ロシア東欧貿易調査月報

2005年8月号

 

T.ロシアの外国投資導入政策

 ―地下資源法の改定問題を中心に―

 

U.シャリフォフ副首相によるアゼルバイジャン・プレゼンテーション

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ビジネス最前線

 中央アジア開発援助奮闘記

 

ロシア企業クローズアップ

 エネルゴマシコルポラーツィヤ

 

データバンク

 中東欧諸国の基礎データと主要経済指標

 

CIS・中東欧ビジネストレンド(2005年5月分)

 

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統計特集(W):日本の対南東欧・モンゴル貿易統計

 1.ルーマニア

 2.ブルガリア

 3.アルバニア

 4.セルビア・モンテネグロ

 5.ボスニア・ヘルツェゴビナ

 6.マケドニア

 7.クロアチア

 8.スロベニア

 9.モンゴル

 

 


 

ロシアの外国投資導入政策

―地下資源法の改定問題を中心に― 

ロシア科学アカデミー東洋学研究所 主任研究員

V.シュヴィトコ

1.はじめに ―現政権の外資政策の内容と特徴―

2.外資に対する規制とそれをめぐる議論

3.外資関連法規改正に関わる大統領指示とその実行方針

4.「ロシア連邦地下資源法」改定案の内容と見通し

5.規制の「制度化」に絡む動きと今後の外資参入への影響

 

1.はじめに ―現政権の外資政策の内容と特徴―

 プーチン政権の外資導入への態度および関連政策は、数年にわたって基本的に変わらないものである。その趣旨は、@総論として外国投資を歓迎する、Aただし、(例外を認めることは可能としても)優遇や特権を与えることは原則的になく、国内資本との対等な扱いをする、B国の主権や政策の観点からみて「戦略的な分野」または「センシティブ」な分野・部門での外資のプレゼンスと役割を規制(場合によっては排除)する、という3点に絞られる。

 まず、公式文書や政府高官の発言は例外なく外国投資を「ロシアの経済発展を促進するもの」と評価し、誘致する必要性を強調している。一例を挙げると、プーチン大統領は連邦議会宛ての2005年年次教書のなかで、「ロシアは外資も含めて民間投資の大量の到来にきわめて大きな関心をもつ。これこそが我々の戦略的な選択とアプローチである」と述べ、「我々は経済の特定のセクターにおいて国からのコントロールと規制を保持しながらも、魅力のある産業すべてに対して民間資本が入るための良好な条件を整備しなければならない」と強調した。また経済政策を策定する政府レベルの年次文書のなかにも、外国投資活性化を刺激するための環境整備が優先的な政策課題の一つとして常に挙げられており、投資家の権利を保護する必要性が訴えられている。

 ただし、その際よく使われる標準的な表現を分析してみると、外国投資そのものに力点を置くということはなく、民間投資(民間資本)を誘致する必要性を強調しながら、「外国資本を含めて」という形で外国投資に言及することが多い。ということは、外国投資を国内企業の投資と区別して、前者にねらいを定めた特別政策(一部の途上国にはよくみられるもの)、つまり外国投資家に特別な優遇・特権を与えることによって投資を積極的に求める政策を行う意向はない、と理解できる。

 この認識は公式文書だけでなく、ビジネス環境の現実や当局による具体的なプロジェクトの扱いにも反映されており、外国からの資金受入を促進するための特別な工夫がみられないのが現実である。しかも、国内企業と外資企業を区別して特別な扱いをする場合には、大抵のケースでむしろ国内企業を優先する差別になる確率が高く、外国投資によって得られるはずの新規の資金投入と新技術の導入よりも、「国内生産者の利益の保護」が重視される傾向にある。

 途上国の典型的な外国投資誘致政策とは異なるこうした方針の原因を考えれば、まず次の3点を挙げるのが妥当であると思われる。

 @旧ソ連を引き継いでいる新生ロシアでも、国家主権保護の問題が大きな関心事とされており、外国企業、とりわけ多国籍大手企業の進出に伴う国家主権毀損の懸念がロシアの政治エリートの意識に根強く残っている。この懸念は当局が資源鉱区開発ライセンスを配分する政策を大きく左右する要素でもあるし、ユコス事件の背景にうかがわれることでもある、と政府・大統領府高官も認めている。さらには、ソ連崩壊後の15年間を振り返ってみると、上述の懸念は弱まるどころか、むしろ強まる方向になっているとみられる。

