ロシア東欧貿易調査月報

2006年3月号

2月20日発行

 

 

T.変貌を遂げるロシアの証券市場

 

U.始動するロシアの経済特区制度

 

V.カレリア共和国と近隣諸国との地域協力

 

W.カザフスタン大統領選挙

  ―約束されていたナザルバエフの勝利―

◇◇◇

ビジネス最前線

 ユーラシアの物流を担う

 

ロシア企業クローズアップ

 1.アルロサ

 2.エヴラズホールディング

 

データバンク

 1.2005年1〜9月のCIS諸国の経済

 2.2004〜2005年版ロシア地域別投資環境ランキング

 

CIS・中東欧ビジネストレンド(2005年12月分)

 

◇◇◇

 

連載・定例記事

 一枚の写真   「浅草のストロバヤ」

 

 ノーヴォスチ・レビュー

  シベリア発展の戦略文書が策定される

  ロシア自身もBRICs市場に熱視線

 

 月出皎司のクレムリン・ウォッチ

  第3回 プーチン政権の先祖返り

 

 ドーム・クニーギ

  本村眞澄著『石油大国ロシアの復活

 

 2005年1〜 11月の日本の対CIS・中東欧諸国輸出入通関実績

 

 

 


一枚の写真

浅草のストロバヤ

東京都台東区西浅草2−15−8 Tel:(03)3841-9025

 

 家が近所なので、時折、浅草を散策する。それで気が付いたのは、浅草にはロシア料理店が結構あるという事実である。つい最近も、1軒発見した。「ストロバヤ」というお店だ。ただ、「食堂」を意味するロシア語なら、綴りが「Storovaya」ではなく「Stolovaya」であろう。普段は、別にロシア料理店だからといって入ったりしない私だが、綴りのことが気になったので、ランチを試してみた。

 食後、シェフの秋山司郎さんとお話をしたところ、綴りのことは先刻ご承知だった。以前、何かの拍子でLとRが入れ替わってしまい、それっきりになってしまっているとのことで、それほど気にも留めておられない様子だ。ロシア人のお客さんが来ることもあるそうなので、何度も指摘を受けているのだろう。

 確かに、ここは堅気の皆さんが、料理を楽しむ場所である。私のようなロシア屋が、一文字の間違いを云々すること自体、野暮であろう。

 もともと、浅草は文明開化の最先端を行った街であり、その名残で洋食の名店が多い。ロシア料理店がいくつかあるのも、そのせいだと思われる。ストロバヤも、その筋ではよく知られたお店のようで、秋山シェフは料理本にボルシチの作り方について寄稿したりなさっている。日本橋高島屋のデパ地下で、ストロバヤのピロシキが売られているというのも、今回初めて知った(通販もあり!)。

 ところで、ストロバヤで「日本式のロシアンティー」を20年振りくらいに試してみたところ、思いのほか美味で、新鮮な感じがした。ただ、こんな風にカップ入りのジャムを目の前に出されたら、ロシア人は直スプーンでペロペロ始めちゃうだろうなぁ。

(服部倫卓)

 


 

変貌を遂げるロシアの証券市場

ロシア科学アカデミー東洋学研究所 主任研究員

V.シュヴィトコ

はじめに

1.株式市場

2.債券市場

3.ロシア企業のオフショア証券

4.市場の質的な変化とその方向性

5.今後の見通し

 

はじめに

 ロシアの証券市場は形式的には10年余りの歴史を数えてはいるが、ロシアの企業に対して中長期の投資資金を提供するという証券市場の本来の機能を備えるようになり、また企業経営の効率や市況の動向と各種のリスクを評価した上で個別企業を評価する役割を果たせるようになったのは4〜5年前からである。5年ほど前には、投機的取引に従事する少数の投資会社や経済誌の評論家くらいしかロシアの証券市場に関心を示していなかったが、今日ではようやく慎重な機関投資家の興味も引くようになり、コマーシャル・リスク以外のリスク(ポリティカル・リスク、制度的リスクなど)が許容可能な範囲に収まってきた。それに、20032004年に実施された行政改革の一環として、連邦金融市場局が中心となる証券市場の規制監督制度が先進国にみられるタイプのものになり、以前はきわめて重大な阻害要因となっていた制度の不備が、今では取引の規模を発展させる上で大きな支障ではなくなっていることが見て取れる。こうしたことから、ロシア経済を取り巻く環境、または政府のマクロ政策や制度的な枠組みにドラスチックな変化さえなければ、近年明確になってきているトレンドがさらに発展し、ロシアの証券市場は銀行セクターの成長と連動してその機能を強化して、企業や投資家にとっての可能性を広げていくと期待できる。

