ソ連東欧貿易調査月報

1990年11月号

 

T.対外経済関係と外貨管理に関する大統領令

U.東欧諸国の合弁法改定の現状

 ―国連欧州経済委員会”East-West Joint Ventures News”から―

V.東欧諸国経済資料

◇◇◇

日ソ・東欧貿易月間商況1990年10月分)

ソ連・東欧諸国関係日誌1990年10月分)

対ソ・東欧諸国・モンゴル輸出入通関実績

1990年月および1〜月累計)

 


 

対外経済関係と外貨管理に関する大統領令

 

1.ソ連における外貨投資に関するソ連大統領令

2.外貨に対する商業レート導入と全連邦為替市場創設に関するソ連大統領令

3.1991年における外貨資金の利用の特別規定に関する大統領令

 

資料紹介

 ここに紹介するのは、対外経済関係および外貨管理に関する下記の3つのソ連邦大統領令である(かっこ内は発令日)

 1.ソ連邦大統領令「ソ連における外国投資について」(1990年10月26日)

 2.ソ連邦大統領令「外資に対する商業レート導入と全連邦為替市場創設について」(1990年10月訪日)

 3.ソ連邦大統領令「1991年における外貨資金の利用の特別規程について」(1990年11月2日)

 現在、ソ連は、国内経済の不振に加えて、400億ルーブルに及ぶ対外債務を抱えている。このためソ連の外国資本の導入に対する期待は大きく、1987年に最初の合弁企業法が採択され、その後2度にわたって改正が行われ、設立手続の簡素化、外国企業の出資制限の撤廃、海外送金の自由化、税制上の優遇などの捨置がとられた。この結果、合弁企業は急増し1990年夏の時点で約1,800件に達している。1990年4月の1,542件に関する資料によれば、ソ連の合弁企業の8割以上が西側諸国の合弁企業である。しかし、合弁企業の部門構成の点ではソ連の期待するような生産部門の割合は比較的少なく、サービス業の割合が高い。また定款フォンドの規模は年々減少する傾向にあり、1,478件の合弁企業に関する資料によれは、定款フォンド500万ルーブル未満の合弁企業は総件数の88%、うち100万ルーブル未満の合弁企業は63%を占めている。しかも1,800件あまりの合弁企業のうち稼働を開始しているのは500件にも満たないと言われている。

 このように、ソ連の合弁企業は今のところ期待されていたような成果をあげていない。こうした背景には、政治的リスクに加え、資産評価の問題、インフラストラクチャーの未整備、現地での原材料調達問題、ルーブルの交換性の問題など、ソ連投資には経済面においても数多くのリスクが伴うことがある。とくに、大きな問題となっているのはルーブルの交換性の問題である。ソ連国内において直接外貨を獲得できる外国人向けのホテル・レストランや輸出可能な天然資源の開発などの場合には、これはあまり大きな問題とはならない。しかし、それ以外の場合には、合弁企業の経営は困難であり、バーター取引の利用、コンソーシアムへの参加、ソ連国内でのルーブル建て利益の再投資、トランスファー・プライシングの利用などルーブルの交換性の欠如を回避するためにさまざまな迂回的施策を講じなければならない。

 こうした現状を改善するために、経済特区構想が打ち出され、レニングラード、ウイボルグ、カリニングラード、ナホトカを含む沿海州、サハリン、チタなどが候補地にあげられているが、今のところその具体的な諸条件については不明である。

 「ソ連における外国投資に関するソ連大統領令」は、このようなソ連の外国投資の現状を考慮してソ連の投資環境をいっそう改善することを意図したものである。これによって、はじめて外国資本による100%出資が認められた。また、1990年6月に採択された「株式会社および有限会社規程」では外国の法人および市民が株式その他の有価証券を取得できるのかどうか不明であったが、これも認められている。さらに、外国の法人および市民による土地その他の資産の長期借用、つまりコンセッション(利権)政策の実施が示唆されており、現在検討中の法案「ソ連における外国投資について」ではこの期間は50年未満とされている。ソ連は1920年代のいわゆるネップの時期にも利権政策を実施した経験があり、日本もこれに参加したことがある(「北樺太石油株式会社」「北樺太鉱業株式会社」など)。今後、この利権政策によって、ソ連、とくにシベリア・極東地域の天然資源開発が促進されることが期待されている。

