ロシア東欧貿易調査月報

2006年5月号

4月20日発行

 

 

特集◆ロシアのWTO加盟問題と日ロ貿易

 

 

T.2005年の日ロ貿易

 

U.2005年のロシア乗用車市場

  ―外国車の攻勢にさらされる国産メーカー―

 

V.WTO加盟はロシア極東に何をもたらすか

◇◇◇

ビジネス最前線

 ロシアの金融市場開放と日本のメガバンク

 ロシアでも「家庭の銀行」を実践

 

データバンク

 1.2005年のロシア経済

 2.1995〜2005年のロシアの鉱工業製品生産高

 3.2005年のロシア・CIS諸国の鉄鋼業

 

CIS・中東欧ビジネストレンド(2006年2月分)

 

◇◇◇

 

連載・定例記事

 一枚の写真   「知っているようで知らない『シェレメチェヴォ』の語源」

 

 ノーヴォスチ・レビュー

  WTO加盟を急ぐ意味はあるのか?

  中東欧のエネルギー企業買収に動くロシア

 

 ロシア産業の迷宮

  第1回 ルスネフチという会社

 

 月出皎司のクレムリン・ウォッチ

  第5回  老獪なフラトコフ首相とその役割

 

 ドーム・クニーギ

  横村出著『チェチェンの呪縛 ―紛争の淵源を読み解く―

 

 2005年の日本の対CIS・中東欧諸国輸出入通関実績 (確定値)

 

 

 


一枚の写真

知っているようで知らない「シェレメチェヴォ」の語源

クスコヴォ宮殿 〜シェレメチェフ伯爵の夏の娯楽屋敷〜

 

 モスクワの空港で、日本人に一番なじみ深いのはシェレメチェヴォ空港ですよね。なぜシェレメチェヴォ空港っていうか知ってますか? この土地のかつての所有者はシェレメチェフ伯爵というロシア貴族で、そこに空港がつくられたのでシェレメチェヴォ空港になったのです。

写真のクスコヴォ宮殿は、クレムリンの東約10kmのクスコヴォ公園の中にあります。実はこの公園もシェレメチェフ伯爵が所有していたお屋敷の跡地で、1775年にピョートル・ボリーソヴィッチ・シェレメチェフ伯爵により完成されました。お屋敷全体の広さは300haで写真の宮殿のほか大小の池と整備された庭園があり見事に調和しています。

別名シェレメチェフ伯爵の夏の娯楽屋敷と呼ばれるクスコヴォ屋敷は、住居としてではなく、主に接客用に使われました。今は静かなたたずまいですが、往時は毎夜多くの貴族、貴婦人を集め、華麗な舞踏会が催されたことでしょう。

シェレメチェフ伯爵家の運命は1861年の農奴解放で暗転します。財政に困窮した伯爵はクスコヴォ屋敷を手放します。そしてロシア革命後も亡命せずにソ連に残った一族の男性は、スターリンの粛清によって全員殺されてしまったということです。

現在クスコヴォ公園は国が管理し一般公開されています。そして、夏にはコンサートや音楽祭が開かれ、多くの観光客を集めています。

(原真澄)

 


 

2005年の日ロ貿易

ロシア東欧経済研究所 調査役

服部倫卓

 

はじめに

 例年どおり、日本財務省発表の貿易統計にもとづいて、2005年の日本とロシアの貿易に関し、データをとりまとめて紹介する。なお、本稿は当会『ロシア東欧経済速報』(2006年3月25日号、No.1358)に大幅に加筆をしたものだが、速報発行後、為替レートがごくわずかながら修正された関係で、ドルの輸出入額が若干リバイスされている。

 本資料では基本的に、財務省発表の円表示の貿易統計を独自にドル換算して示している。その際に、第1図、第2、5表が、月ごとの為替レートで換算した数値を積み上げたものであるのに対し、第6表および第7表は年平均レートで単純に換算したものであり、したがって両者は総額が微妙にずれているので、ご注意されたい。

 なお、当会ではこれまで毎年、日本とロシア・東欧諸国の輸出入通関実績の細かいデータ(輸出入統計品目表の4桁のレベルのデータ)を、本月報に掲載してきた。しかし、紙媒体に掲載することはひとまず役割を終えたとの判断から、今回から同資料は当会のホームページで公開することとし、雑誌への掲載は取り止めることとさせていただいた。ご承知置きいただきたい。

 


 

2005年のロシア乗用車市場

―外国車の攻勢にさらされる国産メーカー―

ロシア東欧経済研究所 調査部次長

坂口泉

はじめに

1.2005年の乗用車市場の概況

2.2005年の乗用車の国内生産量

3.外国新車市場の状況

4.2005年の自動車広告市場

おわりに

 

はじめに

 経済の好調さを反映して、ロシアの乗用車市場はここ数年順調に成長しているが、2005年も拡大基調が続いた。とくに、外国新車の販売台数の伸びが顕著であった。一方、純国産メーカーをめぐる状況は悪化の一途をたどっており、外国車のアセンブリーに生き残りをかけるメーカーも増えてきている。本稿では、そのような純国産メーカーの動きも含め、2005年のロシア乗用車市場の状況を包括的に紹介する。

