ロシア東欧貿易調査月報

2006年7月号

6月20日発行

 

 

T.2005年のロシアの外国投資受入状況(詳報)

 

U.ロシアの原料炭生産部門とそれを取り巻く実業家たち

 

V.ロシア・エネルギー企業の内情(上) ―ガスプロムとロスネフチ―

◇◇◇

ビジネス最前線

 ロシアに提案したい新しいウイスキー文化

 

データバンク

 1.2006年版ロシア200大銀行ランキング

 2.CIS諸国の銀行ランキング

 3.CIS諸国の外国投資受入と外資参加企業

 4.2005年のロシアの小売チェーン販売高ランキング

 

CIS・中東欧ビジネストレンド(2006年4月分)

 

◇◇◇

 

連載・定例記事

 一枚の写真   「旧拓殖銀行大泊支店」

 

 ノーヴォスチ・レビュー

  本気でロシア市場に取り組むフォルクスワーゲン

 

 ロシア産業の迷宮

  第3回  時価総額経営とロシア石油部門

 

 月出皎司のクレムリン・ウォッチ

  第7回 大統領教書と治安幹部の更迭

 

 ドーム・クニーギ

  遠藤洋子著『 いまどきロシアウォッカ事情

 

 2006年1〜 3月の日本の対CIS・中東欧諸国輸出入通関実績

 

 

 


一枚の写真

旧拓殖銀行大泊支店

 

 コルサコフ港から程近い、町の中心部に旧北海道拓殖銀行大泊支店はあった。

 同行が樺太(サハリン)で営業を開始したのは日露戦争が終わって間もないころである。1905(明治38)年9月に締結された日露講和条約により南樺太が日本の領土とされ、日本陸軍が南端の港町、コルサコフに駐屯することになったのを機に、日本銀行の委託を受けた拓銀が社員を派遣した。1907(明治40)年1月には派出所から支店となり、一部預金為替業務も開始。すでに町の名前はコルサコフから「大泊」(おおどまり)に変わっていた。

サハリンには、かつての歴史をとどめる建築物が点在している。州都ユジノサハリンスク市では、旧樺太庁医院や旧樺太博物館が、前者は中央病院、後者は郷土博物館として使われていた。郷土博物館の北側、ガガーリン公園には旧樺太神社の鳥居が所在なげに立っている。戦後、樺太にあった神社の本殿が次々と解体されるなか、鳥居だけが辛うじて生き残ったのだった。

旧拓銀大泊支店はソ連の南樺太占領によって閉鎖されたが、この建物は現在、日本の極真空手の道場として使われている。今年3月に訪ねた際、外壁のコンクリートの劣化は目立つものの、立派な大理石の柱が立つ、モダンなつくりの内部では空手着姿の地元少年たちが稽古に励んでいた。稚内からコルサコフまでの距離は43km。冷戦時代は遠い海であった宗谷海峡も、人々の心のなかでは確実に近づいている。

(芳地隆之)

 


 

2005年のロシアの外国投資受入状況(詳報)

ロシア東欧経済研究所 調査役

服部倫卓

はじめに

1.ロシアの全般的な外資受入状況

2.ロシア極東地域の外資受入状況

3.日本からロシアへの投資

おわりに

 

はじめに

 当会では先に、『ロシア東欧経済速報』の3月15日号(No.1357)において、ロシア連邦国家統計局の発表にもとづき、2005年のロシアの外国投資受入状況に関するデータを紹介した。その後我々は独自に、追加的な統計データを入手したので、本稿では詳報という形で改めてお伝えすることとしたい(本誌では昨年も7月号に同様のレポートを掲載している)。

 以下ではまず、1において、ロシアの全般的な外国投資受入状況について、最新データを紹介する。2では、日本とつながりの深いロシア極東地域の外国投資受入状況の数字を取り上げる。極東のデータは、当会がロシア科学アカデミー極東支部経済研究所から独自に入手したものだ。最後に3において、2005年の日本からロシアへの投資データを見ることにしよう。これは、当会がロシア連邦国家統計局に照会して特別に入手したものであり、本誌の独占である。

 なお、今号の「データバンク」のコーナーでは、ロシア以外のCIS主要国の最新の外国投資受入統計が掲載されているので、そちらの方もご利用いただければ幸いである。

 


