ロシアNIS調査月報2008年6月号特集◆NIS政治・経済 |
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特集◆NIS政治・経済体制の透視図 |
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調査レポート
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CIS諸国の新動向 ―大統領交代と国際情勢の影響に着目して |
調査レポート |
2007年のCIS諸国の経済トレンド |
調査レポート |
ウクライナ・ロシア天然ガス関係の新展開 ―「戦争」の奇妙な第2ラウンド |
調査レポート |
ベラルーシの対外経済関係とルカシェンコ政権(上) |
ビジネス最前線
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アスタナ・アルマトィ 二都ビジネス物語 |
ビジネス最前線
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日本とベラルーシの光学技術が融合 |
エネルギー産業の話題
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カシャガン油田をめぐるトラブルの背景 |
自動車産業時評
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カザフスタンとウズベキスタンの乗用車部門 |
ロジスティクス・ナビ
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迷走するウクライナの港湾行政 |
データバンク
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CIS諸国の最新基礎データ(2008年版) |
データバンク
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2007年のCIS諸国の経済統計 |
データバンク
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2007年の日本の対NIS諸国貿易統計 |
ドーム・クニーギ
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角ア利夫著『カザフスタン ―草原と資源と豊かな歴史の国』 |
クレムリン・ウォッチ
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プーチン首相党首兼任の事情 |
ロシアビジネスQ&A
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◎取引トラブル回避のための留意点と紛争解決 |
業界トピックス
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2008年3月の動き ◆日ロ間のアニメ交流を橋渡しする国際人 2008年1〜2月の通関統計 |
CIS諸国の新動向
―大統領交代と国際情勢の影響に着目して―
静岡県立大学国際関係学部 准教授
廣瀬陽子
1.はじめに
2.メドヴェージェフ政権のCISに及ぼす影響
3.プーチン政権の対CIS外交の回顧
4.国際情勢とCIS
5.今後の展望
1.はじめに
2008年になってから、CIS諸国の政治変動が極めて激しくなっている(CISは「独立国家共同体」のことで、バルト3国を除く旧ソ連12カ国で構成)。それらの変化の一部については、筆者が2月に出版した、『強権と不安の超大国・ロシア:旧ソ連諸国から見た「光と影」』(光文社新書、2008年)で論じたが、その後も新たな変化が日々起きている。それらの動きは内政におけるものもあれば、国際的な影響を受けて生じたものもある。
まずCISの内政における動きとしては、ロシア、グルジア、アルメニアの大統領選挙があげられる。ロシアの選挙が極めて予想通りの結果に終わった一方、グルジアでは選挙の前に、そしてアルメニアでは選挙後に暴動や警察の介入、戒厳令などを含む大きな政治的混乱が起きた。
また、国際的影響については、まず2月17日のセルビア・コソヴォ自治州の独立宣言があげられる。これにより、ロシア(および中国など)と欧米諸国との対立が顕著となっただけでなく、CISの「未承認国家」に対するロシアの姿勢や「未承認国家」およびその本国にも多かれ少なかれ動揺が走った。
さらに米国のミサイル防衛(MD)計画やウクライナ、グルジアのNATO(北大西洋条約機構)加盟問題などにより、米ロ関係は緊張の度合いを深めている。ロシアは政権交代後の安定のためにも、米国に対して弱腰の姿勢を見せることは決してできず、他方、米国も半年後に迫った大統領選挙を控え(2008年11月4日実施予定)、国内外での威厳を保ちたいところであり、双方ともに妥協できない状況にある。
そして、ロシアの立場をますます強め、また国際的な軋轢の大きな原因となっているのがエネルギー問題である。石油価格の高騰は止まらず、そのあおりもあって天然ガスの需要も世界的に拡大しているが、それが天然ガスの戦略性をますます高め、価格高騰の懸念も高まっているという。そのような状態では、エネルギーがロシアの国際戦略に利用される趨勢もまた強まるだろう。
このように、CIS諸国は国内レベルでも様々な変化に直面している一方、CISを取り巻く国際的な事情も日々激しい変動を遂げているのである。そこで、本稿ではドミトリー・メドヴェージェフ政権誕生のCIS諸国へのインパクト、ヴラジーミル・プーチン政権の対CIS外交の概観および最近の国際情勢の変動によるCIS諸国への影響を考察しつつ、今後のCISの動きを展望してみたい。
