ロシア東欧貿易調査月報 2006年2月号 |
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一枚の写真
工場長はトルコ人
メフメットさんはトルコ人。目下、アゼルバイジャンでROTOBOの支援事業の対象となっている「カフカス缶詰工場」の工場長である。本来は技術屋さんと見えて絵を描くのが大好き、ご覧のとおり説明も質問も図入りなのだ。
食品大手アゼルスン・ホールディング傘下のこの工場の経営陣には、彼をはじめ外国人=非旧ソ連人が多い。生産部長もトルコ人、缶詰製造部長の女性はアゼルバイジャン系イラン人のゾフレさんである。アゼリ語はトルコ語と極めて近いため、彼らと一般労働者の間では、互いに母語で話して全くコミュニケーションギャップがない。しかしそこへ我々が加わると、ロシア語を解さない彼らとは英語、逆に英語を解さない労働者(旧ソ連人)とはロシア語と、まことにややこしいことになる。現場には通訳を交え、日本語、英語、ロシア語、アゼリ語(トルコ語)の4カ国語が飛び交う。
彼の図入り説明を聞きながら、つらつら想うのは“国境”の何たるかである。近代国家が妙な線引きさえしなければ、少なくとも現在のアゼルバイジャンと、ゾフレさんの故郷、イラン北部のアゼリ人居住地域は1つの“くに”であったのだ。一方、しばしば“コーカサスのトルコ人”と呼ばれるアゼリ人とトルコ人は、文化的・言語的に極めて近い。
現在、開放的市場経済化路線を歩む新生アゼルバイジャンの地で、メフメットさんやゾフレさんは家族を本国に残しつつ軽々と国境を越え、仕事を行う。方や、当工場で使われるビン・缶の類いはロシア、ウクライナ等、旧ソ連地域からやって来る。要するに、人もモノも当然カネも、縛るものさえなければ自然に結びついていくものなのだろう。
目下、メフメットさんが楽しみにしているのは(ムスリムのはずだが?)クリスマス休暇。2人のお子さんの待つトルコの自宅に帰れるまで、あと1カ月足らずである。
(11月17日(木)撮影・輪島実樹、カフカス缶詰工場にて ハチマズ、アゼルバイジャン)
依然残るロシア経済の暗部「レイド」
ロシア東欧経済研究所 調査部次長
坂口泉
はじめに
1.レイドの概要
2.レイダーとレイド対策に強いコンサルタント会社
3.なぜレイドが可能となるのか
4.レイドの実例
おわりに
はじめに
「レイド(Рейд)」は英語のRaidを語源とするロシア語で、元々は、「急襲」を意味するが、ロシアのM&A業界では転じて、「道義上もしくは法律上問題のある企業乗っ取り(あるいは企業買収)」の意味で使用されている。もっと露骨な表現を使えば、「犯罪的な色彩を有する企業乗っ取り」のことを意味する。
レイドはソ連解体直後より普通に観察される事象で、たとえば、広い意味では、1995年末に実施された担保入札(大手石油会社等の民営化)なども、レイド的なニュアンスを有する取引だったと言えなくもない。また、最近の事例では、国家のユコスに対する攻撃と国営企業「ロスネフチ」によるユコスの資産(子会社のユガンスクネフチェガス)の買収にもレイドのエッセンスが散見される。
レイドは非常に問題の多い行為であるが、これまでは、レイドの対象となるのが主としてロシア資本の大企業に限定されていたこともあり、日本企業にとってはそれほど切迫した問題ではなかった。ところが、最近、レイドの対象となる企業の規模がどんどん小さくなっている。これは、たとえば外資系の中堅企業などもレイドの対象となる可能性が出てきたことを意味し、現地法人を有する日本企業にとっても黙過できない状況が生じているといえる。
以上のような状況を踏まえ、本稿では、ロシアにおけるレイドの現状やその背景、ならびに、問題点等について紹介する。
モスクワ〜カリーニングラード家電ミッション報告(下)
はじめに
4.「カリーニングラード・スキーム」をめぐって(清水正彦)
はじめに
前回に引き続き、2005年11月に実施したモスクワ〜カリーニングラード家電部門現地調査に関する報告の後編をお届けする。
