ロシア東欧貿易調査月報 2005年3月号 |
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ロシア石油業界と最新事情とその特性
ロシア東欧経済研究所 調査部次長
坂口泉
はじめに
1.数字で見る最近のロシア石油分野の状況
2.ロシアの石油業界の全般的特性
(1)ロシア石油分野のM&Aの背後にあるもの
(2)ロシア石油分野の民営化プロセスとユコス事件
(3)オーナー社長が君臨する石油会社の多さ
(4)上流分野における国家管理の弱さ
3.主要な石油会社の特性
(1)ルクオイル
(2)TNK-BP
(3)シブネフチ
(4)バシネフチ
(5)タトネフチ
(6)ルスネフチ
まとめ
はじめに
現在、ロシアの石油分野は大きな注目を集めているが、筆者の認識する範囲では、その全般的特性や個々の企業の内情は意外に知られていないような気がする。このため、以前も指摘したように、断片的な情報が部分拡大され、それがあたかもロシアの石油分野全体にあてはまる事象であるかのように伝えられる傾向が見受けられる。たとえば、ユコス全盛時代には、ユコスが採用していた短期収益性を最優先する経営方式があたかも絶対的な善であるかのような印象を抱かせる情報が氾濫しており、ユコスという企業が抱えるリスクに注意を払う者はほとんどいなかった(もっとも、かく言う筆者も、事態がユコスの解体にまで至るとは思っていなかったが)。
そのような状況を踏まえ、本稿では、ロシアの石油業界の全般的特性をいくつか紹介すると同時に、ロシアの主要石油会社の現状とその特性についても言及する。本稿が、ロシアの石油分野の状況を客観的かつ網羅的に把握する上での一助となれば幸いである。
なお、ロシアの主要石油会社のうち、スルグトネフチェガスについては本誌2004年7月号で紹介したので本稿では省略した。また、ユコスとロスネフチも、その企業構成が変化する可能性が高いので本稿では言及を避けた(この2社については、一連の動きが落ち着いてから今春発行予定の当会の特別報告書『ロシアの新規石油開発(仮題)』の中で言及したいと考えている)。
プーチン政権第二期
―悩み多き強権体質―
県立新潟女子短期大学国際教養学科教授
現代ロシア研究家 Russia Analysts Group(Japan)幹事
月出皎司
はじめに ―「プーチン独裁」論の予想―
1.原因、その名は「ウラジーミル・プーチン」
2.内政:強権体制のひずみ
3.経済
4.外交
5.2008年まであと2年
はじめに ―「プーチン独裁」論の予想―
企業のトップであれ一国の指導者であれ、任期が二期目に入ると自分の信念にそって思い切ったポリシーが実行できるといわれるが、それには一理ある。一期目の就任に伴う「貸し借り」の束縛も薄れ、部下の陣容も意に添ったものになるのが普通だし、権力の行使に習熟してくるという要素も大きい。
プーチン大統領が昨年3月に再選されることは明らかだったから、第二期政権についての観測もはやくから行われていた。その多くは、プーチン大統領の権威と指導力が高まって政権は安定性を増し、大胆な政策実行が期待できる、というものであり、「プーチン独裁」という表現も見受けられた。
このような観測の背景には、二期目のトップについての上述した一般論の他に、2003年半ばからとりわけ顕著になってきた強権的な政治スタイルと、同年末に行われた下院総選挙にみられた野党の後退という政治状況があった。経済も順調に成長していたし、国民の支持率も高く、強権政治への表だった反対がなかったばかりでなく、大衆の間にはむしろそれを支持する声が強いように思われた。筆者は一貫してこれとは違う見方をしていたが、といって、上記の予想がいい加減なものだったというつもりはない。それどころか、かなり説得力のある根拠をもっていたことを率直に認めたい。
