ロシアNIS調査月報
2008年3月号
特集◆繁栄と混沌のウクライナ
特集◆繁栄と混沌のウクライナ
調査レポート
ウクライナの天然ガス事情
―2006年「天然ガス戦争」後を中心にして
調査レポート
ウクライナの自動車市場・産業の概況
調査レポート
ドネツク州の対外経済関係の動向
ビジネス最前線
急成長するウクライナ乗用車市場に挑む
ビジネス最前線
ウクライナ薄型テレビ市場の牽引者として
特報
ウクライナのWTO加盟が決定
商流を読む
活況を呈すウクライナの小売部門
メタルワールド
鉄鋼王アフメトフの肖像
月刊エレクトロニクスNews
ウクライナのデジタル家電市場
RUSSIAN STYLE
ロシアの中のウクライナ
ノーヴォスチ・レビュー
チェルノブイリ原発はいま

調査レポート
ロシアの鉄道発展戦略の全貌
調査レポート
モスクワの現場から見るロシアの労務問題
データバンク
2006〜2007年版ロシア地域別投資環境ランキング
ロシア産業の迷宮
ロシアの農業分野は個性派揃い
クレムリン・ウォッチ
メドヴェージェフ候補の戦い
自動車産業時評
ロシアの自動車用プラスチック部品メーカー
ドーム・クニーギ
栢俊彦著『株式会社ロシア ―混沌から甦るビジネスシステム』
ロシアビジネスQ&A
◎輸出代金の回収
業界トピックス
2007年12月の動き
◆ロシアのビール市場とキリン
2007年1〜11月の通関統計


ウクライナの天然ガス事情
―2006年「天然ガス戦争」後を中心にして―

北海学園大学 非常勤講師
北海道大学スラブ研究センター 共同研究員
藤森信吉

はじめに
1.ウクライナにおける天然ガスの位置付け
2.「エネルギー輸送国」ウクライナ
3.2006年1月「天然ガス戦争」
4.政治・外交への波及
むすびにかえて ―「エネルギー輸送国」は維持できるのか

はじめに
 独立以来、天然ガスはウクライナに一貫して大きな影響を与えてきた。ウクライナは天然ガス依存度が高く、かつ輸入供給源をロシアに押さえられているため、天然ガス問題は経済のみならず、政治、外交問題へと発展する傾向がある。例えば、ソ連崩壊後、ウクライナは輸入価格の「世界市場化」に対応できず93年にはインフレ率1万%、GDP成長率マイナス14%を記録する等、経済崩壊の瀬戸際に立たされた。この危機により、一時的とはいえウクライナはロシアとの経済統合を模索し、また94年大統領選挙における政権交代の主要因ともなった。その一方で、天然ガスはウクライナの輸入・卸売業(ガストレイダー)に莫大の利益をもたらした。その代表例がティモシェンコ(現首相)であることは言うまでもない。21世紀に入っても、2006年1月以降の天然ガス輸入価格倍化に伴う混乱は記憶に新しく、このときは内閣が総辞職に追い込まれている。
 本稿はウクライナの天然ガス問題を概観・整理することを目的とするが、紙幅および筆者の関心の都合上、特に2006年1月に起きた所謂「ロシア・ウクライナ天然ガス戦争」について詳細に論じる。まず第1節では、ウクライナにおける天然ガスの位置付けを統計資料等から検討する。第2節では、天然ガス問題がウクライナでどのように解釈されてきたかを整理する。第3節・4節では、「天然ガス戦争」とその政治的な影響について論じる。私見によれば、「天然ガス戦争」は発生当時こそ多くの注目を集めたが、その後の進展については当初ほどの関心を払われていないように思われる。ここでは新たな統計資料を用いて、「天然ガス戦争」がもたらした変化について考察してみたい。最後に2008年以降の展望について考えてみたい。


