ロシア東欧貿易調査月報

2003年5月号

 

T.プーチン時代とロシアの変化 −大統領第一期の「仮決算」−

U.ドイツ企業の対ロシア・中東欧ビジネス戦略

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モスクワ直送情報

 インタビュー 吉岡ゆきさん(ロシア語通訳・翻訳家)

データバンク

 2003年1〜3月のCIS諸国の主要経済指標

CIS・中東欧ビジネストレンド(2003年3月分)

CIS・中東欧諸国関係日誌(2003年3月分)

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統計特集(V)日本の対南東欧・バルト3国・モンゴル貿易統計

 1.ルーマニア

 2.ブルガリア

 3.アルバニア

 4.ユーゴスラビア

 5.ボスニア・ヘルツェゴビナ

 6.マケドニア

 7.クロアチア

 8.スロベニア

 9.エストニア

 10.ラトビア

 11.リトアニア

 12.モンゴル

 


 

プーチン時代とロシアの変化

━大統領第一期の「仮決算」━

県立新潟女子短期大学国際教養学科教授

月出皎司 

はじめに ―高い支持率の陰に―

1.改革後のロシアはどう変わったか

2.プーチン政権の構造と体質

3.プーチン時代の内政情況の特徴

4.下院総選挙とプーチン再選問題

5.対外関係

 

はじめに −高い支持率の陰に−

 プーチン大統領は、就任後満3年を経過し、大統領代行の期間を考慮すれば、この6月で3年半にわたって、ロシアの最高指導者の役割を演じてきたことになる。

 この期間は経済環境の点でロシアにとって非常に恵まれていた。債務超過、財政赤字、給与遅配、高インフレ、流動性不足、バーター蔓延、金融不安、資金の海外逃避、製造業の衰退、といった改革後ロシア経済の見慣れた姿が、これといった目新しい経済政策や改革の断行もなしに、一変した。経済事情の好転で、社会の安定度も高まった。その結果、チェチェン問題などいくつもの難題や失敗すら抱えながらも、プーチン大統領は国民の間で高い支持率を得ている。ロシアにとって、のぞむべくはこの状態が継続することのみ、と言ってしましたいほどの情況に見える。

 しかし、だからといって、プーチン大統領は、就任時に国民が期待した社会改造に関するいくつかの根本的な課題を解決しおおせたわけではない。表面の好況の陰で対処が遅れている経済分野の長期的な問題点もある。たとえば資源関連部門に傾斜しすぎハイテク分野の遅れを拡大している産業構造を近代化する問題や、対処が遅れているインフラストラクチャーの更新と近代化の問題だ。社会秩序の点でもかなりの改善があったとは言え、汚職体質の根源がさほど改まったとはいえない。元超大国ロシアが、欧米の風下に立つ核をもつ中小国家の位置に安んじるのか、それとも一回り小型になったとはいえグローバルな強国としてカムバックするのかもハッキリしない(2003年度大統領教書では後者に比重を置いているようだが、従来から教書と現実の政策との整合性はあまりない)。

 これらさまざまな問題点は、国民の支持率が高いなかにあっても、この国を実際に動かしているエリート階層の中でのプーチン大統領の権威がさほど高くないという事実と結びついて、来年初めに再選をめざすプーチン大統領にとって、大きな課題としてのしかかっている。

 小稿では、プーチン政権をとりまく諸勢力の動きに注目しながら、第一期プーチン政権がロシアをどの程度変えたのか、もしくは変えなかったのか、そして第二期プーチン政権に対して誰がどのような期待や目論見を抱いているのか、選挙を控えたロシアの最近の内政情況を概観する。

 


 

ドイツ企業の対ロシア・中東欧ビジネス戦略

ロシア東欧経済研究所 調査役

              芳地隆之

 はじめに

1.貿易関係

(1)対中東欧貿易

(2)対ロ貿易

2.投資関係

(1)対中東欧投資

(2)対ロ投資

 

はじめに

 200212月、ドイツ産業連盟内に設置されている東方委員会が設立50周年を迎えた。同委員会は1952年に当時のエアハルト経済相およびドイツ経済界のイニシアチブによって組織された、対旧ソ連・東欧諸国との経済関係促進を目的とする民間団体である。西ドイツが建国されて間もない、ソ連との正式な国交さえ樹立していないころに、対共産圏諸国ビジネスの窓口となった東方委員会は、たとえば1960年代におけるソ連との天然ガス・パイプライン取引(ソ連が西ドイツに天然ガスを供給するかわりに、西ドイツからはガス・パイプラインを供給する)プロジェクトの実現など、西ドイツの対ソ経済関係の発展に貢献した。1970年に西ドイツとソ連との間で武力不行使を含む戦後欧州の現状承認が合意されて以降は、西ドイツがそれまでソ連にとって西側最大の貿易相手国であったわが国の地位にとって代わり、ドイツ統一(1990年)、ソ連解体(1991年)を経た現在、ドイツはロシアにとって最も重要な経済パートナーとなっている。

しかしながらこの間、東方委員会のカウンターパートは対外貿易を国家が独占していたソ連時代から多様化し、また、旧ソ連・東欧といっても、たとえばEU加盟候補国である中欧諸国やバルト3国と中央アジア諸国ではまったく違ったアプローチが必要とされている。現在、東方委員会会長を務めるクラウス・マンゴルト(ダイムラークライスラー・サービス社長/ダイムラークライスラー取締役)は今後の同委員会が担う重要な役割として、旧ソ連・東欧地域への進出を検討している企業に対するきめ細かいサービス、エネルギー戦略問題への取り組み、独ロ戦略作業部会(2000年6月のプーチン大統領訪独の際に設立。両国の財務、経済、外務関連各省の高級官僚および専門家、さらに東方委員会およびロシア経済発展貿易省がメンバーとして名を連ねる)におけるコンサルティング業務などを挙げている1)。転換期にある東方委員会の活動は当会にとっても参考になるものと思われるが、本リポートではその背景にあるドイツの対ロシア・中東欧経済関係の現状ならびにドイツ企業による同地域への進出状況について、2000年4月〜2003年3月に在ドイツ日本国大使館専門調査員として現地で収集した情報も織り交ぜながら報告したい。