ロシア東欧貿易調査月報

1993年7月号

 

T.1993年日ロ経済専門家会議日本側代表団帰国報告

  ―金森団長、小川副団長報告―

U.ロシア経済と対外経済関係の展望

  ―I.D.イワノフ対外経済研究所副所長の講演より―

V.ロシア財政予算制度の現状と課題

W.ロシアの貿易管理制度をめぐる諸問題

  ―サラファノフ景気研究所所長の講演より―

X.ロシア極東の貿易・経済関係

Y.サハリンにおける合弁企業の活動状況

Z.トルクメニスタンの社会と経済

[.カザフスタンの合弁事業 ―問題点と展望―

◇◇◇

旧ソ連・東欧貿易月間商況1993年6月分)

旧ソ連・東欧諸国関係日誌1993年6月分)

CIS・グルジア・アゼルバイジャン・東欧諸国・モンゴル輸出入通関実績(1993年5月および1〜5月累計)

 

 


 

1993年日ロ経済専門家会議日本側代表団帰国報告

―金森団長、小川副団長報告―

 

1.  ロシア経済の最新情報―金森久雄団長―

2.  日ロ経済関係の展望―小川和男副団長―

 

はじめに

 「日ロ経済専門家会議」は、平成5年度の会議を実施して第16回を終了した。ブレジネフ時代の末期、当時旧ソ連の管理体制が堅固であった制約された状況の下で、日ソ両国の経済専門家の新しい交流チャンネルを拓くのが極めて難しかったことを考えると、それがきわめて容易である今日的状況と考え合わせて、文字通り隔世の感がある。

 アンドロポフ氏とチェルネンコ氏の短い「つなぎ」時代の後、ゴルバチョフ氏のペレストロイカとグラスノスチの時代を迎えて、日本各界のソ連に対する関心が著しく高まり、そのことは、「日ソ経済専門家会議の意義と役割を著しく高め、会議参加者が著増すると同時に、参加者のレベルアップが続いた。

 エリツィン時代の今日、ロシアでは混沌とした状況が続き、旧体制は崩壊の過程にあって、新しいシステムは未完である。大きな変革の時代であるわけであり、「日ロ経済専門家会議」のありかたについて、新時代に対応して変化を求める声がないではない。

 極端な意見としては、「いまどき、ロシアの経済関係研究所を訪問しても無駄である。彼らはなにもしていない」という極論が出された。(今回モスクワ訪問時)。しかし、これはきわめて皮相な見方である。

 たとえば、アバルキン教授(経済研究所所長)は現在、チェルノムイルジン首相に極めて近く、現政府の経済政策についてアドバイスを求められる機械が多くなっている。今回、我々に本代表団が訪問した当日、アバルキン教授は我々との懇談の後、フョードルフ前サハリン州知事、フランス大使、ベーカー前アメリカ国務長官との会見が控えるという超多忙な一日であった。

 ヤリョーメンコ博士(経済・科学技術予測研究所所長)は現在、反エリツィン・グループの経済政策を支える理論的バックボーンであり、その所論はエリツィン字ネイでも高く評価されている。

 イワン・イワノフ博士(対外経済研究所副所長)のロシア経済の現状分析は見事なものであり、多くの示唆が含まれている。

 日本代表団の4〜5日という短いモスクワ滞在期間中にかなりの数の研究機関を訪問でき、優れた経済学者や高級経済官僚たちと懇談できるのは「日ロ経済専門家会議」ならではのことであり、15回に及ぶ会議の蓄積があるからである。

 参加者達の会議に対する評価も高く、例えば、小林薫教授(産能大学)は、「これはまさに、高度な移動大学院である。継続がどうしても必要である」と強調している。モスクワの「日ロ経済専門家会議」では必ずレセプションを開催している。ロシアの関係者達を招いているが、今年はマルティノフ世界経済国際関係研究所所長、レシケ同研究所所長、ボイトルフスキー同研究所所長、サラファーノフ景気研究所所長は、サルキーソフ東洋学研究所副所長らが参集した。モスクワ大学客員教授として、1年間滞在した中西治教授(創価大学)は、参集した人々の多数とレベルの高さを知って非常に驚かれ、他にこのような日ロ交流の場はないと指摘されていた。