 

ロシアの原料炭生産部門とそれを取り巻く実業家たち

ロシア東欧経済研究所 調査部次長

坂口泉

はじめに

1.原料炭の生産の状況

2.主要な原料炭生産企業

3.原料炭の輸出入の状況

4.メチェル

5.エヴラズ・ホールディング

6.日本との接点をもちうる原料炭企業

まとめ

アルセロールとセヴェルスターリの合併に関する追記

 

はじめに

 ロシアの原料炭部門では鉄鋼関連大手企業による支配力強化の動きが目立つが、その中でも、日本企業から見て最も気になるのは、恐らく、メチェルとエヴラズ・ホールディングの2社の動きではなかろうか。この2社は、日本と非常に密接な関係を有するヤクーチヤ(サハ共和国)の石炭分野でのプレゼンスを強化しており、日本企業との協業の可能性が現実的なものとなりつつあるからだ。その他、ヤクーチヤのエリガ炭田開発計画や極東の石炭積出設備建設計画を通し、クラコフスキー、マフムドフといった謎の多い実業家たちと日本企業の接点が生じる可能性も出てきている。

 本稿では、ロシアの原料炭生産部門の現状を示す最新の数字の他、日本企業にとって無視できぬ存在となりつつあるメチェルとエヴラズ・ホールディング内部の最新の動きや、両社のヤクーチヤでの動き等について紹介する他、極東の石炭積み出し港の権益を有し、今後、日本企業との接点が生じる可能性のある複数の石炭会社の概要を紹介する。

 


 

ロシア・エネルギー企業の内情(上)

―ガスプロムとロスネフチ―

政治情報センター 所長

A.ムーヒン

はじめに

1.ガスプロムにおける勢力分布

2.ガスプロムの国外市場への進出

 

はじめに

 以下は、ロシアの高名な政治評論家で、「政治情報センター」の所長であるA.ムーヒン氏の新著『クレムリンの垂直:石油ガスの管理』(政治情報センター、2006年)を、著者の了承の下に抄訳して紹介するものである。

 ロシアでは、2007年に下院選挙が、2008年に大統領選挙が控えており、その過程で政治とビジネスの関係が再び焦点になろうとしている。政治情報センターでは、こうした情勢をにらんで、とくに政権と密接なかかわりのある企業・産業をシリーズで取り上げていくことを予定しているようで、その第一弾である本書では、天然ガス部門のガスプロムと、石油部門のロスネフチがテーマとして選ばれている。ガスプロムに至っては、その設立の経緯から論じるという念の入れようだが、歴史的な叙述は本誌の読者にとっては関心外だと思われるので、現状に関する部分だけを訳出することにする。それでも大部であることに変わりはないので、今号と次号の2回に分けてお届けする。

 なお、今回の企画は、法政大学法学部の下斗米伸夫教授および同ゼミの全面的な協力により実現したものである。記して感謝する。

 


 

ビジネス最前線

Interview ロシアに提案したい新しいウイスキー文化

 

サントリー株式会社 経営企画本部 経営開発部インド・ロシア室長

向山繁さん

はじめに

 ロシア出張とインド出張の合間のお忙しいなか、サントリーの向山さんに時間をとっていただき、お話を伺いました。「ウォッカの国」の人々にどうしたら日本のウイスキーに親しんでもらえるか? 新規市場の開拓を担当する向山さんは、ロシア人のお酒の嗜好や消費スタイルに関するリサーチ、現地の販売代理店の選定などのため、ほぼ1カ月に1回の割合でモスクワに足を運んでいます。「お酒を売るという行為は人の感性に訴えること」とおっしゃる向山さん。サントリーの企業文化を理解してもらうことで、将来は日本とロシアの文化交流にも貢献したいという夢をもっています。サントリーのおしゃれなウイスキーボトルがモスクワでポピュラーになるのも、もうすぐでしょう。

 


 

データバンク

 

1.2006年版ロシア200大銀行ランキング

 ロシア『エクスペルト』誌2006年3月2026日号(No.11)に、毎年恒例のロシア200大銀行ランキングが掲載されているので、例年どおりこの資料を抜粋して紹介することにする(2005年版は本誌200512月号に掲載)。