ウクライナの自動車市場・産業の概況

ロシアNIS経済研究所 調査部次長
坂口泉

はじめに
1.新車部門の状況
2.中古車市場
3.自動車部門の主要プレーヤーたち
4.乗用車市場の今後の展望

はじめに
 ウクライナの乗用車市場は、規模自体はまだそれほど大きくないものの、ロシアの乗用車市場同様に急激に拡大している。外国新車の販売台数の伸びが急で、人気モデルを中心に品不足感が強まっているといった点もロシアの乗用車市場と類似している。しかし、中古車の輸入台数が極端に少ない、並行輸入される新車の数が非常に多いといった、ロシアの乗用車市場との相違点も少なくない。本稿では、そういった相違点にも留意しながら、ウクライナの乗用車市場の現状について説明する。


ドネツク州の対外経済関係の動向

ドネツク国立大学 「国際経済」講座主任 Yu.マコゴン
(構成:服部倫卓)

はじめに
1.貿易の動向
2.外国直接投資の受入
3.経済特区

はじめに
 後掲の表1に見るように、ドネツク州の経済力には目を見張るものがある。東ウクライナの一連の重工業州のなかでも、一歩抜きん出た存在であると言えよう。ウクライナは全国27の地域から成るが、ドネツク州だけで全国の人口の9.8%、地域総生産の13.1%、そして鉱工業生産の21.0%を占める。その経済力を支えるのは、豊富な石炭資源を活かした鉄鋼業であり、表1に見るように、鉄鋼業関連の全国シェアは軒並み50%前後に上っている。
 ドネツク州のこのような重要性に鑑み、我々は現地のエキスパートであるYu.マコゴン氏に依頼をして、同氏がまとめたドネツク州の対外経済関係に関するレポートをご提供いただくとともに、同氏を通じて最新の公式統計資料も入手した。なお、マコゴン氏は、ドネツク国立大学「国際経済」講座主任を務めるかたわら、大統領付属の戦略国民研究所のドネツク支部長、ウクライナ科学アカデミー産業経済研究所部長などの要職も担っている人物だ。
 そこで以下では、マコゴン氏のレポートと一連の統計資料を、編集部が再構成する形で、ドネツク州の対外経済関係の動向について、その概要を紹介してみたい。


ビジネス最前線
急成長するウクライナ乗用車市場に挑む

ウクライナ日産自動車 社長
今村文秋さん

はじめに
 ウクライナ・ビジネスのなかでも、最も急激な成長を遂げているのが、乗用車販売です。その市場と日々格闘しておられるウクライナ日産自動車の今村社長に、キエフでお話をうかがいました。
 今村さんは2005年4月に現職に就かれましたが、これは日産自動車にとって、最年少の子会社社長であったということです。商社に販売を委ねるメーカーが少なくないなか、日産は辣腕社員を現地に送り込んで、自ら市場の開拓に乗り出したということになります。インタビューでは、会社運営のご苦労から、市場の特性まで、幅広いお話をお聞かせいただきました。


ビジネス最前線
ウクライナ薄型テレビ市場の牽引者として

Panasonic(CIS)Oy キエフ事務所 所長
高浜宏吉さん

はじめに
 ウクライナでは、2000年代に入ってからの経済成長と、家電のデジタル化の波が重なり、家電販売部門も活況を呈しています。そうしたなか、プラズマテレビのトップブランドである松下電器(パナソニック)は、ウクライナ市場でも懸命に市場開拓を進め、同国テレビ市場の薄型化・大画面化を牽引する一役を担っておられるようです。他方、通関の問題など、ウクライナの家電業界を取り巻く問題も依然少なくありません。このあたりの事情を中心に、パナソニック・キエフ事務所の高浜所長に、お話をうかがいました。


商流を読む
活況を呈すウクライナの小売部門

  ウクライナのサイト「www.retailstudio.org」に、同国の小売業に関する情報が多数掲載されています。そこで、以下では、このサイトにアップされた情報を抜粋する形で、ウクライナの小売セクターの概要をご紹介いたします。


