ロシア東欧貿易調査月報

2002年5月号

 

特集◆ロシアの消費市場

特集号の発刊にあたって

T.連作レポート「躍動するロシアの消費市場」

U.繊維産業の動向

V.ロシア・ビール市場の発展

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データバンク

 モンゴル経済統計

CIS・中東欧ビジネストレンド(2002年3月分)

CIS・中東欧諸国関係日誌(2002年3月分)

 


 

特集号「ロシアの消費市場」の発刊にあたって

 

 経済危機以降、ロシアの消費市場および消費財関連産業は好況に沸いており、経済危機前の景気のピークであった1997年をも凌駕する勢いが続いている。現在の好況の主因は、やはり石油の国際価格の好調さにもとめるのが妥当であろうが、石油の価格ですべてを説明できるわけではないように思える。基幹産業である石油分野を中心に、裾野の広がりと、企業の透明性の急激な高まりという肯定的な事象が目立ちはじめているという点にも注目する必要があろう。

 「裾野の広がり」は、油価が低迷していた1998〜1999年前半頃に、ロシアの石油会社が、資機材の国産品へのシフトを積極的に進めたことにより形成された。すなわち、石油分野が好調になった時の波及効果をより大きくするための基盤が、1999年前半頃までにできあがっていたのである。

 「企業の透明性の急激な高まり」は、具体的には、ユコスやシブネフチ等のいくつかの大手石油会社が、透明性の高まりあるいは企業モラルの向上(たとえば、資金逃避は行っていないということ)を宣伝材料に自社の時価総額を上げるという「ビジネスモデル」をロシア石油分野に持ち込んだことを意味する。そこには、資金逃避のような危ない手段を使わずとも、企業の透明性を高めることにより時価総額を上げれば、合法的により多くの資金が調達でき、(油価が下がった時の)リスクヘッジもできるという思惑がある。実際、ユコスやシブネフチといった石油会社は、透明性や企業モラルの高まりを内外に喧伝することにより、ここ1年強で、時価総額を2 〜3倍にすることに成功している。ロシアの他の石油会社の中にも、ユコスやシブネフチのビジネスモデルを模倣する企業が現れはじめており、資金逃避を試みる石油会社の数は減少している。このような状況を勘案すると、今後、仮に油価が下がったとしても、資金逃避の割合が急激に増加する可能性は低いように思われる。

 要するに、ここ2〜3年の間に、油価の高騰という追い風をより広範に吸収できるシステムが、やや偶発的であるとはいえ、ロシア経済の中に構築され、しかもそのシステムは意外と強固なものだということである。

 信頼性に乏しい上、両刃の剣的性格を有するホットマネーを基盤にしていた1997年の好景気は、砂上の楼閣を想起させるものであったが、現在の好景気は、「砂」よりは遥かにしっかりした地盤に立脚したものであるといえよう。したがって、今の好景気が一挙に崩れるというシナリオは考えがたい。とはいえ、石油ガス以外にn目ぼしい産業が育ってきていないというのも事実で、現在のような好景気が長期間にわたり安定的に維持され、消費市場が右肩上がりの成長を続けるというシナリオも考えがたい。ロシアの消費市場および消費財関連産業に対するスタンスを定める際、この点は決して忘れてならないであろう。換言すれば、過度の悲観論も、過度の楽観論も禁物ということである。

 また、市場経済への移行途上にある国だからといってロシアの消費市場を甘くみるのも禁物であろう。部門によっては、すでに成熟市場の様相を示しており、新規参入が事実上不可能、もしくは新規参入のためには極めて巨額のコストがかかるという状況が生じている。ただ、詳細に見ていくと、意外なところに間隙(ニッチ)が存在するのも事実である。たとえば、モスクワを中心に急激に発展しているスーパーマーケット・チェーンの多くが、まともな配送センターを保有していないという事実が存在する。あるいは、ライフスタイルの変化に伴い、これまであまり注目を集めなかったインスタント食品部門が急成長に転じる兆候が出始めている。

 今回の特集号では、これらロシアの消費市場あるいは消費財関連産業の具体的特性を紹介することに留意した。本特集号が、会員のみなさまのビジネスの発展に何らかの形で寄与できれば幸いである。

 


 

連作レポート「躍動するロシアの消費市場」

当会ロシア東欧経済研究所  調査部次長
坂口泉

1.小売・流通業(スーパーマーケットを中心に)
2.家具市場の現状
3.外食産業で活動する主要企業(ファーストフードを中心に)
4.家電業界の現状
5.乗用車市場の動き
6.食品産業の現状
7.様々な消費市場の現状について

 


 

繊維産業の動向

大阪外国語大学外国語学部助教授
藤原克美

はじめに
1.全体の動向
2.テキスタイル産業
 
(1)産業の特徴
 
(2)企業動向
 
(3)産業集積地:イヴァノヴォ
 
(4)若干の有名企業
3.縫製産業
 
(1)産業の特徴
 
(2)企業動向
 
(3)若干の有名企業
4.繊維産業と国際市場
 
(1)市場としてのロシア
 
(2)対EU
 
(3)
WTO加盟

 

はじめに

 本稿では1998年の金融危機以降の変化を中心にロシアの繊維産業の近年の動向を述べる。なおロシアの統計では軽工業は(1)テキスタイル(メリヤスを含む)、(2)縫製、(3)皮革・毛皮・靴の3つの亜部門に分類され、化繊は石油化学工業に含まれる。ソ連時代の管理系統もソビエト軽工業省の直轄であるテキスタイル部門とロシア軽工業省管轄下の縫製・皮革とに大分されていたため、テキスタイルと縫製産業の関係は概して薄かった。

 


 

ロシア・ビール市場の発展

当会ロシア東欧経済研究所 研究員
齋藤大輔

はじめに
1.ビールの生産と消費
2.ビール市場を取り巻く経済的問題
3.ビール市場とメーカー
4.ビール市場の国家的規制
5.ビールの輸出入
6.ロシア・ビール部門の将来

 

はじめに

 ロシアのビール部門は、ロシアの産業部門の中で最も成長の著しい部門である。ソ連時代、わずかであった消費量は、ビール愛好者の急増やビールメーカーの品質向上等の経営努力により、増加傾向にある。外国メーカーのロシア進出は積極的である。結果として、大手メーカーのほとんどは、外資系によって占められる。地方ごとに林立する中小メーカーは、大手の傘下入りや企業連合を結成するなど生き残りを模索する。需要は今後も増大するとみられており、中国と並ぶ成長市場として、世界各国のビールメーカーは熱い視線を送る。

 本稿では成長著しいロシアのビール部門の現状とその問題点について述べるとともに、発展の可能性を論じる。