ロシア東欧貿易調査月報

1992年9月号

 

T.ロシア経済改革の動向

  ―L. I. アバルキン・ロシア科学アカデミー経済研究所所長講演会より―

U.カザフスタンの社会経済的発展とその輸出入の可能性について

  ―A. K. コシャノフ・カザフスタン科学アカデミー経済研究所所長講演会より

V.ウズベキスタンの社会と経済

W.ロシア大統領府および安全保障会議の概要

X.ロシアおよび旧ソ連における武器輸出の諸問題

Y.日本企業の旧ソ連における合弁企業設立状況

Z.カザフスタン対外経済活動、企業活動関連法

◇◇◇

旧ソ連・東欧貿易月間商況1992年月分)

旧ソ連・東欧諸国関係日誌(1992年8月分)

CIS・グルジア・東欧諸国・モンゴル輸出入通関実績1992月および7月累計)

 

 


 

ロシア経済改革の動向

L. I. アバルキン・ロシア科学アカデミー経済研究所所長講演会より―

 

1. 改革の発端と意義

2. 経済危機の規模と見通し

3. 路線修正の必要性;難しい選択

 

はじめに

 当会では、アバルキン元ソ連副首相・現ロシア科学アカデミー経済研究所所長が来日したのを機に、9月17日如水会館にて講演会を実施した。ここではその内容を紹介する。

 今回の講演で同氏は、深刻化する経済危機の現状とそれに対するロシア政府の対応について触れ、IMF路線に沿った現政府の急進的経済改革がロシアの現状とは合致しないものであると批判している。現ロシア政府の経済改革の眼目は何よりも国家財政の安定化と財政赤字の縮小におかれている。だが、同氏によればこうした改革方針に基づく経済政策はかえって危機を深め、生産の停滞を誘発する。そのため、マクロ経済調整と同時に、深刻化している経済危機を回避するために、重点的な産業刺激策をとることができるよう、路線を修正する必要があるとのべている。

 


 

カザフスタンの社会経済的発展とその輸出入の可能性について

A. K. コシャノフ・カザフスタン科学アカデミー経済研究所所長講演会より

 

1. カザフスタン経済の現状

2. カザフスタンの市場化とその法的基盤

3. 国際支援の方法と問題点

 

はじめに

 当会では、コシャノフ・カザフスタン科学アカデミー経済研究所所長が来日したのを機に、9月17日如水会館において講演会を実施した。本月報ではその内容を紹介する。

 今回の公演で同氏は、カザフスタン経済の現状について紹介し、カザフスタン経済の再建には国際的な経済支援、とりわけ民間レベルでの協力が必要であると説いている。またそのために必要な法体系の整備状況についても触れ、カザフスタンが外資導入、外国企業の活動に対して積極的な立場にあることを強調している。

 


 

ウズベキスタンの社会と経済

 

1. ソ連崩壊過程でのウズベキスタンの国家体制の変動

2. ウズベキスタンの社会・経済基盤

3. ウズベキスタンの1991〜1992年の経済の現状

4. 他の地域との経済関係・対外関係

5. 経済改革の方向と今後の課題

 

はじめに

 旧ソ連の共和国から1991年8月のクーデター後の9月1日、ウズベキスタン共和国(以下ウズベキスタンと表記)は独立を宣言した。同国は、人口2,070万8,000人で、これは旧ソ連15共和国のなかでロシア、ウクライナにつぐ3番目である。首都タシケント(Tashkent)も人口212万人を数え、旧ソ連ではモスクワ、サンクト・ペテルブルク、キエフにつぐ大都会である。ウズベキスタンの面積は44万7,400kuであり、日本の約1.5倍、旧ソ連15共和国で5番目である。このようにウズベキスタンは人口、面積の点からみて旧ソ連の中央アジア(ウズベキスタン、キルギスタン、トルクメニスタン、タジキスタン)のなかでも随一の大国である。しかし、経済の規模からすると、同国は旧ソ連のなかで純生産高に占める割合が3.3%(人口比は7.1%)にすぎない。1人当たりの純生産高でも旧ソ連全体平均を100として半分にも満たず、工業、農業とも発展の遅れが目立つ(付表)。このようなウズベキスタンの経済および対外経済関係の現状をまとめた。執筆者はロシア東欧経済研究所の高橋浩研究員である。

 


 

ロシア大統領府および安全保障会議の概要

 

はじめに

 エリツィン・ロシア大統領が9月9日、目前に迫った日本訪問を一方的に延期したことは、北方領土問題を解決し日ロ関係を発展させていこうとしていた日本にとって衝撃的な出来事であった。この事件が日ロ二国間関係の冷え込みを招くことは避けられないとみられるが、それとともに広く懸念されたのは、エリツィン政権が保守派に支配されはじめたのではないかという点である。とくに来日延期が、新たな最高決定機関として設置され、軍産複合体との関係を指摘されるスココフ氏が書記を務める「安全保障会議」の場で決議されたことから、エリツィン大統領が軍部や軍需産業からの圧力に抗しきれなくなったのではないかという見方が広がった。

