ロシア東欧貿易調査月報

1994年1月号

 

T.期待される環日本海経済圏協力プロジェクト

U.ロシア極東地域における機械工業の現状と発展

V.旧ソ連・ロシアの家電製品輸入・流通事情

W.タジキスタンの最新経済事情

―タジキスタン科学アカデミー世界経済国際関係研究所・ラヒモフ所長講演より―

X.ハンガリーの民営化と外国直接投資の展開

Y.CIS諸国の指導部人事一覧

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旧ソ連・東欧貿易月間商況1993年12月分)

旧ソ連・東欧諸国関係日誌1993年12月分)

CIS・東欧諸国・モンゴル輸出入通関実績(1993年11月および1〜11月累計)

 

 


 

期待される環日本海経済圏協力プロジェクト

 

1.  多国間協力プロジェクト具体化へ向けての努力が必要

2.  有望な環日本海経済圏協力プロジェクト

 

はじめに

 日本、韓国、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)、中国東北地区およびロシア極東地方が位置する地域は、一般的に「北東アジア」あるいは「東北アジア」と呼ばれているが、日本海をとりかこむ経済圏という意味で、「環日本海経済圏」が形成され、広範囲にわたる国際経済交流と経済協力の発展が期待される地域として世界の注目を集めている。

 環日本海経済圏諸国・諸地域では、日本の経済力(生産力、工業技術力、資本力、企業経営能力、情報収集・処理能力等々)が現在においても他の諸国を圧倒的に凌いでいる。しかも、21世紀を展望して、日本経済の地位はいっそう高まり、日本が世界最大の援助大国になるという見通しさえある。

 環日本海経済圏で今後具体化する可能性が大きい多国間経済協力において日本が果たすべき責務はますます重くなる一方、圏内諸国・諸地域が日本に寄せる期待はいっそう大きくなるのが必定である。

 日本としては、政府や地方自治体はもちろんのこと、産業界、企業、業界団体、シンクタンク、そして個々の学者・研究者がそれぞれイニシアチブを発揮して、環日本海経済交流・経済協力の活発化に向けて努力を傾ける必要がある。この点、1990〜1993年を通じて、北は北海道から南は九州までの道府県や都市で、また東京、大阪、名古屋で、さらにロシア極東地方と東北三省の各地においても、ほとんど毎月のように地域間経済交流と協力の拡大をテーマにして、大小さまざまな国際会議や研究シンポジウム・セミナーが開催され、視察団や調査団の相互訪問が繰り返されたのは特筆に値し、将来の交流・協力プロジェクト具体化に必ず寄与するとみられる。政府省庁と道府県における取り組みも、しだいに活発化している。

 本稿は、当ロシア東欧経済研究所小川和男副所長が執筆したものである。

 


 

ロシア極東地域における機械工業の現状と発展

 

1.   極東の機械工業の特質

2.   機械工業の配置

3.   極東の機械工業をめぐる経済状況

4.   極東における軍需産業の基本的問題点と展望

5.   ハバロフスク地方の機械工業の特質

6.   アムール州の機械工業の特質

 

はじめに

 本稿は、ロシア極東の機械工業の現状と問題点を明らかにする目的でロシア科学アカデミー極東支部経済研究所に執筆を依頼したもので、執筆者は、E.V.グトコワ研究員である。

 極東の機械工業は、極東全体の工業生産高のうち食品工業、非鉄金属工業に次ぎ、工業部門第3位のシェアを占めており、極東の主要産業のひとつとなっている。しかし、そのシェアは年々低下しており、1985年には19.9%を占めていたのが、1990年には18.7%、1991年には15.3%と低下傾向にある。

 また、機械工業の生産高自体も低下している。極東全体の数字は資料がないため不明だが、1992年の沿海地方の機械工業の生産高は1990年に比べ27.7%、同様にハバロフスク地方では13.7%減少している。

 極東の機械工業の特質は、次の3点にまとめることができる。

 まず第1に、機械工業の配置が極東南部へ集中していること。実際、極東の機械工業の生産高のうち約80%を沿海地方とハバロフスク地方が占めている。第2に、地元の経済との結び付きが弱いこと。極東で生産される機械製品の大部分が極東から地理的に遠い地域(とくにロシア・ヨーロッパ部)へ移出される。地域需要の充足度は非常に低く、したがって極東の機械工業の地元経済への貢献度は少ない。第3に、軍需生産の比重が高いこと。もともと極東の機械工業は軍事的必要性から創設されたため、軍需生産が機械工業の中心的な役割を担っている。極東の機械工業の生産高のうち軍産複合体の生産高の占めるシェアは約50%に及ぶ。

