中央アジア+日本

 

 2004年8月25日から31日にかけて、日本の川口順子外相(当時)がウズベキスタン、カザフスタン、タジキスタン、キルギスの中央アジア各国を訪問した。ここでは、訪問中に行われた政策スピーチ「新たな次元へ:中央アジア+日本」と、アスタナの外相会合で発表された共同声明のテキストを紹介する。


川口順子外務大臣による政策スピーチ「新たな次元へ:中央アジア+日本」

 “Adding a New Dimension : Central Asia plus Japan”

 2004年8月26日、於世界経済外交大学;ウズベキスタン、タシケント)

 

 ご列席の皆様、

 

 本日、皆様にお話するために、このタシケントの地に来ていることを本当に嬉しく思います。私の中央アジア歴訪はウズベキスタンから始まったばかりで、この後、カザフスタン、タジキスタン、そしてキルギスを訪問する予定です。私は、今回、この地域を出来る限りこの目で見、そして私達の数ある絆をより強化する機会を得たことを喜んでいます。

 

中央アジアと日本との関係再構築の時

 皆様がよくご存知のとおり、日本と中央アジアの繋がりは千年以上も前に遡ります。日本が取り入れた文明の相当部分は中国の西に広がる「西域」を起源としています。この「西域」とは、とりもなおさず現在の中央アジアを中心とする地域です。この地域は単なる「通り道」ではなく、オアシスと草原、すなわち、都市文明と遊牧文明を基盤とする東西・南北の文明の融合・発祥の地でした。11世紀、ブハラ生まれのイブン=シーナーは『医学典範』を著し、西欧医学に多大な影響を与えました。さらに14世紀に下ると、ティムール帝国の首都サマルカンドでは素晴らしいイスラム建築が開花し、偉大な天文学者により正確な天体観測が行われました。このように、人類の歴史上長らく文明の一大中心地であったこの中央アジアは21世紀の今日、再び、再生・発展の過程にあります。私は、今また、この中央アジアと日本との間に新たな関係を再構築する時が来たと感じています。

 

これまでの日本と中央アジアの関係の発展

 1991年末の独立により、それ以前には外部の世界との交流が少なかった中央アジアの人々や文化の持つ大変豊かな多様性について、日本国民は再認識させられました。そして1997年には、中央アジアに対する日本の政策である「シルクロード外交」が発表され、爾来、日本は「政治対話」、「経済及び資源開発協力」、そして「平和の構築」という3つの柱を中心として、中央アジア諸国とのより強力な二国間関係を構築することに力を注いできました。その頃から、草の根レベルでも、日本国民の中央アジアへの関心に高まりがみられ、一例を挙げれば、ウズベキスタンとの間だけでも日本には民間友好団体が少なくとも7つあります。このように、13年の間に中央アジアと日本との間の結びつきの質と幅、文化の相互理解の面で大きな進展がありました。

 日本とこの地域との経済関係はこれまで13年の間に5倍以上に拡大してきました。日本は、中央アジアの経済・社会的基盤を一層強化する上でインフラの整備が引き続き極めて重要であると考えていますが、日本のこの地域に対する協力はインフラの発展のみに留まらず、人的資源の開発にも積極的に取り組んできました。中央アジアから約2,600人の研究者や研修員を日本に受け入れ、また、日本から約600名の専門家や政府派遣ボランティアを派遣してきました。このようなかたちで、累計で日本はこれまで中央アジアの基礎生活分野や、インフラ、またキャパシティ・ビルディングを支援するため、約2,600億円、約24億米ドル相当を供与して協力を行ってきました。

 

市場経済化に向けた改革の重要性

 経済発展は、国の独立を確かなものとすると共に、国民の生活を安定させる鍵であり、国造りの基礎です。その実現のために最も重要なのは、市場原理に基づく活力ある経済体制の構築です。中央アジア各国に今最も必要なのは、このような市場経済化に向けた一層の努力です。日本は、このような中央アジア各国の自発的努力を支える様々な支援を引き続き行っていく考えです。

 

