ロシア東欧貿易調査月報 2006年8月号 7月20日発行
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一枚の写真
モスクワで江戸を発見
4月号に続いて、再び飲料製品のネタである。シリーズ化していく予定は、今のところとくにないが。
1年ほど前、ネットサーフィンをしていて、ロシア・リペツク州のレベジャンスキーという会社が、その名も「江戸」という、ペットボトル入りのお茶を販売していることを知った。日本食ブームも、ついにここまで来たか。これは面白いと思い、それから2度ほどロシアに出張に行った際に、商店で探してみたが、見付からなかった。しかし、ようやく3度目の正直で、モスクワのスーパーで現物に出会えたのである。
さっそく買って飲んでみたところ……。あれ? 想像していた味とは全然違う。緑茶とばかり思い込んでいたが、私の選んだ「ライム」は紅茶だったのだ(他に「梅」と「桜」があり、前者は緑茶のようだが)。しかも、砂糖が入っているので、まるっきり缶入り紅茶の味である。まあ、あの缶入り紅茶というものも、すぐれて日本的な商品と言えなくもないが。
ボトルのデザインも、日本というよりは中国風という感じだ。味といい、デザインといい、「和」とは似て非なるものと言わざるをえない。
ただ、この「江戸」で感心させられたのは、種類ごとに、俳句が一句添えられていることである。私の買ったライム味には、松尾芭蕉のこんな句が選ばれていた。
Взгляд не отвести …
Так редко я видел в Эдо
Луну над вершиной гор.
うむ、恥ずかしながら、原詩が分からない。これでは、ロシア人の「和」に対する無理解を笑えないと思い、日本に帰ってからネット検索してみたところ、それらしき句が見付かった。
詠(なが)むるや江戸には稀な山の月
芭蕉が、伊賀上野に帰郷した折に美しい月に感動し、江戸ではこんな月には滅多にお目にかかれないという感慨を詠んだものだそうです。納得。
(服部 倫卓)
ロシア経済の中期見通しをめぐって
ロシア科学アカデミー東洋学研究所 主任研究員
V.シュヴィトコ
はじめに
1.ロシア経済の中期予測
2.近年のロシア経済の成長メカニズムの要点
3.現政権の経済方針と近年の経済成長実績
4.現状維持を条件としたロシア経済発展のシナリオ
5.経済成長が活性化するシナリオとその条件を巡る議論
はじめに
ロシア経済動向の中期予測の歴史は2000年代初頭に溯り、その作成を担当している政府機関はその間に豊富な経験を蓄積している。一方、長い間、社会一般はもちろんのこと、経済専門家の間でもその予測への関心は低く、明らかに話題性を欠くものであった。その裏には、政府の経済政策は断片的でシステムとして把握できるものではなかったこと、ロシアを取り巻く経済環境とその見通しについて不透明な点があまりにも多かったこと、またロシア経済の動向そのものが予測可能なものでないという疑問などがあった。上記理由のため民間のシンクタンクが中期予測の作業を本気で進めようという気にはならなかったし、政府機関のそれについてもあくまでも形式的なものとしてみる傾向があった。
しかし、最近ロシアの経済成長の向こう数年間の見通しを規定する主要なファクターが確定し、ロシアの現政権の経済方針の輪郭も現実にみえはじめているという状況変化があり、中期予測を立てる作業にははじめて現実的な意義が生じているようだ。公式の「予測シナリオ」は数字のゲームから内容のある分析に変わっており、民間レベルでもその分析に対する関心が大きく高まった。中期見通しやそれにかかわる政策のオプションの中身と効果についての真剣な議論はロシアの一流経済誌にも載せられるようになり、権威ある経済フォーラムなどで取り上げられる話題の一つとなった。
以下本稿では、その議論と政府の最近の文書をまとめ、私的なコメントも付して読者の皆様方に紹介してみたい。
ロシアのガス分野の現状とビジネスチャンス
ロシア東欧経済研究所 調査部次長
坂口泉
はじめに
1.ガス供給能力の現状と課題
2.ガスの国内消費とそれに関連する課題
3.輸出の強化および多様化という課題に関連する動き
4.ロシアのガス分野における諸課題とビジネスチャンス
はじめに
