ロシア東欧貿易調査月報

2005年12月号

 

T.ロシア 航空機産業の現状と課題 ―議論から見えてくるもの―

 

U.ロシア極東の林産業と地域経済への貢献度

 

V.ロシア・トムスク州プレゼンテーション

◇◇◇

ビジネス最前線

 ロシアにおける屋外広告の活用法

 

ロシア企業クローズアップ

 1.VSMPOアヴィスマ

 2.イルクート

 

データバンク

 1.2005年1〜6月のCIS諸国の経済

 2.2005年版ロシア大企業ランキング

 3.2005年版ロシア200大銀行ランキング

 

CIS・中東欧ビジネストレンド(2005年9月分)

 

◇◇◇

 

連載・定例記事

 一枚の写真   「シベリアの正教会」

 

 ノーヴォスチ通信レビュー カード決済がますます盛んになるロシア

 

 ドーム・クニーギ

  廣瀬陽子著『旧ソ連地域と紛争 ―石油・民族・テロをめぐる地政学

 

 2005年1〜8月の日本の対CIS・中東欧諸国輸出入通関実績

 

 


一枚の写真

シベリアの正教会

 

 西シベリア・チュメニ州の州都、チュメニ市の人々の表情は穏やかだった。訪れたのが心地よい初夏だったこともあったのだろうが、同州の豊かさも理由のひとつだと思われる。公式統計によれば、石油・ガス資源に恵まれたチュメニ州住民の平均収入は、463ドル。ロシア国内3位(1位はモスクワ市の970ドル、ロシア国民の平均収入は276ドル。2005年4月時点)なのである。

 写真は市の中心部近くを流れるトゥラ川の風景。地平線の彼方まで伸びるシベリアの大地では空が広く感じられる。中央に小さく写っている聖三位一体修道院では礼拝が行われており、なかでは重苦しいまでの厳かな雰囲気が漂っていた。

 19世紀半ば、政治犯としてシベリア流刑されたドストエフスキーは、この修道院前の道を通って、さらに東のオムスクまで連行されていったという。1890年にはサハリンの現地調査に向かうチェーホフが箱馬車に乗り換えるため、ここチュメニに立ち寄った。あのころも、いまと変わらぬ敬虔な信者たちがいたのだろう。

 ちなみに写真を撮ったのは通称「恋人たちの橋」の上。そのいわれは「恋人を抱いてこの橋を数往復すると、2人の愛は永遠に続く」。その日は女性を抱いた痩身の青年が額に汗しながら、行ったり来たりしていた。

(芳地隆之)

 


 

ロシア航空機産業の現状と課題

―議論から見えてくるもの―

ロシア東欧経済研究所 次長

音羽周

はじめに

1.航空機産業再編への始動(19932001年)

2.航空機産業再編に向けた本格的な動き(20042005年)

3.統合航空機製造会社の設立スキーム

4.結びにかえて

文書1 20022010年および2015年までの期間のロシア民間航空技術の開発

文書2 統合航空機製造会社の設立のコンセプト(案)

文書3 2015年までの時期における航空機産業の発展戦略

 

はじめに

 旧ソ連時代は、米国と肩を並べる、宇宙航空大国であったロシアだが、冷戦が終結し、次いでソ連が解体するに至って、状況が大きく変わった。軍事予算の大幅なカットによる国家発注の停止により、軍産複合体の主要部分を形成していた航空機産業は、とくに大きな打撃を被ることになる。当初、西側のアドバイスもあり消費財の生産を手がけるが、競争力のない国産品は大量の外国製品の流入の前に販路を見出すことができず、結局軍用機の輸出に生き残りをかけることになる。中国・インド・東南アジア諸国が経済成長し、全世界で地域的な紛争が続く中で、軍用機の需要は大いに伸び、久々にロシア航空機産業界は軍需景気に沸き、航空機製造の城下町は構造的不況から立ち直った。米国の軍事専門誌『ディフェンス・ニュース』がまとめた世界の国防企業100社によれば、ロシアの航空機メーカーは3社(「スホーイ」「イルクート」「ミグ」)がランクインしており、2004年のロシアの武器輸出額60億ドルのうち、6割が航空機の輸出であった。

問題は、民間機、とりわけ旅客機の製造をどう立て直すかにあった。2000年に策定された計画では、2004年までに年100機の民間機を生産することになっていたが、実績はわずか17機にすぎなかった。一方、世界は大型旅客機時代に突入、ロシアの民間機製造分野は世界の技術水準や環境基準から大きく遅れをとり、ロシアの主要エアーラインも海外から旅客機を購入せざるを得ないという有様であった。これに対して、ロシア政府はリース会社を政府の肝いりで設立するなどして、ロシア製旅客機メーカーの救済に努めてきたが、もとより競争力の差は歴然としていた。

 ロシアの航空機産業の建て直しの課題は、1993年以来、政府内で議論されてきたが、航空機産業の再編には軍産複合体全体の改革が大前提となるため、ロシアの安全保障問題、軍事ドクトリン、ロシア軍の近代化、国防・外交政策、民営化政策および財政事情とも絡んで、具体化するまでには至らなかった。

 状況が変わってきたのは、プーチン政権が発足してからである。プーチン大統領は就任してから間もなく、国防産業コンプレクスの本格的な改革に乗り出すことになるが、この過程で、航空機産業の再編が行われることになる。最終的には、国防産業コンプレクスから民間機製造分野を切り離し、民間機製造企業間で競争させるのではなく、航空機製造関連の企業・組織を一つに統合する方向が選択されることになった。