エネルギー、環境

 中央アジアは、豊富なエネルギー資源と識字率90%以上の人的資源に恵まれ、この地域の潜在力が実に大きいものであることは明らかです。私は、日本が中央アジア諸国を更に支援していくための様々な方法を考えるにあたり、「エネルギー」と「環境」が鍵となる二つの分野であると考えます。中央アジアには、未開発のエネルギー資源の発見が続いています。中国、インドといったアジア諸国を中心に国際エネルギー需要の増加が見込まれる中で、それに見合う供給源の多様化が課題となっています。また、市場のグローバル化の進行に伴って、国際エネルギー市場の安定が一層求められています。日本は、2年前にシルクロード・エネルギー・ミッションを派遣しましたが、当時に比べても、中央アジア地域のエネルギー資源の安定供給が一層重要となってきています。この地域における資源開発を促進する外国直接投資を呼び込む環境を整備する上で、中央アジア各国における法的枠組みの一層の整備が期待されるところです。同時に、この地域には既に多くの困難な環境面での課題があり、将来の繁栄に向けての道のりにおいて、環境問題は無視できません。この地域のエネルギー資源は、環境に配慮されたかたちで開発されなければなりません。

 日本は、これらの課題に対し、様々な方法で支援を行っていくことができます。例えば、外国からの直接投資の促進や、よりクリーンで環境に優しいエネルギーの利用などの環境保護措置を促進する法制度の構築への支援もその一つです。19601970年代にかけての日本経済の高度成長の裏では、多くの極めて深刻な環境問題がありました。これらの中には、今になって、ようやく解決が図られつつあるというものもあります。日本は、その経験と知見を基に、環境保護を図りつつ経済的目標を達成できるような方途を見いだせるよう多くの国に対して支援を行ってきた実績があります。

 水の問題や放射能に関する問題も、日本の地理的条件や歴史から、日本国民の心に特に訴える力の強い問題です。例えば、日本の人々、特に日本最大の湖である琵琶湖周辺の人々は、アラル海の環境上の悲劇について認識を深め、また懸念を共有しています。セミパラチンスクもまた日本国民によく知られています。来月には、セミパラチンスクについての関心を高め、関連の慈善事業の資金を集めるためのコンサートが広島で開催される予定です。

 

人権、民主化支援

 この地域の安定と繁栄の問題を考える時、中央アジアの人権や民主化の進展が重要であることを強調したいと思います。日本は、歴史を通じて独自の文化的伝統を保ちながら、人間の尊厳を尊重しつつ民主化を進めてきた経験を有しており、今や世界でも最も自由な国の一つとなっています。私は、人権や民主主義は、各国独自の文化的・歴史的背景の中で実現することが可能だと考えており、この分野においても私達の経験や知見により貢献していきたいと思っています。

 

制度改革の重要性

 中央アジア諸国は、数千年に及ぶ伝統を誇っていますが、真に伝統に根ざすものと単に既存の権益として過去から受け継がれてきたものを区別することは重要です。既存の制度を改革していくことには、かなりの心理的、政治的な勇気が必要です。日本でも、かつて明治維新に伴ってサムライたちへの俸給支払いを廃止した時に、また第二次大戦後の農地改革の時に社会的な激動を経験しています。農地改革の結果土地を失った地主が多数発生したように、改革は多くの場合痛みを伴うものですが、これらの改革なしには、今日のような日本の発展はなかったでしょう。

 

戦略環境の変化と日本の中央アジアへの姿勢

 もちろん、私達がコントロールできない変化も数多くあります。9.11同時多発テロ事件の結果として生じた国際的な安全保障に関する広範な変化は、その例の一つです。中央アジアは、突如自らが地域戦略環境の劇的な変化の真只中にいることを認識させられました。断固として申し上げますが、日本は中央アジアに対して何ら利己的な目的を有していません。武力行使とは無縁で、中央アジアとの間に政治的、領土的、その他潜在的な紛争の種を一切有していない日本は、中央アジアにとって「自然なパートナー」です。そして、そうなる基礎は既に存在します。中央アジアの地政学的重要性に鑑み、その平和と安定がユーラシア大陸全体の平和と安定に影響を及ぼすという観点から、日本はこの地域の平和と安定に重大な関心を有しています。

 

地域内協力の重要性

 世界中のいろいろな地域で、地域統合への潮流が既に始まっており、世界の中でも最も高い経済成長を誇る東アジアでは、日本、ASEAN、中国、韓国による経済的統合に向けての胎動が始まっています。