ロシアのガス分野は、最近、国際政治の観点から注目されることが多いようだが、本稿では、ビジネスの観点から同分野にアプローチすることを試みる。具体的には、ロシアのガス分野が抱える多くの課題と、ロシア側がそれらの課題を処理するプロセスの中で生じる可能性のある、日本企業にとってのビジネスチャンスについて考察してみる。
なお、本稿では、ロシアのガス分野の代名詞的存在であるガスプロムが抱える問題点と課題を中心に取り上げたため、同社が関与していないサハリン1とサハリン2については言及していない。その点は事前にお含みおき願いたい。
ロシア・エネルギー企業の内情(下)
―ガスプロムとロスネフチ―
政治情報センター 所長
A.ムーヒン
はじめに
3.ガスプロム発展の展望
4.ガスプロムの石油部門となったシブネフチ
5.ロスネフチ・グループとその活動
6.ユガンスクネフチェガスをめぐる状況とロスネフチの地歩強化
7.クレムリンとロシア経済の垂直統合 ―むすびにかえて―
はじめに
前回に引き続き、ロシア「政治情報センター」のA.ムーヒン所長による新著『クレムリンの垂直:石油ガスの管理』(政治情報センター、2006年)の翻訳の、後編をお届けする。
前回も述べたように、ムーヒン氏の問題意識には、ロシアで2007年に下院選挙が、2008年に大統領選挙が控えており、その過程で政治とビジネスの関係が再び焦点になろうとしているという点があり、それを展望するために本書ではガスプロムとロスネフチが取り上げられている。本書のこうした成り立ちにかんがみ、当会では著者のムーヒン氏にとくに依頼して、ロシア政治の全体像に関する分析を加筆してもらった。それが「7.クレムリンとロシア経済の垂直統合 ―むすびにかえて―」の部分である。
ビジネス最前線
Interview ロシア の都市づくりへの貢献をめざして
鹿島建設株式会社 海外支店 営業部営業部長
深澤武文さん
はじめに
今回、ご登場いただいた鹿島建設の深澤さんは高校時代からロシア語を学ばれていたそうです。ただ入社後は、マーシャル諸島ほか、世界各国の建設プロジェクトに携われ、このインタビューも、ガーナ、コートジボワールなど、今回のサッカー・ワールドカップに出場したアフリカ諸国への出張直前に行われました。
その深澤さんが初めてロシアを訪れたのは昨年秋。学生時代にロシア文学に親しんできたこともあって、ご本人にとっては、どこか懐かしさを覚える国でした。現在、建設ブームに沸くモスクワですが、人々がゆとりや安心感をもって暮らしていける街づくりという深澤さんの視点からは、ちょっと違ったロシアが見えてきます。
Interview 企業の品格:いかにしてロシア企業を見極めるか
(有)ロシア開発コンサルティング 代表
内山恒平さん
はじめに
商人というのは、経済の仕組みについての良し悪しを判断するのではなく、その仕組みに合わせて、手法を変え、商品を売っていく人のことだと内山さんはおっしゃいます。そうした姿勢がロシア市場に対する冷静な眼力を育てたのでしょう。ロシア商売に対して過大な期待も悲観もすることなく、現実に即して仕事をなさってきた内山さんは、現在、独立コンサルタントとして精力的にお仕事をされています。ロシアは特別な市場ではないが、よきパートナーを見つけるには、ロシア人と腹を割ってきちんと話し合うことができなければならない ――が持論の内山さんは、ロシア市場に関心をもつ日本の中小企業の心強い味方です。
第36回ロシア東欧貿易会定時総会報告
はじめに
1.平成17年度事業報告
2.平成18年度事業計画
3.役員名簿
4.定款の一部変更の件
5.第36回通常総会での高垣会長挨拶
6.第36回通常総会での安井正也経済産業省通商政策局欧州中東アフリカ課長ご挨拶
社団法人ロシア東欧貿易会は平成18年5月23日に如水会館にて第36回通常総会を開催いたしました。ここでは総会において承認された平成17年度事業報告、平成18年度事業計画、定款の一部変更についてご紹介し、また同日の理事会において再任された高垣会長および来賓としてご出席いただいた安井正也経済産業省通商政策局欧州中東アフリカ課長の挨拶、新役員及び顧問名簿をあわせてご紹介いたします。
なお、「4.定款の一部変更の件」でご報告申し上げているとおり、当会はこのほど東欧諸国を定款上の事業対象から外し、それに伴い会の名称を「社団法人ロシアNIS貿易会」へと改めることとなりました。この定款の一部変更につきましては、5月23日の総会で承認をいただき、6月末現在、所轄官庁である経済産業省に認可申請中であります。正式に認可を受けましたら、本誌でも改めてご報告させていただきます。