ロシア東欧貿易調査月報 2003年7月号 |
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◆巻頭言◆
ロシア極東経済使節団所感
(社)ロシア東欧貿易会 会長
高垣佑
ロシア東欧貿易会では毎年、ロシア極東地域に経済使節団を派遣しているが、今年の訪問団は5月31日から6月7日まで、ウラジオストク、ハバロフスク、ユジノサハリンスクを訪ねた。
ロシア側の主な面談者は、プリコフスキー極東ロシア大統領全権代表、イシャーエフ・ハバロフスク地方知事、ダリキン沿海地方知事、ファルフジノフ・サハリン州知事で、それぞれ1時間の懇談ができたし、イシャーエフ知事、ダリキン知事とは、さらに突っ込んだ話をする時間もとれた。
シベリアからナホトカに至る太平洋パイプラインが、日ロ政府首脳間協議の俎上にの り、サハリン・プロジェクトからの石油・ガスに日本の買付けが確定した時期でもあり、対話は具体的で友好的であった。
太平洋パイプラインは日本にとっては中近東に大きく依存していたエネルギー供給源の分散という安全保障の視点からも国益に沿うものであり、ロシアにとっても東シベリアの開発・太平洋市場へのアクセスという観点から意義が大きく、今回の対話でロシア側は全権代表も、ハバロフスク地方知事も、沿海地方知事も、太平洋パイプラインについての日本の主張は、自分達の考え方と一致することを確認した。
今回の訪問団には、名簿を見て頂ければ分るが、太平洋パイプライン及びサハリン・プロジェクトを進める上で、重要な、大口需要家、プロジェクトの出資者、資金供給機関、パイプライン製造会社等の有力メンバーがいて、日ロ対話の厚味を増した。各メンバーは、要所要所で代わる代わる、 このエネルギー・プロジェクトを進める上で日本側が重要と思う点を整斉と発言し、ロシア側が熱心に聞き入る事が度々あった。
サハリン訪問は2年ぶりであったが、前回に比べて、プロジェクトの経済的インパクトが明白に感じられた。ユジノサハリンスクの日本センターで、10名近い地元の企業家から、プロジェクト進行に伴う影響を聞いたが、優秀な人材の引抜き、賃上げ圧力等の懸念も聞かれたが、全体としてはプロジェクトの具体化に伴い、道路、通信、港湾、住宅、ホテル等建設が増加し、雇用、消費の増加が経済活動を活性化させていることが積極的に評価されていた。北海道とほぼ同じ面積で、人口は北海道の500万人に対し、60万人と言うサハリン経済にはこの動きは大きなインパクトであろう。このような動きは、例えば沿海地方のナホトカを訪れた時にも市長の口から、港湾関連設備受注の増加、港湾荷動きの活性化、雇用の増加等として聞かされた。
このように今回の極東ロシア訪問ではエネルギー分野で、日ロ経済交流の発展を実感したが、エネルギー以外の分野での経済交流となると問題が残る。ハバロフスクでは、近年は毎年のことだが、木材の対日輸出の落ち込みへの対処が強く訴えられた。今回の訪問中に訪ねた工場は、ハバロフスク郊外に4月に完成した「バルチカ・ビール」の新鋭工場 (機械設備はドイツ製)と、ウラジオストクの代表的企業としてのブラッドブレブ社の製パン製菓工場であった。極東ロシアの生活水準の上昇を象徴する両工場の見学はそれとして意義はあったが、ロシアの工業力を考えれば、もう少し広い分野での日ロ工業の提携はできないのだろうか。ヨーロッパ・ロシア地域では、機械、電気、自動車等での 本邦企業の出資や技術提携も少しずつ出て来ているようであるが、日本から近い極東ロシアが適性生産地であるような製品はないものだろうか。エネルギー資源を活かして極東ロシアと日本の経済交流が発展する事は良いが、その関係を安定的なものにするためには、裾野を広げる努力が必要である。中堅中小企業の交流、観光客を含めた人の交流の増加等も力を入れるべきであろう。
