ソ連東欧貿易調査月報

1990年10月号

 

T.ソ連の経済安定化と市場経済移行の基本方向

U.ソ連の新法人税法

V.ソ連の対外経済関係と制度改革

  ―日ソ経済専門家会議 ソ連側代表団講演会より―

W.ソ連外国貿易の分権化

  ―ソ連対外経済国家委員会付属対外経済研究所グリニョフ部長講演会より―

X.ソ連・ペルミ州の経済発展の可能性

  ―ペルミ州代表団講演会より―

Y.サハリン州における経済特区設置への動き

Z.1990年1〜9月のソ連の工業生産実績

[.1990年1〜9月のソ連の畜産実績

\.東欧諸国経済資料

◇◇◇

日ソ・東欧貿易月間商況1990年月分)

ソ連・東欧諸国関係日誌1990年月分)

対ソ・東欧諸国・モンゴル輸出入通関実績

1990年月および1〜月累計)

 


 

ソ連の経済安定化と市場経済移行の基本方向

 

1.選択はなされた

2.主権共和国の経済的相互関係

3.経済健全化と市場経済への移行の論理と諸段階

4.経済安定化措置

5.市場経済形成に関する措置

6.市場移行の条件下における社会政策

7.市場経済への移行の下での構造政策と投資政策

8.管理システムの再編成

 

資料紹介

 ソ連最高会議は、1990年10月19日、市場経済への移行の基本方向を採択した。ここではその全訳を紹介する。テキストは、『イズベスチヤ』1990年10月27日付である。

 


 

ソ連の新法人税法

 

〔解説〕経済改革による企業経営条件の変化

1.経営形態の多様化と国営企業の地位

2.産業の独占的構造

3.企業経営権の自立化

4.資金調達とその運用

「企業、合同体、組織の課税に関するソビエト社会主義共和国連邦法律」

1.利潤税

2.外国の法人のソ連における活動に対する利潤税

3.取引税

4.輸出入税

5.コルホーズ員の賃金フォンド税

6.消費資金支出規制税

7.所得税

8.特別規定

9.納税者の責任と税に関する法律の遵守の監督

 

資料紹介

 1990年6月14日にソ連最高会議において「企業、合同体、組織の課税に関するソビエト社会主義共和国連邦法律」が採択された。今回採択されたこの「法人税法」の骨子は、「所有法案」「土地基本法案」「賃貸借法案」「社会主義企業法案」とともに1989年10月のソ連最高会議において提案されていた経済改革5法案のひとつである「統一税法案」に含まれていたものである。しかし、その後の審議を経てこの「統一税法案」は「所得税法」と「法人税法」とに分けて採択されている。

 すでにソ連では、こうした一連の経済改革関連法が制定されており、次第に市場経済移行への法的環境が整い、従来の企業の国家への行政的従属関係も根本的に見直されつつある。(「ソ連および連邦構成共和国の賃貸借に関する立法の基礎」(1989年11月)、「ソ連および連邦構成共和国の土地に関する立法の基礎(1990年2月)、「ソ連における所有に関する法律」(1990年3月)、「ソ連における企業に関する法律」(1990年6月)、「株式会社および有限会社規程」(1990年6月)、「有価証券規程」(1990年6月))この点で「法人税法」のもつ意味は大きく、今後、企業の自主的経営活動、とくに企業レベルでの資金調達および資金運用の問題など財務問題の重要性が高まると予想される。

 そこで、ここでは、ソ連における企業経営にかかわる問題を中心に経済改革の現況について概観し、あわせて「法人税法」を翻訳、紹介する。

 なお、ここで紹介するテキストは『最高会議・人民代議員大会決定集』(1990年,No.27)による。

 


 

ソ連の対外経済関係と制度改革

―日ソ経済専門家会議 ソ連側代表団講演会より―

 

1.ソ連経済の抱える問題点 A.K.ゴンチャロフ

2.ソ連対外経済活動の改革の現状と将来 V.N.メリニコフ

3.ソ連対外経済の現状と展望 V.O.ウォルコフ

4.質疑応答

 

