ロシア東欧貿易調査月報

2006年4月号

3月20日発行

 

 

T.ロシアの鉄鋼メーカー集団をめぐる現状分析

 

U.プーチン政権における中央・地方関係の新たな展開

  ―ベスラン事件後の改革への一視点―

 

V.構造的課題を克服するロシア極東のエネルギー部門

 

W.稼動遅れるBTCパイプラインとその周辺

◇◇◇

ビジネス最前線

 日本の企業市民をめざすロシアのICT企業

 

ロシア企業クローズアップ

 ヴィムペルコム

 

データバンク

 1.2005年のロシアの石油産業

 2.2005年のCIS諸国のアルミニウム産業

 3.CIS諸国の電力バランス

 4.特集:ウクライナの地域別基礎データ

 

CIS・中東欧ビジネストレンド(2006年1月分)

 

◇◇◇

 

連載・定例記事

 一枚の写真   「キルギスのわらしべ長者」

 

 ノーヴォスチ・レビュー

  武器輸出が増大するも問題山積

 

 月出皎司のクレムリン・ウォッチ

  第4回  ロシア外交のプライオリティーと日露関係

 

 ドーム・クニーギ

  石井徳男著『現代ロシア絵画考 ―わたしの絵画蒐集物語―

 

 2005年1〜 12月の日本の対CIS・中東欧諸国輸出入通関実績

 

 

 


一枚の写真

キルギスのわらしべ長者

ショーロ社のマクシムとレゲンダ(後ろに見えるのは天山山脈)

 

 みなさんは「マクシム」という飲み物をご存知でしょうか。今回ご紹介するのは、中央アジアの小国キルギスの“わらしべ長者”の物語です。

 マクシムは、小麦、大麦、とうもろこしを発酵させたもので、キルギスの農村家庭で昔からひろく作られてきた飲み物です。見た目はコーヒー牛乳に似ていますが、酸味が強く、ロシアのクワスにやや近い味でしょうか。

 このマクシムに注目した一人の青年がいました。彼のおかあさんの作ったマクシムがご近所や友達にたいへん評判がよかったからです。キルギス独立当初の1992年春、おかあさん手作りのマクシム2樽をバザールで売ったところ、これが大当たりしました。その年、青年は弟と二人の友人とともに「ショーロ」社を立ち上げました。

 1994年にはショーロ社は従業員100人を抱える企業に成長しました。しかし、同社には難題がありました。手作りの方法では需要に追いつかないのです。人気は高いのに売上が頭打ちになりました。青年はマクシムの大量生産化を模索しはじめました。その過程で一役かったのが日本です。1996年に彼はJICA研修のため日本を訪れました。その際、視察先のペットボトル工場で“これだ!”と確信したのです。

 努力の末、1998年にマクシムのペットボトル化、大量生産化に成功し、売上は飛躍的に伸びました。その後、ショーロ社はペットボトルの生産技術をもとにミネラルウォーター事業に乗り出し、これも大成功をおさめました。

 現在、ショーロ社は従業員1,000名を超える大企業になりました。同社の製品はキルギスのあらゆるスーパーや商店で売られています。この物語の主人公タアベルディ・エゲンベルジエフ氏も、いまやキルギスでは誰もが知っている有名な実業家となりました。

(中居孝文)

 


 

ロシアの鉄鋼メーカー集団をめぐる現状分析

高知大学 助教授

塩原俊彦

はじめに

1.エヴラズグループ

2.マグニトゴルスク冶金コンビナート(MMK

3.セーヴェルスターリ

4.ノヴォリペツク冶金コンビナート(NLMK

5.メチェル

6.結びに代えて

 

はじめに

2004年ころから1年ほど続いた鉄鋼価格の世界的高騰によって、ロシアの鉄鋼メーカーもその勢力を大きく拡大する傾向にある。ここでは、各鉄鋼メーカー集団について詳しく分析し、若干の展望につなげたい。なお、筆者は個別の大規模な石油・ガス会社集団についての現状分析を行っており、本稿はその一環として鉄鋼メーカーについて調査・考察するものである。