ロシア東欧貿易会としては毎年6月の極東ロシア訪問を定期化して、交流の発展と安定化の努力を続けていきたい。
ロシア極東地域経済使節団報告
ロシア東欧貿易会 顧問
三菱商事株式会社国際戦略研究所 顧問
遠藤寿一
はじめに
1.ロシア極東地域行政府幹部との会談
2.日本センター研修生OBとの対話
終わりに
(付属資料1)対ロシア極東地域経済視察団 参加者名簿
(付属資料2)対ロシア極東地域経済視察団 日程
はじめに
今年1月9日、初めてロシアに第一歩を踏み入れた小泉総理は、翌10日クレムリンでプーチン大統領との「日ロ首脳会談」に臨み、「日ロ行動計画」等一連の公式文書に署名した。
ここで小泉総理は、日本が「アンガルスク〜ナホトカ原油パイプライン」に高い関心を持っていることを表明した。さらに12日、歴代の総理としては初めて極東に足を踏みこみ、この地域の中心的存在であるハバロフスクを公式訪問した。
これら一連の小泉訪ロをロシア側識者は、日本の対ロ外交はようやく「原則から現実」へ移行し、「エネルギー」「極東」というキーワードが見えてきたことを評価している。
ソ連邦時代から極東地域は、モスクワから見れば僻地であり、手付かずの天然資源と「東西冷戦」の陰に東の防衛最前線でしかなかったが、冷戦が終結すると防衛線はその存在意義を失い、市場経済への移行過程で採算性を重視する資源開発は中断を余儀なくされ、経済は疲弊して人口は年々西へと流失してきた。
このような状況において実現した小泉総理の極東訪問では、「政治問題の解決には、まず経済問題においてより緊密な関係を築くことである」との総理の言葉にロシア側関係者は大いに勇気付けられたという。
今般のロシア東欧貿易会使節団との会談においても、イシャーエフ・ハバロフスク地方知事は「小泉総理と会談できたことは、非常に名誉に思っている。日ロ問題は必ずや進展すると確信している」と述べ、北方四島返還論で親日派の同知事は新たなるエネルギーを得て、日ロ関係発展へのさらなる尽力を確約している。
以下、今回の「平成15年度ロシア東欧貿易会・対ロシア極東地域経済使節団」に関し、訪問の概要を報告するとともに、参加した所感を述べることとする。
EUの東方拡大とロシア
―ヨーロッパ共通経済空間の可能性―
立正大学経済学部助教授
蓮見雄
はじめに
1.EUの東方拡大とロシア・EU関係の変化
2.ロシア・EUの経済関係
3.CIS貿易におけるロシアの位置
4.EUの東方拡大がもたらす近隣諸国への影響
5.ヨーロッパ共通経済空間構想
6.より大きなヨーロッパ −EUの新しい近隣諸国政策
おわりに
はじめに
今日からみて、旧共産圏における市場経済への移行の開始は、新たな世界秩序づくりのはじまりにすぎなかった。中東欧諸国のEU加盟は、確かに移行の終わりを告げる歴史的マイルストーンであるが、それは同時に拡大EU域外に残される近隣諸国をも巻き込んだヨーロッパの拡大の始まりでもある。旧共産圏が市場経済へと移行するきっかけとなったのは1985年のソ連におけるゴルバチョフ政権の成立であった。奇しくも、同じ年にEUは市場統合白書を公表し、今日のユーロに至る道を歩み始めたのである。それから15年あまり、昔の面影を残しながらもお互いにすっかりその風貌と性格を変えたロシアとEUは、冷戦後の新たな欧州秩序を目指して緊密に協力し始めている。それを象徴的に示すのが、ヨーロッパ共通経済空間構想(CEES)である。すでに批判が出ているように、この構想は曖昧な要素が多く、その具体像は未だ明らかにはなっていない。しかしながら、こうした構想が出され、しかもロシアとEUとが共同でプランづくりを始めていること自体、1990年代に両者の関係が大きく変化した結果であることを看過してはならない。拡大EUとその最大の隣国ロシアとの協力関係は、冷戦時代とは全く異なった原理に基づく新しい欧州秩序を生み出す可能性を秘めている。今や課題となっているのは「EUの拡大」ではなく、「ヨーロッパの拡大」である。