 ロシア東欧経済研究所は、経済研究機関として、「日ロ経済専門家会議」を持続する必要性をますます強く認識している。

 


 

ロシア経済と対外経済関係の展望

I.D.イワノフ対外経済研究所副所長の講演より―

 

1.  ロシア経済の問題点

2.  円卓会議における国民的合意

3.  対外経済関係―輸出の安定と輸入の低下―

4.  外国企業投資の障害

5.  輸出入税の功罪

6.  ルーブル為替レートの安定化政策

〔付属資料〕全国民的経済合意宣言(1993年7月9日発表)

    1.  経済再編の原則的な方向

    2.  危機克服をめざす合意された活動の組織

    3.  改革プログラムに関する協定

 

はじめに

 当会ではイワノフ・ロシア対外経済研究所副所長が来日したのを機に、7月12日、虎ノ門パストラルにて講演会を開催した。本月報ではその内容を報告する。

 イワノフ氏は現在、ロシア科学アカデミー対外経済研究所副所長で、ロシア議会のアドバイザーも務め、「円卓会議」運営委員のひとりとして、経済改革に取り組んでいる。旧ソ連時代にはソ連科学アカデミー世界経済国際関係研究所副所長、UNCTAD事務局、国家対外経済委員会副議長などの要職を務めた経験をもつ。

 また国際協力、投資・関税・外資法の専門家としてソ連・EC経済協定締結時にはソ連側主要交渉役もつとめた。

 同志は、本講演で、ロシア経済における多くの問題を指摘しながらも、全政治勢力が参加した「円卓会議」が統一した経済計画案を採択したことを高く評価し、日本の経済モデルを参考にして漸進的な市場経済化を進めるべきだとといている。

 なお、円卓会議の合意文書「全国民的経済合意宣言」を本稿末尾に紹介した。

 


 

ロシア財政予算制度の現状と課題

 

1.  1992〜1993年におけるロシアの財政制度

2.  1993年におけるロシアの共和国予算

3.  連邦および地域的財務機関の間の関係

4.  1994年における予算制度改革の展望

 

はじめに

 ここに紹介するのは、ロシア科学アカデミー経済研究所V.マエフスキー教授とA.スミルノフ白紙の執筆になる今日のロシア予算制度の全体像に関する論文である。

 1993年ロシア国家予算は、5月14日に最高会議でロシア連邦法「1993年のロシア連邦の共和国予算について」が可決されたことによって形式上は成立した。本論文でも分析の対象はこの予算法のないように向けられている。

 しかし、予算法成立後まもなくして政府は早くも予算修正を迫られることになる。なぜなら、予算案作成から可決までの間に、国内のインフレが高進し、予算金額の抜本的な見直しが要求されたからである。

 政府の修正案の議会提出それ自体が送れ、また修正案の討議過程で最高会議の側から国防費、社会保障費を衷心に増額要求が出されたこともあって、修正案が可決されたのは7月22日であった。

 修正予算の内訳は、歳入が22超3,812ルーブル(原予算では10兆2,018億ルーブル)歳出は44兆6,586億ルーブル(同18兆7,251億ルーブル)で、2,700億ルーブルの出超(同8兆5,233億ルーブル)である。財政赤字はGDPの約20%を占めるといわれている。

 この修正予算を巡っては、財政赤字をGDPの10%程度にとどめたいとする政府との対立が予想され、場合によっては年末まで予算が確定しないという自体も考えられる。地方自治体の連邦予算への税上納拒否問題も加わって、ロシア国家予算の見通しは極めて不透明である。

 


 