 こうしたことから、現段階でのロシアの政策決定プロセス、とくに安全保障会議を含む大統領制に関心が向かうわけだが、その実態は不明確かつ流動的といわざるをえない。共産党一党支配から民主主義制度へと移行しつつある今日の状況では、当面の難局に対処し、また勢力間の抗争を有利に導くために制度変更が相次ぐためである。それに加え、ひとつの問題が持ち上がった際に、既存の枠組で解決を図るのではなく、新たな機関を設けてそれに対処しようとする傾向がみられ、このことも行政府を肥大化、複雑化する一因になっている。

 ともあれここでは、明らかになっている範囲でロシアの大統領制、その機構、および安全保障会議の概要を解説し、同国の政治メカニズムを理解するための一助としたい。なお、本稿では主としてロシアの法令集を資料として利用しているが、『ロシア連邦大統領・政府法令集』の第10号(1992年9月7日)までをカバーしたので、以下は9月初頭現在の制度である。

 本稿は当会・ロシア東欧経済研究所の服部倫卓研究員が執筆した。

 


 

ロシアおよび旧ソ連における武器輸出の諸問題

 

はじめに

 これまで、冷戦下で西側と軍事的に対峙してきた旧ソ連の経済は、著しい軍需偏重の構造を有している。ロシアをはじめとする旧ソ連が国際的協調と民生の重視を志向する以上、軍需産業の民需転換が産業政策上の最大の課題であり、実際にも各国共和国は軍民転換に取り組みはじめている。

 だが、これまでの経験からみても、軍民転換が相当に困難な過程であることは明らかである。既存の軍需生産設備を民生品生産に利用することはほとんど不可能であり、その転換には新規建設と変わらないコストが見込まれるからである。また、これまで経済の中核を占めた花形部門であった軍需産業が潜在的に行使しうる社会・経済的圧力には、巨大なものがある。

 こうして、旧ソ連の兵器産業のポテンシャルを葬り去るのではなく、それを活用して外貨獲得に結びつけようとする動きが現われることになる。これまでコストを無視して生産を続けてきた軍需工場が市場原理にさらされたら経営が立ち行くのか、米国等の西側の武器輸出国からの圧力はかからないかなどの疑問も多いが、ロシアをはじめとする旧ソ連の主要共和国は武器輸出国としてのステイタスを確立したい様子である。

 本稿はこうした動向を鑑みて、ロシアを中心とする旧ソ連の武器輸出の動向およびその管理体制などについてまとめたものである。

 本稿執筆者は当会モスクワ事務所職員のヴォロンツォフ・ドゥミトリー・ウラジミロウィチ研究員である。

 


 

日本企業の旧ソ連における合弁企業設立状況

1992年9月末現在、当会調査―

 

.  日ロ合弁企業一覧

.   ロシア以外の旧ソ連における日本企業の合弁企業

 

はじめに

 1987年1月に旧ソ連で合弁法が制定されて以来、外資導入による合弁企業は年々増加の傾向にある。1989年初めの登録件数は191件、1990年末には約3,000件、1992年初めにはCIS領域内で約5,000件となった。ただし、小規模経営も多く、実際に活動しているはその半数弱程度である(「経済と生活」1992年第6号)。また最近ではCIS領域内の不安定な政治経済状況、とりわけロシアでは修正、変更が繰り返される一連の大統領令、政府決定、法律によって、外国投資者の意欲を鈍らせている。現在、当研究所では、日本をパートナーとする旧ソ連諸国の合弁企業の設立状況の調査を独自に進めているが、それらの理由によりペンディング中になっている合弁案件がいくつか見られた。またそれ以外にも、旧ソ連側がビジネスに未だ不慣れであることから起こる双方の食い違いも多く

いようである。しかしながら、当面の利益還元は見込めなくても、長期的視野のうえから腰を据えてビジネスに取り組み始めている企業も少なくない。

 ここで紹介するのは1992年9月末日現在までに当会が確認できた合弁事業の設立状況である。

 


 

カザフスタン対外経済活動、企業活動関連法

 

資料紹介

 ここに紹介するのは、1990〜1991年にカザフ共和国最高会議で採択された同国の対外経済活動および企業活動に関する法律である。これらは1992年4月1日、アルマ・アタで印刷された “The Collection of the Laws of the Republic of Kazakhstan on Foreign Economic and Entrepreneurial Activities” に収録されている。訳文、形式などの疑問な点は多いが、明らかと思われる箇所についてのみ当会で訂正を施した。

 内容は以下のとおり。

.  カザフ共和国対外経済活動の基本原則に関する法律

.  カザフ共和国における自由企業および企業家の発展に関する法律

.  カザフ共和国における外国投資に関する法律

.  カザフ共和国所有権法

.  カザフ共和国自由経済地域に関する法律

.  カザフ共和国貨幣管理法

.  カザフスタン共和国利権法

.  競争の発展と独占活動の制限に関するカザフ共和国法

.  脱国有化および民営化に関するカザフ共和国法

10. カザフスタン共和国税法