ロシアNIS調査月報2009年12月号特集◆経済危機の1年を回顧する |
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2009年11月20日発行 |
特集◆経済危機の1年を回顧する |
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調査レポート |
ロシア政府の経済危機対策とその効果 |
調査レポート |
ロシア経済危機のミクロ分析 |
調査レポート |
経済危機下のガスプロムの動き ―方向転換の背後にあるもの― |
調査レポート |
モスクワの出稼ぎ労働者たちはいま |
ミニレポート |
ロシア・ビール業界にも不況の波 |
ミニレポート |
欧州諸国ほど落ち込み大きいロシア・NIS経済 ―IMFの『世界経済見通し』から― |
データバンク |
2009年版ロシア大企業ランキング |
データバンク |
2009年1〜9月の日ロ貿易 ―遅々とした回復の歩み― |
ビジネス最前線 |
ロシア塗装市場に広がる大きな可能性 |
ミニレポート |
日本海沿岸諸港の対ロシア物流拡大への取り組み |
研究所長日誌 |
ロシア極東問題で明け暮れた2009年 |
ドーム・クニーギ |
中澤英彦著『ニューエクスプレス ウクライナ語』 |
クレムリン・ウォッチ |
統一ロシアはクレムリンの頭痛の種? |
エネルギー産業の話題 |
タタルスタンの新製油所建設計画 |
自動車産業時評 |
2009年上半期のロシアのトラック市場 |
ロシアビジネスQ&A |
◎ロシアの通信販売市場 |
業界トピックス |
2009年10月の動き ◆観光庁モスクワ拠点設置へ 2009年1〜9月の通関統計 |
ロシア政府の経済危機対策とその効果
ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所 主任研究員
V.シュヴィトコ
1.序論
2.金融政策と金融部門向け支援策
3.財政出動
4.規制緩和
5.政策の費用と効果に関する評価
1.序論
危機対策の経緯 ロシア政府が経済環境の急速な悪化や深刻な問題の発生を初めて認識した時期は2008年9月の後半、遅くとも10月あたりだったと思われる。だが、最初の段階では、最も切実な問題となっていた「流動性危機」、つまり金融部門が突然直面した流動性の短期不足への緊急対応が中心だった。そこから、経済・財政全体が受ける打撃が拡大し、本格的な対策に移行するには半年ほどかかった。後述のような体系的な対策が出揃ったのは、2009年の4月前後であり、そこから2009年の秋までの半年の間に、金融政策など中銀の政策方針の変更、2009年の補正予算の作成と成立、銀行セクターの中長期的発展促進策の策定、関係法案の可決などを通じて危機対策の体系が形成された。
以下では、その中身について論じるが、本題に入る前に、重要と思われるポイントのいくつかに触れる必要があろう。
ロシア経済危機のミクロ分析
高知大学 人文学部
塩原俊彦
はじめに
1.オフショア企業
2.「モノゴーラド」問題
3.銀行の企業融資
4.政治家と企業の関係
はじめに
ここでは、経済危機後のロシアの「現実」を企業レベルで考察する。この1年ほどの間に、すでに2つの拙稿でロシア経済の現状を考察した1)。その過程で強く意識したのは、ロシアの新聞・雑誌、さらに学術論文までもが大きな「自主規制」のもとに公表されているのではないかという、拭い去り難い疑いである2)。だからこそ、「現実」に近い内容を率直に明らかにしたクリチェフスキーの考察が話題を集めたのではないか3)。そこで問題視されているのは、オフショア企業を通じたロシアの大企業支配である。加えて、彼の論考「ポストピカリョヴォのロシア:新しい政治経済的現実」というタイトルが示すように、ピカリョヴォでの政府主導の企業救済が大きな問題をはらんでいることを示唆している。実は、ピカリョヴォ自体についての考察は彼のレポートにはあまり書かれていないが、本稿では、この問題も取り上げる。さらに、銀行経由の企業融資問題、政治家と企業の関係について紙幅の許す限り分析し、ロシアの「現実」に肉迫したい。