 以上の点をふまえたうえで、極東の機械関連企業が生産低下を克服し発展するために今後とるべき方策は次の3点に集約されよう。まず第1に、販路を変更すること。輸送費など各種生産コストの急騰のために国内市場において極東の機械製品の競争力が低下している。実際、極東地域の電力料金はロシアの平均より3倍も高い水準にある。また、遠隔地に製品を移出する場合、高い輸送費要因も加わって製品価格ははね上がる。したがって、まずは輸送コストのかからない地元の需要に目を向けるべきである。第2に、製品を多様化すること。地域需要に応えるためには、従来のような単品大量生産型の専門化から脱却し、多様な製品を生産することが求められる。とくに極東の基幹産業である非鉄金属工業、林業・木材加工業、食品工業、輸送業、建設業などの需要を満たす方向で製品を多様化していくことが必要である。第3に、軍民転換を実施すること。世界的な軍縮の流れのなかで、今後も軍需発注の低下は避けられない。上述したように極東の機械工業のなかで軍需生産の占める比重は高い。したがって、軍民転換は極東の機械工業にとって不可避の問題である。コムソモリスク・ナ・アムーレ市やアムールスク市などの軍需産業都市の消長は、軍民転換の成否にかかっているといえよう。

 


 

旧ソ連・ロシアの家電製品輸入・流通事情

 

1.  ソ連時代の家電製品輸入・流通のしくみ

2.  ソ連崩壊と新たなる流通秩序形成の模索

3.  まとめ

 

紹介

 本稿は、松下電器産業滑C外部門東京渉外担当種村博雄副参事が、1986〜1993年の8年間にわたり、モスクワ駐在事務所長として得た経験と資料をもとにまとめられたものである。旧ソ連市場での輸入家電品の販売・流通事情を検証し直すことにより、ロシア市場で新しく生まれつつある資本主義化の道筋をひとつの分野で展望することが試みられている。

 


 

タジキスタンの最新経済事情

―タジキスタン科学アカデミー世界経済国際関係研究所・ラヒモフ所長講演より―

 

1.   タジキスタン共和国の紹介

2.   タジキスタン経済が直面する10の特徴・問題点

3.   タジキスタン経済の問題点の背景

4.   タジキスタン経済―今後の5つの課題

 

はじめに

 当会では、旧ソ連邦中央アジア地域のタジキスタン共和国より ラシド・K・ラヒモフ・タジキスタン科学アカデミー世界経済国際関係研究所所長を招いて、1月20日、アルカディア市ヶ谷私学会館にて講演会を開催した。ここではその内容を紹介する。

 タジキスタン共和国は人口540万人足らずの小国であるが、中国・アフガニスタンと国境を接する要衝の地にあり、綿花・非鉄金属資源・水力資源などで知られている。現在でも、アフガニスタンとの国境地帯を中心に反政府ゲリラへの厳戒体制がしかれているが、その他の地域ではラフモノフ最高会議議長率いる現政権により平穏が保たれ、他の旧ソ連諸国と同様、経済改革の進行が伝えられている。しかし、同国についての情報は非常に入手が困難であり、ラヒモフ所長の講演は現地からの生きた情報としてきわめて貴重である。

 


 

ハンガリーの民営化と外国直接投資の展開

 

1.  外国直接投資のマクロ経済的効果

2.  外国直接投資のミクロ経済的効果

3.  直接投資と部門構成

4.  経済政策上の意義

 

はじめに

 以下で訳出・紹介するのは、コピント・ダトルグ研究所、ハマル・ユディット研究員の論文である。ハンガリーは、旧ソ連・東欧地域のなかで、民営化(私有化)については比較的緩慢なテンポ、直接投資の導入については突出した高いシェアでめだっているが、1993年5月に開催されたUNCTADとコピント・ダトルグ研究所共催の国際会議で発表され、『対外経済』誌(1993年12月号)に掲載された上記の論文は、民営化過程の初期段階で重要な担い手となった合弁企業の役割について、1992年までの状況を詳細に検討している。