 また、「外資に対する商業レート導入と全連邦為替市場創設に関する大統領令」のねらいは、ソ連国内で外貨交換を行う際のルーブルのレートを低く設定することで輸出促進・輸入抑制を図り、ソ連の外貨事情を改善する点にあるとみられる。

 今回の措置により、ルーブルの対外レートには、公定レート、商業レート、特別レート(旅行者レート)の3つが並存することになった。11月1日時点での各レートは、以下のとおりであった。

      公定レート  1米ドル=0.5542ルーブル

      商業レート  1米ドル=1.6626ルーブル

      特別レート  1米ドル=5.542ルーブル

 大統領令のなかでは、商業レートは1米ドル=1.8ルーブルとされていたが∴実際には上記のような値となった。

 3つのレートのうち公定レートは、経済の分析や国際統計比較、第三世界の債権の回収などに限定的に使われるにすぎない。貿易決済やソ連における外国投資など、主要な経済活動にはすべて商業レートが適用される。『経済と生活』紙(1990No.46)によれは、商業レートの導入にともない、従来の商品グループごとの差別化外貨係数も廃止された。国立銀行の幹部によれば、外国企業・市民向けの外貨ルーブル建て料金・価格にも商業レートが適用されるが、料金が3倍に値上げされるため、実質的外貨負担は変わらないという。11月2日付の大統領令はこの措置に次ぐもので、これにより上記のルーブル切下げ措置が対外債務の返済を主たる目的にしていることが明確になった。この決定は、@1991年にソ連の企業、合同および組織(合弁企業を除く)は、輸出で得た外貨の40%を商業レートでソ連対外経済銀行に売却する。G控除された外貨は「連邦・共和国外貨基金」に繰り入れられる、Hこの基金の管理や国家の合理的な外貨利用を図る目的で、「連邦・共和国外貨委員会」を設置する。C義務的売却後に残った外貨により、1990年時点のノルマチーフに従い各企業、合同および組織の外貨フォンドを形成する。その際に、石油・石油精製業を優遇する、H義務的売却と企業固有の外貨フォンド形成の後に残った外貨は、90%が連邦・共和国外貨基金に10%が共和国および地方の外貨基金に、いずれも商業レートで売却される、ことを骨子としている。1991年中の時限的措置とはいえ、外貨収入の40%のルーブルへの交換を義務づける今回の決定は、輸出入や外貨利用に一定の統制を加えなければならないソ連の厳しい外貨事情を示しているといえる。

 なお、こうした重要な決定を大統領令といういわば超法規的捨置により強行することは、政治的混乱や国家と社会の乖離をいっそう深刻化する恐れもある。実際、一部の共和国は連邦大統領の大統領令は共和国の同意がなければ無効との立場を打ち出しており、今後のゆくえが注目される。

 ここで紹介するテキストの出典は、10月27日付の2大統領令が『ソビエト・ロシア』(1990.10.27)、11月2日付の大統領令が『イズベスチヤ』(1990.11.3)である。

 


 

東欧諸国の合弁法改定の現状

―国連欧州経済委員会”East-West Joint Ventures News”から―

 

1.ルーマニアへの外国投資にかかわる法規の変更

2.チェコスロバキア連邦共和国における外国投資関連法の変化

3.チェコスロバキアとルーマニアの新しい外国投資法―ほかの東欧諸国の外資法との比較の視点から―

 

資料紹介

 国連欧州経済委員会の発行する”East-West Joint Ventures News”(1990,No.5)に、ソ連・東欧諸国の合弁法の改定の現状、とくにルーマニア、チェコスロバキアについて概観してあるので、この号の抜粋訳をここに紹介する。

 この資料によると、1990年6月末時点でのソ連・東欧諸国での合弁企業は推定で5,070件に達している。このうちわけは、ソ連1,800件、ハンガリー1,600件、ポーランド1,550件など、この3国での設立件数が非常に多い。