ロシアNIS調査月報
2009年2月号
特集◆ロシアの第一次産業
特集◆ロシアの第一次産業
調査レポート
ロシア農業における新たな潮流
調査レポート
ロシア産シジミ輸入の動向
ビジネス最前線
ロシア石炭産業へのアプローチ
ビジネス最前線
ロシアの木材・水産ビジネスの現場から
ミニ・レポート
変革をめざすロシア漁業
エネルギー産業の話題
【拡大版】ロシア石油ガス採掘部門の深層
ロシアビジネスQ&A
◎ロシアへの樹木の輸出方法

調査レポート
危機に揺れるウクライナの経済と産業
ビジネス最前線
広島とペテルブルグの物流の架け橋
ミニ・レポート
ロシア建設機械市場の概況
データバンク
2008年1〜9月の日本の対NIS諸国貿易統計
データバンク
2007年のCIS諸国の貿易統計
研究所長日誌
旧ロシア函館領事館150周年と幕末の日露外交
クレムリン・ウォッチ
経済危機下のタンデム政権 ―昨今のプーチン首相―
自動車産業時評
【拡大版】金融危機後のロシア乗用車市場
ドーム・クニーギ
みずほ総合研究所著『迷走するグローバルマネーとSWF』
業界トピックス
2008年12月の動き
◆日本の「指圧」でロシアを癒す
2008年1〜11月の日本の対ロシア・NIS諸国輸出入通関実績


ロシア農業における新たな潮流

ロシアNIS経済研究所 次長
坂口泉

はじめに
1.穀物の生産動向
2.穀物の輸出動向
3.畜産分野の現状
4.その他の大手民間企業
5.外資による農地買収の動き
6.金融危機の影響
おわりに

 2001年にロシアが穀物のネット輸出国になった頃から、ロシアの農業分野に大きな変化の兆しが見え始めている。まず、最初に変化したのが、政府の農業分野に対する対応ぶりである。2001年あたりを境に、農業分野に積極的な支援もしくは介入を行うケースが目立ち始めたのだ。穀物に関しては、2001年頃から国家が国内穀物市場での売買介入を行うケースや、小麦や大麦に輸出関税(季節関税)を課すケースが目立っている。また、粗糖に関しては、国内生産者の保護を目的として2001年から輸入割当制度が導入された。さらに、食肉に関しても2003年から輸入割当制度が導入されている。その他、2006年からは、ロシア連邦国家プロジェクト「農工コンプレクスの発展」にもとづき(2005年末にプーチン大統領が発表した4つの優先的国家プロジェクトのうちのひとつ)、投資プロジェクト実現のために農業企業が獲得した融資の金利の一部(最大で、中銀の政策金利の3分の2)を国が負担するという補助金制度が導入されている。明らかに、そこには、農業分野を保護し育成しようというロシア政府の意志が感じ取れる。
最近になり、ロシア政府は穀物オペック構想や国営穀物輸出会社設立構想などを打ち出し、穀物をエネルギーとならぶロシアの戦略的輸出品として位置づけようとする姿勢を明確にしているが、この動きもまたロシア政府にとっての農業分野の重要性の高まりを示す事例だと解釈しうる。
 このようなロシア政府の動きに歩調を合わせるような形で、農業分野における内外の新興大手資本の動きも活発になっている。たとえば、2000年前後から、穀物輸出部門には内外の大手資本が積極的に参画している。また、畜産部門、粗糖生産部門、植物油生産部門といった政府からの支援あるいは高い利益率が期待できる部門にも、内外の大手資本が次々と参入している。さらに、政府が示す積極的な支援策や、穀物の国際価格の高騰傾向に後押しされるような形で、外資系の投資ファンド1)やロシアの大手資本がロシアの農地を積極的に買い占めるケースも目立ち始めている。
 本稿では、最近世界的に注目を集めているロシアの穀物生産・輸出の動向を中心に、畜産部門、農地買収部門等における最新の動向を紹介する。また、最近の世界的金融危機がロシアの農業分野に及ぼした影響についても若干言及する。


