ロシア東欧貿易調査月報

1994年2月号

 

T.ロシア経済と市場化 ―急進路線から漸進路線への転換―

U.ロシア極東地域の経済現況とエネルギー事情

  ―ミナキル極東支部経済研究所所長およびトゥレツキー部長講演―

新刊案内

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旧ソ連・東欧貿易月間商況1994年1月分)

旧ソ連・東欧諸国関係日誌1994年1月分)

統計特集(T):CIS・東欧諸国・モンゴル輸出入通関実績(1993年12月および1〜12月累計)

 

 


 

ロシア経済と市場化

―急進路線から漸進路線への転換―

 

1.   甚大な「ショック療法」の後遺症

2.   大統領新任国民投票と新議会選挙

3.  1993年のロシア経済と今後の課題

4.   工業生産激減の最大要因は連邦

 

はじめに

 ロシアにおける市場化は不退転の方向である。と同時に、経済の体制転換が長期的過程であり、市場化がロシアに根づくためには10−15年あるいはそれ以上の年月が必要であることが、ますます明らかになっている。

 「計画も市場もない」困難な過渡期が長く続き、この間に、生産の大幅な減少、インフレの急激な高進、所得格差の著しい拡大、失業者の大量発生、生活水準の急速な低下、汚職をはじめとする経済犯罪の頻発等々の否定的な現象が蔓延し、国民は多大の犠牲を強いられている。ロシアにおける市場化の経済的コストは、真に大きいものになっている。

 国民の間に当然うずまいている不満は、エリツィン大統領に対する批判となって顕在化し、1993年12月の新議会選挙における大統領支持派の敗北、極右政党の自由民主党や共産党の大進出という結果をもたらした。

 急進改革派たちが閣外に去った後、チェルノムイルジン内閣では、実務家的色彩が強まり、ロシア経済の現実に見合った漸進的改革路線がめざされている。政府の果たす役割が高まる方向にある。

1993年を通じて、市場メカニズムのもとでの生活、とりわけ超インフレのもとでの生活に対して市民はしだいに慣れ、したたかに防衛策を講じた。政府の生活重視策もあり、勤労者の平均月収上昇率が物価上昇率にほぼ追いついていたことから、市民生活には若干の改善もみられ、1人当り食料品消費量などは増大した。

 工業生産減少の主因は、連邦解体によるそれまでの有機的産業連関の崩壊にあり、生産の早急な回復は見込みがない。1994年の工業生産も対1993年比8%減が見込まれている。CIS経済同盟の強化をめざす求心的動きが繰り返され、同時に、国内における産業の構造転換が模索されることになろう。

 本稿は、当会ロシア東欧経済研究所の小川和男副所長が執筆したものである。

 


 

ロシア極東地域の経済現況とエネルギー事情

―ミナキル極東支部経済研究所所長およびトゥレツキー部長講演―

 

要  旨

 ロシア東欧経済研究所は1993年1月25日、東京証券会館においてP.A.ミナキル・ロシア科学アカデミー極東支部経済研究所所長およびV.S.トゥレツキー太平洋経済協力センター(極東支部経済研究所ウラジオストク支部)部長による極東経済と極東のエネルギー問題に関する講演会を開催した。両報告の要旨はおよそ次のようなものである。

 ミナキル報告によれば、1993年の極東経済はロシア全体の傾向と同様、工業生産は前年同期比16%減となり、ハイパーインフレが続き、所得が伸び悩んだために生活水準は低下した。極東の企業は自己資金を賃金支払や運転資金に費やさざるをえず、インフレで長期クレジットも受けられず、投資が冷え込んだ。中央との関係も1992年から極東に対する優遇制度がなくなったことや税収入の取り分をめぐって対立が激化した。

 今後極東経済が危機から脱出するには、@豊かな天然資源、A有利な地理的条件、Hアジア・太平洋諸国の資本力という条件を生かす必要がある。そのためには、国内政治が安定し、中央が極東への優遇措置を講じ、輸出型のプロジェクトに選別的にクレジットを供与することが重要である。

 トゥレツキー報告は、極東では経済不振の割合にはエネルギー消費が落ち込んでいないことを指摘している。そのために発電用石炭不足がますます深刻になっている。極東域内の石炭生産高はピーク時の1988年に比べれば1992年には30%も落ち込んでおり、その分域外から移入しなければならなくなった。しかし、主として鉄道運賃が急激に値上げされたために極東の需要家は購入資金不足に陥った。今後、極東地域のエネルギー自給率を高める必要があり、そのためにはサハリン大陸棚の石油・天然ガスをすみやかに開発する必要がある。3MSM(三井物産、マグダーモット、マラソン、シェルおよび三菱商事)コンソーシアムによるピリトゥン・アスタフ、ルニの天然ガス生産を1995年に開始するというスケジュールを実現させることが極東地域の燃料不足を緩和させることにもなる。