ロシアNIS調査月報
2014年5月号
特集◆第6回フォーラムと
日ロ経済関係
特集◆第6回フォーラムと日ロ経済関係
イベント・レポート
第6回日露投資フォーラム開催報告
調査レポート
1%台の成長に留まった2013年のロシア経済
調査レポート
ロスネフチが目立った2013年ロシア石油ガス業界
ビジネス最前線
ロシアで「日本食」メニューを広げたい
キーパーソンに訊く
ロシアと日本の企業家には多くの共通点が
データバンク
2013年の日ロ貿易
―過去最高ながら自動車縮小で輸出減―
モスクワ便り
日露投資フォーラムとウクライナ危機
ロシア極東羅針盤
極東石化事業で頭をもたげる環境問題
自動車産業時評
2013年のロシア商用車市場
ロジスティクス・ナビ
ロシア港湾コンテナ物流動向
ドーム・クニーギ
『ロシアのことがマンガで3時間でわかる本』

研究所長随想
ウクライナ騒乱に思う
ロシア首長ファイル
ザバイカル地方イリコフスキー知事
ユーラシア産業紀行
世界最大の航空機の生誕地キエフ
ウクライナ情報交差点
ウクライナの天然ガス消費構造
中央アジア情報バザール
中央アジアの首相群像
日ロ異文化遭遇の日々
立場重視の日本人と個人としてのロシア人
業界トピックス
2014年3月の動き
◆関西広域連合・鳥取県主催「ロシア商談会」
通関統計
2014年1〜2月の通関実績


イベント・レポート
第6回日露投資フォーラム開催報告

はじめに
 3月19日(水)、東京のホテル・ニューオータニにおいて、「第6回日露投資フォーラム」が開催された。主催は経済産業省、ロシア経済発展省、日露貿易投資促進機構で、ロシアNIS貿易会をはじめとする日ロ双方の多数の機関が後援した。以下では、フォーラムの事務局を務めたロシアNIS貿易会より、フォーラムの開催記録を取りまとめてお届けする。
 日露投資フォーラムは、日本企業のロシア市場進出と投資の拡大を目的としており、2006年9月にサンクトペテルブルグで開催された第1回から、2012年6月カザン開催の前回まで、日ロ交互にこれまで計5回実施されてきた。そして、第6回の今回は、日本側550名超、ロシア側450名超、報道約100名が参加登録し、過去最多の規模となった。
 午前のオープニングセッションでは、日ロ両首脳のメッセージが代読披露された。両国主催者代表挨拶、来賓・後援団体代表挨拶の後、「ロシアの投資環境の改善と日露投資協力の新分野の開拓」をテーマに、パネルディスカッションが開催された。それに続き、民間企業等により計12本の合意文書等が交換された。
 午後は、8つのテーマに分かれて、分科会が開催された。また、分科会と並行し、事務局(ロシアNIS貿易会)の仲介により、日ロ企業間による約20件の個別商談会(ビジネスマッチング)が行われた。同時開催イベントとして、ロシア農業省投資プロジェクト展示会も開催されている。


1%台の成長に留まった2013年のロシア経済

北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター 教授
田畑伸一郎

はじめに
 ロシアの経済成長率は、2010〜2012年には3〜4%台であったが、2013年には1.3%に急落した。この主因は、家計消費の増加率の鈍化と投資の減退である。投資の減退は、パイプラインをはじめとするエネルギー関連の投資が大きく落ち込んだことによっている。原油価格が上昇していないために、輸出入も低調な結果に終わり、経常収支の黒字が半減した。国家予算についても、石油・ガス収入以外の歳入が、経済の低迷により見込みを下回った。2014年は、投資をはじめとして、経済の回復が期待されていたが、ウクライナ情勢によって見通しが立たない状況となっている。


