ロシア東欧貿易調査月報

2003年11月号

 

T.ロシアのガス分野の諸問題 −危機回避のために何が必要か−

U.ロシア国民の所得分布と消費スタイルの変化

◇◇◇

ロシア企業クローズアップ

 1.ウィム・ビル・ダン食品

 2.合同重機械工場

データバンク

 1.CIS諸国における外資参加企業の設立・活動状況

 2.特集:ロシア200大企業ランキング

CIS・中東欧ビジネストレンド(2003年9月分)

CIS・中東欧諸国関係日誌(2003年9月分)

 


 

ロシアのガス分野の諸問題

―危機回避のために何が必要か―

ロシア東欧経済研究所 調査部次長

坂口泉 

はじめに

1.ロシアのガス分野の現状(埋蔵量、生産、輸出、内需の状況)

2.現状から導き出される問題の所在および課題

3.課題達成の進捗状況

4.中央アジアのガス産出国との関係強化の動き

まとめにかえて

付属資料:「2020年までの期間のエネルギー戦略」(2003年8月28日付政府指令第1234-Rにより承認)におけるガス産業に関する記述

 

はじめに

ロシアは世界最大のガス資源国で、年間約6,000億㎥ものガスを生産しているにもかかわらず、その可採年数は80年近くに達する。この数字を見る限り、ガス大国ロシアの基盤は安泰のように思われるが、最近、その将来を懸念する声が高まっている。具体的に言えば、ガス分野の上流の状況の急速な悪化に伴い、近い将来、内外の需要を満たせないという状況が生じるのではないかとの懸念が広がりつつあるのだ。この懸念はかなり現実的なものであり、最近、ロシア政府は中央アジア諸国からのガス輸入を強化する動きを明確に示し始めている。

 本稿では、このガス不足の懸念の背景にある様々な事情を紹介すると同時に、それを回避するための対策の進捗状況等についても言及したい。

 付属資料として、ロシア政府が採択した「2020までの期間のロシアのエネルギー戦略」におけるガス分野に関する部分を翻訳して掲載するので、あわせて参照していただければ幸いである。

 


 

ロシア国民の所得分布と消費スタイルの変化

ロシア東欧経済研究所 調査役

芳地隆之

はじめに

1.国民の所得分布

2.消費スタイルの変化

3.小売分野における外資進出例

 

はじめに

 近年のロシア、とりわけモスクワなど都市部の住民の消費意欲にはめざましいものがある。1998年の経済危機以降、ロシア経済が回復するに従って国民所得は増加し、購買力の上昇により消費構造に変化が生じている。その一方で貧富の差や首都と地方の所得格差の拡大が指摘されて久しい。ここ数年のモスクワの急速な発展と地方経済の立ち遅れは国内の不満を高めているが、富の集中は、従来のニューリッチだけでなく、都市部における中間層の拡大を促している点に注目すべきであろう。そこで本リポートでは、ロシアにみられる所得分布と消費スタイルの変化を紹介するとともに、今後の対ロ・ビジネスの可能性について考えてみたい。

 


 

ロシア企業クローズアップ

 

1.ウィム・ビル・ダン食品

 急成長を続けるロシア食品分野の最大手。ロシア国内での市場占有率はすでに乳製品で34%、ジュースで38%に達している。ロシア国内だけでなく近隣のCIS諸国にも生産・販売拠点を拡大。ニューヨーク証券取引所に上場された。

 

2.合同重機械工場

 「ウラルマシ」「イジョラ工場」などロシアの代表的な重機械工場を傘下に収める持ち株会社。石油ガスの採掘・生産設備、原子力発電プラント、造船などをカバー。しかし、事業拡張が財務内容の改善に直結せず、市場の評価は必ずしも高くない。

 


 

データバンク

 

1.CIS諸国における外資参加企業の設立・活動状況

 CIS統計委員会の発行する『CIS統計通報』(2003, No.16)に、CIS諸国における外資参加企業(100%外資企業および合弁企業)の設立および活動状況に関する最新データが掲載されているので、これを紹介する。

 外資参加企業の設立・活動状況については、登録件数、稼動件数、定款資本、払込資本、生産高、売上高など、様々な統計指標がある。CIS諸国では、発表している指標がまちまちであり、これが各国の外資受入状況を横断的に比較するのを難しくしていた。今回の統計もその点に変わりはないが、すべての国が同じフォームに当てはめられ、横並びで示されているので、どのようなデータが得られるのか、あるいは得られないのかが明確になっており、便利な資料と言える。ただし、通例のことながら、本資料にはウズベキスタン、トルクメニスタンは含まれておらず、得られるのは残り10カ国のデータとなっている。

 

2.特集:ロシア200大企業ランキング

●ロシア主要企業五十音順一覧

●A.ロシア製造業企業売上高ランキング

●B.ロシア企業株式時価総額ランキング

 ロシアの経済週刊誌『エクスペルト』(2003.9.29-10.5, No.36)に、毎年恒例のロシア200大企業ランキングが掲載されているので(今回で9回目)、早速これを紹介する。エクスペルトの200大企業リストは、売上高にもとづく製造業のみのランキングと、株式時価総額にもとづくサービス業も含めたランキングの2本建てになっており、これまで本月報では前者だけをお伝えしてきたが、今回は両方のランキングを掲載する。

 それのみならず、本月報独自の企画として、2つのランキングに登場するすべての企業を日本語の五十音順に並べ替えて、それに各企業のインターネット・アドレスを加えた資料「ロシア主要企業五十音順一覧」を作成した。200大企業ランキングには銀行がほとんど登場しないので、われわれはこの資料にロシア50大銀行のデータも加えることにした。全387企業を網羅した本資料を、総合索引としてご活用いただければ幸いである。

 「A.ロシア製造業企業売上高ランキング」は、2002年の売上高にもとづいている。対象企業は生産企業に限られ、流通、運輸、通信、金融などの業種は「対比不能」ということで除外されている。企業グループの扱いについては、重複を避けるため、持ち株会社たる親会社のみを掲載している。表中で「*」の印が付いている企業がそうした持ち株会社であり、グループ全体の連結データが示されている。ロシア200大製造業企業の2002年の売上高合計は、4兆9,2152,890万ルーブル(1,5692,410万ドル)であった。

 「B.ロシア企業株式時価総額ランキング」は、2003年9月1日現在のデータで、株価×発行済株式総数で計算された時価総額にもとづく。こちらの方はサービス業も対象になっており、またグループ内の子会社も登場するという違いがある。なお、2003年9月1日現在、ロシア200大企業の株式時価総額の合計は、5兆7,6654,390万ルーブル(1,8902,930万ドル)であった。

 『エクスペルト』誌の分析によると、今回弾き出された200大企業の売上高は、それほど目覚しい伸びを示していない。しかし、その中身を見ると、大企業の事業が徐々に構造的な変化を遂げていることが見て取れる。多くの部門で高付加価値製品への転換が進み、設備投資に積極的な企業も増えている。市場の牽引役が、巨大企業から、より小回りの利く企業体に移る傾向が見られる。興味深いことに、そうした新たな成長の担い手は、有名になると大手資本の敵対的なM&Aの餌食になる恐れがあるので、目立ちすぎないことを心がけているという。

 製造業売上高No.1は、今回もガスプロムであった。一方、2003年9月1日現在、株式時価総額が最も大きかったのは、「問題の」ユコス社である。