ロシア東欧貿易調査月報

2000年1月号

 

T.1999年のマクロ指標を起点としてみるロシア経済

U.エリツィン後への道筋をつけたロシア下院選挙

  ―政権交代に向けた流れを地方の動きで検証―

V.キルギス共和国における中小規模ビジネスの発展

W.環日本海圏経済協力  ―回顧15年と展望―

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論調と分析

 プーチンの意志―安定、秩序、上からの改革

 チェチェン戦争はプーチンの衣の裾から鎧を覗かせる

 空想家のための贈り物

ロシア経済法令速報

データバンク

 ロシアの経済統計

旧ソ連・東欧貿易月間商況1999年12月分)

旧ソ連・東欧諸国関係日誌1999年12月分)

 

 


 

1999年のマクロ指標を起点としてみるロシア経済

当会ロシア東欧経済研究所調査部次長

坂口泉

第1部 鉱工業生産について

1.1999年の主要製品別の生産量

2.セミマクロ・レベルの視点でみたロシア基幹産業の現状

 (1)電力分野

 (2)ガス分野

 (3)石油分野

 (4)鉄鋼分野

 (5)アルミニウム分野

 (6)自動車産業(乗用車生産部門)

第2部 外国貿易について(輸出を中心に)

1.1999年の(主要商品別)輸入状況

2.1999年の(主要商品別)輸出状況

3.主要生産分野の輸出動向における特殊性

 (1)石油分野

 (2)天然ガス分野

 (3)鉄鋼分野

 (4)アルミニウム分野

第3部 設備投資

まとめにかえて

 (1)鉱工業生産の伸びを下支えしたもの

 (2)セミマクロのレベルで見ると最も重要な指標は電力分野での設備投資状況

 (3)貿易黒字の内容について

 (4)経営者の問題

 

はじめに

 著者はロシアの産業レベル(セミマクロ・レベル)での事象を調査することを主務としているが、最近は、そのような調査のプロセスで獲得したセミマクロあるいはミクロ・レベルでの感覚を、マクロ・レベルでの感覚の精度を高めるために利用していただければと考えるようになってきた。より具体的にいえば、マクロ・レベルでの感覚と、セミマクロ・レベル(もしくはミクロ・レベル)での感覚の間のズレを縮めるために必要な材料を提供することが、我々、セミマクロ・レベルでの調査を行っている人間の義務であると考えはじめている。とはいえ、著者は、まだセミマクロ・レベルでの事象を充分に体得しうる水準には達していないので、どのような方法論で、「修正」を試みるかまだ明確には見えてきていない。

 したがって、現時点では、とりあえず、マクロの指標が好調な時は、セミマクロ・レベルでの懸念点を強調し、マクロの指標が不調なときは、セミマクロ・レベルでの改善の萌芽部分を強調するという形で、マクロの数字から得られる感覚を修正するための材料を提供しようと考えている。ただ、誤解のないようにお願いしたいのは、著者の立脚点は、あくまで、セミマクロ・レベルでの「現実」にあり、作為的な誇張を行うつもりはないということである。つまり、「修正」については、極力、客観的事実を捉える視点の角度や遠近感を調整するという手段だけを用い行うつもりである。その他、著者は、マクロとセミマクロの視点は互いに補完関係にあると思っており、方法論の是非あるいは優劣について議論するつもりは全くないということも予め含みおき願えれば幸いである。

記述の流れとしては、基本的に、マクロの数字(具体的には鉱工業生産の数字と、1999年のGDP増加の原動力となった貿易関連の数字、ならびに、設備投資の数字)を起点に、より細かな数字あるいは事象へと視点を移行させ説明を行うという方法をとりたいと思っている。したがって、数字が氾濫し、煩雑なレポートとなる可能性が高いが、その点は予めご了承願いたい。

 本論に入るまえに、まず、ここ数年のロシアの主要マクロ指標の推移を以下の第1表で紹介しておく。この表からもわかるとおり、1999年のマクロ指標は、大方の予想に反し、全般的に堅調であった。

 

 


 