経済危機下のガスプロムの動き
―方向転換の背後にあるもの―
ロシアNIS経済研究所 次長
坂口泉
はじめに
1.生産・販売等の状況
2.設備投資プログラムの変更
3.極東・東シベリア重視の傾向
4.その他のプロジェクト
5.ガスプロムに与えられた恩恵
おわりに
はじめに
経済危機の後、特に2009年に入ってからガスプロムを取り巻く環境が激変した。たとえば、内外市場でのガス需要の低迷傾向が顕著になった他、ガスプロムにとって極めて重要な意味を有するガスの輸出価格も2008年第4四半期をピークに下落傾向に転じた。
ガスプロムは、ガスの輸出価格水準が高かったこともあり、2008年末ごろまでは経済危機の影響を実感しておらず強気の姿勢を崩さなかったが、2009年に入り態度を一変させ、経営環境が急激に悪化したことを素直に認め設備投資額の縮小を検討し始めた。そして、結局、上流サイドのプロジェクトを中心に設備投資額が大幅に削られることになった。既存の大規模ガス鉱床(複)でのガス生産量が2011年以降急激に減少する可能性が高いといわれている関係で、2008年末まではヤマル半島のボヴァネンコヴォという新鉱床の開発がガスプロムにとっての最優先課題とされていたが、同プロジェクトへの設備投資額も大幅減額となった。一方、極東パイプライン(以下、PL)に代表される下流サイドのプロジェクトの中には逆に設備投資額が増額となったものも存在する。
筆者はボヴァネンコヴォ鉱床の開発はロシアのガス分野にとって死活的な意味を有する重要なプロジェクトだと認識していたが、そのプロジェクトが軽視され、内政的あるいは地政学的には重要かもしれないが経済的観点から見ると非常に不透明な点が多い極東PLプロジェクトが重視され始めたことに衝撃を受けると同時に、ある疑問を抱いた。それは、「何がガスプロムの大幅な方向転換につながったのか、そして、その方向転換がガスプロムに何をもたらすのか」という疑問である。
本稿では、2009年に入ってからのガスロムの経営環境の変化、最重要プロジェクトとなった極東PLをめぐる動き、その他の主要プロジェクトをめぐる動き等を振り返り、当該の疑問に対する答えを模索してみたい。
モスクワの出稼ぎ労働者たちはいま
富山大学極東地域研究センター 教授
堀江典生
1.危機のなかの出稼ぎ労働者
2.ロシアの外国人労働市場の現在
3.外国人労働許可制度の虚実
4.課題の多いロシアの外国人労働者市場
ミニレポート
ロシア・ビール業界にも不況の波
はじめに
1990年代後半から急成長を続けてきたロシアのビール市場に変化の兆しが見え始めている。ごくわずかとはいえ、2008年の消費量は実に12年振りに前年割れとなった。特に、これまで市場の成長を牽引してきた大都市部の落ち込みが激しい。2008年9月のリーマンショック以降は不振の度合いが加速しており、2009年上半期の消費量は前年同期比よりも5.6%減少した(ロシア連邦国家統計局発表の数字)。
本稿では、経済危機以降のビール市場の概況と主要なビールメーカーの動きを紹介する。また、同時に、今後の市場動向に大きな影響を及ぼす可能性が高いビールの物品税をめぐる動きについても紹介する。(坂口泉)
ミニレポート
欧州諸国ほど落ち込み大きいロシア・NIS経済
―IMFの『世界経済見通し』から―
はじめに
国際通貨基金(IMF)は10月1日、『世界経済見通し』の2009年10月版を発表した。この資料を眺めてみると、今般の経済・金融危機の深甚さが改めて痛感されるとともに、国や地域ごとの状況の違いが浮き彫りとなる。
そこで、この小レポートでは、世界各国の経済成長率を概観し、そのなかにおけるロシア・NIS諸国の位置付けを検証する。また、IMFがロシア・NIS経済について示している分析を、要約して紹介する。
データバンク
2009年版ロシア大企業ランキング
はじめに
ロシアの経済週刊誌『エクスペルト』(2009年10月5-10日号、No.38)に、毎年恒例のロシア大企業ランキングが掲載されているので、本誌でも早速これを抜粋して紹介するとともに、解説をお届けする。
データバンク
2009年1〜9月の日ロ貿易
―遅々とした回復の歩み―
はじめに