2007年のCIS諸国の経済トレンド
ロシアNIS経済研究所
CIS諸国の2007年の経済データが出揃った。CIS統計委員会の発表によれば、2007年のCIS全体の経済成長率は、9%だった。詳しい統計数字は、今号の「データバンク」のコーナーを参照していただきたい。ここでは、例年どおり、2007年の経済実績を踏まえながら、各国の最新の経済情勢について解説することにする(『ロシアNIS経済速報』2008年4月15日および4月25日号より再録)。
執筆は当会ロシアNIS経済研究所のスタッフによるものであるが、ロシアについては北海道大学スラブ研究センターの田畑伸一郎教授にとくにご寄稿いただいた。
ウクライナ・ロシア天然ガス関係の新展開
―「戦争」の奇妙な第2ラウンド―
北海道大学スラブ研究センター 共同研究員
藤森信吉
はじめに
1.「天然ガス戦争」とは何だったのか
2.2008年天然ガス戦争
むすびにかえて
はじめに
2008年2月から3月にかけ、ウクライナ・ロシア間で天然ガスに関わる係争が再び持ち上がった。ロシア・ガスプロム社が債務累積を理由にウクライナ側に供給縮小を通告し実施したのである。両国大統領会談や首相会談等を経た結果、新たな協定が結ばれ事態は沈静化した。ガスプロムによる供給停止〜新協定締結というパターンは、ガス価格の値上げに端を発した2006年1月の「天然ガス戦争」の再来を想起させるものである。
本稿では、「ウクライナの天然ガス事情」『ロシアNIS調査月報』(2008年3月号)脱稿後に生じたウクライナ・ロシア間の天然ガス問題を補筆し新たに導入された供給体制を検討することを目的とする。同時に今回の天然ガス戦争とウクライナ政界の関係も絡めて論じてみたい。
ベラルーシの対外経済関係とルカシェンコ政権(上)
「戦略」分析センター 主任研究員
V.カルバレヴィチ
はじめに
1.ロシアが市場原理への移行を通告
2.「石油・ガス戦争」の勃発
3.2007年のベラルーシ・ロシア関係
4.ロシアとの関係改善
5.欧米との関係
はじめに
以下は、ルカシェンコ大統領が3選された2006年3月の大統領選挙以降のベラルーシの対外関係と国内政治・経済情勢について、同国の政治評論家V.カルバレヴィチ氏に執筆いただいた論文の抄訳である。
今号では、ベラルーシ経済に最も大きな影響を与える隣国ロシアおよび欧米との関係を中心に、そして次号では、その他の国々との関係、経済政策、内政事情の分析を中心に、2回に分けてお届けする。
ビジネス最前線
アスタナ・アルマトィ 二都ビジネス物語
三菱商事 アスタナ駐在事務所長 兼 アルマトゥイ駐在事務所長
齋藤裕和さん
はじめに
周知のように、カザフスタンは1997年に、アルマトィからアスタナへの遷都を敢行しました。経済の中心は依然としてアルマトィであるため、日系企業の多くは、アルマトィに拠点を置いています。しかし、ここに来て、アスタナに事務所を構える商社も出てきたようで、今回ご登場願う三菱商事の齋藤所長も、最近アルマトィからアスタナに移られたお一人です。他方、三菱商事の高島正之顧問が日本カザフスタン経済委員会の会長を務めておられることもあり、齋藤所長は日本・カザフ間の経済協力に道筋をつけるべく、日々奮闘しておられます。そこで、齋藤所長が日本に一時帰国した機会を捉えて、カザフ・ビジネスの最新事情についてお話をお聞きしました。
なお、Almatyの日本語表記にはいくつかのバリエーションがあり、三菱商事では「アルマトゥイ駐在事務所」となさっていますが、本記事では当会の慣例に従って「アルマトィ」で統一させていだだきます。
ビジネス最前線
日本とベラルーシの光学技術が融合
LOTIS TII 社長 ヴラジミル・コノノフさん
同 マーケティング部長 セルゲイ・クラシクさん
はじめに
ベラルーシに事務所を設置している日本企業は数社ありますが、日本人駐在員は1人もいません。そんななかで、株式会社東京インスツルメンツ(光学エレクトロニクス製品の開発、製造、販売、輸出入)は、ベラルーシでSOLAR TII、LOTIS TIIという合弁企業2社を設立した唯一の日本企業です。
今回は、ベラルーシの首都ミンスクで、LOTIS TII社長のコノノフさんとマーケティング部長のクラシクさんのお二人に、日本とベラルーシの合弁ビジネスについてお話を伺ってきました。
エネルギー産業の話題
カシャガン油田をめぐるトラブルの背景
2007年夏、カザフスタンのカスピ海沖のカシャガン油田の開発(北カスピ海プロジェクト)をめぐるカザフスタン政府と開発コンソーシアムとの間のトラブルが表面化し、国際的にも大きな話題となりました。本レポートでは、そのトラブルの背景および顛末についてご紹介いたします。
自動車産業時評
カザフスタンとウズベキスタンの乗用車部門
今回は、NIS諸国の特集に合わせて、カザフスタンの乗用車市場の概況と、同国およびウズベキスタンでの外国車の現地生産の動向についてご紹介いたします。
ロジスティクス・ナビ
迷走するウクライナの港湾行政
言うまでもなく、港湾は、重要な社会資本として、経済を安定的に支えるべきものです。他方、ウクライナは、黒海およびアゾフ海に面し、港湾・海運立国としての条件に恵まれた国。しかし、これまでのところ、ウクライナがそのポテンシャルをフルに発揮しているとは言えません。どうやら、その背景には、政治的要因が潜んでいるようです。
クレムリン・ウォッチ
プーチン首相党首兼任の事情
「統一ロシア」党は4月の党大会でプーチン大統領(当時)に党首就任を要請、プーチンはこれを受け入れました。正式な職名は「党議長」といい、にわかに新設されたものです。グルイズロフ前党首は、「最高評議会議長」として党の実務的な最高責任者にとどまるので、プーチン党首は日常の党務に煩わされることはないわけです。新設の「党議長」の権限は非常に大きく、党大会を除くどのような党機関の決定をも覆すことができるようです。人事権も絶大だと考えられます。(月出皎司)