ロシア産シジミ輸入の動向 

大阪市立大学大学院経済学研究科後期博士課程
安木新一郎

1.シジミを取り巻く課題
2.日本のシジミ輸入概況
3.ロシア沿海地方のシジミ漁業と輸出
4.ロシアからのシジミ輸入の展望

 農林水産省の統計によると、2007年の日本のシジミ漁獲量は、前年の島根県などでの大雨の影響で前年比18.4%減少の10,942tとなった。日本国内におけるシジミ漁業を取り巻く環境は年々悪化しているが、水質悪化などによるシジミの生育水域の縮小、外来種の侵入、漁師の高齢化など、難問山積であるといっても過言ではない。
 一方、外国産シジミの輸入量も減少傾向にあり、2006年には5,881t、2007年には4,063tとなった。韓国産および中国産シジミの一部に人体に有害な物質が混入されていた事例があることから、こうした輸入シジミに対する消費者の不信感も高まっている。また、2006年10月以降の北朝鮮に対する経済制裁の発動により、北朝鮮産シジミの流入がなくなったことで、日本は新たなシジミの輸入先を開拓しなければならない状況に追い込まれている。
 漁獲高の減少する国内産シジミの確保が難しく、相対的に割安な外国産シジミを国産と偽って販売する事件も発生しており、国内でのシジミ漁の復興と安全な外国産シジミの輸入体制の確立は急務であると考えられる。
 こうしたなか、近年、同じ日本海に面し、大粒のシジミが生息するロシア極東からの輸入量が増加している。本稿では、日本のシジミ輸入の現状とロシア極東におけるシジミ漁業を取り巻く状況について、ロシア漁業規制局や極東税関の資料も用いながら論じることとしたい。


ビジネス最前線
ロシア石炭産業へのアプローチ

三井物産梶@エネルギー第一本部 石炭部
部長 岩橋史明さん

はじめに
 今号ではロシアの第一次産業を特集しておりますが、第一次産業は農林水産業と鉱業から成り、ロシアの場合、鉱業のなかでも重要性が非常に高いのが石炭産業です。むろん、石炭は日本がロシアから伝統的に輸入している重要品目でもあります。
 そこで、ロシア石炭産業に関する評価、日本からのアプローチのあり方に関するご意見をうかがうべく、三井物産・石炭部の岩橋部長にインタビューを試みました。三井物産は今般、ロシア・トゥヴァ共和国のエレゲスト石炭鉱区の事業化調査への参加を表明されたところでもありますので、その話題も交えつつ、お話をお聞きしました。また、世界経済危機の石炭セクターへの影響に関しても、コメントを頂戴しました。


ビジネス最前線
ロシアの木材・水産ビジネスの現場から

潟gライアード 代表取締役
梅宮創治さん

はじめに
 梅宮社長がトライアードを設立したのは1984年11月です。ロシア向け機械の輸出を中心に事業を開始し、1989年11月にはウラジオストク、1991年10月にはナホトカに現地事務所を開設しました。ところが、ソ連解体後の1990年代にロシア側の輸入代金未払い問題が生じ、それを機に、トライアードは木材や水産食品の輸入にビジネスの重点をシフト。時代の変化に合わせて事業を展開してきました。今回は、梅宮社長に、これまでのご経験を踏まえたシベリア極東の林業と漁業に対する見方、そして将来の展望についてお聞きしています。


ミニ・レポート
変革をめざすロシア漁業

はじめに
 カニ、サケ、ウニといったロシアの海産物は日本でも馴染みが深い。しかし、ロシアの漁業分野の実態に関する情報は乏しい。密漁、海産物の洋上渡し、複雑な許認可システム、水産マフィヤ、統計数字の補足率の低さ、老朽化した船舶等に関する断片的な情報は散見されるものの、その全体像は見えがたい。
 ただ、2007年5月にアンドレイ・クライニーという人物がロシア連邦漁業庁の長官になり、漁業分野の改革に着手し始めてから、一般のマスコミに漁業分野の改革に関する記事が登場する機会が多くなり、漁業分野の全体像も以前よりは把握しやすくなっている。
本レポートでは、この1年ほどの間に一般経済紙に登場した漁業関連記事から得た情報をベースに、ロシア漁業の現状と問題点、主要な漁獲企業や水産物加工会社の概要、水産物養殖部門の現状等について紹介する。


エネルギー産業の話題
【拡大版】ロシア石油ガス採掘部門の深層

 今号は第一次産業特集ですので、本コラムでも普段より多くの誌面を割き、ロシアの石油ガス分野の上流部門の基本的な情報と、同部門に関連する最新の情報をお届けいたします。


ロシアビジネスQ&A
ロシアへの樹木の輸出方法

 近年、ロシアではモスクワのみならず地方都市に至るまで必ずと言っていいほど日本料理店があったり、武具展や和太鼓のパフォーマンスが開催されるなど日本ブームとなっています。日本への観光客も増え、日本の自然、文化、建築への理解も進んでいるようです。そのためか、最近では桜や紅葉といった日本を代表する樹木を導入して、公園や街の整備をしようという動きも出てきています。
 というわけで、今回は、「特集◆ロシアの第一次産業」にも関係するテーマとして、ロシアに日本の樹木を輸出するにはどのようなことに留意したらよいかという質問を取り上げます。