ロシアの貿易管理制度をめぐる諸問題

―サラファノフ景気研究所所長の講演より―

 

1.  不用意な貿易の国家独占廃止とその影響

2.  資本逃避のメカニズムと規模

3.  重要な貿易・外貨管理の強化

 

はじめに

 当会研究所は、本年も恒例の日ロ経済専門家会議代表団を5月31日から6月22日までの日程で7フランス、スイス、イタリア、オーストリア、ブルガリア、ルーマニア、ロシアに派遣し、西側期間の専門家と最近の旧ソ連、中・東欧諸国の情勢に関する意見交換を行い、ロシア、東欧においては現地調査、及び関係省庁、研究機関等を訪問した。

 さらに、ロシア側のパートナー機関である対外経済関係省付属景気研究所においてはシンポジウムを開催し、日本側は金森久雄所長が「日本経済の成長と産業構造の変化」、小川和男副所長が「環日本海経済地域構想と日本の役割」、ロシア側はサラファノフ景気研究所所長が「ロシアの貿易管理制度を巡る諸問題」とのテーマで報告を行った。

 本稿は、サラファノフ景気研究所所長の報告内容を紹介したものである。

 1992年に試みられた貿易管理制度の改革は、独占の除去が一つの問題であったが、旧ソ連、ひいてはロシアにおいては、貿易の独占は国家財政にとって「ドル箱」的な意味を持つ重要な財源であった。本来、適切な輸出入関税を導入することによって歳入を確保すべきであったのだが、この点においては十分な準備ができておらず、歳入は激減した。この結果、世界経済から隔絶されていた70年間に蓄積されたロシア経済の歪みが、連鎖反応を起こし、輸出入関係に様々な混乱を引き起こすことになった。

 本報告では、この混乱の過程、さらには対外債務の返済、および緊急輸入の実施という国の重要な課題の遂行のためのクォータ制の再強化の過程が言及されているほか、独自の分析による資本逃避の実態が示されている。いずれにしても、全体的なバランスを欠いた拙速な経済政策の代償が高くつくという実例が明らかにされており、大変興味深い。

 


 

ロシア極東の貿易・経済関係

 

1.  極東のアジア太平洋地域への統合の胎動

2.  極東地域の貿易構造

3.  極東における外資系企業の活動

4.  統合への戦略

5.  続く極東の対外経済関係の再編

 

はじめに

 本稿は、ロシア極東の対外経済関係の現状と問題点を明らかにする目的でロシア科学アカデミー極東支部経済研究所に執筆を依頼したもので、執筆者はA.G.イワンチコフ同研究所国際研究・コンサルティングセンター長である。

 従来、極東地域の旧ソ連内の地域間交易は、原材料を移出し、食料費や軽工業品を移入するという特徴をもっていた。また、極東地域の移出・移入バランスは恒常的に赤字であり、その赤字を補うために国庫から多額の補助金が支出されていた。

 こうした極東の赤字体質の原因は旧ソ連諸国で原材料価格が不当に低く、逆に完成品の価格は高く設定されてきたことにも一因がある。対外経済関係の地方分権化納語お気にとも無い、極東の経済学者の中にはこうした非効率的な地域間交易を清算し、アジア太平洋地域との貿易・経済関係を強化していくべきだとする考え方が出てきている。本稿はその一例である。

 なお、見出しは全て当研究所が付したものである。

 


 

サハリンにおける合弁企業の活動状況

 

1.  サハリンにおける合弁企業の概況

2.  合弁企業による輸出

3.  合弁企業による輸入

4.  国内市場での販売

 

はじめに

 このほど当会では、ロシアのサハリン州における合弁企業の活動に関する比較的詳しい統計資料を入手したのでその抜粋を紹介する。この資料は、ロシア統計国家委員会の支部であるサハリン州統計局が4月に発行したもので、「統計集―1990〜1992年のサハリン州の合弁企業の活動―」と題された小冊子である。