本稿は、こうした問題意識から、拡大EUがその近隣諸国にもたらす影響について、特にロシアとEUとの関係を軸に検討し、ヨーロッパ共通経済空間構想が新たな欧州秩序の展望を切り開く可能性をもつことを示す。
発展する中・東欧の自動車産業
−販売・生産両面の現状と将来展望−
菱木勤治
はじめに
1.中・東欧の自動車販売市場の概要
2.中・東欧の自動車生産概要
3.EU東方拡大の中・東欧への影響と意義
おわりに
はじめに
日本ないし日本人にとって、中欧や東欧は冷戦時代から長い間なじみのない国・地域であった。このような傾向は、日本人観光客の大幅増加、日本企業の活発な進出、中・東欧諸国のEU加盟が視野に入ってきたことなどから、近年かなり改善されてきた。自動車関連企業ではスズキが1992年にハンガリーで操業を開始し、トヨタが2001年にチェコへの進出を決定した。デンソー、いすずなど部品企業も多数中欧へ進出している。これらの動きが、中欧と日本との経済関係親密化を大きく促進したことも見逃せない。
この中・東欧では、世界大の自動車産業再編がもたらした競争激化により、主要自動車メーカー(以下、メーカーと略す)が生き残りをかけた販売・生産両面の競争を繰り広げている。これを「欧州自動車戦争」と呼ぶ人もいる。メーカーにとって北米、西欧、日本の販売市場はすでに成熟し、大きな成長は期待できない。そこで新たな競争の舞台として、今後の成長が期待できるイマージング・マーケットが選ばれる。最も期待されるイマージング・マーケットは中国であり、次いで中・東欧(ロシア)あるいは東南アジア、中南米などが注目されるという構図だ。
本稿は、このように主要メーカーの事業展開が活発化している中・東欧の自動車産業の現状を分析・紹介するものである。対象は自動車のうち主として乗用車を取り上げ、対象国は中欧のポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリー、スロベニアの5カ国、東欧のクロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ(以下ボスニアと略す)、セルビア・モンテネグロ(以下セルビアと略す)、ルーマニア、ブルガリア、ウクライナ、ベラルーシの7カ国、合計12カ国を取り上げる。
データバンク:中東欧諸国の基礎データと主要経済指標
今回のデータバンクでは、「特集:欧州拡大、その先にあるもの」の一環として、中東欧諸国の基礎データと過去数年の主要経済指標をまとめてお届けいたします。取り上げるのは以下の国々です。
1.ポーランド
2.チェコ
3.スロバキア
4.ハンガリー
5.ルーマニア
6.ブルガリア
7.アルバニア
8.セルビア・モンテネグロ
9.ボスニア・ヘルツェゴビナ
10.マケドニア
11.クロアチア
12.スロベニア
13.エストニア
14.ラトビア
15.リトアニア
新コーナー「ロシア企業クローズアップ」について
今回から、新コーナー「ロシア企業クローズアップ」を連載いたします。このコーナーでは、毎回特定のロシア企業をピックアップし、報道やインターネット情報をもとに、当該企業に関する最新の情報をとりまとめてお伝えいたします。本コーナーが、ロシア経済に関する理解を深めるうえでの一助となり、ひいては日本とロシアの経済交流拡大に多少なりとも貢献できれば幸甚であります。
第1回の今回は、ロシアを代表する大企業、天然ガス分野の独占体「ガスプロム」をお届けいたします。