 A法的枠組みは別として、産業活動の現実から考えるならば、ロシアの大手企業とそれと結び付いたビジネスの自由化・国際化が1990年代初期に比べて大きく進んでおり、それらのオーナーは国内企業のコントロールとオーナーシップを実施するに当たって、オフショア投資会社に頼ることが一種の常識になった。それゆえ、もっぱら国内の資金と経営資源にもとづいて存立している企業でも、名義上外国の投資会社に所有され、外国資本を投入されているような外見になる。つまり、資本の国内外移動の事実上の自由化の結果(その合法性の問題は別として)国内資本と外国資本の区別が現実として付かなくなり、外国投資家の名義で事業を拡大したり、新規事業を起こしたりするロシアの実業家が多いのである。その状況下では、特別な扱いでもって外国投資を集中的に誘致する政策は事実上、国内企業のオフショア管理と資本逃避を刺激する恐れが強く、このことが政府の政策的な考えの背景にあるに違いない。

 Bロシアの政治エリート内でも、国の経済政策のあるべき内容に関する見方は別れている。大別すれば、積極的な産業政策の必要性を強調する流れと、経済面での国の役割(関与)の一層の縮小とその中立性(差別を付けずにすべての経済主体を対等に扱う要求)を主張する流れがあるが、対外経済政策を決めるに当たっては後者のグループの影響が強いとみられる。それが背景となって、積極的な外資誘致政策の前提でもある優先分野または優先地域を指定する試みが失敗しており、外国投資家を対象とする課税上の優遇・特権を供与する議論も結局決定に至らないまま空転している。

 一方、ロシア当局との対話に積極的に応じている一部の大手外国企業のトップたちも、(少なくともロシアのマスコミ報道から分かる限りでは)外資向けの優遇よりも、透明な共通ルールの策定とその遵守を何よりもまず求めており、ロシアでの政府とビジネスの間の関係が安定していて公平(フェアー)なものになれば、外資向けの特別政策の欠如は問題にならないとの見方を間接的にでも表している。

 上にあげたポイントを繰り返して言うならば、ロシア当局は、特別優遇の必要性を否定はしているが、外国投資がロシア経済にとって有益であり、ロシアの経済発展を支えうるものとして必要であると一般論として認めている、ということだ。

 その一方、エリツィン政権時代以降、とりわけプーチン政権になってからマスコミの注目を大きく集めている話題として、外資の進出に対する制限と規制も無視できないものになっており、その背景と今後のあり方に関する議論もますます大きなファクターになりつつある。

 そこで、以下本稿では、外資に対する規制の概要をまとめるとともに、現在焦点となっている地下資源法の改定問題を詳しく分析し、ロシアの外資導入政策について論じることとする。

 


 

シャリフォフ副首相によるアゼルバイジャン・プレゼンテーション

 

はじめに

 日本アゼルバイジャン経済委員会(事務局:ロシア東欧貿易会・経済協力部)では、愛知万博におけるアゼルバイジャン共和国ナショナルデー(5月17日)参加のため来日されたシャリフォフ・アゼルバイジャン共和国副首相(アゼルバイジャン日本経済協力国家委員会議長)をお迎えして5月19日、アゼルバイジャン共和国プレゼンテーションを開催いたしましたので、シャリフォフ副首相のスピーチをご紹介いたします。なお、以下の小見出しは編集部で付けたものです。

 


 

ビジネス最前線

Interview 中央アジア開発援助奮闘記

アジア開発銀行 前タジキスタン駐在事務所長 本村和子さん

 

はじめに

 ロシア東欧貿易会の設立(当時はソ連東欧貿易会)当初から、当会で経済調査の仕事に携わってこられた本村和子さんが、アジア開発銀行に転進し、中央アジアの開発支援の仕事を始めたのが約10年前。各国担当の開発企画官などを経て、最終的にはタジキスタンのカントリーディレクター/タジキスタン駐在事務所長として活躍されました。今年3月にアジア開銀を退職され、このほど帰朝されたところです。

 そこで今回は、開発援助の経験を通して見た中央アジア各国の現在と将来について語っていただきました。誠実かつバイタリティに溢れる本村さんのお人柄は変わりません。アジア開銀を退職されたあとも、これまでの経験を活かし、様々な面でサポートをしていかれるとのこと。日本と中央アジアを往復する日々が続きそうです。

 


 

ロシア企業クローズアップ

 

エネルゴマシコルポラーツィヤ

 「エネルゴマシ」グループの中核的存在で、発電関連機械設備の主要メーカー。近年は、小型のガスタービン火力発電所の建設をグループの総力を挙げて取り組んでいる。ロシアの発電インフラが全体として老朽化するなかで、将来中心的な役割を果たすことが期待されている。