危機に揺れるウクライナの経済と産業

ロシアNIS経済研究所 次長
服部倫卓

はじめに
1.経済情勢全般
2.鉄鋼業に関する続報
3.構造的な危機に直面する化学工業
4.自動車販売と生産
5.2009年はどうなる ―むすびにかえて―

はじめに
 筆者は前号掲載の拙稿において、鉄鋼分野を中心に、ウクライナの経済危機について報告した。その後、筆者は12月の半ばにウクライナで現地調査を実施する機会を得た。現地での見聞で、当国の情勢が、自分が思い描いていた以上に深刻であることを実感し、危機感を新たにした次第である。
 そこで本稿では、12月の現地調査の成果も踏まえ、また前回のレポートでは触れることのできなかった鉄鋼以外の産業セクターも射程に入れて、危機に揺れるウクライナ経済の最新情勢について改めて論じてみたい。具体的には、経済情勢全般、鉄鋼業、化学工業、自動車販売・生産を取り上げる。
 ところで、2009年初頭現在、本年の供給条件に関するガスプロム社とウクライナ政府の交渉がこじれて、ロシア・ウクライナ間の「天然ガス戦争」が再燃する事態となっている。今日のウクライナは、経済危機に加え、政治危機、エネルギー危機にも見舞われており、いわば「トリプル複合危機」の只中にあるわけだ。ただ、天然ガス問題はそれ自体がひとつの大きなテーマであり、現時点では情勢があまりにも流動的なので、本稿では基本的に扱わないことにする。天然ガス問題に関しては、機会を改めて別の形で報告したいと考えているので、ご了承願いたい。


ビジネス最前線
広島とペテルブルグの物流の架け橋

オスロマリーングループ日本代表
セルゲイ・シャポシュニコフさん

はじめに
 サンクトペテルブルグに本社を置く「オスロマリーングループ」(OMG)は2008年10月、広島市中区に日本事務所を開設しました。OMGは1999年に設立以降、港湾サービス、保険業務、リース業、建設業、投資、木材加工販売、観光業、医療サービスと広範囲にわたってビジネスを展開しています。日ロ貿易が拡大するなか、海運のポテンシャルの大きさに注目するOMGは、これからどのようなビジネスを展開していくのか?  OMG JAPAN代表であるセルゲイ・シャポシュニコフさんにメールでインタビューをさせていただきました。


ミニ・レポート
ロシア建設機械市場の概況

はじめに
 ロシアのコンサルタント会社「Abercade」のウェブサイトに、ロシアの建設機械市場に関するレポートが何点か掲載されている。数字が2007年までとやや古く、経済危機の影響に関する分析も盛り込まれていないのが残念だが、以下では参考までに、エクスカベータ、ブルドーザー、フォークリフトに関するレポートの要旨を抜粋してお届けする。


データバンク
2007年のCIS諸国の貿易統計

はじめに
 CIS統計委員会の統計集『2007年のCIS諸国の外国貿易』(2008年)が、このほどようやく刊行されたので、本誌でもこれにもとづいてCIS諸国の2007年の貿易データをまとめて紹介する。
 CIS統計委員会にしかるべく数字を提供しておらず、したがってこの統計集にデータが不十分にしか掲載されていないウズベキスタンとトルクメニスタンについては、別の情報源からデータを補った。
 各国の表4(ウズベキスタンとトルクメニスタンを除く)は、それぞれの主要貿易相手国トップ40を見たものである(幸い、日本はすべての国の相手国としてトップ40に入っている)。
 なお、ロシアについては、より詳細な貿易統計が本誌2008年9-10月号に掲載されているので、ご利用いただきたい。


クレムリン・ウォッチ
経済危機下のタンデム政権
―昨今のプーチン首相―

 ロシアの経済状況は1年前とは様変わりです。経済発展省の見通しでも2009年の名目GDP成長率はマイナス4%、鉱工業生産はマイナス5%、商品輸出が35%落ち込んで対外貿易収支はほぼゼロとなっています。これは原油価格(ユーラルス)を50ドルに想定しての数字ですが、年末の水準は40ドル前後でした。財政収支や予備基金の動向は政策次第ですが、仮に2009年度当初予算の水準を維持すると仮定すれば予備基金はすぐにも底をつく計算になるので、当然その前に歳出の大幅な削減が行われることになります。景気刺激策の必要性が強調されていますが、マクロ指標を著しく悪化させることも避けようとするでしょう。
 中銀はルーブル安への誘導をしています(2008年末時点で夏からの下落率21%)が、これは大企業や銀行にとっては対外債務サービスの負担増、一般国民にとっては輸入消費物資価格の高騰要因となります。しかしルーブルを支え続ければ外貨準備は急減してしまいます。ミクロレベルでは不動産市場の崩落、雇用の縮小、給与カットなどが起きています。世界経済の回復が遅れればロシア国民も不況の影響を目一杯受けることは確実です。
 この状況下で、メドヴェージェフ大統領とプーチン首相、いわゆるタンデム政権がどのように振る舞っているかを観察してみます。(月出皎司)


自動車産業時評
【拡大版】金融危機後のロシア乗用車市場

 今回は、いつもより枠を拡大して、金融危機勃発後のロシア自動車業界の最新情報を、2008年11月の外国新車販売実績などを中心にお伝えいたします。