ロシアNIS調査月報
2024年9-10月号
特集◆ウクライナ復興と企業の役割
 
特集◆ウクライナ復興と企業の役割
調査レポート
ウクライナ復興のためのベルリン会議
―人的資源、レジリエントな地域、そしてEU加盟―
調査レポート
ウクライナ自動車産業の現状とポテンシャル
ビジネス最前線
ウクライナ復興支援と日本ビジネスの可能性
ミニレポート
ウクライナ自活の鍵を握る黒海穀物輸出
ミニレポート
ウクライナの復興をめぐる国内情勢の変化
ウクライナ情報交差点
再建の賛否分かれるカホフカダム

調査レポート
2023年のロシア医薬品業界
データバンク
2024年上半期の日ロ貿易
INSIDE RUSSIA
軍需主導の成長が続くロシアの鉱工業生産
ロシアメディア最新事情
ウクライナ国境の町で何が伝えられているのか
ロシア極東羅針盤
中ロ国境鉄道の活況
データリテラシー
制裁下ロシアにおける海外旅行需要とその変化
エネルギー産業の話題
北極海航路経由でのLNGと石油の輸送
ロシア政財界人物録
ザボトキン・ロシア中銀理事
コーカサス情報フォーカス
アルメニアの脱ロシアは実現するか?
シネマで見るユーラシア
『ひまわり』
ロシア音楽の世界
ショスタコーヴィチ 舞台管弦楽のための組曲
中央アジア情報バザール
関心が集まる中央アジアの原子力産業
業界トピックス
2024年7月の動き
ロシアを測るバロメーター
2024年7月末時点のロシアの社会・経済動向
通関統計
2024年1〜5月の対ロシア・NIS諸国輸出入通関実績
おいしい生活
チョコレート大国ウクライナ
記者の「取写選択」
消えた欧州広場


調査レポート
ウクライナ復興のためのベルリン会議
―人的資源、レジリエントな地域、そしてEU加盟―

東洋大学国際学部
教授 市川顕

  本稿ではまず、2024年6月11〜12日にドイツのベルリンで開催されたウクライナ復興会議を事例として、当会議における準備過程や共同議長声明を整理する。その上で、@これまでのURCと比較して、当会議での議論にはどのような特徴が認められるのか、Aウクライナ戦争勃発後約2年半を経過し、現状の問題点と課題は何か、そしてBウクライナの欧州連合加盟問題とウクライナ復興、といった議論に焦点を当てて分析する。そのうえで、2024年6月6〜9日に開催された欧州議会議員選挙の結果やフォン・デア・ライエンの欧州委員会委員長の続投決定というEU域内での政治状況を踏まえ、EUとしてのウクライナ復興に対する今後のスタンスを展望する。


調査レポート
ウクライナ自動車産業の現状と協力ポテンシャル

(一社)ロシアNIS貿易会ロシアNIS経済研究所
研究員 渡邊光太郎

 戦争はいつか終わるので、ウクライナの経済復興が国際的な課題となることは確かであろう。各国は復興支援として、各々の得意分野を持ち込むことになろう。日本の得意分野は自動車であるが、ウクライナからも日本の自動車工場進出のリクエストが出されたと報道されている。一方、2021年のウクライナの新車販売数は10万台程度、新車製造に至っては乗用車生産台数年間約7,000台という状況であった。この数値を見る限り自動車生産の成立性が厳しいのは明らかであるが、仮にやるならば、どのような条件を満たしていかねばならないかを検討する。


ビジネス最前線
ウクライナ復興支援と日本ビジネスの可能性

独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)企画部
海外地域戦略主幹 木場亮

 今回は、独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)でウクライナ復興支援を担当している企画部海外地域戦略主幹の木場さんに、ジェトロのウクライナ復興支援についてインタビューさせていただきました。ジェトロは経済・ビジネスの観点から積極的にウクライナ復興支援に取り組まれています。2024年6月にはウクライナに日本企業のミッションを派遣され、ドイツ・ベルリンで開催された国際復興支援会議に合わせて日本とウクライナ二国間のラウンドテーブルも開催されました。こうした現場での取り組みも含めて、ウクライナ復興支援の現状についてお話を伺いました。


ミニレポート
ウクライナ自活の鍵を握る黒海穀物輸出

北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター
教授 服部倫卓

 ウクライナの復興には莫大な費用を要し、そのかなりの部分を国際社会が負担することになろう。しかし、ウクライナ自身が「稼ぐ力」を取り戻し、自活できる度合いを高めることが望ましいのは、言うまでもない。ウクライナの場合、それを支える産業の筆頭に挙がるのが、穀物を中心とした食料輸出である。そこで本稿では、ウクライナの穀物生産・輸出の最新データを概観した上で、重要要因である黒海海運の動向につき報告する。


