ロシア東欧貿易調査月報

2002年1月号

 

T.北東アジア経済の新発展に向けて −日ロ経済関係を中心に−

U.正念場のロシア経済 −2002〜2003年を占う−

V.モスクワでの代表事務所設立と運営の諸問題(5)

  −銀行口座の開設とその管理−

W.ロシアの新興財閥の企業戦略について

X.タジキスタン共和国の市場経済化:その政策体系と進捗状況

Y.モルドバの再出発 −移行には厳しい社会的な対価があった−

Z.ロシア連邦アストラハン州について

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データバンク

 2001年のロシア経済

調査月報・経済速報年間目次(2001年分)

新刊案内

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CIS・中東欧ビジネストレンド(2001年11、12月分)

CIS・中東欧諸国関係日誌(2001年11、12月分)

 


 

北東アジア経済の新発展に向けて 
―日ロ経済関係を中心に―

社団法人ロシア東欧貿易会会長
株式会社  東京三菱銀行相談役
高垣佑

はじめに

 2002年1月27〜29日にかけて新潟市で開催された「北東アジア経済会議2002イン新潟」(主催:新潟県、新潟市、環日本海経済研究所等)において、当会の高垣佑会長(東京三菱銀行相談役)が標題のテーマで基調講演を行った。本稿ではその講演内容を紹介する。

 北東アジア経済会議は、北東アジア経済圏の形成と発展を目指し、北東アジア各国・地域及び国際機関の有識者が参加して毎年新潟市で開催される会議で、今回で13回目を迎える。

 今回は高垣会長による基調講演の他、北東アジアの貿易・投資、開発金融、運輸物流、環境、エネルギーなどでテーマで報告、議論が行われた。

 


 

正念場のロシア経済

2002〜2003年を占う—

当会ロシア東欧経済研究所  研究開発部次長
高橋浩

はじめに
1.経済成長の原因
2.危機後の成長の特徴—投資の回復
3.2003年の対外債務返済問題
4.はたして、ロシア経済は変わったか
5.成長は続くか —みるべきポイントは何か

 

はじめに

 ロシアは、金融経済危機以後、経済回復著しい。しかし、その回復基調も2003年の対外債務返済のピークが喧伝され、一部に危機説がささやかれるなか、この経済復調が本物であるのか、まだまだ見極めたいとのビジネス界の意見も根強い。そこで、ロシアの最近の経済成長の背景を探りつつ、正念場となる2002年のロシア経済の見通しを展望したい。

 


 

モスクワでの代表事務所設立と運営の諸問題(5)
―銀行口座開設とその管理

当会モスクワ事務所副所長
D.ヴォロンツォフ

はじめに
1.中央銀行
2.どの銀行に口座開設するか
3.銀行に提出する書類
4.口座のタイプ
5.支払い依頼書
6.小切手
7.銀行口座にある資金の利用方法
8.銀行および税規制

 

はじめに

 前回は外国企業(外国法人)の予算外基金への登録問題をとりあげた。今回は外国企業がロシアで活動を組織する際のもうひとつの重要な問題、つまり銀行口座の開設とその管理について検討してみよう。この手続きも簡単ではないが、ロシアにおける代表事務所登録などの口座開設以前の段階とは異なり、ここでは税務監督所、予算外基金、登録(認可)組織などの公的機関ではなく、民間組織(銀行)を相手にすることになる。それについては議論の余地のない利点がいくつかあるが、中でも重要な利点は、相手側(銀行)のある種の柔軟性と顧客すなわち代表事務所に対するより誠実であり、西側の市場マインドに応えようとする取り組み方である。

 代表事務所はロシアの商業銀行またはロシアで活動している外国銀行から好きな銀行を選んで口座を開設することができ、複数の銀行で同時に口座開設したり、ひとつの銀行で口座を閉鎖し別の銀行で開設するなどできる。銀行サービス市場は競争が激しい。この連載の第1回目で指摘したように、いくつかの組織(商工会議所、国家登記所その他)が競合する設立認可サービス市場においても競争が始まったが、銀行部門の競争はそれよりも前からあり、しかも熾烈である。

 


 

ロシアの新興財閥の企業戦略について

当会ロシア東欧経済研究所調査部次長
坂口泉

はじめに
1.アブラモビッチ氏を総帥とする投資家グループ
2.アルファ・グループ
3.ハダルコフスキー氏を総帥とする投資家グループ
まとめにかえて

 

はじめに

 ロシアの新興財閥は大体において、投資ファンド(形態的にはヘッジ・ファンドに似ている。投資方式は、投資型M&Aが中心)的な色彩が強い。より具体的に言えば、極力安い価格で企業を買収し、その企業の時価総額をあげた後に転売し利益をあげることに主眼を置いているところが多い。