私は、中央アジア各国が、自らを取り巻く大きな戦略環境の変化を踏まえ、ASEANの各国がかつてそうであったように、自ら、地域内協力に向かって具体的に取り組んでいくことが極めて重要になってきていると考えます。中央アジアの国々は、それぞれに固有の文化、言語、歴史を有していることは疑いありません。その一方で、地域内で共有しているものもふんだんにあり、それらは協力に向けた戦略を立てていく上で、大きな潜在力を生み出すものです。私は、個々の違いを尊重しながら、地域の力の強化を指向することは、まさに国際社会のこの地域に対する尊敬を高め、また各国の独立をも強化するものとなると考えています。

 例えば、ASEANは、地域協力の長い歴史を有し、ASEAN自由貿易圏(AFTA)実現に向けて全般的な関税引下げ、関税手続の標準化を進めています。この地域の大きな協力の枠組みとして発展してきたAPECでは、ビジネス・トラベル・カードを持てば、査証なしで地域内を旅行できる仕組みが既に運用されています。また、旧ユーゴスラビアを構成していたボスニア・ヘルツェゴビナ、クロアチア、マケドニア及びセルビア・モンテネグロ、そしてアルバニアといった西バルカンの国々では、民族間で血まみれの闘争が行われた悲劇的歴史にも拘わらず、現在では、各国が、国境の安全確保、自由貿易協定の締結等に取り組み、自ら前進しようとしています。本年4月、日本は西バルカンにおける平和の定着、経済発展及び地域内協力の促進に向けて、東京において閣僚会合を開催する等、西バルカン諸国の努力を支援する取り組みを続けてきています。もちろん、西バルカン地域と中央アジア地域の事情は大きく異なりますが、中央アジアにおいても地域内協力により、輸送、エネルギー、水、テロ、麻薬及び環境といった問題の解決を図ることを通じて、5,500万人の人口により中央アジア地域の共通市場が生まれれば、経済力の一層の強化を促すための大きな力となるでしょう。将来的にはアフガニスタンとの結びつきの回復も一つと課題となるでしょう。

 

「中央アジア+日本」

 中央アジア諸国自身も地域内協力の重要性を十分に認識しており、多くの分野における潜在的な協力の可能性について、既に様々な考えが芽生えてきています。このことを念頭におきつつ、私は、中央アジア地域の安定と発展の双方を促進していくために日本ができることは何かということについて、特別の関心を払ってきました。この地域の今後の努力に対する私の大きな希望と期待を表明するために、私は全ての中央アジアの外相との会合を提案しました。私は、2日後にアスタナで開かれるこの会合に中央アジアの全ての国が参加する運びとなったことを喜びをもって皆様にお伝えします。中央アジア諸国が地域の安定と繁栄という共通の利益のために地域内協力の推進に努められるのであれば、日本は、そのようなアプローチを支持、支援していく用意があります。

 

3つの基本原則

 「中央アジア+日本」の対話や協力は、「多様性の尊重」、「競争と協調」、「開かれた協力」という3つの基本原則に基づいて行われることになりましょう。多様性の尊重の重要性については既に述べたとおりです。また、市場原理主義の下では、経済主体が自由に競争できることが鍵ですが、地域の中のどこでも同じように自由に活動できてはじめて、地域全体としてより大きな成長が可能となります。地域内格差は、中央アジア地域全体の安定にとり害のある状況を生み出しかねません。そのため、各国間の協調についても議論される必要があります。さらに、地域内の協力は中央アジア各国が相互に排他的になることなく進めることで実を結ぶことができると考えます。また、このような中央アジアの域内協力を支援する日本の協力も、開かれたかたちで進めていきたいと考えます。「中央アジア+日本」を一つの選択肢、新たな次元の協力として捉えて頂ければ幸いです。

 

人と人とのふれあい

 私達が、これらの新しい協力方針に沿って進んでいくにあたり、物質的な交流を越えた人と人とのふれあいを育んでいくという私達の取り組みを更に強化していきたいと考えています。ここ数年間の間に顕著になってきている中央アジアと日本との間の人と文化の交流の流れは、双方向で拡大、強化されねばなりません。このために、私は、本日ここに、今後3年間にわたり、中央アジア諸国から新たに1,000名以上の研修員を日本に受け入れることを表明したいと思います。私達は、双方の間の絆を編み上げてきたこれまでの広範な協力と相互の尊重の上に、更に実績を積み上げていくことが可能ですし、またそうすべきであります。