 


 

プーチン政権における中央・地方関係の新たな展開

―ベスラン事件後の改革への一視点―

早稲田大学COE「現代アジア学の創生」研究員

堀内賢志

はじめに

1.ベスラン事件後のプーチンの諸提案

2.連邦構成主体の統合の推進

3.権限分割と地方自治体改革

4.地域政策の方向性

おわりに

 

はじめに

 2004年9月13日、プーチン大統領は、全連邦構成主体の首長たちが参加した拡大政府会議において、連邦構成主体首長の公選制の廃止をはじめとした、ロシアにおける中央・地方関係に新たな、重要な展開をもたらす諸々の措置を打ち出した。プーチンによれば、それは9月初めに北オセチア共和国ベスランで起きたチェチェン共和国独立派を中心とする武装集団による学校占拠事件を受け、「テロとの戦い」のために「国家の統一性の保障、国家構造と権力への信頼の強化、実効的な国内的安全保障システムの創造」を実現するための措置として説明された。

 とはいえ、プーチンがこれまで推し進めてきた諸々の「集権化」の改革、あるいはメディアへの圧力やユーコス事件などによって国家統制の懸念が強まっていた中で発表された上記の措置は、悲劇的な事件を利用してそれを一気に強めるものではないかとの疑念と批判を国内外にもたらした。上記の会議の翌日、米国のパウエル国務長官は、このプーチンの措置を「これまで行われてきた民主主義的な改革からの後退」として憂慮を示した。ブッシュ大統領も、「強大な国家、強大な民主主義国は、中央政府と地方政府機関との間で権力のバランスを維持し、また中央政府内部で執行・立法・司法権力機関の間の権力バランスをとるものだ。諸政府が民主主義の敵と闘うときには、民主主義の原則を支持しなければいけない」と批判した。他方、ドイツのシュレーダー首相は、このプーチンのイニシアチブは「北カフカスにおける非常に困難な状況を背景にして検討する必要がある」とし、「ベルリンとモスクワはテロとの闘いの条件下でもすべての人間の権利と自由を尊重することが何より重要であることを理解している」と、より抑制的な態度をとっている。

 確かに、上記の諸措置がベスラン事件を契機として形成されたとは考えにくい。実際、ある報道によれば、ロシア政府のある幹部役人は、これらの提案が以前から準備されていたものであり、ベスラン事件はそれらを進めるための政治的な雰囲気を作り上げただけだということを認めている。確かに、そこで触れられた、下院を比例代表制に移行させるという措置は以前から進められていたものであるし、「社会院」の創設についても、すでに同年5月の連邦議会への教書演説の中でプーチンが触れていたものである。これらの政策は、基本的に、第二期プーチン政権における既定の政策方針の枠内のものと言ってよいだろう。

 いずれにせよ、これらの措置を含むここ1〜2年のロシアの中央・地方関係の改革が、新たな段階を迎えていることは事実であろう。それらはしばしば、「中央による地方の抑圧」、「連邦主義の否定と中央集権的な単一国家への転換」といった非難を呼ぶような要素を持っている。しかし、そもそもなぜそうした政策が必要なのか、それは何を目指しているのかを考察する必要がある。1990年代のエリツィン政権期に形成されたロシアの中央・地方関係は、深刻なひずみを内包することとなり、それはロシアの政治・経済にさまざまな形でネガティブな影響を与えてきた。そして、プーチンの改革がともかくもそうした歪みを解消しようしてきた面をもつことも確かなのである。本稿では、こうしたロシアの連邦制、地域政策の改革という観点から、ベスラン事件後に打ち出された諸措置を含むここ最近の中央・地方関係の展開を見ていき、それを通じてこれらの措置が持つ意味を考えるための一つの視点を示したい。

 


 

構造的課題を克服するロシア極東のエネルギー部門

ロシア科学アカデミー極東支部経済研究所 主任研究員

V.カラシニコフ

はじめに

1.ロシア極東のエネルギー部門の概要

2.大手資本の進出

3.依然深刻な公営部門

4.進展する国際協力

 