日本財務省発表の貿易統計により、2009年1〜9月期の日本とロシアの貿易動向が明らかになったので、当会では早速それをドル換算するとともに、表にまとめた。以下では、その資料を掲載するとともに、解説をお届けする。
ビジネス最前線
ロシア塗装市場に広がる大きな可能性
アネスト岩田株式会社
塗装機部自補修グループマネージャー
小田 耕太郎さん
モスクワ駐在員事務所長
脇野 豊さん
はじめに
アネスト岩田の「アネスト」とは“Active & Newest Technology”の略。常に活力と新規性のある技術の開発を目指すというポリシーから名づけられました。同社の主力製品のひとつが自動車補修用の塗装機器(スプレーガンとエアブラシ)。これまでアネスト岩田は欧州と日本からロシアへ製品を供給してきましたが、「お客様により近いところでサービスを」とモスクワ事務所を設立しました。今回は、ロシア向け販売の現状と将来の見通しについて、同社の海外事業を担当されている小田さんとモスクワ駐在員事務所長の脇野さんより、お話を伺いました(文中敬称略)。
ミニレポート
日本海沿岸諸港の対ロシア物流拡大への取り組み
はじめに
中国をはじめとする日本海対岸諸国が日本の貿易パートナーとしてますます存在感を強めていることから、貿易貨物が太平洋側の港湾から日本海側の港湾に徐々に移り、「やがて日本海物流の時代が到来する」との指摘もある。中国の躍進のほかに、近年のロシア経済の急成長ぶりもそうした見方に一定のリアリティを与えるのに一役かっている。
成長するロシアとの貿易・物流の拡大に向けて、ここ数年、日本海側の各自治体では、航路開設や貿易貨物の発掘など官民をあげて様々な施策に取り組んできた。本稿では、そうした事例を各港湾ごとにを紹介することとしたい。
(中居孝文)
クレムリン・ウォッチ
統一ロシアはクレムリンの頭痛の種?
10月11日にロシア全国で統一地方選挙が行われました。知事など、連邦構成主体の首長は大統領による任命制に変わっていますから、対象は地方議会と下位自治体の行政首長の選挙です。
上位地方自治体の議会選挙が行われたのは、モスクワ市、マリエル共和国、トゥーラ州の3地方だけで、その他は下位自治体の首長と議会の選挙でした。うち、アストラハン、グローズヌイ、ユジノサハリンスクの3州都で市長選挙が、また10の州都で議会選挙が行われました。全国的な注目を集めたのはこの16の選挙でした。
この選挙では、統一ロシア党が圧勝しました。3州都の市長選挙を独占、上位自治体の議会選挙では、統一ロシアが、マリエルで64%(32%)、トゥーラでは55.4%(22%)、モスクワでは66.26%(47.3%)を獲得、モスクワの場合、共産党が13.27%で第2位、その他の党が議席配分ラインに達しなかったので、この両党で議席を分けました。(月出皎司)
エネルギー産業の話題
タタルスタンの新製油所建設計画
タタルスタン共和国を拠点とする石油会社「タトネフチ」の子会社のTANEKOは、現在、同共和国のニジネカムスクに新製油所を核とする石油化学コンプレクスを建設するプロジェクトに取り組んでいます。今回は、同プロジェクトと、やはりタタルスタン共和国を拠点とするTAIF社傘下の製油所の改修計画についてご紹介いたします。
自動車産業時評
2009年上半期のロシアのトラック市場
今回は、『アフトビジネス』誌(2009.7-8月号)で紹介されている数字をベースに、2009年上半期(一部、1〜7月期の数字も含む)のロシアのトラック(小型商用車を含む)の生産および輸入の状況をご報告いたします。
ロシアビジネスQ&A
ロシアの通信販売市場
ロシアの国土は広大で、都市と都市の距離が離れていて、しかも地方都市は人口が少なく、小売業の経営には厳しい条件であったため、古くから郵便を利用した通信販売が発達していました。
ソ連時代には雑誌・書籍などの出版物のみが通信販売の対象となっていましたが、ここ数年は、消費の活性化とインターネットの発達により、これまでにない新しい形態の通信販売も現れてきました。
今回はロシアの通信販売の現状についてサンクトペテルブルグでコンサルタント業をなさっているアレクサンドル・ゲルツェフさんに答えていただきました。