ロシア東欧貿易調査月報

2005年1月号

 

T.ロシア経済の特殊性に起因するリスクとチャンス

 

U.ロシア極東デジタル紀行(上)

 ―辺境に芽吹く家電産業を訪ねて―

◇◇◇

ロシア企業クローズアップ

 1.スチノール

 2.トランスマシホールディング

データバンク

 1.CIS諸国の国家財政

 2.ロシアの地域別の産業構造

 3.特集:ハバロフスク地方の経済・社会統計

ビジネス最前線

 家電市場としてのロシアをどう見るか

CIS・中東欧ビジネストレンド(2004年10月分)

◇◇◇

調査月報・経済速報年間目次(2004年分)

 


 

ロシア経済の特殊性に起因するリスクとチャンス

ロシア東欧経済研究所 調査部次長

坂口泉

はじめに

1.産業構造の偏り

2.未発達な金融部門

3.進む設備の老朽化

4.色濃く残る社会主義時代の遺産

5.ロシア政府の経済政策の特徴

6.大きい地域格差とビジネス

おわりに

 

はじめに

 BRICsという造語が最近急速にその認知度を高め、ロシア経済も大きな注目を集めるようになっている。しかし、BRICsに含まれる他の国々(ブラジル、インド、中国)と比較すると、ロシア経済の実態は意外と知られておらず、その特性や問題点が充分に認識されないまま、雰囲気だけが先行しているとの印象も受ける。

 そのような状況を踏まえ、本稿ではロシアでのビジネスを展開する上で重要だと思われる同国経済の特性をいくつか紹介することを試みる。本稿が、ロシアでのビジネスの展開を考える上で何らかの参考となれば幸いである。

 


 

ロシア極東デジタル紀行(上)

―辺境に芽吹く家電産業を訪ねて―

ロシア東欧経済研究所 調査役

服部倫卓

はじめに

1.ロシア極東「製造業」の真相

(1)流通の域を出ないオケアン工場

(2)より加工レベルの高いエヴゴ工場

(3)生産を急拡大するアヴェスト社

(4)極東3社視察の総括

 

はじめに

 ロシア東欧貿易会では、2004年9月26日から10月1日にかけて、ロシア極東に家電ミッションを派遣した。筆者も事務局の一員として、このミッションに参加することができた。

 ミッションの日程は下記で示したとおりである。まず、9月26日ウラジオストクに入る。翌27日、ウラジオストク市内にある大手家電販会社V-LAZERの販売店を訪問。さらに、ウラジオストクからウスリースク市に移動し、同市にあるV-LAZERの本社とそのオケアン工場を視察した。同日夜の便でハバロフスクに飛び、翌28日ハバロフスク地方行政府との面談を実施、そして同市の外れにあるエヴゴ社の工場を訪れ見学した。その後、ハバロフスク市内にあるエヴゴ直営店、さらに翌日訪れる予定のアヴェスト社の直営店を相次いで訪問し、担当者から話を聞いた。翌29日は、ハバロフスクから片道3時間をかけてユダヤ自治州を日帰りで訪問、ビロビジャン市においてアヴェスト社の工場を見た。最後の30日はハバロフスク市内で、まずロシア科学アカデミー極東支部経済研究所でミナキル所長らと面談、午後はショッピングセンター「ナロードナヤ・カンパニヤ」、ハイエンドAV機器店「イムペリウム」等を視察して回った。

 言うまでもなく、極東地域はロシアのなかで最も人口密度が希薄な辺境であり、経済面でも先進的とは言えない。モスクワを中心としたヨーロッパ・ロシア部の消費ブームとも、無縁というイメージが強い。しかし、そんな極東地域において最近、上で挙げたような家電メーカーが台頭し、生産を拡大しているという。驚くべきことに、プラズマテレビも生産されているらしい。技術基盤があるとは思えず、ヨーロッパ部の大市場から遠く離れた極東において、なぜこのような製造業が存立しうるのだろうか。我々は、このような問題意識から、極東に芽吹く家電産業の実態を把握し、ひいてはそこにおける日本企業のビジネスチャンスを探るべく、今回のミッション派遣を決めた。

