ロシア東欧貿易調査月報

2005年4月号

 

T.2004年ウクライナ大統領選挙 ―政権交代がもたらすもの―

 

U.2004年のロシアの金融市場

 

V.ロシア極東と北東アジア諸国の貿易関係

 

W.中小ビジネス投資促進視察団を終えて

  ―モスクワ・サンクトペテルブルグ視察報告―

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ビジネス最前線

 ロシアにおけるiモード戦略

 政変後のウクライナ・ビジネス

ロシア企業クローズアップ

 ウランウデ航空機工場

データバンク

 特集:1990〜2004年のロシアの鉱工業製品生産高

CIS・中東欧ビジネストレンド(2005年1月分)

 

 


 

2004年ウクライナ大統領選挙

―政権交代がもたらすもの―

北海道大学スラブ研究センター 21世紀COE研究員

藤森信吉

 

はじめに

1.選挙への道

2.2004年大統領選挙

3.ユーシチェンコ新政権の課題

むすびにかえて ―2006年議会選挙に向けて

 

はじめに

 2005年1月23日、ヴィクトル・ユーシチェンコが第三代ウクライナ大統領に就任した。世界中が注視する中、実に三回の投票、三ヶ月の選挙キャンペーン期間と首都の混乱を経て、ウクライナはようやく落ち着きを見せた訳だ(第1表参照)。

 2004年のウクライナ大統領選挙が内外の注目を集めた理由はいくつかある。第一が、首都キエフにおける大規模な抗議集会であろう。ヴィジュアル的に映える抗議集会は「オレンジ革命」と命名され、世界各地に配信された。198889年に生じた「東欧・民主化革命」、あるいは2003年の「グルジア・薔薇革命」と関連付けた論調も多かった。第二が、欧米(特にアメリカ)とロシアの選挙への関与である。今回の選挙でのロシアとアメリカの関与は、それぞれが異なる候補者を支持するというものであった。第三が、ウクライナ国内の分裂である。地域的(東西分裂)のみならず、体制内エリート間でも分裂が見られた。99年大統領選挙では、地域的な東西分裂は見られず、エリートも結束した。今回の選挙では、再び東西分裂が蘇ったような投票結果を示し、体制内エリートも二期10年間続いたクチマ政権の任期切れを見据えて、エリート分裂が起こり、多くが、ユーシチェンコ陣営に転じていた。

 本稿は、これらの問題を中心に、2004年ウクライナ大統領選挙が持つ意味、選挙結果を検討し、そして新しく誕生したユーシチェンコ・ウクライナの課題を検討する。なお、本稿は紙幅の都合上、99年の大統領選挙から記述する。それ以前のウクライナ政治については、拙稿「ウクライナとNATOの東方拡大」を参照頂きたい。

 


 

2004年のロシアの金融市場

ロシア東欧貿易会 モスクワ事務所副所長

D.ヴォロンツォフ

 

はじめに

1.マクロ経済指標

2.為替レート

3.外貨準備

4.銀行システムと融資

5.国債市場

6.株式市場

7.ロシアの外債市場

8.若干の総括

 

はじめに

 ロシア金融市場レポートの2004年版をお届けする。2004年の金融市場は、夏場に銀行部門で起きた動揺が見られたもの、6年連続のプラス成長を追い風にして、全体として安定した動きを見せた。しかし、株式市場の取引規模がロシアの潜在的な市場規模を反映せず、また企業の金融機関からの借入コストがまだ大きいなど、まだまだ改善の余地があると思われる。

 


 

ロシア極東と北東アジア諸国の貿易関係

ロシア科学アカデミー極東支部経済研究所 部長

Ye.デヴァエワ

はじめに

1.中国との貿易関係

2.日本との貿易関係

3.韓国との貿易関係

4.北朝鮮・モンゴルとの貿易関係

おわりに

 

はじめに

 ロシア極東地域の対外貿易は、戦後すぐに北東アジア諸国を主要な取引相手とするようになった。1980年には、ロシア極東の外国向け輸出の51.5%が、北東アジア諸国向けとなっていた。しかしながら、この時点では、旧ソ連と北東アジア諸国の貿易において、極東地域が顕著な役割を果たしていたわけではない。旧ソ連の北東アジア向け輸出のうち、ロシア極東地域からのそれは13.4%にすぎなかった。北東アジア向け輸出でも、旧ソ連からのそれと、極東地域からのそれでは、商品構成が対極的であった。

 1990年代に差し掛かって、かねてから芽生えていたロシア極東と北東アジア諸国との通商関係の拡大が、質的に新しい刺激を受けるようになった。

 極東地域の鉱工業生産が縮小し、未払問題が増大し、生産コストも上昇するというなかで、輸送費の天文学的な高騰がほぼ決定的な要因となり、極東の貿易が北東アジア市場にシフトすることとなった。1990年代前半に、貨物1t当たりの1kmの輸送コストは実に1万2,500倍も高騰したのである。しかも、平均輸送コストの上昇率は、鉱工業製品の卸売物価の上昇をはるかに上回っていた。ある試算によれば、極東の石炭をロシア中央部に出荷した場合の価格は、日本に出荷した場合の3.3倍に上る。日本に出荷した場合、石炭の原価に占める輸送費は25%だが、ロシア中央部に出荷すると77%に跳ね上がる。こうした状況では、極東地域がより利益のあがる対外市場にシフトしたのも無理はない。早くも1992年には、ロシア極東の輸出に占める北東アジア諸国向けの比率は、82%に上っていた。