 

結び

 「全体はしばしば個々の構成要素の合計よりももっともっと大きな可能性を秘めている」ということに皆様は同意されるでしょうか。中央アジアが地域内協力に取り組むことによって、各国が個別にのみ取り組む場合より、もっと早く、そしてもっと着実に安定や繁栄を達成できると考えています。そして、「中央アジア+日本」のアプローチもこうした考えに基づいています。私達は、私達の関係を新たな高みに引き上げ、私達の交流に全く新たな次元をもたらすことができるでしょう。皆様がかつてオアシス文明と草原文明の協力と調和を基礎に、偉大な文明を築かれたように、今また新たな地域内協力を通じて、大いなる発展を遂げられることを期待します。こうした協力が実現し、その先に大いなる発展が待っていることを私は確信しています。

 

 ご静聴ありがとうございました。

 


 

「中央アジア+日本」対話・外相会合/共同声明(仮訳)

−新時代を迎える日本・中央アジア関係−

 (2004年8月28日、於アスタナ)

 

 日本国外務大臣並びにカザフスタン共和国、キルギス共和国、タジキスタン共和国及びウズベキスタン共和国の外務大臣は、2004年8月28日にアスタナにおいて会合を行い、日本と中央アジアとの今後の協力について討議した。

 各国外相は、ここに新たな協力の枠組みとして「中央アジア+日本」対話が立ち上げられ、日本と中央アジアの関係が新たな段階に引き上げられたことを歓迎し、以下について認識の一致を見た。

 

(1)基本原則と価値観

@各国外相は、中央アジア地域の平和と安定が、ユーラシア、ひいては国際社会全体の安定と繁栄にとり極めて重要であるとの認識で一致した。

A各国外相は、これまで日本と中央アジアとの間の関係、協力が着実に進展してきたことを評価した。

B各国外相は、これまで築かれた良好な関係を基礎に、中央アジアと日本の関係の新たな発展の可能性や関係発展のための方途についての不断の意見交換を通じて、今後、協力関係をさらに深化させ、拡大することについて意見の一致を見た。

C各国外相は、中央アジア諸国が、独立後、民主化と市場経済化を目指し、安定と成長に向けた国造りの努力を精力的に推進してきたことが、この地域の安定を保ち、ユーラシアの平和と安定に貢献してきたことに留意しつつ、これらの諸国がテロや貧困を撲滅し、自由で民主的な社会を構築し、着実な経済成長を通じて国民生活の安定と向上を図ると共に、人間の安全保障を確かなものとするために、中央アジア諸国が種々の努力を継続・強化することが引き続き極めて重要であることを確認した。日本国外務大臣は、中央アジア諸国の一層の努力への期待を表明すると共に、このような各国の努力に対する支援の意向を再確認した。

D各国外相は、この地域におけるテロの脅威は依然として高いことに留意しつつ、テロはいかなる理由をもってしても正当化することはできず、断じて許容できないことについて意見の一致を見た。各国外相はこの文脈において緊密な国際協力の強化が最重要であることを再確認した。

E各国外相は、日本と中央アジアが、パートナーとして、この地域の課題及び世界の課題に取り組むことを表明した。

 

(2)日本と中央アジアとの関係の更なる深化と拡大

@各国外相は、日本と中央アジアとの間には、相互の間の歴史的、文化的紐帯に基礎をおく友好関係を更に発展、深化させる確固たる基盤が存在することを再確認した。

A日本国外務大臣は、中央アジア諸国によるこれまでの国造りの努力を評価した。また、中央アジア各国外相は、「シルクロード外交」の下でこれまで日本が行ってきた支援がこれら諸国の平和、安定及び繁栄のために重要な貢献を果たしてきたことに謝意を表明した。

B各国外相は、現下の国際情勢の下で、地政学的重要性を増している中央アジア諸国と日本との協力関係は、中央アジア地域のみならず、国際社会全体の平和と安定に寄与するとの共通の認識に立脚して、日本と中央アジア諸国との間には、以下を含む多くの分野において協力の実績があることを踏まえつつ、今後一層の協力の可能性を探求していく意思を表明した。

