ロシア東欧貿易調査月報

1996年12月号

 

T.移行期におけるロシア非鉄金属工業

U.東欧での生産展開を図る日本企業

  ―中欧投資セミナーでの報告をもとに―

V.韓国の対東欧直接投資戦略

  ―国連欧州経済委員会レポートより―

W.極東ザバイカル長期発展プログラム(下)

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月報年間目次1996年分)

旧ソ連・東欧貿易月間商況1996年11月分)

旧ソ連・東欧諸国関係日誌1996年11月分)

CIS・東欧諸国・モンゴル輸出入通関実績(1996年1〜6月累計)

 

 


 

移行期におけるロシア非鉄金属工業

 

1. 非鉄金属の採鉱基地

2. 非鉄金属の生産

3. 非鉄金属の消費

4. 非鉄金属の対外貿易

 

はじめに

 ロシアの非鉄金属工業は、市場経済化による否定的影響がもっとも大きかった工業部門に属する。旧ソ連構成共和国からの原料移入の途絶、軍需発注の大幅なカット、資材・燃料、輸送費の値上げは、同部門に壊滅的打撃を与えた。

 だが、同部門は、他の工業部門が長期にわたって減産傾向から脱け出せないでいるなかにあって、輸出主導の生産体制を外国企業からの援助も取りつけて固めることによって、大幅な生産の落ち込みに歯止めをかけることにある程度成功してきた。

 本レポートは、移行期ロシアにおける非鉄金属工業の現状をより良く理解する目的で、現地モスクワの調査機関に調査を依託したものである。文末の付属資料は、これまでデータなしのものも含まれており、貴重である。

 


 

東欧での生産展開を図る日本企業

―中欧投資セミナーでの報告をもとに―

 

1. 中欧市場の形成とソニーの生産展開:ソニー株式会社 通商渉外担当 高野晋

2. 松下電池工業のポーランド・プロジェクトについて :松下電池工業株式会社 乾電池事業部 大野

3. スロバキアにおける矢崎総業の合弁事業について :矢崎総業株式会社 国債事業本部 企画部長 森下新一

 

はじめに

 従来、東欧地域に対する日本の直接投資は、他の先進諸国から大きく出遅れてきた。販売・流通分野への進出はある程度みられたものの生産分野への直接投資は数件、それも一部の東欧諸国に限定されていた。だが近年は、家電・オーディオ部門をはじめとして日本企業の同地域における生産展開がめだつようになってきた。

 このように状況の一定の好転がみられるなか、10月24−25日に当会を実施機関として主に通商産業省の補助を得て開催された「中欧投資セミナー」は、日本企業の目を東欧地域に向けさせるうえでも、時宜にかなったものであった(ブルガリア、チェコ、ハンガリー、ポーランド、ルーマニア、スロバキア、スロベニアから各国代表が参加。全体の出席者は200人を上回り盛況であった)。

 セミナー当日は、東欧地域にすでに進出している日本企業3社に、その経験を報告していただいた。ここでは、当日の報告を基に新たに報告者の方々に執筆していただいたレポートを紹介する。

 ご多忙のなか、執筆いただいた、ソニー樺ハ商渉外担当高野普氏、松下電池工業滑」電池事業部大野元氏、矢崎総業轄総ロ事業部森下新一氏には。大変お世話になった。記して感謝する次第である。(文責 音羽 周)

 


 

韓国の対東欧直接投資戦略

―国連欧州経済委員会レポートより―

 

1. 韓国の直接投資の動向

2. 中東欧移行経済に対する韓国の直接投資パターン

3. 企業の特殊戦略:統合地域生産ネットワーク

4. 中東欧移行経済に対するほかのアジア諸国の直接投資の展望

 

はじめに

 ここに、翻訳紹介するのは、国連欧州経済委員会の発行するEast−West Investment News(No.3 Autumn1996)に掲載された報告「中東欧移行経済に対する韓国の直接投資」である。紹介にあたって、韓国資本が活発に直接投資を行うに至る経緯について簡単にまとめておこう。

 「4頭の龍」といわれるアジアNIES(台湾、韓国、香港、シンガポール)のなかでも、韓国は、もっとも規模が大きいというばかりでなく、重工業化が進み、高度な産業構造をもった「国民経済」の要件を備えた国である。これは、政府が、輸入や外資流入に対する保護政策、補助金提供、および教育、インフラ、技術開発への重点投資を行い、「国民経済」の形成を指向する政策を選択し、チェボル=財閥を意識的に育成してきたことによるところが大きい。周知のように、こうしたアジアNIESの成功が新古典派開発経済学を信奉する世界銀行に認識の変化を迫り、1993年の報告書『東アジアの奇跡』において産業政策の役割が部分的に承認されることとなった。

 しかし、アジアNIESの成功には、市場と産業政策との相互関係という一般命題に解消することのできないもうひとつの大きな要因がある。それは、NIESの発展を支えてきた国際環境である。アジアにおける冷戦構造の最先端に位置するこれらの国々は、冷戦を支配の正当性の根拠として開発独裁といわれる強力な国家権力を維持し、これが産業政策の推進を可能にした。また、1960年代以降。OEMをはじめとする国際下請化が進展したことは、その受入先となったこれらの地域において労働集約産業を中心とした技術移転を促進した。さらに、1970年代の世界不況は。アジアNIESにとってはむしろ発展の契機となった。というのは、先進諸国における産業構造の転換が、他方でプラント輸出を拡大させたからである。しかも、先進諸国の不況のおかげで、オイルマネーあるいはユーロ市場での資金調達が容易であり、これが重化学工業プラントの大量輸入を可能にし、技術移転をいっそう促進したのである。しかも、発展途上諸国の圧力の高まりを背景として、ガットの自由貿易の原則が一部修正され、一般特恵関税(GSP)が認められたため自国市場を保護しつつ開放された先進諸国市場に参入することが可能となり、これが輸出指向開発戦略を成功させた。つまり、アジアNIESの発展は、世界経済の変動と密接に連動しており、これらの地域は、世界経済の変化に適応しつつ、これを自らの発展の主体的契機として取り込むことによって、キャッチアップを果たしてきた。