 これによれば、ここ2年ほどサハリンでは合弁企業が急増しており、1993年初めに時点で136件を数え、内日本の出資が65件と最大になっている。また、これらの企業にとって最大の貿易相手も日本であり、輸出入とも70%以上をしめている。サハリンの合弁企業は1992年に9,337万ドルの輸出を行ったが、その94.9%は海産物であった。6万5,470t似のボ折るこの海産物輸出の最大の仕向地は当然日本であると考えられる。同年の日本のロシアからの海産物輸入の総量は17万4,661万tであったから、かなりの部分が在サハリンの合弁企業を通した輸入であったことがうかがえる。近年の対ロ貿易では、魚介類の輸入が唯一拡大している項目であるが、その原因はこの辺りにありそうである。

 


 

トルクメニスタンの社会と経済

 

1.  自然と社会

2.  経済の概要

3.  経済改革と1991〜1993年の経済動向

〔付属資料1〕トルクメニスタンにおける投資活動について

〔付属資料2〕トルクメニスタンにおける外国投資について

〔付属資料3〕トルクメニスタンの銀行および銀行活動法

 

はじめに

 トルクメニスタンは旧ソ連でもっとも南に位置し、国土の80%は砂漠である。

 旧ソ連の構成共和国となるまで、国としてまとまったことが無い。

 トルクメニスタン社会が画期的な変貌をとげるのは、社会主義政権下でのカラクム運河の建設と、天然ガス・石油資源の開発によってである。カラクム運河により農業生産の安定と移住地域の拡大が実現した。しかし清算は綿花に特化され、食糧は外部に依存するという構造ができあがった。また、1960年代以降、天然ガスと石油の有力な産地となり、特に天然ガスについてはトルクメニスタンが現在、世界第三の保有国であることが明らかになった。

 ソ連邦が解体に向かう中で、1991年10月、トルクメニスタンは独立した。1992年5月には新憲法が採択され、大統領制の民主法治国家として、マタ市場経済への以降を目指して国家再編が始まった。

 しかし旧ソ連の中でも、特に片寄った経済構造を持っているため、政府は強力なイニシアチブにより社会の安定維持を優先させつつ、慎重に改革を進めている。経済の自由化は構造調整が進むのを待たねばならない。

 様々な矛盾を抱えているものの、1992年以降は天然ガス輸出による外資収入により、余裕を持って経済再編に取り組む予知ができ、1993年の経済は、旧ソ連邦の中で唯一改善に向かうこととなった。国民の政府への信頼は高まっている。

 1992年9月、IMFに加盟する一方、1993年10月には独自通貨マナトを導入し、ルーブル圏をはなれることとなった。

 トルクメニスタン経済の自立度を高める妨げとなっているのは、外国へ通じる輸送路が限られていることである。欧州へ通じる鉄道は1994年中に、パイプラインは今後4年のうちに完成する計画である。このまま順調に行けばトルクメニスタンにはCISに属している必要が今後4〜5年のうちになくなるであろう。

 本稿執筆者は、当研究所 研究開発・交流部次長 本村和子である。

 


 

カザフスタンの合弁事業 ―問題点と展望―

 

1.  経済開放と外資導入

2.  カザフスタンにおける合弁企業の現状

3.  外資導入に関する中国の経験

4.  カザフスタンへの教訓

5.  課題と展望

 

資料紹介

 ここに紹介するのは、カザフスタン共和国国民経済アカデミー会員A.K.コシャノフ、同経済研究所・経済学博士候補N.K.ヌルラノワ両氏の執筆になるカザフスタンの合弁事業の進展状況に関する論文である。

 同論文では、中国における外資導入を検討し、そこから教訓を引き出す形で、カザフスタンにおける合弁企業の問題点が明らかにされている。とりわけ、カザフスタン経済の開放化を推し進めつつ、且つ国益を損なわない外資導入の方法に重大な関心が向けられている。