                − 平和の定着のための協力

                − 経済・社会開発のための協力

                − 経済交流の拡大とそのための基礎の強化

                − エネルギー、環境問題に関する協力

                − 文化交流の拡大

                − 人物交流・人材育成の円滑化及び促進

 

(3)中央アジア地域における地域内協力の重要性

@各国外相は、中央アジア地域には、テロ、麻薬、輸送、水・エネルギー資源の有効利用、貿易、環境保全など地域を構成する各国の個別の取組によるのみでは解決が困難な共通の課題があるとの認識を共有すると共に、中央アジアの平和と安定及び潜在的に可能な経済的発展による繁栄の実現のためにこれら課題を克服していくべきであることについて意見が一致した。

A各国外相は、また、中央アジア諸国が地域内協力を深めることによってより経済的に意味のある規模の市場が形成され得ることに留意した。会合の参加者は、この目的のために、地域の利用可能な潜在力のより十分な利用、地域の安定的な発展及び地域内協力の深化を促進する中央アジア共同市場を段階的に創るというイニシアティブを実施に移していくことの重要性を強調した。

B各国外相は、このような諸課題に取り組むため、中央アジア諸国が連帯して、地域内協力を深めていくことにより、中央アジア地域全体が、まとまりを持った強靱な共同体として、力強く成長し、繁栄していく可能性があることを確認した。

C各国外相は、アフガニスタンの和平・復興が中央アジア地域の安定と繁栄に不可欠であるとの認識を共有し、同国の和平・復興の実現を支援するための協力を強化するとの意思を表明した。

D中央アジア各国外相は、以上の目的のため、当初は困難が伴っても、地域内協力を一歩一歩具体的に進めていくべきであるとの意思を表明した。

E日本国外務大臣は、以上の諸課題を巡り、中央アジア諸国が相互に協力し合って取り組もうとする努力を支持し、これを支援する旨表明した。

 

(4)国際場裡における協力

@各国外相は、中央アジア諸国の間の連帯は、地域の成長や繁栄をもたらすのみならず、その地政学的重要性に鑑み、国際社会の中で重要な地位を占めることを確認した。

A各国外相は、日本と中央アジア諸国との間で国際場裡における協力(国連を始めとする国際機関における協力を含む。)を強化し、国際的な拡がりを有する諸問題の解決のため建設的に連携するとの意図を共有した。

B各国外相は、国連改革、特に安保理改革の核心は常任・非常任双方の議席数の拡大であることを確認した。中央アジア各国外相は、さらに日本が国際社会において更なる政治的な役割を果たすことへの期待を表明し、日本の安保理常任理事国入りに対して一致して支持を表明した。

 

(5)「中央アジア+日本」対話

@各国外相は、今後、中央アジア諸国と日本との協力を一層促進していくに当たり、今回開始された「中央アジア+日本」対話を、次の基本方針に従って推進していくことを確認した。

                −多様性の尊重

                −競争と協調

                −開かれた協力

A各国外相は、この対話を通じて、以下の目的を追求することを確認した。

                −中央アジア地域の平和と安定、民主主義の強化

                −地域内の格差是正を含む地域の経済基盤強化と改革促進・社会開発

                −中央アジア諸国による地域内協力の強化

                −中央アジアと近隣地域、国際社会の良好な関係の維持・発展

            −地域的課題及び国際的な拡がりを有する課題についての日本と中央アジアとの協力

B各国外相は、新たな対話の下での協力は、中央アジアの自主的な努力を支援し、その経済的強靱性を高め、地域の安定と発展、域内各国の間の連帯を更に強固なものとすることに資することになるとの認識で一致した。

              

(6)今後の対話と交流の促進に向けて

@各国外相は、若い世代を含む幅広い人的交流を促進することを通じて、日本と中央アジア諸国との関係の基盤を一層強固にすべきであることにつき意見の一致を見た。

A各国外相は、「中央アジア+日本」対話を今後種々のレベルで継続していくことで意見の一致を見た。各国外相は、2005年の日本における「愛・地球博」はこのための重要な機会を提供し得ることにつき意見の一致を見た。 

 

2004年8月28

 

                         川口 順子                                                    カシムジョマルト・トカーエフ

                         外務大臣                                                       外務大臣

                         日本国                                                           カザフスタン共和国

 

                         アスカル・アイトマートフ                           タルバック・ナザロフ

                         外務大臣                                                       外務大臣

                         キルギス共和国                                             タジキスタン共和国

 

