ロシア東欧貿易調査月報

2005年11月号

 

T.ロシアの銀行部門の発展と問題点

 

U.外資を軸にM&Aが進むロシア・ビール業界

 

V.資料紹介:ロシアの経済特区法(仮訳)

◇◇◇

ビジネス最前線

 サンクトペテルブルグのビジネス環境

 

ロシア企業クローズアップ

 1.TVEL

 2.シリヴィニト

 3.ロシアテキスタイル

 

データバンク

 1.2005年1〜6月のロシア経済

 2.CIS諸国の国家財政

 3.ロシアの小売チェーン販売高ランキング

 

CIS・中東欧ビジネストレンド(2005年7-8月分)

 

◇◇◇

 

統計特集:2005年上半期の日本の対CIS主要国貿易統計

 1.ロシア

 2.ウクライナ

 3.カザフスタン

 4.ウズベキスタン

 5.アゼルバイジャン

◇◇◇

連載

 一枚の写真 「ようこそEUへ」

 

 ドーム・クニーギ

  中澤孝之・日暮高則・下条正男著『図解 島国ニッポンの領土問題』

 

 

 


一枚の写真

ようこそEUへ

 

  8月下旬、ロシアのカリーニングラードから、ポーランドのグダンスクまで、車で移動する機会があった。ポーランドとリトアニアがEUに加入し、もともと飛び地だったカリーニングラード州はEUに包囲されてしまった。ロシアのなかでも特有の地位を占めるカリーニングラード州と、拡大EUとの国境が、現在どうなっているのか、この目で確かめたいと思っていた。

 問題の国境に到着した。広い広いロシア領土の、ここがほぼ最西端である。国境では、ロシア側で市民の自動車が長蛇の列をなしていた。まともに通過しようと思ったら、1日がかりかもしれない。ただ、我々の場合は運転手が気転を利かしてくれ、「バス」という扱いになっていたため(実際にはワゴン車にすぎないのだが)、比較的スムーズに国境を越えられた。出入国の所要時間は1時間程度だっただろうか。ロシアとEUの国境は、予想したほど「分断」色が濃くなく、緊張感も希薄であった。

 ポーランド領に入ったところで、「ようこそEUへ」という看板が目に飛び込んできた(写真)。ポーランド語、英語、ロシア語で書かれている。確かに我々は、EUテリトリーに入って、自由社会に脱出したような気分を味わっていた。理不尽な規則でがんじがらめでありながら、不思議と融通が利いた、ロシアでの色んな出来事を反芻しつつ……。

 偶然にも、グダンスクでは、自主管理労組「連帯」誕生の25周年が祝われているところだった。共産主義崩壊の端緒となった事件から、四半世紀。最大の皮肉は、市場経済化で、旧レーニン造船所が破産してしまい、労働者が行き場を失ったことか。

(服部 倫卓)

 


 

ロシアの銀行部門の発展と問題点

ロシア科学アカデミー東洋学研究所 主任研究員

V.シュヴィトコ

はじめに

1.ロシア銀行制度の概要

2.銀行部門の規模と最近の動向

3.問題点と潜在的リスク

4.「銀行部門発展戦略」と今後の見通し

 

はじめに

 ロシアの銀行部門の状況は、ロシアの財政と金融に1998年秋に起こった混乱が収まってきた時期以来、大きなニュースのテーマになることがまれで、世論の関心の対象としてのその重要性が徐々に低下している。専門家の間で5〜6年程前に幅広く議論されていた「銀行改革」の必要性はますます感じられなくなり、その話題性も弱くなっている。また、ロシア政府と世銀・IMFの関係が小さくなるに伴って、国際金融機関がロシア銀行部門の状況と成り行きをモニターする動機も弱まり、調査の対象になる事例が少なくなってきた。

 ただ、大きな注目を受けなくなった同部門はどのような状況にあり、どのような展望を抱えているだろうか。その構造と業務内容には変化が進んでいるのか。もし進んでいるとすれば、その方向性はどのように決まるか。抱えている問題が解消する見通しはどうなっているか。またロシアの銀行の弱さが明白であるにもかかわらず、外国銀行のロシアへの進出がなぜそれほど盛んでないか。

 今回のレポートでは、これらの疑問に対して満足できる答えにはならないにしても、ロシアの銀行部門の現状と近い将来についてある程度のイメージをつかむ助けになるものと期待して、読者の皆様にご紹介したい。

 


 

外資を軸にM&Aが進むロシア・ビール業界

ロシア東欧経済研究所 調査部次長

坂口泉

はじめに

1.ロシアのビール業界の現状

2.シェア・トップのBBHの動き

3.BBHを急追するサン・インターブリュー

4.ハイネケン・ロシアの積極的な動き

5.その他の外資系メーカーの動き

6.今後M&Aの対象となりうる純国産メーカー

まとめ

 

