ロシア東欧貿易調査月報

1996年11月号

 

T.ロシアの保険業の現状

U.ガスプロムとその周辺に集う商業銀行群

V.ナショナル・レゼルブ・バンクについて

W.中央アジアの地政学的位置とエネルギー輸送問題

  ―J.ロバーツ氏講演より―

X.極東ザバイカル長期発展プログラム(上)

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ロシア貿易・産業情報

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内外の論調と分析

  発足から100日のロシア政府を採点する

  石炭産業ローンをめぐってロシアと世銀が緊張

  リトアニアからブルガリアにかけてポスト共産党が敗北

ロシア経済法令速報

データバンク

   ロシアの経済統計

   CIS諸国の経済統計

   1996年上半期のロシアの国際収支

   ロシアに対する国際的支援に関するデータ

旧ソ連・東欧貿易月間商況1996年10月分)

旧ソ連・東欧諸国関係日誌1996年10月分)

CIS・東欧諸国・モンゴル輸出入通関実績(1996年1〜6月累計)

 

 

 


 

ロシアの保険業の現状

 

1. 保険市場の誕生

2. 医療保険システム

3. 「インゴスストラフ」の現在

4. 保険業への外資参加の可能性

5. 課題と展望

 

はじめに

 ロシアでは市場経済への移行にともなって新たな経済セクターが生まれつつある。保険業もそのうちのひとつである。ロシアでもリスクに対する保険という考えが育ってきたといえよう。

 しかしながら、移行期にともなう困難な問題が新たに生じてきていることも確かである。とりわけ、社会主義体制下での社会保障システムの解体した後、いかなる社会保険制度をつくり出すかが重要な課題である。国家、企業の危機的な財政状況は、この問題をより複雑にしている。保険分野で蓄積された資金を産業投資にまわすという政策当局の目論見もいまのところ期待はずれである。

 もっとも、未知の市場ゆえにビジネスの可能性もそれだけ大きいといえよう。

 本稿は、生まれたばかりのロシアの保険業について、全体像を提供しようとするものである。

 執筆者は当会モスクワ事務所D. ヴォロンツォフ副所長である。

 


 

ガスプロムとその周辺に集う商業銀行群

 

 株式会社「ガスプロム」は、ロシアにおけるガスの採掘から販売までを一元的に管理する巨大独占体である。ガスプロムは、その独占的地位と国家との連携・癒着によって、これまで独占的利益を享受してきた。

 だが、最近では、国の徴税率の全般的低下のなかで、国がガスプロムへの課税を強化し、ガスプロムが政府に“直訴”するという事態が生まれている。

 こうして、国に財政資金を全面的に依存しえなくなったガスプロムは、安定的な融資提供先および融資保証者を確保するため商業銀行へ触手を伸ばしつつある。

 本稿は、ロシアにおける産業独占の銀行独占への接近の一例として、ガスプロムのケースを検討している。

 執筆者は当会ロシア東欧経済研究所次長坂口泉である。

 


 

ナショナル・レゼルブ・バンクについて

 

 「ナショナル・レゼルブ・バンク」は、「ガスプロムバンク」とともに、株式会社「ガスプロム」の傘下にある銀行である。ガスプロムバンクが主にルーブルの資金運用を担当しているのに対し、ナショナル・レゼルブ・バンクは、ガスプロムの対外債権の回収だけでなく広くロシアの対外信用業務を扱っている。

 本稿は、ロシアにおける銀行資本と国家機関との連携・癒着の実例として、ナショナル・レゼルブ・バンクの資金調達・運用の実態を紹介したものである。

 執筆者は当会ロシア東欧経済研究所次長坂口泉である。

 


 

中央アジアの地政学的位置とエネルギー輸送問題

J.ロバーツ氏講演より―

 

1. 埋蔵量の評価

2. 輸出ルート選定の地政学

3. ルクオイルとガスプロム

4. 中央アジアのエネルギーと日本

 

はじめに

 当会では1996年10月29日(火)、英国のエネルギー問題専門家であるジョン・ロバーツ氏来日を機に講演会(テーマ:”The Geopolitics of Central Asian Energy and Options for Energy Export Routes”)を東京証券会館にて開催した。そこで本月報では、その報告内容を紹介する。

 中東ならびに旧ソ連カスピ海のエネルギー開発の専門家である同氏は、最近では英国王立国際問題研究所による中央アジア・コーカサスプロジェクトにおいて、カスピ海地方の石油・天然ガスパイプライン問題についての最新報告書をまとめており(”Caspian Pipelines, The Royal Institute of International Affairs, London, 1996”)、中東につぐ同地域の石油開発が世界の注目を集めているなか、同講演会は非常に興味深い。

 


 

極東ザバイカル長期発展プログラム(上)

1996〜2005年における極東ザバイカル地域の経済社会発展連邦特別プログラム

 

1. 極東ザバイカル地域の長期社会発展コンセプト

2. 全地域的意義を有する国家支援の第1段階的措置

3. サブプログラム「極東ザバイカル地域の経済構造改革」

 

 極東ザバイカル長期発展プログラム(正式名称「1996〜2005年における極東ザバイカル地域の経済社会発展連邦特別プログラム」)は、1996年4月15日にロシア政府によって公式に承認され、同年4月23日のエリツィン大統領ハバロフスク訪問の際には同プログラムに大統領プログラムのステータスを与える内容の大統領令が出された。

 極東ザバイカル長期発展プログラムの内容や実施方法については、我が国でも大きな関心を呼んでおり、これまでに同プログラムに関する各種の説明会がロシア側の関係者を招いて開催されている。

 当会では、極東ザバイカル長期発展プログラム全文を翻訳し、本号および次号にわたって、それを紹介する。なお、極東ザバイカル長期発展プログラムの概要については「始動するロシアの極東長期発展プログラム」(『ロシア東欧貿易調査月報』1996年6月号)を参照されたい。