ミニレポート
ウクライナの復興をめぐる国内情勢の変化

(一社)ロシアNIS貿易会ロシアNIS経済研究所 
主任 中馬瑞貴

 ロシアとウクライナの戦争に終わりが見えない一方で、国際社会は西側先進国を中心に、ウクライナへの支援を積極的に進めている。2024年6月11〜12日にドイツのベルリンでウクライナ復興会議が開催され、エネルギー分野での協力強化、中小企業支援など様々な合意が発表された。また、6月13〜16日にかけてイタリアで主要7カ国首脳会議が開催されると、制裁で凍結されたロシアの資産を活用して、500億ドル相当のウクライナへの新たな支援を行うことが合意された。さらに7月10日にはNATO首脳会合でウクライナへの軍事支援に400億ユーロ拠出する意向が示された。国際社会が積極的にウクライナ支援を進める一方で、ウクライナ国内では、こうした諸外国からの支援の受け手となる復興を担う体制をめぐって国内情勢が揺れる一幕があった。6月のURCを目前に控えたタイミングで、同国の復興担当副首相が解任され、その後、復興庁長官らが相次いで辞任したのである。彼らの辞任について、政権内の緊張関係が浮き彫りになったと専門家やメディアが指摘している。そこで以下では、復興をめぐるウクライナの国内情勢・動向について解説する。


ウクライナ情報交差点
再建の賛否分かれるカホフカダム

 1年前の本コーナーで、「カホフカダム破壊はウクライナ・ロシア双方に痛手」というレポートをお届けした。以下では、前回のおさらいをするとともに、ダムをめぐるその後の状況について報告する。(服部倫卓)


調査レポート
2023年のロシア医薬品業界

(一社)ロシアNIS貿易会ロシアNIS経済研究所 
名誉研究員 坂口泉

 ウクライナ戦争開始後に外資系医薬品メーカーの多くが、「ロシアでの治験や一部の医薬品やサプリメントなどの供給は中止するが、人道的立場にのっとり主要な医薬品(特に重い疾患用治療薬)の供給は継続する」という方針を打ち出した。その関係もあり、2023年のロシアの医薬品市場では、従来通りに外資系医薬品メーカーが高いシェアを維持した。ロシア側は強制実施権の設定という強引な措置を講じてでも医薬品の輸入代替を促進しようとしているが、ロシア製ジェネリックの品質を疑問視する声も少なくなく、今のところ外資系メーカー優位の情勢に大きな変化は生じていないと言える。ただ、その一方で、2023年は市場規模の縮小という変化が観察された年でもあった。その主因は、コロナ禍が沈静化し、関連医薬品やワクチンの買付け量が減少したことにある。本稿では、2023年のロシアの医薬品市場の全般的状況、ロシアの医薬品市場における主要プレーヤーの概要、強制実施権をめぐる動きなどをご紹介する。


データバンク
2024年上半期の日ロ貿易

 本稿では、日本財務省の貿易統計に基づいて、2024年上半期の日本とロシアの貿易に関して、データを取りまとめたので、若干の解説とともに紹介する。本資料では財務省発表の円表示の貿易統計を独自にドル換算して示している。その際に、図表4、図表6〜8、図表10〜12は月ごとの為替レートで換算して数値を積み上げているのに対して、図表5と図表9は年平均レートで単純換算したものである。従って、各図表は総額が微妙にずれているのでご注意いただきたい。


INSIDE RUSSIA
軍需主導の成長が続くロシアの鉱工業生産

 筆者は、本月報3月号掲載の「ロシアの軍需産業は覚醒したのか ―戦車と無人航空機を中心に」、4月号掲載の「ロシアの経済活動分類表における軍需部門の扱い」において、ウクライナ侵攻開始後のロシアが軍需産業を軸に鉱工業生産を拡大している状況につき報告した。今回は、先日ロシア統計局が2024年上半期(1〜6月期)の鉱工業生産統計を発表したので、ロシアの鉱工業生産、とりわけ軍需関連部門の生産データを改めて図表にまとめてご紹介する。また、軍需産業を束ねるロステフ社のチェメゾフ総裁の発言から、軍需生産の最新動向を探ることを試みる。(服部倫卓)


ロシアメディア最新事情
ウクライナ国境の町で何が伝えられているのか

 7月下旬、ロシアとウクライナの国境、ベルゴロド州を取材しました。ウクライナ国境まで約5kmの町、シェベキノで出会った人々は、毎日砲弾やドローンが飛んできて、夜も眠れない状況に不満を抱いていました。その一方で、避難せず町に残っている人がたくさんいます。ベルゴロド州の地元新聞から、市民の暮らしや町を取り巻く環境を読み解いていきます。(徳山あすか)