さて、第二期の初年度が終わった現在、上記の予測がとりあえず外れたことについては、多分異論がないと思う。いっこうにおさまらないテロ事件や年初そうそう全国に広がった国民の街頭行動を考えただけでも、期待されたような安定した政治状況にないことは明らかだ。もっとも、政権の独裁的性質は強まった、というご指摘はあるだろう。正当な指摘なのだが、それが政治家プーチン個人の権力強化を意味するのかどうかは、本稿のなかで検討していきたい。
ロシア極東漁業の再生には何が必要か
ロシア科学アカデミー極東支部経済研究所 上級研究員
G.スホミロフ
はじめに
1.ロシア極東の水産資源と水揚高
2.他地域・他国への供給
3.日本をはじめとする諸外国との協力関係
4.資源の賢明な利用
5.不公正な輸出と密漁を防止する課題
はじめに
ロシアの漁業において、極東地域の重要性はつとに知られている。ロシア全体の漁獲高に占める極東地域の割合は、コンスタントに50%を上回っており、70%を超える年もある。
しかるに、極東の海域では、海洋生物資源の合理的な利用、資源量の適切な管理がなされていない。1990年代に入ってロシア極東の漁獲高は急減し、いったんは回復に転じたものの、その後再び低下傾向をたどっている。
本稿では、ロシア極東漁業が現在置かれている状況について事実関係をまとめるとともに、その持続的な発展、アジア太平洋諸国との協力拡大のために何が必要かを論じることとする。
ハンガリーにおける外国投資誘致政策
ロシア東欧経済研究所 非常勤研究員
佐藤嘉寿子
はじめに
1.ハンガリーにおける外国投資誘致政策の制度変化(1989年〜2002年)
2.EU加盟に向けたハンガリー政府の政策転換
3.外国直接投資の将来的見通しと今後の課題
おわりに
付属資料:「セーチェーニ・プラン」の内容及び「スマート・ハンガリー」の概要
はじめに
2004年5月、ハンガリーは欧州連合(EU)に正式加盟した。1989年のいわゆる「東欧革命」から15年、ひとつの悲願が果たされたといえよう。加盟に至るまでのプロセスには紆余曲折があったが、ハンガリーは、加盟候補国の中で常に先頭に立っていたのである。
ハンガリーが、EU加盟を目指す諸国の中で先頭の地位を維持できた主な要因は、外国直接投資(FDI)の役割である。ハンガリー政府は、市場経済の早い段階から外国資本の誘致に積極的であった。その効果もあって、同国は、FDI累積総額が1997年まで中欧地域において常にトップの地位にあったわけである。1998年以降は、ポーランドやチェコにその座を明け渡したものの、ハンガリーは、1993〜2001年までの9年間に中欧諸国に流入したFDIの23.5%(約236億ドル)を獲得した。この巨額な外国資本の流入が、市場競争の促進、産業構造の近代化、製品輸出力の強化、企業経営の健全化など、ハンガリー経済を支えると共に同国の経済システムの質的改善にも大きく寄与したのである。しかし、EU加盟に伴いEU共通ルールを受け入れざるを得なくなり、ハンガリー政府は、これまでの非常に優遇的な外国投資誘致政策を大幅に修正しなければならなくなった。この政策転換は、ハンガリー経済の将来の見通しや、同国へ進出した多国籍企業の今後の経営行動の予測にとって、最も重要なファクターになっている。
以上の点を踏まえて、本論では、ハンガリーの外国投資誘致政策に生じた制度変化の内容と、EU加盟後のFDIに関する将来への見通しと今後の課題について述べることにする。
なお、本稿は論文「ハンガリーのEU加盟と外国投資誘致政策」(『スラヴ研究』第51号,2004年,pp.209-239)を、共著者である岩崎一郎氏の承諾を得て、佐藤が主に執筆した部分を再構成したペーパーであり、その一部には岩崎氏による執筆部分が含まれていることをお断りしておく。
◆資料紹介◆
ロシア資本のウクライナへの進出状況
はじめに
1.電力
2.石油
3.天然ガス
4.鉄鋼
5.非鉄金属
6.機械
7.軍需産業
8.化学・石油化学
9.食品
10.テレコム
11.マスコミ・広告
12.金融
はじめに
2004年12月26日、ウクライナ大統領選挙・決選投票のやり直し投票が実施され、民主野党を代表するユーシチェンコ候補が51.99%を得票してこれを制した。周知のように、この選挙ではロシアのプーチン政権が体制派のヤヌコヴィチ首相をあからさまに支援し、それがかえってあだになる形となった。