 1990年代後半になると、ロシア極東の貿易相手が多様化したことにより(貿易相手国は100カ国以上となった)、北東アジア諸国の比率は若干低下することになる。それでも、北東アジア諸国は現在でも依然としてロシア極東の貿易取引の65%を占めている。それに対し、ロシア全体の貿易に占める北東アジアのシェアは、9.6%どまりである。その際に、ロシアの対北東アジア貿易に占める極東地域のシェアが、現在までに顕著に拡大している。20002002年に、ロシアの対北東アジア輸出に占める極東地域のシェアは、28%前後の水準にあった。中国、日本、韓国といった北東アジア諸国向けのロシアの輸出の商品構造は、極東地域によって決まるようになっている。

 以下本稿では、ロシア極東地域と北東アジア諸国の貿易関係を、中国、日本、韓国、北朝鮮、モンゴルと相手国ごとに概観してみることにする。

 


 

中小ビジネス投資促進視察団を終えて

―モスクワ・サンクトペテルブルグ視察報告―

 

はじめに

1.「中小ビジネス投資促進視察団」概要

2.ロシア東欧貿易会中小ビジネス研究会代表団印象記(鈴木政義)

3.ロ東貿・中小ビジネス交流視察団に参加して(朝倉紀彦)

4.中小ビジネス交流視察参加印象記(小松英雄)

 

はじめに

 ロシア東欧貿易会では、平成16年度石油特別会計補助事業の一環として、この1月にロシアのモスクワおよびサンクトペテルブルグに「中小ビジネス投資促進視察団」を派遣した。ここでは、視察団の訪問概要について報告するとともに、本視察団にご参加くださった団員の方々の所感を掲載する。

 


 

ビジネス最前線

Interview ロシアにおけるiモード戦略

株式会社NTTドコモ グローバル事業推進室 ジョン・ラーゲリンさん

はじめに

 日本のNTTドコモ社は昨年12月、ロシア携帯最大手のMTS社との戦略的提携を発表しました。iモードサービスをロシアで開始するためにライセンス契約を締結し、それに必要なノウハウや技術を提供するとの内容です(本誌3月号102頁参照)。本件は、日ロ経済関係が拡大・多様化してきたことの一つの表れであり、またIT時代を象徴する注目すべきトピックスでもあります。そこで本誌では早速NTTドコモ本社をお訪ねし、ロシアとの交渉当事者であるジョン・ラーゲリンさんに詳しいお話をうかがってまいりました。ラーゲリンさんはスウェーデン生まれだそうですが、日本滞在が長く、きわめて流暢な日本語でロシアにおけるiモード戦略について語ってくださいました。

 

interview 政変後のウクライナ・ビジネス

三菱商事株式会社 キエフ事務所所長 足立純一さん

はじめに

 国を二分し、文字どおり世界を揺るがした昨年のウクライナ「オレンジ革命」。大きなポテンシャルをもちながら、独立後に停滞と混迷が続いてきたウクライナですが、ユーシチェンコ新政権の発足に伴い、EUへの加入といったシナリオもにわかに現実味を帯びてきている感もあります。日本企業の間でも、ウクライナへの関心が高まってきているようです。

 そこで編集部では、革命の熱気いまだ冷めやらぬキエフに入り、日本商工会の会長を務めておられる三菱商事キエフ事務所の足立所長にお話をうかがってまいりました。早速、そのホットなインタビューをお届けします。

 


 

ロシア企業クローズアップ

 

ウランウデ航空機工場

 ロシアの多くの軍産複合体のなかで、きわめて高い競争力をもった企業。主力生産品は、攻撃機と軍用・民間ヘリコプター。ロシア軍からの安定的な国家発注と活発な外需により、業績を向上させている。最近、新たに設立された国家持ち株会社の傘下に入る。

 


 

データバンク

 

特集:1990〜2004年のロシアの鉱工業製品生産高

 

 本誌では定期的に、ロシアの主要鉱工業製品の生産動向をお伝えしているが、今回は19902004年の数字を集大成する形で、ロシアの鉱工業製品の生産データを詳しくお届けすることにする。出典は、19902003年分がロシア連邦国家統計局『2004年版ロシア統計年鑑』、2004年分が同『2004年ロシアの社会・経済情勢』である。2004年の生産高は速報値であり、一部は概数となっているので、ご承知置き願いたい。データは、下記のような10の部門に分類されて示されている。なお、非鉄金属については、ロシアの公式統計には具体的な生産量が掲載されないので、今回は割愛した。いずれ、別の形で紹介してみたいと考えている。

(1)燃料・エネルギー産業

(2)鉄鋼業

(3)化学工業

(4)機械工業

(5)林業・木材・紙パルプ産業

(6)建材工業

(7)軽工業

(8)食品産業

(9)医薬品産業

10)医療機器産業