 翻訳の紹介に先立ち、上記論文では触れられていない1993年以降の最新状況について、いくつかの特徴点を指摘しておく。

 1993年は、ハンガリーの民営化においてひとつの転換点をなした。長期的事業用国有資産運用法(1992年第53号法律)、一時的国有資産運用法(1992年第54号法律〔ともに7月28日公布、30日後に発効〕)にもとづき、長期的に国家による経営支配が存続される企業(163国営企業)と全面的民営化が適用されるその他の企業の間で線引きがなされたほか、すべての既存国営企業について、1993年末までに会社形態に転換することが義務づけられたからである。会社化がイコール民営化(私有化)ではないが、前者が後者の前提条件であるのは確かである。

 こうして1993年には民営化のための法的条件整備がほほ完了したが、民営化自体の進捗状況はむしろさらに緩慢化した。それは民営化による資産売却額の減少に如実に示された。1990年以降急増し1992年に740億フォリント(月平均62億フォリント)に達した民営化収入額は、1993年1〜9月期には425億フォリント(月平均47億フォリント)に減少したのである。

 1993年におけるいまひとつの特徴は、民営化収入に占める外国直接投資(外貨での支払分)のシェアが急激に低下したことである。1992年に55%を占めたこのグループのシェアは、1993年1〜9月には約3分の1にすぎなくなった。一方ローンと損害補償証券での支払分がシェアを高め、前年の16%からこの年には38%となっている。1991〜1993年における民営化収入(月平均額)とその構成は次のグラフのとおりであった。

 他方、先述の諸法律により国営企業の会社化が迫られているため、会社化過程は比較的順調に展開した。1993年7月時点において、国家資産管理庁の管轄対象(つまり全面的民営化対象)国営企業1,728のうち1,370社(79.3%)が会社化を完了していたし、国家資産運用株式会社の管轄に属した(つまり長期的に国家の経営支配が残される)国営企業の会社化率も約50%であった。こうしたなかで会社化と民営化の乖離がますます広がっている。

 民営化収入が減少しているひとつの理由は、深刻化するリセッションによる事業用国有資産の減価であるとされる。国家資産管理庁管轄下におかれた国営企業のうち250社が過去3年間に清算されたが、それによる減価は、会社化された企業の再評価資産額の増分を上回っている。民営化に際し、売却額が再評価企業資産額を下回るケースも増えている。ちなみに国家資産管理庁管轄下企業の資産額は8,100億フォリント(このうち、会社化済み企業の資産が6,600億フォリント、会社化未完了企業のそれが1,500億フォリント)、国家資産運用株式会社管轄下企業の資産額は1兆2,000億フォリントとされているが、前者企業グループは2,500億フォリントの債務を背負っており、さらに1992年だけで600億フォリントの欠損(前年欠損額の3倍)を出している。

 1992年以降(とりわけ5月以後)は直接投資導入にも陰りが出てきた。国際経済関係省作成の上掲表がそれを示している。

 もっとも東欧投資マガジン(EEIM)のデータベース(“Figyelo”誌1993年10月21日付)には1992年10月〜1993年3月に直接投資導入額が先行半年に比べ倍加した(約8億ドルから17億ドルへ)との記述もあり、詳細は不明である。

 


 

CIS諸国の指導部人事一覧

 

1.     アルメニア共和国

2.     アゼルバイジャン共和国

3.     ベラルーシ共和国

4.     カザフスタン共和国

5.     キルギスタン共和国

6.     モルドバ共和国

7.     ロシア連邦

8.     タジキスタン共和国

9.     トルクメニスタン共和国

10. ウクライナ共和国

11. ウズベキスタン共和国

 

はじめに

 現在モスクワにはCIS各国の大使館があり、さまざまな問い合わせに対する回答も得られるようになった。当会モスクワ事務所ではこれら大使館に依頼してCIS諸国の指導部人事一覧を入手したので、ここに紹介する。

 なお、以下に紹介するCIS諸国のうち、モルドバは1993年9月24日のCIS首脳会議でCIS経済同盟には調印しているが、1993年8月に議会がCISへの加盟を否認したため、CISの加盟国ではない。

 また、ロシア連邦は議会選挙後、連邦議会の連邦会議(上院)議長、国家会議(下院)議長が選出され、組閣がすすめられているが、1月末現在、正式に大統領令で就任が発表された閣僚は一部であり、退任の大統領令が出ていないかぎり、選挙前の大臣および国家委員会議長の名前を記した。