ロスネフチが目立った2013年ロシア石油ガス業界

ロシアNIS経済研究所 部長
坂口泉

はじめに
 2013年の石油分野は良くも悪くもセーチンを中心に動いたといえる。3月には国営石油会社「ロスネフチ」による大手民間石油会社「TNK-BP」の買収取引が最終的に成立し世界的話題となった。その仕掛け人は燃料エネルギー分野における国家の影響力を最大限強化するという野望を抱くセーチンであった。また、春以降、ロスネフチと国営PL輸送会社「トランスネフチ」がマスコミを通し互いを激しく非難し合う異例の事態が生じたが、そのきっかけを作ったのはセーチンのあまりにストレートな言動であった。さらに、夏には中国への依存度を過度に強める可能性のある石油の長期輸出契約が締結された。それを主導したのも、やはり、中国への警戒心が希薄なセーチンである。その他、夏以降、ロスネフチの前社長のフダイナトフが設立した新会社がロシアの石油関連資産の買収を積極的に展開し始めた。その背後にはセーチンが控えているのではないかとの噂が業界内では絶えない。
 ガス分野に目を転じれば、LNG輸出プロジェクトを巡る活発な動きが目立った。たとえば、2月にはロスネフチとエクソンモービルが極東地方にLNGプラントを建設することを検討していることが明らかとなり話題となったし、ヤマルLNGプロジェクトも進展を見せた。また、年末から2014年の初めにかけては、サハリン2のプラントの第3トレイン建設をめぐり大きな動きがあった。
 その他、2013年は、石油分野においてもガス分野においても、新鉱床・鉱区の開発促進を目的とする税制上の特典供与の動きが目立った年でもあった。本稿では、セーチン、LNG輸出プロジェクト、税制上の特典といったキーワードを意識しながら、2013年の石油ガス分野を回顧する。


ビジネス最前線
ロシアで「日本食」メニューを広げたい

ロシア味の素社
社長 杉本大介さん

はじめに
 味の素鰍ヘ今年3月末よりモスクワならびにサンクトペテルブルグにおいて、日本食を提供するレストランを中心とした外食市場向けに冷凍野菜餃子「Vegetable Gyoza」の販売を開始しました。グループ会社である「タイ味の素冷凍食品社」がタイで生産したものを、「ロシア味の素社」が輸入・販売しています。味の素社は、ロシアにおいて中間層が拡大していること、それに伴って外食市場が大きく伸び、日本食レストランに限らず、日本食メニューが人気であることに注目。ロシアの伝統料理「ペリメニ」に似た餃子の販売を決定したそうです。同社は今後、ロシアにおける食品事業を拡大していく計画ですが、その背景にはソ連時代まで遡る長い歴史があることを忘れてはいけません。今回は、味の素社のロシア法人である「ロシア味の素社」社長、杉本大介さんより、味の素社のロシア事業についてお話しいただきました(前半は「Ajinomoto-Genetika Research Institute」の大西副社長にお聞きしています)。 (芳地隆之)


キーパーソンに訊く
ロシアと日本の企業家には多くの共通点が

「実業ロシア」共同議長
A. レピク

はじめに
 3月半ば、日ロ投資フォーラムの数日前にモスクワで、「実業ロシア」のレピク共同議長(国際交流担当)にお話をうかがいました。実業ロシアは、プーチン大統領の肝いりで、2001年に設立され、ROTOBOとは2012年11月に協力覚書を交わしています。実業ロシアは、非資源部門の企業を構成員とし、71の地域支部、75の産業部門別支部を擁し、広範囲に実業界の意見を聴取し、政府に対して、投資環境改善のための提言を行うなど、現在ロシアにおいても最も活発に活動を展開する経済団体です。レピク共同議長は、いまやロシア有数の製薬会社に成長し、日本の大手製薬会社とも協力関係にある「Rファルム」の創設者であり、代表取締役でもありますが、経済団体の長として、また、成功した企業家として、現在のロシアのビジネス環境、投資環境をどのように見ておられるか、また、今後の日本との関係をどのように考えておられるかをお聞きしました。(岡田邦生)


データバンク
2013年の日ロ貿易
―過去最高ながら自動車縮小で輸出減―

はじめに
 例年どおり、日本財務省の貿易統計にもとづいて、2013年の日本とロシアの貿易に関し、データをとりまとめて紹介する。当会ではすでに、『ロシアNIS経済速報』2014年2月5日号(No.1618)において、2013年の日ロ貿易を速報値で紹介済みだが、本レポートでは確定値を掲載する。(服部倫卓)


モスクワ便り
日露投資フォーラムとウクライナ危機

はじめに
 3月19日、日ロ間の恒例イベントとなった第6回日露投資フォーラムが東京で開催された。具体的な内容については、本誌巻頭の記事に詳しいので、そちらをご覧いただきたい。ここでは、やや舞台裏的な話や個人的な評価を含めて、今回のフォーラムを終えて感じた印象を述べることにしたい。(中居孝文)