 このような観点から2000年以降の証券市場の動向を振り返ってみると、取引の種類やその出来高などの量的な伸びに加え、それと並行して(あるいはその結果として)進んできた質的な変化に着目することができる。そこで、本稿ではこれらの問題を、証券市場の主要なセグメントに分けて論じてみることにする。

 


 

始動するロシアの経済特区制度

ロシア東欧経済研究所 調査役

服部倫卓

はじめに

1.経済特区法の骨子

2.経済特区の選定

3.6箇所の経済特区の概要

(1)サンクトペテルブルグ市

(2)モスクワ市ゼレノグラード区

(3)モスクワ州ドゥブナ市

(4)トムスク州トムスク市

(5)リペツク州グリャジ地区

(6)タタールスタン共和国エラブーガ地区

おわりに

 

はじめに

 ロシアでは、2005年7月に連邦法「特別経済区について」が成立した。90年代に経済特区が無秩序に乱立していた経緯こそあるものの、同国で特区に関する統一的なルールが制定されるのは、実は今回が初めてである。その後ロシアでは、特区の具体的な設立地の選考が進められ、1128日には経済発展貿易省で選考委員会が開催され、経済特区6箇所が内定した。これを受け、連邦政府は1221日付の政府決定により、6箇所の特区創設を正式に決定した。2006年1月18日、連邦政府は一連の地域・自治体と個別に協定に調印し、これにより経済特区6箇所が正式に発足したわけである。

 ロシアの政策担当者たちが様々な機会に発言しているように、今回の特区制度導入の主たるねらいは、産業構造の高度化にある。周知のとおり、ロシア経済は石油・天然ガスをはじめとする資源・素材部門に偏重しており、昨今のエネルギー価格の高騰でますますそれに拍車がかかっている。そこで、石油高で財政的な余裕があるうちに、特区を選定してそこに集中的に投資を行い、外資を巻き込みつつ製造業およびハイテク産業発展の拠点として育成することで、国全体の経済を浮揚させようというものであろう。

 と同時に、2005年の特区法は、プーチン現政権下で進められている中央集権化の文脈からも理解する必要がある。90年代にロシア各地に出現した一連の怪しげな「経済特区」は、当時のエリツィン政権による野放図な地方分権化の産物だった。それらは、産業育成に資するどころか、脱税や密輸の温床と化した。それゆえ、旧特区は、カリーニングラード州とマガダン州のそれを例外として、プーチン政権下でいずれも廃止されることとなった。これを教訓として、法制度上も、管理体制の面でも、連邦主導の統一的な枠組みを打ち出すこと。これが、2005年特区法のもう一つの眼目と言える。その端的な表れが、経済発展貿易省の外局として、「連邦経済特区管理庁」という組織を新設し、これが全国の特区を一元的に管理する体制をとっていることであろう。なお、同庁のウェブサイト(http://www.rosoez.economy.gov.ru)は、経済特区に関する有益な情報源であるので、ロシア語がおできになる方はぜひ参照してみていただきたい。

 当会ではこれまでも、本誌200511月号に特区法の全訳を掲載し、また『ロシア東欧経済速報』(200512月5日号)で内定した特区6箇所についていち早くお伝えするなど、その紹介に努めてきた。本稿では、それらを踏まえながら、ロシアの経済特区制度と、各特区に関する基礎情報を、さらに詳しくご紹介することを試みたい。

 


 

カレリア共和国の経済と近隣諸国との地域協力

ロシア東欧貿易会 モスクワ事務所副所長

D.ヴォロンツォフ

はじめに

1.ロシア経済に占めるカレリアの地歩

2.カレリア経済の現状

3.外国貿易

4.投資協力

5.EUによる支援と協力

6.カレリアとフィンランドの容易ならざる隣人関係

7.有望な部門としての観光

 

はじめに

 筆者は、200511月、ロシア連邦カレリア共和国を短期間訪問した。そこで本稿では、同共和国の経済と、その対外経済関係の現状と展望につき、読者の皆様にご報告したい。

 今回の現地調査は、EUのいわゆる「ノーザンディメンション政策」、とりわけEU北部諸国とロシアの隣接地域との国境域の協力関係に関する研究プロジェクトの一環として実施したものである。この機会に、同プロジェクトの関係者に感謝申し上げたい。

 11月の出張では、カレリア共和国経済発展貿易省、商工会議所、経済研究所の幹部らと面談した。その際に提供された資料は、本稿の執筆に当たって部分的に活用されている。

 


 

◆講演録◆

カザフスタン大統領選挙

―約束されていたナザルバエフの勝利―

日本貿易振興機構アジア経済研究所地域研究センター 研究員

岡奈津子

はじめに

 カザフスタンでは、200512月4日に大統領選挙の投票が行われた。これは、1991年末のカザフスタン独立以降2回目(ソ連時代を含めた通算では4回目)の大統領選挙だったが、当初の予想どおり現職のナザルバエフ氏の圧勝に終わった。中央アジアの重要国であるカザフスタンの大統領選挙結果は、同国の行く末のみならず、CIS全体の情勢にも大きな影響を及ぼしそうである。