 実は筆者にはもう一つの関心があった。昨今の日本は空前のデジタル家電ブームに沸いており、筆者自身もここ1年ほどで多くの商品を物色したり買ったりした。このデジタル王国からロシア極東を訪問し、一家電ファンの目線で眺めたら、この地域のどんな姿が見えてくるだろうか。むろん、極東の家電という限定的な観察ながら、それによりロシア消費市場の水準や志向の一端をうかがい知ることができるに違いない。これが筆者の密かな目論見であった。

 以上のような問題意識を抱きつつ、筆者は訪問団の一員として、ロシア極東に向かったのである。「デジタル紀行」にふさわしく、お気に入りのデジタルカメラとポータブルCDプレーヤーをもって出かけた。そこで本稿では、先のロシア極東家電ミッションの成果について、2回に分けて報告する。まず今回は、生産現場の視察から浮かび上がった極東「製造業」の実態について述べる。

 


 

ロシア企業クローズアップ

 

1.スチノール

 旧ソ連時代からの冷蔵庫メーカー。ロシアにおける冷蔵庫市場シェアは約40%。2000年にイタリアの家電メーカー「メルローニ」のロシアにおける生産拠点となる。大規模な設備投資により、他のCIS市場でも足場を固めつつある。

 

2.トランスマシホールディング

 石炭会社と輸送会社が合同で設立した持ち株会社。経営困難に陥っている鉄道車両製造企業を買収し、現在ロシア国内で不足している鉄道車両を供給。公開型株式会社「ロシア鉄道」と長期的取引契約を結び、安定的な経営基盤をめざす。

 


 

データバンク

 

1.CIS諸国の国家財政

 

2.ロシアの地域別の産業構造

 このほど当会では、ロシア連邦国家統計局の刊行物『19962003年のロシアの国民経済計算』(2004年)を入手した。このなかに、ロシアの地域別の産業構造(連邦管区および連邦構成主体ごとの部門別付加価値生産構造)に関するデータが掲載されているので、ここでは最新の2002年の数字を紹介する。なお、下表に掲げられている「ロシア全体」のデータは、地域別のデータを単純に合計したものであり、全国家レベルで生産されている付加価値(国防、連邦予算から支出される行政サービス等)は考慮されていない。表中の「AO」は「自治管区」を意味する。

 

3.特集:ハバロフスク地方の経済・社会統計

 このほど我々は、ロシア極東・ハバロフスク地方の統計委員会より、『ハバロフスク地方のパスポート(19922003年)』(2004年)と題する統計集を入手した。そこで以下では、この資料を抜粋する形で、ハバロフスク地方の経済・社会統計を詳しくお届けする。なお、以下の諸表のうち、第2427表のみは別の小冊子を出典としている。

 ロシア極東地域の経済に関しては、当会による以下の資料も参照していただければ幸いである。

●「ロシア極東の外国投資受入に関する最新データ」『ロシア東欧経済速報』(2004年5月15日号、No.1294

●「ロシア極東の最新の外国貿易統計」『ロシア東欧経済速報』(2004年6月5日号、No.1296

 


 

ビジネス最前線

 

 新コーナー「ビジネス最前線」について

 今回から、「ビジネス最前線」と題する新コーナーがスタートします。このコーナーでは、ロシア・東欧とのビジネスに携わっている実務家の皆様に毎回ご登場いただき、各自が取り組んでおられるお仕事、現場での体験、取引相手国についての評価などを、インタビュー形式でお聞かせいただきます。どうぞ、ご期待ください。(編集部)

 

Interview

家電市場としてのロシアをどう見るか

松下電器産業(株) グローバル戦略研究所研究員

橋本仁さん

 はじめに

  「ビジネス最前線」の記念すべき第1回のゲストには、松下電器の橋本仁さんにご登場いただきました。

 9月にロ東貿主催の「ロシア極東家電ミッションにご参加いただくなど、最近精力的にロシアのことを調査されている橋本さんですが、実はロシアにかかわるようになったのはごく最近とのこと。日本のトップメーカーのグローバル戦略を担う橋本さんの目には、ロシアはどう映っているのでしょうか。最近話題のBRICs論なども交えながら、お話をうかがいました。