はじめに

 ロシアのビール業界では従来から外資の存在感が強かったが、最近になり外資によるロシア資本の工場のM&Aが相次いでおり、そのプレゼンスが一層強まっている。本稿では、ロシアのビール業界の全般的な状況を簡単に紹介した後に、バルチック・ビバレッジズ・ホールディング(以下BBHと称する。デンマークのカールスバーグと英国のスコティッシュ・アンド・ニューカッスルの合弁企業)、サン・インターブリュー(インベヴの子会社)、ハイネケン等の大手外資によるM&Aの動きを紹介する。

 


 

◆資料紹介◆

ロシアの経済特区法(仮訳)

はじめに

第1章 総則

第2章 特別経済区の創設と廃止

第3章 特別経済区の管理

第4章 特別経済区入居者の法的地位

第5章 工業生産活動実施協定

第6章 技術導入活動実施協定

第7章 特別経済区内に存在する土地区画の提供方法およびそれら土地区画の利用方法

第8章 特別経済区入居者への課税および特別経済区における関税制度

第9章 特別経済区入居者に提供される保証

10章 雑則

 

はじめに

 ロシアのプーチン大統領は7月22日、上下両院が可決していた経済特区法(連邦法「特別経済区について」)に署名し、これにより同法が成立した。ロシアでは、これまで経済特区が無秩序に乱立してきた経緯があったものの、経済特区に関する一般規則を定める連邦法が制定されるのは今回が初めてである。

 この法律によれば、ロシアの経済特区には、「工業生産特別経済区」と、「技術導入特別経済区」の2種類があるとされている。グレフ経済発展貿易相によると、特区は各5〜6ヵ所(計1012ヵ所)設置され、工業生産特区はノヴォシビルスク州やトムスク市などのシベリアや極東地域、技術導入特区はモスクワ、サンクトペテルブルグ市などでの設置を想定している由。2005年末までにすべての実施規則を準備し、特区選抜のためのコンクールを実施する。また、連邦政府は3番目の特区の種類として、観光レクリエーション特区を準備しており、そのための改正法案を下院の秋の会期に提出する予定とのこと。

 以下では、今回制定された経済特区法を全文翻訳(仮訳)して紹介する。

 


 

ビジネス最前線

Interview サンクトペテルブルグのビジネス環境

サンクトペテルブルグ日本センター 所長 山本博志さん

 

はじめに

 ロシアの「北都」ことサンクトペテルブルグ。これまでは観光の街というイメージが強く、日本人がビジネスの対象として見ることはあまりありませんでした。しかし、トヨタが同市での工場建設を決めたことで、状況は一変しています。そこで、先日サンクトペテルブルグを訪れた機会に、日本センターの山本所長にお会いし、現地のビジネス環境について色々とお話をうかがってまいりました。山本所長は商社の蝶理ご出身で、2004年3月末からセンター長を務めておられます。

 


 

ロシア企業クローズアップ

 

1.TVEL

 世界的な核燃料生産企業。チェルノブイリ型原発および軽水炉用の核燃料・核燃料アセンブリーを国内、CIS諸国、旧コメコン諸国、ドイツ、スイスの原発にも供給。最近は、中国、インドの原発の運転に必要な物資を供給。イランの原発にも関心を示す。

 

2.シリヴィニト

 ロシア最大のカリ肥料生産企業で、近年はロシアにおける化学肥料生産の牽引車となっている。全て自己資金で旺盛な投資活動を実施、ほぼフル稼働状態にある。

 

3.ロシアテキスタイル

 原材料の調達からの製品の生産、販売までを統合した、ロシア最大の繊維産業グループ。高い品質と低価格を武器に欧州およびCIS諸国への輸出を伸ばす。社債の発行にも熱心。

 


 

データバンク

 

1.2005年1〜6月のロシア経済

 

2.CIS諸国の国家財政

 

3.ロシアの小売チェーン販売高ランキング

 ロシア『コメルサント』紙の2005年4月13日号に、ロシアの小売チェーン店の小売販売高ベスト50が掲載されている。ロシアの消費市場に関する基礎資料としてきわめて有用なものなので、表にまとめて紹介する。なお、正確に言えば、これはチェーン店そのもののランキングではなく、それを展開している事業会社のランキングである。したがって、ある会社が2つ以上のチェーンを展開している場合には、その合計額が示されている。

 本ランキングは、2004年の各社の小売販売高にもとづいて作成されている。基本的に販売高は各社が公表した数字であり、公表されなかった場合には業界団体のスタッフが推計したとされている。なお、贅沢品販売業者と、卸売扱いとなる「メトロ・キャッシュ&キャリー」は、本ランキングの対象外となっている。

 インターネットのアドレスは、本誌で独自に調べ、判明した範囲内で付記したものだ。