前回は、1.家電ミッションの若干の総括、2.家電製造部門に関する調査結果、3.ロシアの電子部品市場の現状と将来性、という3本のレポートを掲載した。そして今回は、清水正彦さんに、「『カリーニングラード・スキーム』をめぐって」と題するレポートをお寄せいただいた。前回10頁掲載の第2表に見るように、過去数年カリーニングラード州がロシアにおけるテレビ組立のメッカとして台頭してきている背景には、経済特区としての同州の特殊な税制がある。今回のレポートは、その点をめぐる実情と、今後の展望などについて論じていただいたものである。
ビジネス最前線
Interview カリーニングラードと日本を結ぶ琥珀の道
潟xオルナ東京 代表取締役会長
高羽照久さん
はじめに
ベオルナ東京は、小粒ながら、ロシア・カリーニングラード産の琥珀の輸入・販売会社として、日ソ/日ロ経済関係の歴史に大きな足跡を残してきました。そして、ロシアとの琥珀ビジネスを事実上自ら切り拓いてこられたのが、高羽照久会長です。琥珀が静かなブームとなる一方、カリーニングラードも何かと話題になることが多い昨今ですので、お忙しい会長にとくにお願いをして、インタビューと相成りました。現地事情に詳しい商品部貿易担当部長の徳安清篤さんにも同席していただき、情報の補足をしていただきました。
今回の企画の発案者であり、仲介の労もとってくださった立正大学経済学部の蓮見雄教授も加わり、話に大いに花が咲きました。
Interview ロシア流人事管理の秘訣
コニカミノルタホールディングス梶@経営戦略室 ロシア地域戦略担当(課長)
石井和夫さん
はじめに
ロシアとまったく縁のなかった石井さんが、現地法人立ち上げのためにあわただしくモスクワに赴任したのは2003年5月のことでした。駐在中は主に人事担当責任者として多くのロシア人と面接をし、採用した彼(女)らと仕事をするなかで、ロシア人スタッフの優秀さを実感したり、職場でのトラブル解決に腐心したりする毎日だったそうです。
帰国してからも、日本とロシアを往復し、本社とモスクワのパイプ役を担っている石井さん。そこで今回は、石井さんだからこそ聞ける現地職員の雇用・労働事情から、おいしいロシアの食事、お勧めのお土産、必見のロシア映画まで、いまのロシアの幅広い話題について伺いました。
ロシア企業クローズアップ
1.イジェフスク自動車工場
生産台数でロシアで2番目の自動車メーカー。オリジナル車の生産に加え、人気のあるVAZ車の組み立て生産も行っている。これまで低価格を武器に市場シェアを拡大してきたが、ここに来て、消費者の需要構造の変化に対応した新たな戦略を策定することを迫られている。韓国車のSKDに注目が集まっている。
2.クラスノヤルスク航空
ロシアで4番目のエアライン。路線の拡大とサービスの質の向上によって、急速に力をつけてきた。CIS諸国はもとより、ヨーロッパ、中近東、アジアにも就航しており、国際旅客では3%のシェアを有する。ロシアの地方航空との連合、ボーイング社の機種の導入によって、アエロフロートの最大のライバルになりつつある。
データバンク
1.2005年1〜9月 のロシア経済
2.2004年のCIS諸国の貿易統計
CIS統計委員会の統計集『2004年のCIS諸国の外国貿易』(2005年)が刊行されたので、これにもとづいて同諸国の2004年の貿易データをまとめて紹介する。
CIS統計委員会に数字を提供しておらず、したがってこの統計集にデータが掲載されていないウズベキスタンとトルクメニスタンについては、別の情報源からデータを補った。
各国の第4表は、それぞれの主要貿易相手国トップ30を見たものである。日本については、トップ30に入っていなくても、必ず掲載するようにした。
なお、ロシアについては、より詳細な貿易統計が本誌2005年9-10月号に掲載されているので、ご利用いただきたい。
(1)ロシア
(2)ウクライナ
(3)ベラルーシ
(4)モルドバ
(5)カザフスタン
(6)キルギス
(7)ウズベキスタン
(8)トルクメニスタン
(9)タジキスタン
(10)アゼルバイジャン
(11)アルメニア
(12)グルジア