はじめに

 当会は、日本とソ連の経済・貿易の専門家の意見交換の場として1978年以来「日ソ経済専門家会議」を組織し、日本側代表団をソ連に派遣する一方、ソ連側代表団の受け入れを行ってきた。

 本年も、ソ連代表団として、V.N.メリニコフ氏(国家対外経済委員会総務部第一副部長)、V.O.ウォルコフ氏(対外経済関係省付属景気研究所長)、A.N.ゴンチャロフ氏(同研究所副所長)、D.N.ウォロンツォフ氏(同研究所研究員)の4名が10月7〜17日の日程で来日した。本稿では10月11日に如水会館で開催したメリニコフ、ウォルコフ、ゴンチャロフ3氏による講演会の内容を紹介する。

 


 

ソ連外国貿易の分権化

―ソ連対外経済国家委員会付属対外経済研究所グリニョフ部長講演会より―

 

1.外国貿易独占の歴史

2.連邦レベルのコントロール

3.改革のスタート

4.急増する貿易権企業

5.計画作成の変化

6.まだまだ残る諸問題

7.市場経済への移行

 

資料紹介

 去る9月6日より9日まで、当会ソ連東欧経済研究所より、日ソ経済関係展望事業の一環として、ソ連対外経済国家委員会付属対外経済研究所の受け入れで金森所長を初めとする13名の代表団がモスクワとカリーニングラードを訪問した。

 ここに紹介する論文は、9月6日に日ソの貿易経済関係者約30名が出席して行われた「日ソ貿易関係の諸問題」をテーマとする会議において、「ソ連外国貿易の分権化」について、同研究所グリニョフ部長が行った報告である。

 最近までの貿易独占の歴史、合弁企業等拡大する新形態、なお残る問題点等が数字も交じえて報告されており、たいへん興味深い。

 


 

ソ連・ペルミ州の経済発展の可能性

―ペルミ州代表団講演会より―

 

1.ペルミ州の潜在的経済力 E.S.サピロ・ペルミ州執行委員会副議長

2.地方分権化と対外経済関係 A.A.クリモフ・ペルミ州経済改革委員会議長

〔資料1〕ペルミ州経済の概要

〔資料2〕ペルミ商業銀行の概略と定款

 

はじめに

 当会の招請に応じて、ソ連・ロシア共和国ペルミ州からの代表団が9月末に初めて来日した。この機会に当会は、10月2日に霞が関ビル東京会館で同代表団の団員による講演会を開催した。

 そこで本月報では、E・S・サピロ・ペルミ州執行委員会副議長の講演「ペルミ州の潜在的経済力」と、A・A・クリモフ・ペルミ州経済改革委員会議長の講演「地方分権化と対外経済関係」の内容を掲載するとともに、当会が代表団から入手した「ペルミ州経済の概要」という資料の翻訳とペルミ商業銀行の概略および定款(英文)を併せて紹介する。

 ペルミ州はウラル地方西部に位置し、ソ連の軍需産業の中心地として知られている。これまでは、いわゆる閉鎖都市であったが、ペレストロイカのなかで2年前に初めて外国人に対して開放された。現在ソ連では、膨大な軍事費負担の軽減と消費財の増産が重要となっており、軍需産業の民需への転換の促進が経済改革の柱とされている。ペルミ州もそうした方向への州経済の再編成に着手している。さらに、地方分権化への動きのなかで、地方レベルでの対外経済関係構築の試みも生まれてきた。同州も外国との協力の可能性を積極的に模索し始めており、とくに日本との長期的協力関係の構築に強い関心を示している。

 


 

サハリン州における経済特区設置への動き

 

1.サハリンの改造―私のコンセプト サハリン州人民代議員ソビエト執行委員会議長 V.P.フョードロフ

2.「サハリン州における自由企業活動地域の法的地位」に関する州条例(1990年9月8日、サハリン州人民代議員ソビエト採択)

〈付属資料〉サハリン州自由企業活動地域の法的地位に関するロシアソビエト連邦社会主義共和国法(案)

 