メタルワールド
鉄鋼王アフメトフの肖像

 ウクライナを代表する大富豪といえば、何といってもリナト・アフメトフ氏です。その資産額については諸説ありますが、現地『グヴァルジヤ』誌(2007年10月号)によれば83億6,500万ドルとされており、ウクライナ富豪ランキングの堂々1位を占めています。
 アフメトフ氏の財閥グループ「システム・キャピタル・マネジメント」の中核事業は、鉄鋼業です。同グループの冶金部門の持ち株会社「メトインヴェスト」は、2006年の時点で、ウクライナのコークス生産の19%、鉄鉱石精鉱の58%、ペレットの41%、粗鋼の28%、鋼管の3%を占めていました。
そして、メトインヴェストは2007年9月、スマート・ホールディングという別の財閥の鉄鋼関連資産を事実上手に入れました。これで、ウクライナ鉄鋼セクター、とくに原料部門におけるアフメトフ氏の影響力は、さらに強化されたことになります。
 今回は、このようにウクライナ鉄鋼界でますます存在感を増すアフメトフ氏の人物像に迫るとともに、その企業グループの概要を紹介します。なお、人物評伝は主に、ロシアのサイト「Lenta・RU」にもとづいています。


月刊エレクトロニクスNews
ウクライナのデジタル家電市場

  ウクライナの「AVentures Group」という企業は、同国のデジタル家電およびIT機器の市場動向を調査し、定期的に発表しています。そこで、このコーナーではAVentures Groupの資料を利用しながら、ウクライナのデジタル家電・IT機器市場の最新動向についてお伝えすることにします。扱われている品目は、液晶テレビ、デジタルカメラ、ビデオカメラ、MP3プレーヤー、ノートパソコン、携帯電話機です(残念ながらDVDプレーヤーは情報なし)。


RUSSIAN STYLE
ロシアの中のウクライナ

  今号では、特集に合わせてウクライナを取り上げてみたい。といっても、ロシアの文化や社会について論じるコーナーなので、あくまでも、ロシアにおけるウクライナという視点から、両国文化の関係性を考えてみようと思う。
 最近、それぞれ違う方向に進みはじめたように見えるロシアとウクライナ。それでも、多くの歴史を共有する両国の文化には、共通点が多い。というと、多くの人、とくにウクライナ人の反発を買うかもしれない。言語をはじめ、ウクライナには、固有の文化があるのだと。しかし、似ているからこそ、そしてロシアに支配されてきたからこそ、違いを強調し、線を引く必要があるのだ。
 ロシアにおけるウクライナ文化を見つけることは、ロシアにおける日本文化を見つけることよりも、実は難しい。(山本靖子)


ロシアの鉄道発展戦略の全貌

ロシアNIS経済研究所 調査役
中居孝文

はじめに
1.鉄道戦略策定の経緯と課題
2.戦略のシナリオと実施段階
3.戦略で予定される具体的施策
4.戦略の財源と配分方法
おわりに

はじめに
 ロシアは鉄道の総延長が8万5,000km(米国に次ぐ世界第2位)に及ぶ鉄道大国である。ロシアでは貨物輸送全体の85%以上(パイプライン輸送を除く)が鉄道によって担われており、文字通り、鉄道はロシア経済を支える基幹的輸送手段である。
 しかし、ソ連解体後、ながらくインフラや設備への投資を怠ってきたためにロシアの鉄道は老朽化が著しい。そのため、鉄道は今後の輸送量の増大に対応しきれず、ロシア経済の成長を妨げる大きなボトルネックになるという懸念が拡がっている。
 こうした状況に対応するため、現在、ロシアでは、潟鴻Vア鉄道を中心に長期かつ大規模な鉄道整備計画「2030年までの鉄道輸送発展戦略」が策定中である。本稿ではその概要を紹介することとしたい。