 この大銀行ランキングは、2006年1月1日現在の資産規模にもとづくベスト200である。このほか、2006年1月1日現在の自己資本と、2005年の利潤額が示されている。さらに、本月報独自の企画として、各銀行のインターネット・アドレスを付記した。

 『エクスペルト』によれば、2004年には年の半ばに銀行システムの不安定化が生じたのに対し、2005年にはロシアの銀行部門はそれを克服し、総じて安定的な発展を示した。国民の銀行預金量の増加ペースは、2004年の実質26.2%に対し、2005年には同42.2%という高率に上った。これは、預金保険制度が稼動したことなどにより、国民の銀行に対する信任が高まった結果と考えられる。金利の優遇などで積極的に預金を取り込んだ銀行もあった。

 

2.CIS諸国の銀行ランキング 

 ロシア『コメルサント』紙2006年4月13日号に、CIS諸国の銀行ランキングが掲載されている。実に1,000行から成る長大なランキングであり、資産額にもとづく順位が示されている。ロシアの銀行については、様々な機関がランキングを発表しており、そのうち本月報では『エクスペルト』誌のランキングを定期的に紹介している(前項の記事参照)。だが、ロシア以外のCIS諸国の銀行については網羅的な資料がほとんどなく、しかも今回の記事のようにCIS諸国の銀行を横断的に比較してランク付けしたような資料は前例がないものと思われる。そこで、この『コメルサント』のCIS1,000大銀行ランキングから、ロシア以外の国の銀行をピックアップし(ロシアは省略)、国別の表にまとめて紹介することにする。

 ただし、この資料には一定の限界もある。取り上げられているのはロシア、ウクライナ、ベラルーシ、モルドバ、カザフスタン、キルギス、ウズベキスタン、アゼルバイジャンだけであり、トルクメニスタン、タジキスタン、アルメニア、グルジアは登場しない。これらの国々の銀行が情報提供に応じなかったため、断念せざるをえなかった由である(タジキスタンはたとえ応じてもベスト1,000に入らなかったのではないかとコメントされているが)。また、ウズベキスタンの銀行も情報開示に後ろ向きだったので、同国については2行しかランク入りしていない。さらに、ロシア、ウクライナの銀行の数が突出して多いので、両国については一部の小規模銀行を意図的にベスト1,000から除外したとされている(実際、ウクライナは377位の「ウクライナ信用銀行」で終わっており、不自然だ)。

 このように、問題点もなくはないものの、この資料がCIS諸国の銀行業に関するきわめて有益な基礎資料であることは間違いあるまい。なお、今回の調査を実施したのは「インターファクスTsEA」という機関で、データは2005年7月1日現在のものである。

 

3.CIS諸国の外国投資受入と外資参加企業

(1)ウクライナ

(2)ベラルーシ

(3)カザフスタン

(4)キルギス

(5)アゼルバイジャン

 

4.2005年のロシアの小売チェーン販売高ランキング

 ロシア『コメルサント』紙の2006年3月22日号に、2005年のロシアの小売チェーン店販売高ベスト50が掲載されている。ロシアの消費市場に関する基礎資料として有用なものなので、早速表にまとめて紹介する(2004年版のランキングは本誌200511月参照)。なお、正確に言えば、これはチェーン店そのもののランキングではなく、それを展開している事業会社のランキングである。したがって、ある会社が2つ以上のチェーンを展開している場合には、その合計額が示されている。

 本ランキングは、2005年の各社の小売販売高にもとづいて作成されている。基本的に販売高は各社が公表した数字であり、公表されなかった場合には専門家が推計したとされている。なお、贅沢品販売業者と、卸売扱いとなる「メトロ・キャッシュ&キャリー」は、本ランキングの対象外となっている。表中のインターネットのアドレスは、本誌で独自に調べ、判明した範囲内で付記したものだ。

 2005年版のランキングを見ると、あらゆる小売部門で販売高が拡大しており、ロシアの消費市場の活況を裏付けている。トップに立つ家電最大手エルドラドの販売高は、2004年の13億ドルから、2005年には一気に30億ドルにまで達した。