ロシア極東羅針盤
極東石化事業で頭をもたげる環境問題

 昨年、ロスネフチは、石油精製・石油化学プラントの建設場所をエリザロフ岬に変更することを決めた。3月に東京で開かれた第6回日ロ投資フォーラムで、ロスネフチのセーチン社長は、日本企業との協力でプロジェクト実現に強い意欲を示した。計画では、生産能力3,000万tの最新鋭のプラントをエリザロフ岬に建設する。同時に積み出しターミナルや発電所もつくり、一帯を総合的に開発する。2020年の第1フェーズ生産開始を目指すとしているが、環境影響審査や公聴会など着工前の準備段階で、工事は行われていない。(齋藤大輔)


自動車産業時評
2013年のロシア商用車市場

 ロシアの調査会社「ASMホールディング」より、2013年のロシアの商用車(トラック、バス、小型商用車)の生産、販売、輸入に関するデータを入手することができましたので、今回は、それらのデータをもとに2013年のロシアの商用車市場の状況をご紹介することにします。(服部倫卓)


ロジスティクス・ナビ
ロシア港湾コンテナ物流動向

 資源王国ロシアにおいて港湾や鉄道におけるコンテナ貨物シェアは小さいのですが、それゆえに成長の可能性が大きいと見られています。マクロ経済の減速傾向がみられた2013年の港湾実績からコンテナの動向を読み解きます。(辻久子)


ロシア首長ファイル
ザバイカル地方イリコフスキー知事

はじめに
 モスクワから東に約6,000km、東シベリアの南東部に広がるザバイカル地方は2008年3月にチタ州とアギン・ブリヤート自治共和国が合併して誕生した。地域経済は83構成主体中52位と発展した地域とは言えないが、主要な鉄道(シベリア鉄道およびバム鉄道)や幹線道路の通過点として国内の物流にとって重要な地域である。
 また、ザバイカル地方はその南側でモンゴル・中国と国境を接しており、ロシアが近年力を入れているアジアと隣接している。つまり、対外的、地政学的に重要な地域だと言える。
 ザバイカル地方では2013年9月の統一地方選挙で新しい知事が就任した。元連邦下院議員でサハ共和国出身のコンスタンチン・イリコフスキーだ。最近の傾向としては珍しく、ザバイカル地方とは縁もゆかりもない。そして、数少ない統一ロシア出身ではない、知事である。本稿ではイリコフスキー知事について紹介する。(中馬瑞貴)


ユーラシア産業紀行
世界最大の航空機の生誕地キエフ

はじめに
 世界最大の航空機は何かと問われれば、10年ほど前まではジャンボジェット、最近であればエアバスA380の名前が挙がるだろう。しかし、実は、世界最大の航空機はA380ではなく、アントノフAn-225という機種で、ウクライナのキエフで製造された。
 航空機は重力に逆らい重い機体を浮かせることが必要であるが、2乗3乗の法則という重量と翼の面積の関係があり、大型になればなるほど製造が困難になる。An-225の製造には極めて高い技術が必要であったはずである。ウクライナは、ここ何ヵ月かの混乱で遅れた国と認識された方も少なくないと思うが、過去に優れた技術的成果を生み出したポテンシャルのある国であることを、この航空機は示している。(渡邊光太郎)


ウクライナ情報交差点
ウクライナの天然ガス消費構造

はじめに
 ウクライナ情勢はますます混沌の度合を深めているが、このコーナーでは過度に政治的・地政学的な話題は避け、少しでもビジネスのヒントになるような経済関連情報を、なるべく粛々とお伝えしていきたいと思っているわけである。
 さて、ウクライナの政治・経済危機、ロシアとの関係悪化を受け、ロシアのウクライナ向け天然ガス供給の問題が、またも尖鋭な焦点となっている。ただ、需要サイド、つまりウクライナ国内でガスがどのように消費されているかということについては、情報が少ないので、今回はこれについて語ってみたい。(服部倫卓)


中央アジア情報バザール
中央アジアの首相群像

はじめに
 独立から20年以上、同一人物が大統領を務める中央アジア(2度にわたる政変の後、議院内閣制に移行したキルギスと前大統領の病死によって大統領が交代したトルクメニスタンを除く)では、権威主義体制が色濃く残るが、高齢化に伴い、最近はその去就が注目される。そんな中、大統領が首相を兼任するトルクメニスタンを除く4か国は、ロシア同様に大統領が議会の承認の下で任命する首相が政府の長を務め、大統領後継者候補の一人として注目される。
 折しも、2014年4月、ほぼ同じタイミングでカザフスタンとキルギスの首相が交代した(アルメニアもほぼ同時であった)。また、昨年10月に行われた大統領選挙後、タジキスタンでも新首相が登場した。
 そこで今回は大統領の側近として国内で有力な政治エリートである各国の首相を紹介する。(中馬瑞貴)