ロシア東欧貿易調査月報

1995年2月号

 

T.ロシアの極東地域のエネルギー事情

U.ロシアの中長期のエネルギー戦略

V.ロシア北東部の経済改革と採金業の現状

W.ロシア極東の経済状況と地域間経済関係

  ―P.A.ミナキル、A.G.ブーリー講演会より―

X.シベリアの経済概況と投資環境

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旧ソ連・東欧貿易月間商況1995年1月分)

旧ソ連・東欧諸国関係日誌1995年1月分)

CIS・東欧諸国・モンゴル輸出入通関実績(1994年1〜11月)

 

 


 

ロシアの極東地域のエネルギー事情

 

1. 極東地域のエネルギー

2. 極東の地域別エネルギー事情

 

はじめに

  ロシア極東地域は深刻なエネルギー危機に直面している。極東地域には豊かなエネルギー資源が賦存しているといわれるが、実際の採掘量は自給には程遠い。しかも、石炭および石油生産量は近年減産の一途を辿っており、ますます増大する不足分を域外の西シベリアや東シベリアから調達しなければならない。しかし、価格自由化後の輸送料金の高騰、需要家の未払いによって石炭採掘企業や電力企業は労働者に対する賃金遅配が常態化し、結果として極東地域では電力と熱源の不足という状態が起きている。

 本稿は以上のような状況に鑑みて、その実態を分析することを目的としている。資料的な制約があり実態を浮き彫りにさせるまでには至らないが、極東のエネルギー逼迫の状況は理解できると思う。筆者は北海道大学スラブ研究センター教授、村上隆である。

 


 

ロシアの中長期のエネルギー戦略

 

1.ロシアの燃料エネルギー事情

2.燃料エネルギー各部門の状況改善努力

3.生産効率アップのための重要課題

4.今後の課題

 

資料紹介

 ロシア政府は現在、経済の安定・再建に向けて大がかりな経済動向の分析と予測、新経済プログラム作成、法律・制度策定作業を行いつつある。その一環として1994年9月、ロシア経済省は2000〜2005年までの原油、石油製品、天然ガス、石炭生産部門発展の予測を行っている。当研究所はそれを独自に入手したので、ここに概略を紹介する。

 同提言によれば、経済不振によるロシア国内での需要減少を反映し、石油、天然ガス、石炭の生産低下は1995〜1996年まで続くが、1997年頃から再び上向きに転ずるとみられている。なかでも自動車用ガソリンは生産が伸び続けており、その傾向は今後も続くものとみられる。石油、ガス生産の拡大には、新規鉱床の開発や技術革新が必要である。石炭については、産業内の構造改革計画に関連する作業の推進が肝要である。さらに、エネルギー資源部門の発展にあたり、環境保全、労働条件の改善などがこれまで以上に重視される見通しである。

 


 

ロシア北東部の経済改革と採金業の現状

 

1.ロシア北東部における経済改革

2.マガダン州における鉱業開発

  

はじめに

 本稿では、ロシア科学アカデミー極東支部北東総合研究所(在マガダン市)のA.ビリャソフ経済部長の論文「ロシアの経済改革:ロシア北東部の事例」および「マガタン州の鉱業開発」の抄訳を紹介する。

 ロシア北東部は、マガタン州、チュコト自治管区、カムチャツカ州(コリャーク自治管区を含む)から構成される地域の呼称である。ちなみにチュコト自治管区は以前にはマガタン州の下部行政単位であったが、1992年に独立した連邦構成主体となった。また、コリャーク自治管区は同じ自治管区ではあるが、現在のところまだカムチャツカ州の下部行政単位としてとどまっている。

 第1章では、ロシア北東部における経済改革の現状を紹介する。ロシア北東部はロシアの中央部から遠く離れたまさに辺境に位置し、かつ気候もきわめて厳しい地域である。しかし、本稿でも示されているように、この地域は金を中心とする貴金属、非鉄金属、あるいは魚・海産物といった資源の宝庫である。そのため、ソ連時代にはこの地域の開発を目的として積極的な移住政策がとられた。たとえば、ロシア北東部は「極北地域」という特別地域に指定され、ソ連全体の標準賃金の2〜3倍の賃金が労働者や職員に支給され その他、有給休暇の延長、年金支給年齢の引き下げ、住宅の確保などの特典が与えられていた。ソ連時代にはこうした特典を求めて、多くの労働力がロシア北東部へと流入した。