 


 

WTO加盟はロシア極東に何をもたらすか

ロシア科学アカデミー極東支部経済研究所 部長

Ye.デヴァエワ

はじめに

1.関税の変化による貿易への影響

2.地域ごとの影響の違い

3.投資の自由化の影響

 

はじめに

 ロシアは、世界の多くの国と異なり、地域格差が深甚な国である。したがって、WTO加盟による影響も、地域ごとに異なったものとなる。それゆえ、ロシアのWTO加盟の条件が、国益だけでなく、各地域の利害にも沿ったものとなることが肝心である。

 ロシアにおいて、WTO加盟の影響がとくに大きいのは、経済成長が対外経済関係の規模と構造によって規定される諸地域である。そして、極東連邦管区は、まさにそうした地域の一つだ。

 本稿は、ロシアのWTO加盟に伴って予想される関税率の変化が、極東管区の貿易パフォーマンスにどのような影響を及ぼすかというシミュレーションを中心に、WTO加盟の極東への影響を分析するものである。

 


 

ビジネス最前線

Interview ロシアの金融市場開放と日本のメガバンク

三菱東京UFJ銀行 モスクワ駐在員事務所所長

品川透さん

はじめに

 日本企業のロシアへの関心が高まる中、ロシアでのメガバンクの動きが活発になっています。今年1月に誕生した「三菱東京UFJ銀行」は、トヨタをはじめとする日本企業のロシア進出増大を見越し、日本のメガバンクとして初めてロシアでの現地法人設立について検討をなさっています。折しも、ロシアのWTO加盟交渉で、ロシアの金融市場開放の問題が注目されている昨今でもあります。そこで、同行 モスクワ駐在員事務所に品川所長をお訪ねし、現地法人設立についてお聞きするとともに、金融市場開放問題に関するご意見をうかがって参りました。最近引っ越したばかりという瀟洒な新オフィスは、モスクワの最中心部に位置し、窓からはクレムリンを眺められます。

 

Interview ロシアでも「家庭の銀行」を実践

(株)みちのく銀行(モスクワ)ユジノサハリンスク支店 支店長

對馬雅弘さん

はじめに

 みちのく銀行が邦銀として初めてロシアで営業を開始したのは1999年7月でした。その後はユジノサハリンスク支店(2002年8月)、ハバロフスク支店(2003年7月)も開設。同行はそれ以前にもサハリンの人々にピアノを寄付するなど、ロシア国民の生活に密着した活動が地元で高い評判を呼び、現在は個人向けローンを中心に、まさにロシアでも「家庭の銀行」(同行のキャッチフレーズ)として活動されています。とかく天然資源開発プロジェクトの話題が先行するサハリンで、ユジノサハリンスク支店長の對馬さんからは、北海道稚内市からわずか四十数キロメートル、「近くて遠い」北の隣人の生活や歴史など興味深いお話を聞かせていただきました。

 


 

データバンク

 

1.2005年の ロシア経済

 ロシアの最新の経済指標を図表にまとめてお届けする。鉱工業製品の生産高については、この記事ではなく、その後に続く「2.19952005年のロシアの鉱工業製品生産高」の方で扱っている。貿易と外国投資受入については、本月報で今後さらに詳しいデータを掲載する予定である。また、当会では近く、『ロシア地域要覧』と題する刊行物を発行する予定になっているので、地域別のデータにご関心をおもちの向きはそちらをご利用いただければ幸いである。

 

2.1995〜2005年のロシアの鉱工業製品生産高

 本誌では定期的に、ロシアの主要鉱工業製品の生産動向をお伝えしているが、今回は昨年4月号に引き続き、19952005年の数字を集大成する形で、ロシアの鉱工業製品の生産データを詳しくお届けすることにする。出典は、19952004年分がロシア連邦国家統計局『2005年版ロシア統計年鑑』、2005年分が同『2005年ロシアの社会・経済情勢』である。2005年の生産高は速報値であり、一部は概数となっているので、ご承知置き願いたい。データは、下記のような10の部門に分類されて示されている。

 なお、非鉄金属については、ロシアの公式統計には具体的な生産量が掲載されないので、今回は割愛した。このうち、アルミニウムについては、報道ベースの数字を、本誌2006年4月号87頁に掲載している。

 

3.2005年のロシア・CIS諸国の鉄鋼業

 


 

New! ロシア産業の迷宮

 

連載開始に当たって

 レポートを作成するにあたって多数の資料に目を通すが、その過程で興味は引かれるものの、ひとつのレポートにまとめるにはさまざまな意味でインパクトが弱いという情報に出くわすことが少なくない。このコラムでは、そのような情報を拾い集め、ロシア産業こぼれ話的な内容の文章を書き綴っていきたいと考えている。第1回目は、ルスネフチという非常に興味深い民間の新興石油会社を取り上げてみる。

(坂口泉)