はじめに

 本稿は、ロシア極東地域のエネルギー問題の権威であるV.カラシニコフ氏に、この分野の最新動向をまとめてもらったものである。このなかでカラシニコフ氏は、極東のエネルギー部門が1990年代の危機的な局面を乗り切り、今日では概ねその構造的課題を克服する方向に向かっていることを論じている。そのうえで、今後の一層の改革とエネルギーの安定供給のためには、北東アジア諸国との国際協力が鍵になるという分析が示されている。

 


 

稼動遅れるBTCパイプラインとその周辺

TURAN通信社 エネルギー部編集長

I.シャバン

はじめに

1.AIOCの現状

2.BTC建設の進捗状況

3.BTCとオデッサ〜ブロディ・パイプライン

 

はじめに

 本稿は、アゼルバイジャンとトルコを結ぶ原油輸出パイプラインBTCの稼働が遅れている現状に鑑み、当研究所がアゼルバイジャンのエネルギー専門の通信社TURANに執筆を依頼したものである。パイプライン建設の進捗状況とともに、その井戸元となるアゼリ・チラグ・ギュネシリ3鉱床開発プロジェクトの現状についてレポートする。

 


 

ビジネス最前線

Interview 日本の企業市民をめざすロシアのICT企業

アビテル・データ株式会社

コマーシャル・ディレクター 細沢 正さん

ITブリッジ・マネージャー A.クリスさん

はじめに

 アビテル・データ社はロシアのICTInformation and Communication Technology)企業として、初めて日本に現地法人を設立しました。ビジネスの現場で活躍されているのは、日本IBMでキャリアを積んでこられた細沢さんと、ロシアで日本語と日本経済を学び、日本企業での勤務経験もあるクリスさん。お二人からは、アビテルの高い技術とサービスを日本市場で広めていこうという意欲がひしひしと伝わってきます。これまでこのコーナーでは、対ロシアCISビジネスに携わっている方々に登場いただいておりました。今回はロシア企業の方から、日本市場でどのようなビジネスを展開されているか、その奮闘ぶりも合わせてご紹介します。

 


 

ロシア企業クローズアップ

 

ヴィムペルコム

 モスクワを中心に携帯電話サービス事業で急成長を遂げる。ロシア企業としては初めてニューヨーク証券取引所に上場するなど、早くから「コーポレート・ガバナンス」を重視してきた。海外への進出に積極的だが、ウクライナの企業買収をめぐっては主要株主が対立し、苦境に立たされている。

 


 

データバンク

 

1.2005年のロシアの石油産業

 

2.2005年のCIS諸国のアルミニウム産業

 

3.CIS諸国の電力バランス

 

4.特集:ウクライナの地域別基礎データ

 当会では日頃よりCIS諸国の基礎的な経済データの収集・紹介に努めているが、今般その一環としてウクライナの地域別の基礎データを取りまとめたので、ここに掲載する。

 ウクライナは、全国27の地域から成る(24の州、2つの特別市、1つの自治共和国)。本資料では、それらの27の地域について、面積・人口、地域総生産、民族構成、主要都市、行政府などの基礎情報を整理するとともに、主要経済指標の推移を表にまとめて示すことにする。

 本資料では便宜的に、ウクライナの地名をウクライナ語ではなく、ロシア語の読み方で示してある。ただし、ウクライナ語の読み方がロシア語と相当程度に異なっている場合には、地域名のみ、かっこ内にウクライナ語読みを補足することとした。地域の掲載順は、日本語の五十音順である。

 経済的なデータは、すべてウクライナ統計国家委員会の刊行物およびウェブサイト、さらに各地域の統計集を情報源としている。地域総生産の数字は、原典ではグリブナ建てで示してあったものを、2003年の年平均レート$1=5.333グリブナでドルに換算した。

 ウクライナの地域別の外国投資受入状況に関しては、本誌2006年1月号8893頁に詳しい情報を掲載しているので、あわせてご参照いただきたい。

 なお、当会では近く、『ロシア地域要覧』と題する出版物を発行する予定になっているので、そちらの方もぜひご利用いただければ幸いである。