 しかし、この成功による世界経済におけるこれらの地域の地位の変化は、従来の発展パターンそのものの見直しを要請することになった。これらの国々の製品を吸収し続けてきた最大の市場=米国を始めとする先進諸国との貿易摩擦の発生、通貨の高騰、賃金コストの上昇などによる輸出競争力の低下が従来の発展パターンの限界と転換の必要性を示している。

1980年代になると、NIESは、半導体を典型とする先端技術産業を急速に発展させる。ところが、この分野は、先進諸国系企業にとっても主戦場であって、この段階で、アジアNIESは外国の技術への依存から脱却し、本格的にハイテク技術のグローバルな革新競争へと乗り出していくことが避けられなくなる。まさに、この時期にあたる1980年代末以降、チェボル=韓国のコングロマリット型巨大企業(財閥)による直接投資が急増するのである。

韓国の直接投資の主な動機は、この技術の獲得・開発とマーケットシェアの拡大であると考えられるが、北米への投資が大きなシェアを占めていることはこれを裏付けている。また、アジアへの投資のシェアが大きいことは、労働コストの節約やアジアにおける国際下請体制の構築を進めていることを示している。これは、アジアにおける多角的な水平分業の展開を促進する大きな要因となっている。さらに、近年、韓国資本は、日本市場や中東欧移行経済へも積極的に進出しようとしている。

 こうした韓国資本の積極的な直接投資の背景には、OECD加盟にともなって市場の開放と規制緩和が避けられず、国家の役割や産業構造を見直すことが必要になり、国内においても、世界市場においても先進諸国企業と競争しなければならなくなったという事情が指摘できよう。たとえば、日本からの輸出を厳しく制約してきた「輸入先多角化制度」が1999年末までに撤廃される予定であるが、これによって、日本車の輸入が自由化されることは、韓国の自動車メーカーにとって脅威である。

 ここで紹介する帝国の中東欧移行経済への積極的な投資の動向も、こうした韓国の国際的地位の変化に対応する適応の一環に他ならない。確かに、年率10%を超える乗用車需要の成長が見込まれるこれらの国々への投資は、短期的には新興市場におけるマーケットシェアの確保を主目的としていることは間違いないが、同時に長期的には企業自身の経営効率を追求する効率追求型のグローバル戦略の一環でもあることを見落としてはならない。むしろ、中東欧への進出は、短期的利益を確保しつつ、ヨーロッパ市場への地歩を築くという企業の長期的なグローバル戦略によるものといえよう。この点は、本報告で紹介されているように、統合地域生産ネットワークの構築をめざす「大宇」の動きからも明らかである。しかも、本報告では触れられていないが、「大宇」はすでに英国、フランス、スペインにテレビ、ビデオ、電子レンジ、半導体などの生産拠点を設けており、言うまでもなく、中東欧への進出にあたっても、EU続合の進展やその拡大への対応が検討されているはずである。

 また基礎技術や高い教育水準をもつ人材の宝庫であるロシアや中東欧への進出は、技術の獲得・開発にとっても高い潜在力をもっている。しかも、いまだ新ココム体制が未確立な段階では、技術支配の重要性が熟知され、知的所有権によって保護されている西側諸国と比べて、これらの地域においては容易に軍事技術にかかわる高度な技術が入手できる可能性があるともいえる。この点は、今後、注意深い観察が必要であろう。

 韓国資本の活発な投資活動は、中東欧の投資受入国にとってもメリットがある。本報告でも指摘されているように、韓国の直接投資は日本を含む他の国々からの資本流入を促すばかりでなく、中東欧地域と東アジアの経済関係の発展に寄与するに違いない。いまや世界の成長センターとなっているアジアとの経済関係は、過度にEU諸国に依存した中東欧諸国の貿易構造を是正し、この地域の多角的な経済発展に資するであろう。

 こうした外資の流入が、自国経済の飛躍の契機となるか否かは、投資受入側の政策によって大きく左右されることは言うまでもない。

 なお、文中の中東欧移行経済または移行経済は、旧ソ連・東欧語国全体をカバーする用語である。

 解説・翻訳は、立正大学経済学部助教授 蓮見 雄氏による。

 


 

極東ザバイカル長期発展プログラム(下)

 

3. サブプログラム「極東ザバイカル地域の経済構造改革」(続き)

4. サブプログラム「極東ザバイカル地域における住民の就業・定着の促進」

5. サブプログラム「アジア太平洋諸国との経済協力を通じた極東ザバイカル地域の世界経済への参入」

6. プログラム実行管理およびその実施過程のコントロール

 

資料紹介

 前号に引き続き、極東ザバイカル長期発展プログラム(正式名称「1996〜2005年における極東ザバイカル地域の経済社会発展連邦特別プログラム」)を紹介する。

 庫東ザバイカル長期発展プログラム関連の最近の動きとしては、1996年12月7日に同プログラム実施に関するロシア政府委員会が設立された。この委員会は、関係省庁の次官クラスおよび極東ザバイカル地域の首長からなる29人のメンバーによって構成され、リフシツ副首相(兼財務相)を委員長、シャポヴァリヤンツ経済省第一次官およびイシャエフ・ハバロフスク地方知事(兼極東ザバイカル協会会長)を副委員長とする。この委員会は、その構成メンバーからみて、プログラム実施の最高意志決定機関の役割を果たすものと考えられる。