モスクワの現場から見るロシアの労務問題

モスクワ在住ビジネスコンサルタント
新井滋

はじめに
概要
1.ロシア労働法との共生
2.モスクワの労働市場と対応
最後に

はじめに
 ロシアへの直接投資など、日系企業のロシアへの進出熱が高まっています。ヒト・モノ・カネのなかで、良いヒトをどうやって手当てするかが喫緊の課題です。さらに、採用した人をどうやってマネージするかも、重要な課題となっています。
 そこで、本誌2007年12月号の記事「ロシアのテレビ放送事情」の執筆者で、ビジネスコンサルタントの新井滋さんに、この20年近くにわたり、自らロシア人従業員を採用し、一緒に働いてきた経験から、日系企業が直面する人事・労務問題に光を当て、どう対応すべきかについてレポートをまとめていただきました。以下、そのレポートをお届けいたします。
 なお、新井さんは人材紹介を主な業務とするロシア籍の会社「Kei-Ei Consulting LLC」のパートナーも務めておられます。(編集部)


データバンク
2006〜2007年版ロシア地域別投資環境ランキング

はじめに
 ロシアの経済週刊誌『エクスペルト』(2007.12.17, No.47)が、毎年恒例のロシアの地域別投資環境ランキングの最新版を発表したので、この資料を抜粋して紹介する。
 『エクスペルト』の地域別投資環境ランキングは、各種の統計指標と調査・研究資料をもとに、内外の専門家による評価を加味して作成されている。同誌では、A.投資上のメリット、B.投資上のリスク、つまり投資を行ううえでのプラスとマイナスの両面からアプローチしている。


ロシア産業の迷宮
ロシアの農業分野は個性派揃い

はじめに
 ロシアの農業分野の状況は、以前と比較するとかなり改善されている。たとえば、2001年以降、ロシアは穀物のネットの輸出国となっている。特に、豊作であった2002年から2003年にかけての穀物年(7月1日から翌年の6月30日まで)には、1,850万tもの穀物が輸出された。2003年が不作であったため、一時輸出量が1,000万tを下回ったが、ここ2年(2005〜2006年と2006〜2007年の穀物年)は1,200万t強の水準を維持している。
 農業分野の活性化に伴い、同分野における内外の大手資本の動きが活発化している。今回は、穀物分野と畜産分野を例に、それらの分野で活動する個性的なプレーヤーたちのプロフィールを、ごく簡単にではあるが紹介する。(坂口泉)


クレムリン・ウォッチ
メドヴェージェフ候補の戦い

 大統領選挙戦が展開されています。メドヴェージェフ候補の当選は(本人に事故さえなければ)絶対確実な情況ですが、メドヴェージェフ候補は誰を相手に、どのような選挙「戦」を戦っているのでしょうか? (月出皎司)


自動車産業時評
ロシアの自動車用プラスチック部品メーカー

 ロシアの国産プラスチック部品メーカーの技術レベルは、他の国産部品メーカーのそれと同様、それほど高いものではありません。また、肝心のプラスチックの品質が悪いという問題もあります。良質のプラスチック部品を生産する場合は、プラスチックを輸入する必要があるとのこと。その一方で、最近はロシアの国産車においても、全部品に占めるプラスチック部品の割合が増加傾向にあり、それに伴い高品質なプラスチック部品に対するニーズが高まっています。たとえば、AvtoVAZの新モデル(KalinaやPriora)には、高品質ポリプロピレン製部品が積極的に採用されています。
 このような品質に対する要求の高まりに対応するために、ロシアのプラスチック部品メーカーも積極的に設備更新を実施するなどして品質向上の努力を行うようになっています。その結果、外資のパートナーとなりうる可能性を秘めたプラスチック部品メーカーも出現してきているようです。今回は、ロシアの大手国産乗用車メーカーAvtoVAZとGAZのプラスチック部品の調達状況、および、比較的技術レベルが高く外資の注目を集めているいくつかのプラスチック部品メーカーの概要をご紹介いたします。