなかったかについてを交えつつ、対ロシアビジネスをする上で重要と思った点を述べさせていただきたい。

  対ロシアビジネスに当たっては、まずロシアンパートナーとの協力は不可欠であるということである。携帯電話の案件でも述べたが、未だ不透明感の残るロシア行政庁からの許認可を円滑に取得するには、ロシアンパートナーの協力があるのと無いのとでは、その労力の差は非常に大きい。ロシアンパートナーと綿密に連絡を取り合い、信頼と協力の関係を築いていくことが成功の鍵と言っても過言ではない。

  今回の訪問では、日本企業側が用意した通訳もいれば、ウラジオストクで雇い上げた通訳もいたが、皆その能力は高く、迅速、正確で専門用語にもある程度通じた優秀な通訳ばかりであった。通訳自身の本業がビジネスコンサルタントである場合もあり、「言葉の壁」がきわめて高いロシア極東ビジネスにおいて、ビジネスに明るい通訳の確保がしやすくなったことは明るい変化といえるだろう。

  日本側でも、ロシア独特の商習慣をあらかじめ理解しておくことも重要といえるだろう。ロシアは基本的に現金社会であり、銀行に対する信用度も低い。L/Cを開設するのも時間がかかり、とにかく銀行の使い勝手が悪いというのが一般の見方である。

  今回当方が商談に同席したロシア企業の担当者(企業によっては社長)は、みな若く、年齢は20代〜30代ほどと思われる。こういった若きビジネスマンたちが、ゆっくりながら着実に成長し続けるロシア極東の経済を引っ張って行くのだろう。

  最後に、モスクワと極東で規制の運用が違うという話を時折耳にするが、今回の訪問でもそれを感じさせる出来事があった。最近、3000ドル未満相当の物品(現金含む)をロシアに持ち込む際、税関申告書の提出は不要ということになった。しかし、実際ウラジオストクから入国する際は、従前通りの「税関申告書」を書くこととなった。係官に「これは必要なくなったと聞いたが、本当に必要なのか?」と聞いたところ「必要だ」とのことであった。ちなみに、当省職員がちょうど同時期に、モスクワをトランジットしたが、税関申告書の提出は必要なかったとのことである。今後、ウラジオストクを訪れる機会のある方はご参考にしていただけると幸いである。

 

  経済産業省では、引き続き、小規模でも魅力的な案件を発掘し、成功例を積み上げていくことを目的に、小規模ではあるが参加企業のニーズにきめ細かく対応するミッションをロシア極東に派遣したいと考えている。

  ロシア極東との取引を考えている企業の方は、是非、経済産業省ロシア・NIS室又はロシア東欧貿易会経済協力部へご一報いただきたい。

  今回の訪問は、外務省、在ウラジオストク日本総領事館の多大なる御協力により行われたので、この場を借りて感謝申し上げる。

 

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