ロシア東欧貿易調査月報

2005年7月号

 

T.中・東欧移行経済地域に生きる日系ハイブリッド工場

  ―チェコ、ポーランド、ハンガリー、スロバキアを中心に―

 

U.2004年のロシアの外国投資受入状況(詳報)

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ビジネス最前線

 対ロシア・ビジネスを支える総合商社の遺伝子

 

CIS・中東欧ビジネストレンド(2005年4月分)

 

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統計特集(V)日本の対中東欧貿易統計

 1.ポーランド

 2.チェコ

 3.スロバキア

 4.ハンガリー

 

*「ロシア企業クローズアップ」、「データバンク」はお休みいたします。

 

 


 

中・東欧移行経済地域に生きる日系ハイブリッド工場

―チェコ、ポーランド、ハンガリー、スロバキアを中心に―

 

立正大学経済学部

苑志佳

1.はじめに

2.日本企業の中・東欧移行経済地域への進出状況・特徴と現地の経営環境

3.中・東欧現地調査の概要

4.日本的経営・生産システムの現地移転状況

5.おわりに ―日系ハイブリッド工場の世界比較と中・東欧移行経済地域の特徴―

 

1.はじめに

 本稿は、中・東欧移行経済地域4カ国 ―チェコ、ポーランド、ハンガリー、スロバキア― に進出した日系企業の現地工場を手掛かりとして、日本的経営・生産システムが移行経済地域へどの程度移転できるかという点を中心にして考察するものである。

 東欧旧社会主義陣営の体制転換が強行された直後の1990年1月に「全欧州安全保障協力会議(CSCE)」首脳会議がパリで開催された。この会議の場において、当時のミッテラン仏大統領は、次のように欧州各国首脳に警鐘を鳴らした。

 「政治分断に代わって経済の分断が起これば、新たな危機に直面する。「鉄のカーテン」に代わって「経済格差のカーテン」が欧州を「豊かな欧州」と「貧しい欧州」に分断して、再び欧州に新たな緊張が生まれるだろう」。

 それから14年後、欧州には大きな地殻変動が見られた。2004年5月1日、EUは中・東欧など10カ国を新たに加盟国として迎え入れ、EU25体制を誕生させた。EUの東方拡大は、世界経済の発展にプラス要因を与え、モノ、カネ、ヒトの移動を促している。とくに、この地域の新規加盟諸国の潜在的成長力を狙う先進国の資本は、中・東欧地域へ流れ込んでいる。EU加盟時点までの6年間、中・東欧主要5カ国(チェコ、スロバキア、ポーランド、ハンガリー、スロベニア)は、約800億ユーロ(約11兆円)の直接投資を集めた。そのうち、かつては、この地域における弱小存在だった日本企業による直接投資は大きく躍進している。日本貿易振興機構(ジェトロ)の関係統計によると、2003年末時点で中・東欧に進出済みの日本製造業企業は、137社と3年前に比べて倍増した。日本企業の対中・東欧直接投資は、半数近くを自動車産業関連が占め、この地域への直接投資主要国ドイツと肩を並べた。したがって、販売会社など非製造業分野を含めると、日本企業は300社を超える勢いである。

 周知の通り、1990年代以降、中・東欧は体制激変を経験したと同時に、経済システムもかつての中央集権的な計画経済から市場経済へ急速にシフトしてきた。さらに、中・東欧経済体制は、上記の市場経済だけでなく、「非EU国」から「EU国」へというもう一つの制度移行も実行している。このような体制的・経済的・制度的な多重移行中にある中・東欧地域に進出した日本企業は、どのように現地生産を展開するのか。また、日本企業は、現地生産に際してどのようにその競争優位を発揮するのか。というのが、本稿の基本的な問題関心である。実際、日本における中・東欧に対する理解と知識の蓄積は必ずしも満足できるレベルに達していない。周知のように、日本の学界では、中・東欧地域の政治面やマクロ経済面に対して強い関心を示している一方、同地域の企業を中心とするミクロレベルの調査研究蓄積は、きわめて薄い。本稿は、このような状況を強く意識し、ミクロレベルの企業を中心にして中・東欧移行経済地域における日本企業の現地経営環境および日本的経営・生産システムの現地移転を考察する。

 


 

2004年のロシアの外国投資受入状況(詳報)

 ロシア東欧経済研究所 調査役

服部倫卓

はじめに

1.ロシアの全般的な外資受入状況

2.ロシア極東地域の外資受入状況

3.日本からロシアへの投資

おわりに

 

はじめに

 当会では先に、『ロシア東欧経済速報』の3月5日号(No.1322)において、ロシア連邦国家統計局の発表にもとづき、2004年のロシアの外国投資受入状況に関するデータを紹介した。その後我々は独自に、追加的なデータを入手したので、本稿では詳報という形で改めてお伝えすることとしたい。ロシアの外資受入に関するデータ資料としては、本レポートがほぼ決定版であると自負している。

 以下ではまず、1において、ロシアの全般的な外国投資受入状況について、最新データを紹介する。2では、日本とつながりの深いロシア極東地域の外国投資受入状況の数字を取り上げる。極東のデータは、当会がロシア科学アカデミー極東支部経済研究所から独自に入手したものであり、他では手に入らない貴重なものである。最後に3において、2004年の日本からロシアへの投資データを見ることにしよう。これは、当会がロシア連邦国家統計局に照会して特別に入手したものであり、やはり本誌の独占である。

 


 

ビジネス最前線

Interview 対ロシア・ビジネスを支える総合商社の遺伝子

YT&C 取締役社長 藪本 高行さん

 

はじめに

 今回は、YT&C社の藪本高行さんにお話をうかがいました。

 藪本さんは、総合商社の日商岩井を2003年に退職し、新会社YT&Cを設立されました。YT&CはYabumoto Trading & Consultingの略であり、ロシア・ビジネスの指南役として奮闘しておられます。新生ロシアの時代になって、大手商社のロシア・ビジネスは総じて縮小してきたわけですが、そうしたなかで、やはり藪本さんのような商社OBが対ロ・ビジネスを支えているというのは興味深いことです。合弁企業の顧問としてのお仕事、ロシア向けの機械輸出の諸問題などを中心に、お話を聞かせていただきました。