                         サディック・サフェーエフ

                         外務大臣

                         ウズベキスタン共和国


 

共同声明別添

 

 この文書は、「中央アジア+日本」対話・外相会合共同声明の別添としてその一部を構成し、日本と中央アジア諸国がその関係を更に深化、拡大させ、中央アジア地域、ひいては国際社会の平和、安定及び繁栄に貢献するために協力していくに当たり、これまでの協力の例や分野ごとの課題等に言及しつつ、今後の協力のあり方を検討していく上での参考として作成されたものである。

 

(1)平和の定着のための協力

1)テロ対策

·     日本は、テロ対策の国際協力推進のために2003年3月「アジア地域テロ協議」を東京において開催した(ウズベキスタン、タジキスタン、キルギス、カザフスタンを含む各国のテロ対策関係者を招聘)。

·     テロ対策の強化の一環として各国による国境管理は重要な要素の一つである。

·     日本は、テロ対処能力向上支援の一環として、テロ資金対策、出入国管理、航空保安、税関協力、輸出管理、警察・法執行機関の協力の6分野において世界各国から積極的に研修員を受け入れてきている(2003年度には総計約280名。うち、中央アジアからは67名)。

·     日本は、こうした研修による要員の能力向上、各国専門家間の情報交換に資するセミナー開催等による協力が可能であり、本年より3年間にわたり「司法制度セミナー」を毎年実施し、中央アジア各国の犯罪防止専門家を研修員として受け入れる方針である。

2)アフガニスタン

·     アフガニスタンの情勢は、中央アジアの安定に大きな影響を及ぼし得る。

·     日本は、平和の定着構想の下、和平プロセス、DDR等の治安改善努力、交通インフラ等の復興の全てにわたり、総額約8億ドルのアフガニスタンへの支援を実施してきている。

·     中央アジア諸国と日本は引き続きアフガニスタンの安定と復興、民主的プロセスを通じた統一国家形成のために支援を継続していく。

3)小型武器

·     本年3月、日本は、国連との共催によりアルマティにおいて「中央アジア・小型武器ワークショップ」を開催した(我が国が国連に拠出した国連グローバル地域軍縮信託基金より、会合開催費用を支援した。)。

·     日本は、これまで小型武器問題について主導的な役割を果たしてきた。

·     日本は、中央アジアにおける平和の定着、テロ対策のために、小型武器行動計画の着実な実施や、小型武器の管理体制の強化について協力する用意がある。

4)対人地雷

·     日本は、普遍的かつ実効的な対人地雷の禁止と地雷除去・犠牲者支援の強化のため、犠牲者ゼロ・プログラムの下、対人地雷禁止問題の解決に積極的に取り組んできた。

·     本年11月末に、ナイロビにおいてオタワ条約第1回検討会議が開催される。本条約の普遍化の推進及び地雷問題解決のための重要な機会となる。

·     本年4月、タジキスタンにおけるOSCE地雷除去プロジェクトに関連し、日本は、25万ドル強の支援を実施した。

·     日本は、国連PKO地雷対策サービス部(UNMAS)が管理・運営する国連地雷対策支援信託基金に毎年拠出(昨年は43万ドル、拠出累計額は世界第2位)しており、同拠出金を利用して世界の各地で地雷対策プロジェクトを実施している経験がある。

5)非核化

·     日本は、日・カザフスタン非核化協力委員会に総額約1,600万ドル(177,000万円)を拠出し、国内計量制度の確立、セミパラチンスク核実験場周辺地域の放射能汚染対策に協力している。また、同核実験場周辺地域の支援については、ODA1999年に東京で支援会議を開催した他、専門家派遣、医療機材供与等の支援を実施してきた。

·     日本は、引き続き非核化に向けた努力に支援を継続する用意がある。

 

(2)経済・社会開発のための協力

1)日本からの二国間経済協力

·     日本は、中央アジア諸国に対し、これまで経済・社会インフラ整備、BHN支援、人材育成を中心に約2,600億円(約236,000万ドル)に上る支援を実施してきている(研修員受け入れ約2,600名、専門家・ボランティア派遣約600名)。