 そこで当会では、カザフスタン政治にお詳しいアジア経済研究所の岡奈津子研究員をお招きし、1214日に「カザフスタン大統領選挙 ―約束されていたナザルバエフの勝利―」の演題のもと、会員の皆様向けのメンバーズ・ブリーフを開催した。今回の選挙結果について、ナザルバエフが勝利した政治・経済・社会的背景、対立候補の人物像や彼らの敗因なども考慮しつつ、解説していただいた。以下では、そのご報告の要旨をお伝えする。

 なお、付属資料として、編集部が作成した「カザフスタン共和国指導部人事一覧」を掲載するので、あわせてご参照いただければ幸いである。

 


 

ビジネス最前線

Interview ユーラシアの物流を担う

株式会社 日新 ロシア・CIS部

部長 小泉 光久さん 主管 石井 徳男さん

 

はじめに

 日新は、日本とロシア間の物流を担う代表的な企業であり、また「シベリア・ランドブリッジ」のパイオニアとしても知られています。同社は1989年日系物流業者として初めてモスクワに認可事務所を開設。2005年5月にロシアに現地法人「日新ルス」を設立して、ロシアでの物流事業により深く食い込んでいこうとされています。そこで今回は日新のロシア・CIS部にお邪魔し、部長の小泉さんと、ロシア駐在経験の長い石井さんにインタビューにお答えいただきました。グローバルなネットワークを駆使し、ユーラシアを股にかけてモノを動かす物流企業ならではのお話をお聞きできたのではないかと思います。

 


 

ロシア企業クローズアップ

 

1.アルロサ

 天然ダイアモンドの生産量では世界第2位のロシアで、ダイア生産を独占している会社である。連邦政府とサハ共和国政府が株の大部分を保有している。デビアス社と長期的な供給協定を締結し、アンゴラではダイアモンド鉱床の共同開発を進め、世界的な企業を目指す。

 

2.エヴラズホールディング

 傘下にある3つの製鉄所を合わせると、銑鉄、粗鋼、完成鋼材でロシア最大となる製鉄グループ。海外の製鉄所の買収も手がけ、「ロシアのティッセンクルップ」を目指す。

 


 

データバンク

 

1.2005年1 〜9月 のCIS諸国の経済

 

2.2004年のCIS諸国の貿易統計

 ロシアの経済週刊誌『エクスペルト』(2005.11.21-27, No.44)が、毎年恒例のロシアの地域別投資環境ランキングの最新版を発表したので、この資料を抜粋して紹介する。

 『エクスペルト』の地域別投資環境ランキングは、各種の統計指標と調査・研究資料をもとに、内外の専門家による評価を加味して作成されている。同誌では、A.投資上のメリット、B.投資上のリスク、つまり投資を行ううえでのプラスとマイナスの両面からアプローチしている。

 Aの投資メリットは、@労働力(労働資源とその教育水準)、A消費需要、B生産力(当該地域の経済活動実績)、C金融(税収規模と企業の収益性)、D制度(市場経済の制度的基盤)、E技術革新、Fインフラ、G天然資源、H観光という9項目から成り、それぞれについて、各連邦構成体が全89構成体のなかで何番目の順位を占めているかが示されている。当然、数字が若いほど投資のメリットが高いことを意味する。そのうえで、それらを加重平均して、総合順位が弾き出されている。

 なお、このなかで、Hの観光は今回のランキングから新たに加わったものであり、興味深い。ただし、これは外国人観光客にとっての観光資源の豊かさという尺度とは、必ずしもイコールではないようだ。クラスノダル地方が1位になっていることから見ても、ロシア人にとっての保養地という側面が重視されているようだ。

 Bの投資リスクは、@法律、A政治、B経済、C金融、D社会、E犯罪、F環境という7項目から成り、やはりそれぞれについての各構成体の順位が示されている。こちらは、数字が若いほど投資リスクが低く、有利であることを意味している。こちらについても、7項目を加重平均した総合順位が示されている。

 なお、それぞれの表中の連邦構成体に付けられた番号は単なる通し番号であり、順位を表すものではないので、ご注意いただきたい。「AO」は自治管区を意味している。

 今回のランキングによると、Aの投資メリットでは、首都のモスクワ市が引き続き首位の座をキープしている形になっている。一方、Bの投資リスクでは、前年3位だったサンクトペテルブルグ市が首位に躍り出たほか、13位だったリペツク州が2位に躍進するなど、かなり大きな変動が生じている。