ロシア東欧貿易調査月報

1996年3月号

 

T.八尋ロシア東欧貿易会会長のロシア訪問(詳報)

U.エリツィン・ロシア大統領の1996年年次教書

V.ロシア連邦国家会議(下院)選挙当選者名簿

  ―『ロシア新聞』紙(1996年1月6日)発表より―

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八尋ロシア東欧貿易会会長のロシア訪問(詳報)

 

はじめに

 ロシア東欧貿易会ではかねてから八尋会長によるロシア訪問の可能性を模索していたが、このたびスミルノフ・ロシア商工会議所会頭の招待によって、平成8年2月13日から2月16日までのモスクワ滞在という日程で実現した。八尋会長には当会の副会長である橋本住友商事兜寰ミ長 黒田三菱商事褐レ問、横山日本電気兜寰ミ長が同行した(団貞名簿および日程を参照)。

 今回のミッションは、当会の会長、副会長による新生ロシア発足後はじめての訪問で、ソスコヴェツ第一副首相をはじめとするロシアの政府、議会、民間経済団体の要人と直接意見交換を行い、ロシアの現状および将来、とくに日ロ経済関係についての認識を深めることができたという点で非常に有意義であった。

 とくに、八尋会長からは、日ロ両国間の貿易拡大にとって最大の障害となっている旧ソ連時代の対日債務の未払いおよび日本輸出入銀行の融資および貿易保険の適用の対象となっている大型案件の頭金の未入金の問題について、ロシア政府の善処を要望した。これに対して、ロシア側(主としてサラファーノフ対外経済関係省次官)は、未払い問題は実質合意が成立しているし、頭金の問題も間もなく解決するので、1996年には貿易拡大の障害はなくなると答えた。

 ソスコヴェツ第一副首相は、@橋本プランに代表される日本政府の対ロ支援(当会も実施機関として関与している)を高く評価する、A訪日した時に新幹線をはじめとする日本の技術が非常に印象に残ったので、日本の技術を導入してロシアの産業、とくに輸出産業の技術水準を高めるために日本企業に投資してほしい、Bロシアは輸入市場としても大きいので、1996年の両国間の貿易を前年比2倍に伸ばそう、と述べた。サラファーノフ対外経済関係省次官は、上記の未払い問題のほかに、@サハリン・プロジェクトの推進にとって重要なPS法は年末に発効し、現在関連法令の制定作業中である、Aその他外資法の改正、経済特区法、利権法、関税法などの制定や改正も下院で審議中である、B日本とは政府間、民間レベルともに協力が進展している、と述べた。ヤコバシビリ科学技術政策省次官は、@政府間支援の一環として東京で1996年11月に開催が予定されている「ロシア科学技術見本市」についてはまだ日本政府からの正式の連絡がないが、是非成功させたい、Aロシア東欧貿易会とは、旧ソ連時代の1967年に当時のソ連国家科学技術委員会が結んだ科学技術協力協定があるが、ロシアの市場経済への移行によってスタートしたばかりの民間企業レベルの技術協力を盛んにするために、ロシア東欧貿易会に受け皿になってほしいので、改めて協定を結びたい、と表明した、

 今回の訪ロ・ミッションは、立法府である下院も訪問し、12月の総選挙で躍進した野党のロシア共産党に所属するマスリュコフ下院経済政策委員長(ゴルバチョフ政権時代の第一副首相兼国家計画委員会議長)と会談した。同委員長は、@議会は、現在院の構成もほぼ終え、経済関係の法律を含む法整備に着手している、A日本には5回訪問したことがあり、技術水準の高さに敬服している、B現政権の経済政策は「管理不在」である、C投資関連の立法(外資法の改正、経済特区法の制定など)の参考にするためにロシア東欧貿易会が日本企業の要望をまとめてほしい、と述べた。

 また、訪ロ・ミッションは、ロシアの有力な民間経済団体であるロシア商工会議所、ロシア産業企業家同盟、ロシア・ビジネス円卓会議の3団体のトップとも会談した。このうち、当会の長年のパートナーであるロシア商工会議所のスミルノフ会頭は、@ロシア東欧貿易会とは今後とも協力関係を続けたい、Aとくに情報交換の面では、地方の商工会議所の情報を含むロシアの8,000社の情報を登録してあるデータ・ペースがあるので活用してほしい、と述べた。八尋会長はスミルノフ会頭を日本に招待したい旨表明し、スミルノフ会頭はこれを受け入れた。ロシア・ビジネス円卓会議では、4人の共同議長のうちネチャーエフ議長(ロシア金融公社総裁;前経済大臣)、キセリョフ議長(モスエクスポ持株会社代表で、ロシア有数の実業家)が会見し、@日本との関係を重視している(欧米偏重の風潮の是正が必要)、A会員は主として分野別の団体から成り(約140団体、企業数では約2万社、ロシアの民間企業の約50%を占める)、議会、政府へも影響力を持っている。Bクリーン・ビジネスの確立を運動目標のひとつにしていて、「クリーン・ビジネス憲章」を採択した、という説明があった。八尋会長は、ロシア東欧貿易会と同会議との間で「日ロ・ビジネス円卓会議」の開催を提案、そのための準備に両議長とオルロフ事務局長を日本に招待したい旨表明し、両議長の賛同を得た。また、両議長からは、ロシア東欧貿易会との情報交換の面での協力も進めたい旨表明された。ヴォルスキー産業企業家連盟会長(ロ日経済委員会会長)は、3月末に東京で開催予定の第2回日ロ・ロ日経済合同会議の準備について、@日本側の要請に応えて極東・シベリア地域の知事、関係省庁の大臣・次官を参加させる、A日本側にもロシア側に対応する政府高官の出席を求めている、B会議のテーマは、日本側の提案により「日本企業の対ロ投資」となる、Cロシア側は具体的なテーマについてのプレゼンテーションを行う用意がある、と説明した。さらに、Dロシア東欧貿易会との協力関係を緊密化したい、Aロシア東欧貿易会が政府間支援の一環として受け入れている研修生の人選に協力する用意がある、と発言した。

