ロシア東欧貿易調査月報

2000年10月号

 

T.プーチン政権下の地方の「政治家」と「企業家」

U.ウズベキスタンの市場経済化政策と政府・企業間関係

◇◇◇

論調と分析

 好調なハンガリー経済の光と陰

ロシア経済法令速報

データバンク

 ロシアの経済統計

CIS・中東欧ビジネストレンド(2000年9月分)

旧ソ連・東欧諸国関係日誌2000年9月分)

 

CIS・中・東欧諸国・モンゴル輸出入通関実績(2000年1〜9月累計)

 


 

プーチン政権下の地方の「政治家」と「企業家」

高知大学人文学部 助教授

塩原俊彦

はじめに

1.    『エクスペルト』のアンケートをめぐって

2.    「企業家」の影響力をめぐって

3.    最近の知事選をめぐって

  

はじめに

 2000年5月に大統領に就任したばかりのプーチン大統領が打ち出した政策の中で、最も興味深いのは、89ある連邦構成主体(共和国、地方、州など)と連邦政府との間に7つの連邦管区を設置し、大統領の全権代表を置くというものである。従来の大統領全権代表よりも地方行政を統制管理する性格が強まるものと見られる。さらに、上院議員の選出方法が改められることで、地方における権力関係は、一段と錯綜することになる。現段階において、こうしたプーチン大統領による政策が地方の「政治家」と「企業家」との関係にどのように変化をもたらすのかを予想することは難しい。本稿では、こうした変化を考える上で前提となる、これまでに形成されてきた地方の「政治家」と「企業家」との関係を詳細に分析することを目的としている。比較的信頼できるロシア語雑誌『エクスペルト』誌(No.38,2000.10.9)に掲載された個別の連邦構成主体における「最も影響力のある地方政治家」と「最も影響力のある地方企業家」についてのアンケート調査に基づきながら、この問題をいくつかの論点に分けて分析したい。ついで、2000年10月以降に行われたいくつかの知事選の結果を考察する中で、地方の「政治家」と「企業家」との関係がどのように変化しようとしているのかについて若干の見通しを示したい。

 


 

ウズベキスタンの市場経済化政策と政府・企業間関係

一橋大学大学院経済学研究科助手

岩崎一郎

要旨

はじめに

1.      工業部門における生産管理機構の組織的再編

2.      市場経済化政策の進行と新産業管理メカニズムの確立

   (1)私的企業活動の法制化と経済自由化

   (2)国有企業の私有化問題

3.      新産業管理メカニズムの実態的機能―綿花生産に対する公的支援活動を例に―

結語

 

要旨

 ウズベキスタン共和国が歩む体制転換の道筋は、他の中央アジア諸国と比較して、相対的に安定的な経済成果を実現した点で際立った特徴を持っている。同国は、カリモフ大統領の保守的な改革理念を反映した独自の改革手法が評価されて、中国やベトナムに比類する漸進主義的移行国とみなされている。しかし、以降初期に再構築された新しい経済メカニズムには早くも制度疲労の兆候が目立つ。ウズベキスタン政府は、@競争原理に基づく私的企業活動の法制化、A経済活動の自由化、B国有企業の私有化の3分野からなる市場経済化政策を展開してきた。しかし、カリモフ政権は、反独占政策を通じた価格管理、綿花と穀物の国家発注制、中欧管理貿易と外貨収入の強制売却制度の導入や、産業界を代表する有力な工業企業の経営および所有面での支配を維持することで、国内の生産活動を縦横無尽にコントロールしている。このため、市場経済化プロセスを規定する関連諸法は事実上空文化しており、私的な企業活動が自立的に発展する可能性は大変限られている。更に、多数の関連産業を動員する国家発注制度は、極端な輸入代替政策や複数為替レート制と相俟って、国民経済全体のインセンティブ構造を大きく歪めている。このように、ウズベキスタン経済は、深刻な制度的欠陥を内包しているのである。