 ただ、筆者は、これまでロシアの新興財閥は通常の投資ファンドとは異なり、主要な資金源で転売の対象とはならない「中核」企業と、転売対象になる企業とを明確に分類していると考えていた。たとえば、アルファ・グループの場合はチュメニ石油会社、ハダルコフスキーを総帥とする投資家グループの場合はユコス、アブラモビッチを総帥とする投資家グループの場合はシブネフチが「中核」企業に相当すると思うのだが、これらの「中核」企業は、少なくとも中短期的には転売の対象にはならないと考えていた。

 ところが、各新興財閥のリーダーの最近のインタビュー記事を読んでいると、彼らにはどうも「聖域」は存在しないのではないかと思われるようになってきた。つまり、彼らは筆者の想像以上にドライで、最高のタイミングと判断した場合は、あっさり「中核」企業を手放すこともありうると思うようになった。

 本稿では、以上のような新たな認識に基づき、ロシアのいくつかの大手新興財閥(以下、「投資家グループ」と称する)の企業戦略について再考察を行ってみた。

 


 

タジキスタン共和国の市場経済化
―その政策体系と進捗状況

一橋大学経済研究所専任講師
岩崎一郎

はじめに
1.私的企業活動の法制化と経済活動の自由化
 
(1)企業活動基本法体系の整備
 
(2)経済自由化措置の到達点
2.国有企業の私有化
 
(1)私有化政策の規範的枠組
 
(2)企業私有化の進行状況と問題点
結語

 

要 旨

 タジキスタンは今日、内戦後の経済復興と経済システムの抜本的な再建という2つの経済的課題を抱えながら市場経済への移行を模索している。移行初期における同国の経済改革は、私的企業活動を保証する法体系の整備を別とすれば、総じて大幅に遅滞した。そこには長期化した内戦の影響が見て取れる。しかし、1990年代も後半になると、タジキスタン政府は、市場経済化政策の実施スピードを大幅に加速した。たとえば、同国の国内価格は、1995年から1996年末にかけてほぼ完全に自由化された。また国家発注制も1996年を待たずに全廃された。更に政府は、1998年後半に、比較的自由な貿易・為替制度の確立にも成功している。しかしながら、経済自由化分野における目覚しい成果とは対照的に、工業部門における国有企業の改革は殆ど進展していない。1999年9月の時点で、中・大規模企業の私有化率は16.7%に過ぎず、工業企業の大多数が、国有株式会社への改組段階に止まっているのは明らかである。更に、ラフモノフ政権は、産業組織の再編や国有企業改革に資する他の有効な政策を殆ど打ち出していないばかりか、ソ連時代に匹敵するソフトな予算・制度的制約を維持することで、非効率的な国有企業の延命をも図っている。このように、タジキスタンの市場経済化プロセスは、全体として見れば大きくバランスを欠いているのが実態である。政府は、移行国の「後発性」を活かす形で、今後より抜本的な経済改革を実施する必要があろう。

 


 

◆特別寄稿◆

モルドバの再出発 
―移行には厳しい社会的な対価があった―

住友信託銀行 顧問
藤川鉄馬

はじめに
. モルドバには、資源はなく、問題は何でもある
. 改革の社会的コスト
. 社会保障制度の破綻と改革
. 農産物の生産量が減少
. モルドバの民族問題
. 貧しくとも文化は豊か

 

はじめに

 モルドバは地図のうえで、旧ソ連の領土の一番左、ウクライナの下に位置し、ルーマニアと国境を接する。人口440万人。首都キシニョフに67万人。国土面積3万3,700㎢(日本の9%)。南北350q、東西150q。

 筆者の藤川は、2000年4月および7月に、それぞれ10日間程度、モルドバ共和国を大統領経済顧問として訪問した。国際協力事業団の短期専門家として、である。本稿の目的は、モルドバの経済と社会を記述し、紹介することにある。この国がどのような問題を持ち、また今後どのような道を辿るかを描いてみたい。

 


 

◆資料紹介◆

ロシア連邦アストラハン州について

 

はじめに
1.カスピ海北部大陸棚の鉱床
2.陸上部の鉱床
3.アストラハン州における石油ガスパイプライン
4.輸送の拠点としてのアストラハン州
5.アストラハン州の対外経済関係について
まとめ

 

はじめに 

 アストラハン州は、カスピ海北部に位置し、最近では石油・ガスの新産地として注目を集めるようになっている。外資からの注目度も高く、たとえば、イタリアのENIが同州内の北アストラハン鉱区の開発に取り組もうとしている。これからの飛躍が多いに期待される地方のひとつであるといえる。

 2001年5月に、ロシアのアストラハン州アストラハン市で、国際会議「カスピXXI — 政策からビジネスへ」が実施された。以下では、その際に配布された資料や議事録を基にロシアのマキシモフ社が当会用に特別に作成した原稿の中から、アストラハン州の石油ガス鉱床の開発状況等に関連した部分を紹介する。