·     日本は、今後3年間に亘り、中央アジア地域から約1,000名の研修員を受け入れる方針である。

·     日本は、引き続き各国の援助需要を踏まえつつ、民主化や市場経済化への取組を含め、中央アジア諸国が自らのオーナーシップの下で行う国造りに向けての努力を支援する二国間協力を継続する用意がある。

 

2)国境を越えた地域協力への支援

·     テロ、麻薬、運輸、水、エネルギー、環境、貿易障壁などの地域の共通の課題に取り組む中央アジア各国の努力に対し、日本は、可能な協力を検討する用意がある。

·     ODAの供与に当たっては、今後当該プロジェクトが如何なる形で地域全体に裨益することとなるのかという要素についても勘案されることとなる。

·     日本は、本年より3年間にわたり、水質モニタリング等に関する研修を毎年実施し、中央アジア各国の水専門家を研修員として受け入れる方針である。

·     空港改修(カザフスタン、ウズベキスタン、キルギス)、道路改修(ビシュケク〜オシュ)等既存の実施済み案件を地域協力に裨益させるように利用していく視点も重要である。

·     技術協力に関し、日本は、各国からエネルギー、環境、水などの専門家を本邦に招聘し、分野ごとの「地域別研修」を実施している(中央アジア地域からの昨年度実績は25名)。この地域別研修のスキームは、地域各国の専門家による意見交換、情報交換の場の提供、専門家同士のネットワーク作りにも貢献している。

3)経済協力を円滑に実施するための枠組みの整備

·     これまで日本と中央アジア地域の多くの国との間で草の根・人間の安全保障無償資金協力実施に関する合意が行われている他、日本は、各国との間で技術協力協定の締結を推進してきている。

·     日本は、引き続き、受け入れ各国と技術協力等経済協力を円滑に実施する枠組みの整備について協力していく。

4)経済発展の過程で生じる地域間格差の是正

·     日本は、これまで地域間格差の是正のために、農村等貧困地域に対する支援を無償資金協力、草の根・人間の安全保障無償資金協力を通じて行ってきている。

·     8月20日、中央アジア地域の貧困による子供の養育環境の悪化に対処するため、日本は、UNICEFと共同して、中央アジアの全5カ国において、「人間の安全保障基金」による児童保護プロジェクトを今後3年間に亘り実施(216万ドル)することを決定した。

·     日本は、中央アジア地域の各地において、これまで小学校の修復、病院への機材供与など草の根・人間の安全保障無償資金協力を約300件(2003年まで)実施している。

·     中央アジア地域全体のバランスの取れた経済発展が行われることが重要であり、各国毎、国内の地域間の格差に対しても関心を払う必要がある。

 

5)国際金融機関・関連国際機関との連携、協力

·     日本は、二国間ODAに加え、中央アジアに対し、世界銀行、アジア開発銀行、欧州復興開発銀行の日本信託基金を通じ支援を継続してきている(1999年以降は累計8,800万ドルの支援を実施)。

·     効率的な援助実施のために、国際金融機関、関係国際機関との連携が重要である。

 

(3)経済交流の拡大とそのための基盤の強化

1)法律面等の制度面の整備やその運用の透明性の向上

·     中央アジア諸国における10年以上の国造りの過程で進展してきた法律など制度面の整備を踏まえ、今後は、各国による制度運用の透明性向上を通じ信頼性を更に高めることが重要である。

·     日本は、技術協力、知的支援を通じて貢献の用意があり、経営管理、プロジェクト・ファイナンス、マーケティング等経済関連の研修員を多数受け入れている他、日本センターにおける経済関連セミナーの開催を通じたキャパシティ・ビルディングに協力している。

·     日本は、中央アジア各国のWTO加盟に向けた努力を歓迎し、支持している。日本は専門家の派遣や研修員の受け入れ等で加盟支援を行っている。

·     本年8月、日本とカザフスタンとの二国間WTO加盟交渉においてモノの交渉が実質的に終結したことを歓迎する。日本は、今後も、中央アジア各国のWTO加盟に向けた努力を期待する。

2)経済交流活発化のための情報交換

·     中央アジア全体と日本との貿易量は、1992年の約8,400万ドルから2003年の4億5,000万ドルへと5倍以上に増加した。

·     日本と各国との経済交流活発化のためには、情報交換が重要な要素の一つであり、さらにこれを緊密化していく努力の余地がある。

·     中央アジア諸国は、それぞれ大使館及び日本センターを活用し、自国及び各国の経済情報が相手国の政府、企業、国民に速やかに伝達されるよう努力を払うことが重要である。