ロシア極東羅針盤
中ロ国境鉄道の活況

 ロシアと中国の貿易の急拡大に伴い、ロシア極東地域の陸上国境を通じた鉄道貨物輸送が大きく伸びている。(齋藤大輔)


データリテラシー
制裁下ロシアにおける海外旅行需要とその変化

 今回は制裁下のロシア消費者動向の1つとして、旅行需要について焦点を当てたいと思います。厳しい冬が終わり、心身ともに開放的になる夏を迎えるとロシア人は長期休暇をとり、国内外の各所で積極的に旅行を楽しみます(。現在は戦時下、また対ロ制裁下にあり、海外旅行を検討する際にはフライト確保や査証取得の面で多くの選択肢を失ってしまったロシア人ですが、その旺盛な旅行需要に変化は見られません。むしろ、このような状況下だからこそ、旅行需要は伸びる傾向にあり、業界団体である「ロシア旅行業者同盟」によれば、2024年6月のロシアにおける海外旅行ツアー売上は前年同期比で25〜30%増になったとされています。連邦保安局統計によると、ロシアから海外への渡航者数についても2024年は第1四半期の時点でも前年同期比8.84%増の約533万人と好調であることが窺えます。(長谷直哉)


エネルギー産業の話題
北極海航路経由でのLNGと石油の輸送

 北極海航路には北極圏のLNGプラントもしくは油田を起点に西方に向かう西廻りルートと、東方に向かう東廻りルートがありますが、今のところ通年利用されているのは西廻りルートだけで、氷の状態が厳しい東廻りルートは毎年6月頃から11月末頃までしか利用されません。東廻りルートの通年利用は本当に可能なのかという点や、利用する石油ガス会社の数が今後増えるのかといった点に着目しながら、北極海航路をめぐる状況につきご説明します。(坂口泉)


ロシア政財界人物録
ザボトキン・ロシア中銀理事

 今回は、ロシア中央銀行幹部の中でも経済カンファレンスなど様々な外部経済イベントでの発言機会が多い、アレクセイ・ザボトキン・ロシア中央銀行理事の発言を紹介します。ザボトキン氏は2024年8月時点で47歳、2005年にロシアの私立高等教育機関であるNew Economic Schoolを修了後、ドイツ銀行系の金融機関勤務やロシアの投資ファンドであるUnited Capital Partners、VTBキャピタルなどを経て現職にあり、豊富な実務経験を背景とした分析や提言などで評価を受けている人物となります。本稿では2024年5月に実施されたヴェドモスチ紙主催カンファレンスにおける、インフレをテーマとした同氏の発言概要を整理しました。(長谷直哉)


コーカサス情報フォーカス
アルメニアの脱ロシアは実現するか?

 アルメニアとロシアの関係悪化については本連載で何度も言及している。本稿では最新の動向について解説するとともに、アルメニアの脱ロシアが一筋縄ではいかない、経済・ビジネスでの両国関係の実態を紹介する。(中馬瑞貴)


シネマで見るユーラシア
『ひまわり』

 「ひまわりや麦の下にはイタリア兵、イタリア軍に捕らえられたロシア兵捕虜、この地に住んでいた子ども、女性、老人、農民らが眠っているのです」ソ連外務省の男性がジョヴァンナにいう。2人は自分たちの身長にまで迫るひまわりが広がる大地を歩いていた。(芳地隆之)


ロシア音楽の世界
ショスタコーヴィチ 舞台管弦楽のための組曲

 本来の題名は「舞台管弦楽のための組曲」第1番 であるが、現在見つかっているジャズ組曲第2番が発見される以前、誤って「ジャズ組曲第2番」と呼ばれて演奏されていた。聴いてみると、あまりJAZZっぽくはなくて、映画音楽で使われた踊りの音楽のようであった。(ヒロ・ミヒャエル小倉)


中央アジア情報バザール
関心が集まる中央アジアの原子力産業

 中央アジアと言えば、豊富な資源が注目されるが、昨今、特に関心を集めている1つが、カザフスタンやウズベキスタンで産出されるウランだ。特に欧米諸国は、同じく世界有数のウラン産地であるロシアとの関係悪化によって、ウラン供給元としてロシアへの依存度を下げたいという思いがある、その一方で、中央アジア諸国が昨今積極的に進める原子力産業の発展においてはロシアのプレゼンスが拡大しつつある。(中馬瑞貴)


記者の「取写選択」
消えた欧州広場

 モスクワのキエフ鉄道駅近くに「欧州広場」が誕生したのは、プーチン時代の初期、2002年秋のことだ。金属製のオブジェを中央に据えた大きな噴水の回りは、家族連れやカップルの憩いの場。その傍らで円形に並ぶポールには、ロシアを含む欧州48カ国の国旗がはためいていた。(小熊宏尚)