 以下では、ロシアにおける航空機産業の再編の動きを概観する。

 


 

ロシア極東の林産業と地域経済への貢献度

ロシア科学アカデミー極東支部経済研究所

A.シェインガウス・N.アントノヴァ

はじめに

1.ロシア経済に占める極東林産業の地位

2.極東経済に占める林産業の地位

3.極東経済への林産業の貢献

 

はじめに

 ロシアで最大級の森林面積を有する極東地域では、林産業が経済において重要な役割を果たしており、また周知のとおり、日本をはじめ近隣諸国の木材需要の大きな部分を極東産の木材が満たしている。本稿では、ロシア極東の林産業の現状を整理するとともに、ロシアおよび極東の経済における極東林産業の位置づけ、林産業の極東経済への貢献度を概観することとする。

 


 

ロシ ア・トムスク州プレゼンテーション

 

はじめに

 本年9月6日から9月12日の期間でロシア連邦トムスク州よりナゴヴィーツィン第一副知事を団長とする官民合同の代表団が来日した。この機会をとらえて、トムスク州政府主催、ロシア東欧貿易会ならびに日本貿易振興機構(ジェトロ)の共催によるトムスク州プレゼンテーションが9月7日ジェトロ東京本部5階展示場において開催された。

 トムスク州は西シベリア平原の南東部に位置し、石油、ガス、泥炭、森林、鉄鉱石をはじめとする鉱物等の天然資源に恵まれ、石油生産、化学、林業、冶金、機械製造等の産業が発達している。また、バイオテクノロジー、ITといったハイテク分野の研究開発機関と企業を有し、西側の主要企業を顧客としている。さらに、本年7月22日に成立したロシア連邦法「ロシア連邦における特別経済区について」の中で創設が謳われている「工業生産特別経済区」の候補にトムスク市が挙げられている。

 以下では、プレゼンテーションにおいて披露されたナゴヴィーツィン第一副知事によるトムスク州の概要に関する報告を掲載する。なお、それ以外の報告については、ロシア東欧貿易会のウェブサイトに掲載しているので、ご利用いただければ幸いである。

 


 

ビジネス最前線

Interview ロシアにおける屋外広告の活用法

潟~ール 代表取締役 杉村秀子さん

 

はじめに

 ソ連時代のモスクワと、新生ロシアのモスクワ。その景観で、何が一番変わったかと言えば、やはり屋外広告の氾濫なのではないでしょうか。ロシア市場を新規に開拓したい日本企業にとっても、広告は大きな関心事です。そこで今回は、ロシアにおける屋外広告ビジネスに先駆的に取り組んでこられた潟~ールの杉村さんにお話をうかがうことにしました。なお、杉村さんはモスクワに駐在されておられるため、今回はeメールでのインタビューです。

 


 

ロシア企業クローズアップ

 

1.VSMPOアヴィスマ

 ロシア最大のチタン生産企業で、世界のスポンジチタン生産の約3割を占める。米国の代表的なチタン会社と合弁会社を設立するなど、世界的な販売戦略を展開中。

 

2.イルクート

 ロシア航空機産業が全般的に不振な状況にあって、自力で再生を果たしたとして、高い評価を受けている。軍用機を中心に生産している航空機メーカー。ロシア航空機産業の再編の切り札的存在になりつつある。

 


 

データバンク

 

1.2005年1〜6月のCIS諸国の経済

 

2.2005年版ロシア大企業ランキング

 ロシアの経済週刊誌『エクスペルト』(2005.10.10-16, No.38)に、毎年恒例のロシア大企業ランキングが掲載されているので、早速これを抜粋して紹介する。

 『エクスペルト』誌の大企業ランキングは、売上高にもとづくランキングと、株式時価総額にもとづくランキングの2本建てとなっている。前回から売上高ランキングが拡充され、非製造業企業も対象に加えられるとともに、ランキングの規模が200社から400社に増えたということは、昨年このコーナーでお伝えしたとおりである。

 以下では、まず本月報独自の企画として、売上高および株式時価総額の2つのランキングに登場するすべての企業を日本語の五十音順に並べ替えて、それに各企業のインターネット・アドレスを加えた資料「ロシア主要企業五十音順一覧」を作成した。全518企業を網羅した本資料を、総合索引としてご活用いただければ幸いである。

 「A.ロシア企業売上高ランキング」は、2004年の売上高にもとづいたベスト400である。原典には細かい注釈がいくつか付されているが、本誌では割愛する。なお、ロシア400大企業の2004年の売上高合計は、12734億ルーブル(4,189億ドル)であった。1社当たりの平均で前年比30.7%の伸びであり、インフレを勘案した実質ベースでは17.8%増であった。

 「B.ロシア企業株式時価総額ランキング」は、2005年9月1日現在のデータで、株価×発行済株式総数で計算された時価総額ベスト200が示されている。2005年9月1日現在、ロシア200大企業の株式時価総額の合計は、111,902億ルーブル(4,128億ドル)であった。

 

3.2005年版ロシア200大銀行ランキング

 ロシア『エクスペルト』誌2005年3月2127日号(No.11)に、2005年版のロシア200大銀行ランキングが掲載されている。本月報では例年この資料を抜粋して紹介しており、本年はやや掲載が遅れたが、「大企業ランキング」に合わせる形で本号に掲載する運びとなった。

 この大銀行ランキングは、2005年1月1日現在の資産規模にもとづくベスト200である。このほか、2005年1月1日現在の自己資本と、2004年の利潤額が示されている。

 「大企業ランキング」と同様、本月報独自の企画として、各銀行のインターネット・アドレスを付記した。