はじめに

 科学アカデミー世界経済国際関係研究所『世界経済と国際関係』誌ボン特派員、プレハノフ国民経済大学国際担当副学長などを歴任したV.P.フョードロフ氏が「サハリンにおける大規模な地域経済実験」の提案を携えで最初にサハリンを訪れたのは1989年夏であった。それから半年あまり、1990年3月にはサハリン全州区選出のロシア連邦共和国人民代議員、同4月にはサハリン州執行委員会議長と、「無名の存在」だったフョードロフはサハリン州行政の最高責任者の地位に着いた。

 以下に紹介する資料のうち、『サハリンの改造一私のコンセプト』は、フョードロフ氏の企図する「地域経済実験」の内容をフョードロフ氏自身が述べたものである。『サハリン州における自由企業活動地域の法的地位』に関する州条例は、フョードロフ構想の実現に向けて、1990年9月8日にサハリン州人民代議員ソビエトが採択したものである。しかし、同地域内での外貨の流通に関する条項(第25条)のように、フョードロフ議長とソビエトの立場が一致しない点も見受けられる。

 なお、この条例はロシア連邦共和国最高会議に送付されたが、同会議国際問題・対外経済関係委員会は、『ソビエツキー・サハリン』紙1990年9月30日付によると、この条件の承諾を拒否し、専門家とサハリン州代表からなる諮問委員会に検討を委嘱した。この委員会は、ロシア連邦共和国における類似の「地域」の法的地位に関する統一的な共和国法の制定の必要性、その法案作成のための調整委員会の設置等を答申した。『ソビエツキー・サハリン』同日付で、州ソビエトのアクショーノフ議長は、「早くとも11月」に結果が延びたと述べている。

 このように、条例がそのまま施行されることはなくなった。しかし、連邦・共和国間の「連邦協約」をめぐる対立が、ほとんど同様の内容で共和国・州問でくりかえされていること、そのなかで、各地方権力が、自らの交渉力を高めるために、「主権宣言」に踏み切っていることを示す資料として、紹介に値するといえよう。

 


 

1990年1〜9月のソ連の工業生産実績

 

概況

 @1990年1〜9月のソ連の国民総生産(GNP)は前年同期比で1.5%減少し、生産国民所得は同じく2.5%減少した。

 A 工業生産は前年同期比で0.9%減少したが、消費財(工業のBグループ)の生産は4.5%と年初から安定した成長を遂げている。これに対して、生産財(工業のAグループ)の生産は2.9%減少した。基本投資については、固定フォンドの稼働開始高は前年同期を6%下回り、未完工建設高は10%増加した。

 B 燃料・エネルギー部門では前年以来、石油と石炭の生産量が低下する一方で、天然ガスの生産量は増加しているという傾向が続いている。石油(ガス・コンデンセートを含む)、の生産量は前年同期比で5.1%(2,350万t)減少の4億3,300方t、石炭は同じく4.9%(2,700万t)減少

5億2,800万tであった。

 C 機械工業部門では、トラクター、畜産・飼料生産用機械・設備、数値プログラム制御付き工作機械2%、交流用発動機などの重要製品の生産が減少した。これに対して、軽工業、農産物加工、商業、食料品工業などの設備・機械の生産は前年同期比で17%も増加した。

 機械工業では、金属、組立部品、その他の原材料の不足に悩まされ続けている。

 D 化学工業部門では、石油精製工業の基本的製品の生産が、自動車用ガソリン5%、ディーゼル燃料2%、暖房用重油6%などと減少した。このため冬期の燃料・エネルギーの備えに否定的影響を及ぼしている。

 基礎化学の製品は、硫酸3%、苛性ソーダ7%、合成アンモニア8%、ソーダ灰8%とそれぞれ前年同期より減産となった。また、ポリスチロール、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのプラスチックの生産が減少したために、耐熱プラスチック材の生産も減少した。

 紙・パルプ製品の生産が落ち込んだだめに印刷物などの消費財生産も打撃を受けた。野菜や果物などの包装材の生産も減少した。

 E 建材部門では、セメント、屋根材、アスベスト、絶縁材などの生産が前年同期比で2〜6%の減産となった。