ロシア東欧貿易調査月報

1994年12月号

 

T.米ロ経済協力の利益とリスク

U.ロシア極東地域の機械工業の現状

V.独立後のトルクメニスタンと中央アジア

  ―バイラモフ・トルクメニスタン内閣付属経済研究所所長講演会より―

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月報年間目次

旧ソ連・東欧貿易月間商況1994年11月分)

旧ソ連・東欧諸国関係日誌1994年11月分)

CIS・東欧諸国・モンゴル輸出入通関実績(1994年9月および1〜9月累計)

 

 


 

米ロ経済協力の利益とリスク

 

1.  本報告書作成の背景

2.  米ロ・パートナーシップ:利益とリスクが左右する両国の最重要外交政策

3.  有望だが脆弱なロシアの経済改革環境

4.  内外のコンセンサスにもとづく持続可能な体制転換

5.  プロアクティブか、リアリティブか体制転換とパートナーシップのリスク最小化と利益最大化への最良の選択

 

はじめに

 ここでは、米国議会図書館調査局の旧ソ連経済研究専門家ジョン・ハート氏の論文「米ロ経済協力の利益とリスク」を紹介する・この論文は、1994年10月19日。大手町の経団連会館において開催された「ロシア経済研究日米シンポジウム」に提出されたものである。

 この論文が指摘している点は、米ロ間パートナーシップに支援されたロシアの体制転換という課題は、両国にとって利益が期待されると同時に、逆に危険を冒すリスクを内包していることである。1994年9月末のワシントンでの米ロ首脳会談は、はたして両国のパートナーシップがプロアクティブ(行動推進的)なのか、あるいはリアクティブ(消極的)なのかという疑問を投げかけている。

 ハ−ト氏自身の説明によれば、プロアクティブ戦略とは、より漸進的かつ確固たる決意にもとづいた、実効性のある対ロシア支援プログラムの集大成である。これが根拠とする推論は、幅広い経済実効性(パフォーマンス)が現われる以前の早期コミットメントによって、体制転換の成功はさらに確実なものになるということである。このコミットメントは、ロシア指導部の政治的決意と西側のバランスのとれた各種援助によって、転換をより確実なものにするうえで重要な役割を果たす。また、リアクティブ戦略では、体制転換の結果に対して悲観的な見解をとる。

体制転換の成功か失敗かの結果いかんは、米国と他の西側諸国の国益にとって重大であり、その評価には冷徹な分析力が要求される。

 本論文は、米国の今後の対ロシア政策をみきわめるうえで、非常に貴重な内容を示唆している。

 


 

ロシア極東地域の機械工業の現状

 

1.  沿海地方の機械工業

2.  サハリン州の機械工業

3.  極東地域の機械工業における他国との協力の可能性

 

はじめに

 本稿は、昨年に引き続きロシア極東地域(とくに沿海地方およびサハリン州)の機械工業の現状を明らかにする目的でロシア科学アカデミー極東支部経済研究所に調査を依頼したもので、執筆者は、E.V.グトコワ研究員である。グトコワ氏は極東地域の民営化および軍民転換の問題を専門としており、日本でもその論文がいくつか紹介されている。本稿は主として沿海地方とサハリン州の扱械工業の困難な経済状況を明らかにすることを目的としているが。極東全般の機械工業の状況について関心をもたれる向きは同氏による「ロシア極東地域における機械工業の現状と発展」(本『調査月報』1994年1月)を参照されたい。

 


 

独立後のトルクメニスタンと中央アジア

―バイラモフ・トルクメニスタン内閣付属経済研究所所長講演会より―

 

1.  トルクメニスタンとCIS首脳会議

2.  トルクメニスタンの経済地理

3.  市場経済へのプロセス

4.  エネルギー資源開発の展望

5.  輸送網の整備と外資導入

 

はじめに

 当会では、旧ソ連中央アジア地域のトルクメニスタンよりJ.D.バイラモフ・トルクメニスタン内閣付属経済研究所所長を招き、11月16日、東京証券会館にて講演会を開催した。ここではその内容を紹介する。

トルクメニスタンは、旧ソ連地域最南端に位置し、面積は48万8,100km2(日本の約1.3倍)、人口は約400万人1991年10月27日にソ連からの独立を宣言した。現在、トルクメニスタンは独立国家として独自の外交を進めており、イラン、トルコ、パキスタンなどの近隣諸国をはじめ、日本や中国などのアジア諸国との経済協力関係も拡大しつつある。内政面ではソ連解体後も旧共産党である民主党が、議会・政府において与党勢力を形成しているが、ニヤゾフ政権は国内の現状を熟知した現実路線を踏襲している。これは、トルクメニスタンが旧ソ連諸国のなかで、もっとも国内政治体制が安定した共和国との評価につながっている。また、経済面では、ショック療法を採用せず、旧ソ連から引き継いだ基幹産業の段階的な改革に着手しており、独自の堅実な改革路線を推し進めている。国土の大部分を占めるカラクム砂漠とともに膨大な天然ガス・石油資源を保有し、近い将来その完成が待たれるパイプライン建設などの大型プロクジェクトに世界が注目している。

 民族構成はトルクメン人が72%を占め、その他ロシア人とウズベク人が9〜10%、カザフ人が2%である。

や民族抗争が発生するカントリーリスクは低いとされているのが一般的な見方である。他の中央アジア諸国に平和維持軍を派遣しておらず、非干渉主義の立場を保っている。トルクメニスタンは今後も、独立国家として、強力な指導者のもと開かれた外交と手堅い経済運営を進めていくものと思われる。