エリツィン後への道筋をつけたロシア下院選挙

―政権交代に向けた流れを地方の動きで検証―

在ベラルーシ共和国日本大使館専門調査員

服部倫卓

はじめに

1.下院選に向けた知事ブロックの形成

 (1)地方勢力の台頭

 (2)OVRとは何だったのか

 (3)クレムリンの巻き返し

2.プーチン政局と選挙結果

 (1)戦争宰相の旋風

 (2)プーチン支持勢力の躍進

3.知事の動きから再検証する下院選

 (1)知事たちの生存競争

 (2)知事の支援と選挙結果

 (3)プーチン支持になびく知事たち

4.勝利の代償―結びに代えて―

付表:連邦構成体別の下院選挙結果

 

はじめに

 1999年12月19日、ロシア連邦議会の国家院(以下「下院」と称する)の選挙が実施された。その結果、《統一》、右派勢力同盟といった現体制の支持勢力が躍進、逆に将来的な政権担当をめざし議会での足場固めをねらっていた《祖国-全ロシア》は事実上の敗北を喫した。この選挙結果はプーチン首相の勝利と位置づけられ、首相を次期大統領の最有力候補とする見方が一層強まった。プーチン時代への期待が高まるなか、大晦日になってエリツィン大統領が同日付で辞任することを突然表明、プーチン首相が即日大統領代行に就任し、夏に行われるはずだった大統領選挙は3月末に繰り上げになった。かくして、ロシアは激動のミレニアムを、初代大統領の突然の退陣という予想外の形で締めくくったのである。

 今回の下院選は、結果的にプーチン首相の独壇場と化し、今となってはそれ以外の要素はすべて吹き飛んでしまった感すらある。しかし、そこに至るまでの過程で、終始一貫して重要なファクターとなってきたのは、地方リーダーの選挙への関与であった。つまり、連邦構成体の首長が選挙ブロックを形成したり、あるいは、特定の政党・政治勢力を後押ししたりといった形で、これまでになく積極的に下院選に参加したことである。各勢力がなるべく多くの地方リーダーを自陣に引き込もうとしたことから、選挙戦はさながら”国取合戦“の様相を呈し、その成否は選挙結果を左右すると考えられるようになった。

 本稿では選挙戦からプーチン大統領代行誕生に至る過程を振り返り、そのなかでとくに地方リーダーがどのような動きを見せたかに焦点を当てる。1999年夏の時点では、《祖国-全ロシア》を中心とする地方リーダーこそが新時代の勢力を担うかに思われたにもかかわらず、なぜ彼らはそれをなしえなかったのか。逆に、瀕死と見られたエリツィン政権の公認後継者たるプーチン氏が、いかにして政治力の急激な拡大に成功し、そこにおいて地方リーダーはどのような役割を果たしたのか。こうした点を中心に、今日のロシアの政治力学を検証していくこととする。

 


 

キルギス共和国における中小規模ビジネスの発展

キルギス共和国立法議会(上院)上級アドバイザー

カムチェベク・オムルザコフ

1.キルギス共和国における中小規模ビジネスの現状

2.中小規模ビジネスの1998年の状況

3.キルギスで中小規模のビジネスが発展する基本的条件

4.海外からの融資が中小規模ビジネスの発展に果たしている役割

 


 

環日本海圏経済協力

―回顧15年と展望―

当会ロシア東欧経済研究所所長

小川和男

1.日本の地方が発信した国際経済交流・協力構想

2.顕彰すべき先駆者たちの功績

3.国際航空網の拡大と人的交流の著増

4.ブームから着実な交流・協力拡大へ

5.21世紀に明るい展望

 

 2000年1月26日、環日本海新潟賞授賞式がホテル新潟で開催された。今回で8回目となる環日本海新潟賞を、当会の小川和男が黒龍江大学とともに後に掲載する理由により受賞した。ここでは、当日の受賞記念講演の要旨を紹介する。環日本海新潟賞は「学術研究、芸術・文化、経済、スポーツその他の分野における活動を通じ、環日本海地域の相互理解を深め、相互交流を増進し、世界に開かれた環日本海交流圏の形成、発展に貢献した個人又は団体の功績を顕彰することにより、その促進を図り、環日本海地域の平和と繁栄に寄与することを目的とする」ものである。