3)地域の経済を底上げする中小企業、裾野産業の育成

·     市場経済化の促進、発展のためにも各国による中小企業、裾野産業の育成が重要である。

·     日本は、経済アドバイザー等の専門家派遣、研修員受け入れ、また、大使館、JICA、日本センター等を通じたセミナーやビジネスマッチングにより協力を行ってきており、引き続き各国と共に協力のあり方を探求していく。

4)地域の観光分野の発展や観光の促進

·     日本の援助により中央アジアにおける空港改修のための協力が行われた他、直行便の開設、航空協定の締結を通じ、中央アジアと日本の距離は縮まった。

·     中央アジア地域は、歴史的遺産、豊富な自然資源に鑑み、観光立国としての潜在的ニーズがある。シルクロード観光開発を目指す構想の下に各国が協力し、国際的観光の中心地の一つを目指すことも一案であろう。

·     アジア、欧米等域外からの観光促進に中央アジア諸国が努力することが重要であり、観光産業の人材育成等での協力も探求し得る。200310月、日本は、観光産業に関わる若者達を中央アジア諸国より招聘した。

 

(4)エネルギー及び環境問題に関する協力

1)エネルギー開発

·     カスピ海周辺国の石油、天然ガス資源の重要性は一層高まっている。

·     今後、中国、インドといったアジア諸国を中心に国際的なエネルギー需要の増加が見込まれ、それに見合う供給源の多様化が課題となっている。

·     市場のグローバル化も進行し、国際エネルギー市場の安定が重要である。このため中央アジア地域のエネルギー資源の安定供給が一層重要となっている。

·     この地域のエネルギー資源開発やエネルギーの効率的利用、環境に配慮した持続可能な成長に注意が払われるべきである。

·     日本は、2002年から毎年、エネルギー研修を実施し、中央アジア諸国から研修員を受け入れ、日本のエネルギー利用事情や省エネルギーの取り組み等を紹介している。

2)環境分野

·     環境と経済発展の両立が重要な課題である。

·     日本は、公害、環境汚染等の問題に関する自国の経験を有し、環境分野における法制度などの整備支援を進めてきた知見を有している。

·     日本は、本年から2年度にわたり、環境行政に関する研修を実施し、中央アジア諸国の環境専門家を研修員として受け入れる方針である。

3)効率的なエネルギー利用に向けた協力

·     中央アジア諸国が相互に裨益するようなエネルギー利用を模索することが重要である。

·     日本は、省エネルギーに関する日本の経験の紹介を行う用意がある。

·     日本は、中央アジア諸国と、共同実施やクリーン開発メカニズムなど京都議定書の下で協力できることを期待している。

(5)文化交流の拡大に向けた協力

1)二国間文化交流

·     日本は、これまで中央アジア諸国に対し、文化・高等教育の振興のため、音響、視聴覚機材、日本語学習機材及び文化遺産の保存機材の供与など累計1,000万ドルの文化協力を実施してきている。また、日本文化紹介事業も各国で実施している。

·     中央アジア地域では、急速に日本語学習者が増加しており、現在約4,000名に達している。

·     日本は、中央アジアと日本との関係に深みを与える文化面の協力を今後も継続する用意がある。

2)相互理解の促進

·     文化交流を通じた日本と中央アジア諸国間の相互理解促進のために各国が努力する余地がある。

·     インターネットやマスメディアの利用は、市民に直接発信される点で特に重要であり、日本は、IT分野の技術協力やテレビ番組の提供を通じて協力する用意がある。

3)世界的レベルでの対話の促進

·     東西文明の交流の重要な一翼を担ってきた日本と中央アジアは、今後人類が必要とする世界的レベルの対話に向けて有益な貢献をするべく協力する。

 

(6)人物交流・人材育成の円滑化及び促進

·     日本と中央アジアは、以上の各分野を含む裾野の広い人物交流及び人材育成を推進することで、中央アジア諸国の国造り努力を促進すると共に、日本と中央アジアの協力関係を強化し、両国民の友好関係、親近感を高める。

 

一覧に戻るホーム

©社団法人 ロシアNIS貿易会 無断転載を禁じます