 しかし、ソ連解体後、上記のような特典は廃止されるかもしくは有名無実のものとなった。現在、ロシア北東部はロシアでももっとも物価の高い地域として知られ、住民の実質所得もいちじるしく低下している。もはや労働者にとってロシア北東部で働く利点がなくなってしまったのである。

 その当然の帰結としてロシア北東部では、現在、域外への人口流出が大きな問題となっている。たとえば、1993年の社会増加率はマガタン州では6%減、チュコト自治管区では9.7%滅、カムチャツカ州では3.7%減であった。とりわけ、若い労働力が流出する傾向にあるという(ちなみに極東地域全体の社会増加率は1.3%減、モスクワのある中央地域ではむしろ0.4%の増加であった)。

 第2章では、マガタン州における鉱業開発について紹介する。マガタン州は、長年の間、ロシアのなかで最大の金生産地であった。マガタン州の採金業は、スターリソ時代に強制労働収容所の囚人労働によってその基礎がつくられた。また、マガタン州の金鉱で強制労働を課されたシベリア抑留の日本人捕虜も少なくない。

 マガタン州の採金業が、そうした数え切れないほどの犠牲者を礎にして発展してきたことは事実である。その結果、採金業はマガタン経済を支えるもっとも重要な産業に発展した。1993年には金採掘を中心とする非鉄金属工業がマガタン州の工業生産高中65.1%のシェアを占めている。

 もっとも、1970年代後半よりマガタン州の採金量は徐々に低下し始め、1989〜1990年には約10%の落ち込みを記録した。さらに、本稿で詳しく示されているように、ソ連解体後、連邦投資の大幅な削減などからマガタン州の採金業は深刻な状況に置かれている。マガタン州は採金業に大きく依存したモノカルチャー型経済である。したがって、同州の未来は採金業の建て直しいかんにかかっているといってよい。

 


 

ロシア極東の経済状況と地域間経済関係

P.A.ミナキル、A.G.ブーリー講演会より―

 

1.ロシア極東の経済情勢:現状と展望 :P.A.ミナキル・ロシア科学アカデミー極東支部経済研究所所長

2.極東地域内の経済関係と極東協会の活動内容 :A.G.ブーリー・極東・ザバイカル地域間経済相互協会対外経済関係部長

3.今後の対日関係

 

はじめに

 このたび当会ロシア東欧経済研究所では、ミナキル・ロシア科学アカデミー極東支部経済研究所所長とブーリー・極東経済相互協会対外経済関係部部長を招き、1月26日、東京証券会館にて講演会を開催した。ここではその内容を紹介する。

 周知のように、ミナキル氏は極東経済研究の第一人者であり、現在はロシア国内のみならず国際的にも活躍している。また、かつてハバロフスク地方の第一副知事を務めたことから地方行政の実務面、人脈面にも通じている。

 また、ブーリー氏の所属する極東協会(正式名称「極東・ザバイカルの連邦構成主体の地域間経済相互協会」)は、1990年11月に極東およびザバイカル地方の政治・経済的な自立性を強化する目的で、当時の各州・地方の人民代議員ソビエト議長および執行委員会議長を構成メンバーとして設立された。同協会は、1991年5月の調整評議会で「極東経済地域およびザバイカルにおける危機打開ならびに2000年までの社会・経済発展のコンセプト」を採択したことで知られている。最近、日本の各方面で極東全体を代表する窓口としての役割を同協会に期待する声が高まっており。同協会の常任事務局の対外経済関係部長のブーリー氏は、そうした意味でキーパーソンといえよう。なお、講演会の内容には、一部極東協会に関する書面による説明をつけ加えさせていただいた。

 


 

シベリアの経済概況と投資環境

 

1.シベリアにおける工業の現状と展望

2.シベリア地域の投資環境と経済発展の見通し

 

 このほど、当会ロシア東欧経済研究所は、ロシアの生産力配置経済協力評議会副議長V.A.バシャノフ(V.A.Vashanov)氏にシベリアの経済概況と投資環境について執筆を依頼したので、ここに翻訳、紹介する。シベリアは石油、天然ガスその他の豊富な天然資源に恵まれ、ロシアの外貨獲得にとってもっとも重要な地域である。その他の加工部門もよく発達しており、ロシア全体の経済発展にとって非常に重要な地域である。この論文はシベリアの全体的状況および各州、地方、共和国別の状況および今後の展望について具体的に示しているので、この地域の投資環境を考えるうえで参考になるところが大きい。