今回のロシアによる大がかりな関与の背景を考えるに、NATO拡大への対抗といった安全保障上の要因に加え、ウクライナにおけるロシアの経済的利害という要因も当然見逃してはなるまい。有名なところでは、オデッサ〜ブロディ・パイプラインの利用をめぐる欧州とロシアの綱引きが挙げられよう。実は、エネルギー輸送以外の分野でも、ロシア資本は様々な形でウクライナ経済に浸透しつつあり、すでに市場を支配している分野も少なくない。
これに関連し、ロシアの『エクスペルト』誌は、2003年10月13−19日号の別冊において、両国の経済関係を特集の形で取り上げており、その一環としてウクライナの各産業分野におけるロシア資本の進出状況と今後の展望を一覧表にして示している。1年ほど前に出たものなので、やや情報が古くなっているところもあるが、今後のウクライナ経済、ロシア・ウクライナ関係を考えるうえできわめて有益な資料なので、以下抜粋して紹介する。
ロシア企業クローズアップ
1.カザンオルグシンテズ
ロシア最大のポリエチレン生産企業。原料調達先と販売先をガスプロム社に支配されており、支配構造からの自立を目指す。DVDや電子機器の外枠、自動車部品などに幅広く使われるポリカーボネートなどの高付加価値商品の生産増大を予定。
2.バルチースキー・ザヴォード
ロシア最大の造船所。フリゲート艦を中心に軍艦の建造が中心。原子力砕氷船や原発関連設備など、原子力関係の機械機器の生産でも実績を有す。民生用船舶の建造受注を増やせるかどうかが最大の課題。
データバンク
1.2004年1〜9月のCIS諸国の経済
2.2004年のロシアにおける外国ブランド乗用車の販売状況
ロシアのウェブサイト「RBKレイティング(http://rating.rbc.ru)」に、2004年の同国における外国ブランド乗用車(新車)の販売状況に関するデータが掲載されたので、これを表にまとめてお届けする。このデータは、外国から輸入された車だけでなく、ロシア国内で組み立てられた外国ブランド車も含んだものなので、ご注意願いたい(ただしChevrolet-Nivaは含まれていない)。なお、Ssang Yong、Ferrari、Porscheのデータはまだ出ていない由。
2004年のロシアにおける外国車の販売は、期待以上の大きなテンポで増大し、前年比83.8%増の35万台に達した。会社別に見ると、上位6社と7位以下の格差が広がり、上位6社だけで全体の約3分の2を占める構図となっている。
上位6社のうち3社は日系メーカーである(トヨタ、三菱、日産)。ただ、2003年に販売台数トップであったトヨタは、2004年も順調に台数を伸ばしたものの、前年から3.5倍も販売を拡大したヒュンダイにかわされ、トップの座を明け渡した。なお、業界筋では、マツダの販売急増にも注目が集まっている。
ヒュンダイ躍進の要因としては、@ロシアのタガンログ自動車工場でヒュンダイの2モデルが生産され始め、価格・納期面の条件が改善されたこと、Aアグレッシブな拡販努力、Bサービス網の拡充、などが挙げられる。一方、Peugeot、Skodaといった欧州勢は、ユーロ高が響き、引き続き苦戦している。
ビジネス最前線
Interview セキュリティ市場から見たロシアのいま
株式会社ホトロン 海外第2営業部部長 細川良一さん
はじめに
今回は自動ドアセンサーのパイオニア、潟zトロンの細川さんにご登場いただきます。
1967年以来、自動化装置、各種センサーを開発している潟zトロンは、無線技術を応用した車両検知用センサー、看護介護用センサーのほか、最近ではセキュリティシステムまでビジネスの幅を広げており、自動ドアに付随するセンサー・メーカーとしては世界有数の企業となっています。
ロシア市場でのビジネスチャンスを探るべく細川さんは昨年末、モスクワとサンクトペテルブルグで多くの企業を訪問されました。セキュリティ分野を通してみたロシアは? 旧ソ連時代との比較も交えながら、お話をうかがいます。