ロシア東欧貿易調査月報

1993年3月号

 

T.ロシアにおける『ショック療法』導入と失敗

U.ロシアの政治・経済の現状と展望

  ―A.P.ウラジスラブレフ産業企業家同盟副議長の講演会より―

新刊案内

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旧ソ連・東欧貿易月間商況1993年2月分)

統計特集(U):

CIS・グルジア・アゼルバイジャン・東欧諸国・モンゴル輸出入通関実績(1992年12月および1〜12月累計)

 

 


 

ロシアにおける『ショック療法』導入と失敗

 

1.  ソ連解体とCIS成立後の一年

2.  弱体化するエリツィン大統領の政治基盤

3.  ガイダル急進市場化路線の登場と退場

4.  現実主義路線への転換と先進諸国の援助

 

はじめに

 旧ソ連では、ゴルバチョフ政権の下で、1989年夏以来中央計画化経済から市場経済への転換が模索され始めた。しかし、転換のコンセプトや手法・期間をめぐって議論が議論を呼び、政争も複雑に絡んで貴重なチャンスと時が失われた。

 ソ連邦が解体し(1991年12月)、CISが形成された後、エリツィン大統領が率いるロシアでは、ガイダル副首相の下で1992年1月早々、いわゆる「ショック療法」が導入され、ラジカルな市場化が図られたが、「ショック療法」は結局失敗した。

 本稿執筆者は当研究所 小川和男副所長で、「ショック療法」のもとでのロシア経済の一年を分析し、将来展望を行うことを目指して執筆するものであるが、ゴルバチョフ政権時代以降の経済動向と問題点、市場化の試みに焦点を当てて筆者が執筆した以下の二つの論文を踏まえており、本稿と併せて通読してくだされば幸いである。

  小川和男「ゴルバチョフ改革6年の推移と変容」、ソ連東欧経済研究所編『ゴルバチョフ改革とソ連・東欧』(1991年3月)

  小川和男「旧ソ連・CIS経済―市場化の試練」、ソ連東欧経済研究所編『旧ソ連・東欧諸国の市場化の試練』(1992年3月)

 


 

ロシアの政治・経済の現状と展望

A.P.ウラジスラブレフ産業企業家同盟副議長の講演会より―

 

1.  ロシアの政治動向

2.  経済改革の現状

3.  対外経済協力の可能性

 

はじめに

 当会では、ウラジスラブレフ産業企業化同盟副議長が来日したのを機に、3月4日、霞ヶ関東京会館にて講演会を開催した。本月報ではその内容を紹介する。

 ウラジスラブレフ氏は、現在、国営企業・軍産複合体の利益を代表する「ロシア産業企業化同盟」の副議長であり、1992年3月に西行企業化同盟を基盤として創立した政党「全ロシア刷新同盟」の共同議長でもある。さらに、1992年6月に「刷新」など4党が連合して結成した政治ブロック「市民同盟」の政治会議員も務めている。

 報道では「市民同盟」などの議会中間派は改革反対派のように報じられることが多いが、同氏は「改革の必要背については議論する必要はない」、問題は「改革を今に実行するか」だと語る。そしてガイダル流の「ショック療法は破壊と混乱を増長するだけだ」として批判し、改革は時間をかけて段階的に進めなければならないとといている。