ロシア東欧貿易調査月報 2005年2月号 |
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ユコス事件に関する中間報告
―事件がビジネスに及ぼした影響―
ロシア東欧経済研究所 調査部次長
坂口泉
はじめに
1.ユコス事件の経緯
2.第2のユコス事件は起こるのか
3.事件を追い風とした課税圧力と石油ビジネス
おわりに
はじめに
2004年12月19日にユコス傘下の石油生産企業「ユガンスクネフチェガス」の競売が実施され、1年以上続くユコス事件もいよいよ大詰めに入ったとの印象が強い。周知のとおり、ユガンスクネフチェガス(正確には、その株式の約77%)はバイカルファイナンスグループという無名の企業が落札した。この会社については様々な憶測が乱れ飛んだが、プーチン大統領が12月21日に、「私はこの会社の株主たちを知っている」という主旨の発言を行った。さらに12月22日深夜になり、ロスネフチが、バイカルファイナンスグループを買収したとの発表を行った。資金調達スキーム等については謎が残るものの、これで、ユガンスクネフチェガスが国家に近い石油ガス会社の支配下に入るのはほぼ確実となった。現在の流れが続けば(米国での裁判がこじれなければ)、恐らく、ユコスのその他の主要資産(トムスクネフチ、サマラネフチェガス等)も早晩、競売に付されることになるであろう。このユコス事件が、将来的に、ロシアの石油ガス業界地図に大幅な変更をもたらすことはほぼ間違いないといえる。
しかし、現段階においても、ユコス事件はすでにロシアのビジネス環境に様々な変化をもたらしている。本稿では、ユコス事件の中間報告として、同事件がロシアのビジネスに現実的に及ぼした影響についての考察を試みたい。具体的にいえば、まずユコス事件のこれまでの経緯を説明した後、第2のユコス事件が生じるのではないかとの危惧がロシアのビジネスに及ぼした影響についての考察を行い、さらに、ユコス事件を追い風として利用するような形で実施されている石油分野への課税圧力の強化および各石油会社の(強制された)納税規範の高まりが、ビジネスに及ぼす影響についての考察を試みる。
ロシア極東デジタル紀行(下)
―辺境に芽吹く家電産業を訪ねて―
ロシア東欧経済研究所 調査役
服部倫卓
2.ロシア極東のデジタル力を測定する
おわりに
付属資料:AV機器・デジタル家電用語集
先月号に引き続き、2004年9月下旬の「ロシア極東家電ミッション」に関する報告の後半をお届けする。
前回は、ロシア極東で最近台頭してきている家電メーカー3社、V-LAZER(オケアン工場)、エヴゴ、アヴェストの工場視察を踏まえ、極東における家電生産の実情について論じた。会社によって加工のレベルが若干異なるとはいえ、現時点ではいずれもセミノックダウンの域を出ないというのが、その結論であった。
今回は、9月のミッションの成果にもとづき、ロシア極東の家電消費市場の成熟度を、主としてデジタル家電の浸透度という観点から論じてみたい。
付属資料として、AV機器・デジタル家電に関する日本語・ロシア語対応の用語集を作成してみた。実のところ、こうしたハイテク分野においては、英語がそのままロシア語に入り込んでいる例が多く、用語集をつくってみてもあまり面白みがないということが分かった。ともあれ、そのあたりも含め、ご参照いただければ幸いである。
ロシア企業クローズアップ
1.ロシア鉄道
2003年9月、ロシアにおける鉄道の民営化によって設立された100%国家出資の株式会社。旅客・貨物輸送部門をほぼ独占。2004年12月に大規模な起債に成功。自然独占体改革のモデルとされる。
2.アクリラト
旧ソ連時代に建設が開始されながら、資金不足のため長期にわたり未完工状態に置かれていたが、ロシアの石油業界の好調さをバックに、破産から再生したロシア唯一のアクリル関連企業。現在は、稼動開始したばかりで、赤字経営だが、将来的には有望な企業。
データバンク
1.2004年1〜9月のロシア経済
2.2003〜2004年版ロシア地域別投資環境ランキング
ロシアの経済週刊誌『エクスペルト』(2004.11.29-12.5, No.45)が、毎年恒例のロシアの地域別投資環境ランキングの最新版を発表したので、この資料を抜粋して紹介する。
『エクスペルト』の地域別投資環境ランキングは、各種の統計指標と調査・研究資料をもとに、内外の専門家による評価を加味して作成されている。同誌では、A.投資上のメリット、B.投資上のリスク、つまり投資を行ううえでのプラスとマイナスの両面からアプローチしている。
Aの投資メリットは、@労働力(労働資源とその教育水準)、A消費需要、B生産力(当該地域の経済活動実績)、C金融(税収規模と企業の収益性)、D制度(市場経済の制度的基盤)、E技術革新、Fインフラ、G天然資源という8項目から成り、それぞれについて、各連邦構成体が全89構成体のなかで何番目の順位を占めているかが示されている。当然、数字が若いほど投資のメリットが高いことを意味する。そのうえで、それらを加重平均して、総合順位が弾き出されている。
Bの投資リスクは、@法律、A政治、B経済、C金融、D社会、E犯罪、F環境という7項目から成り、やはりそれぞれについての各構成体の順位が示されている。こちらは、数字が若いほど投資リスクが低く、有利であることを示しているので、ご注意願いたい。こちらについても、7項目を加重平均した総合順位が示されている。
今回のランキングによると、Aの投資メリットでは、首都のモスクワ市が首位の座をキープしている。一方、Bの投資リスクでは、ノヴゴロド州が最もリスクが低いという結果が出た。
3.特集:CIS諸国の2003年の貿易統計
(1)ロシア
(2)ウクライナ
(3)ベラルーシ
(4)モルドバ
(5)カザフスタン
(6)キルギス
(7)ウズベキスタン
(8)トルクメニスタン
(9)タジキスタン
(10)アゼルバイジャン
(11)アルメニア
(12)グルジア
ビジネス最前線
Interview ロシア・CISの縫製業とミシン販売
JUKI 工業用ミシン事業部営業本部 営業推進部 参事 麻井 能一さん
はじめに
今回は、ミシン・メーカーJUKIの麻井さんの登場です。
JUKIは社会主義の時代から旧ソ連向けに工業用ミシンを大量に輸出していた実績があり、ロシアで軽工業が不振にあえいでいるかに思われる今日でも、欧州子会社を拠点として積極的にロシア・ビジネスを展開しています。
麻井さんは、もともとロシア畑ではないそうですが、縁あって最近ロシア・CIS諸国の縫製工場を回っておられます。今回のインタビューでは、そうした視察で浮かび上がるロシア・CIS諸国の軽工業の実情と、その市場におけるミシン販売の諸問題について語っていただきました。