 なお、上記の政府・経済団体関係者との会談のほかに、今回の訪ロ・ミッションは、コロスコフ・ロシア・サッカー連盟会長夫妻を昼食会に招き、八尋会長から、2002年のワールド・カップの開催地(日本と韓国が競合)の決定に際して、投票権を持っているコロスコフ会長に協力を求めた。これはワールド・カップ日本招致委員会からの要請によるもので、コロスコフ会長は、前向きの反応を示した。なお、この件では、八尋会長は他の要人達との会談でも支援を要請し、サッカー好きのロシアの要人達の頬がゆるむという場面もあった。

団員名簿

団長:

 八 尋 俊 邦 社団法人ロシア東欧貿易会会長

         三井物産株式会社相談役

団員(アルファベット順):

 

 橋 本  睦   社団法人ロシア東欧貿易会副会長

          住友商事株式会社副社長

 黒 田  眞   社団法人ロシア東欧貿易会副会長

         三菱商事株式会社顧問

 横 山 清次郎 社団法人東欧貿易会副会長

         日本電気株式会社副社長

随員(アルファベット順):

 海 東  泰   日本電気株式会社支配人

 樫 尾  譲   三井物産株式会社海外統括部CIS担当

 仲 島  修   住友商事株式会社海外市場企画部部長付

 福 地 和 彦  三井物産秘書室課長

事務局:

 小 川 和 男  社団法人ロシア東欧貿易会専務理事

清 水 正 俊     同 総務部長

吉 田 臣 吾     同 嘱託(元・ソ連部長)

池 田 正 弘     同 モスクワ事務所長

 

日 程

平成8年(1996年)

 

 2月13日(火)

 10:15 成田発(NH203)

 14:15 モスクワ着(小沢公使、津田参事官、各社モスクワ事務所長出迎え)

 19:00 結団式兼夕食会(ケンピンスキー・ホテル・レストラン「ロマノフ」)

      (小沢公使 津田参事官出席;小沢公使からはロシアの現状についてのレクチャー)

 

2月14日(水)

 10:00  ヤコバシビリ科学技術政策省次官

 12:00  コロスコフ・ロシア・サッカー連盟会長夫妻を囲む昼食会(「札幌」)

(東郷公使(臨時代理大使)夫妻、小倉日本サッカー協会専務理事、鈴木同秘書室長出席)

14:30   スミルノフ・ロシア商工会議所会頭

1900   東郷公使(臨時代理大使)主催夕食会(東郷公使公邸)

 

2月15日(木)

10:00   サラファーノフ対外経済関係省次官

14:00   マスリュコフ下院経済政策委員長

15:00   ロシア・ビジネス円卓会議・ネチャーエフ、キセリョフ両共同議長

 

2月18日(金)

10:00   ヴォリスキー・ロ日経済委員会会長(産業・企業家同盟会長)

15:00   ソスコヴェツ第一副首相

17:50   モスクワ発成田へ(JL444)

 


 

エリツィン・ロシア大統領の1996年年次教書

 

1.  連邦議会におけるエリツィン・ロシア大統領の教書演説(1996年2月23日―自由と民主主義は進歩と繁栄の主要条件―

2.  ロシア大統領1996年年次教書―われわれが責任を負っているロシア―

 

資料紹介

 エリツィン・ロシア大統領は2月23日、年次教書を発表し、上下両院議員を前に教書演説を行った。これに先立って大統領は2月15日、6月に予定されている大統領選に出馬することを正式表明しており、今回の教書は再選をめざすエリツィン氏の事実上の選挙綱領と位置づけられている(正式な選挙綱領は教書を下敷きに改めて策定するとのことである)。

 以下、1.で教書演説を、2.で教書本体を、それぞれ全文翻訳して紹介する。なお、教書演説の演題は「自由と民主主義は進歩と繁栄の主要条件」で、出典は『ロシア新聞』(1996.2.24)、大統領教書は「われわれが責任を負っているロシア」と題されており、出典は『ロシア通報』(1996.2.24)である。

 


 

ロシア連邦国家会議(下院)選挙当選者名簿

―『ロシア新聞』紙(1996年1月6日)発表より―

 

1.  比例区(全連邦区)

2.  小選挙区(一人区)

 

 ロシア連邦では1995年12月17日に、連邦議会の国家会議(下院)の議員を選出する選挙が実施された。下院の定員は比例区(全連邦区)225議席、小選挙区(一人区)225議席の計450議席で任期は4年である。選挙の結果、共産党が22.3%の高い得票率を得て、比例区で99議席、小選挙区で58議席、計157議席を獲得し全議席の35%を占めた。次いで、チェルノムイルジン首相率いる「われらの家ロシア」は55議席、右派の自由民主党が51議席、改革派の「ヤブロコ」は45議席を占め、経済改革をリードしてきた「ロシアの民主的選択」は9議席に終わった。また、下院議長には共産党のセレズニョフが就任した。

 以下に紹介するのは『ロシア新聞』紙に掲載された当選者名簿である。選挙結果の解説については当会『経済速報』平成8年1月15日号(No.1011)の「下院選拳結果で占う1996年のロシア―政策転換の可能性、そして大統領選―」を参考にしていただきたい。