ロシアNIS調査月報
2024年11月号
特集◆20年の節目を迎えた
「中央アジア+日本」
 
特集◆20年の節目を迎えた「中央アジア+日本」
イベントレポート
「中央アジア+日本」ビジネスフォーラム
ビジネス最前線
中央アジアでの展開はバリューチェーン事業を重視
ビジネス最前線
人材育成と日本就職で中央アジアのIT産業に貢献
ビジネス最前線
生成AIで中央アジアの情報をより身近に
中央アジア情報バザール
中央アジアのルネッサンス
キーパーソンに訊く
タジキスタンに桜の咲く日本庭園を
講演録
カザフスタンのカーボンニュートラル戦略
調査レポート
世銀LP調査に見る中央アジアのロジスティクス環境
調査レポート
ウズベキスタン経済の最大勢力を担う非鉄金属産業
データバンク
2024年上半期の日本と中央アジアの貿易
コーカサス情報フォーカス
中央アジアと距離を縮めるアゼルバイジャン
おいしい生活
ドシラクの揺るぎない人気

INSIDE RUSSIA
ロシアが描く強気の経済・財政想定
データリテラシー
デジタル・ルーブルの法制化と活用動向
エネルギー産業の話題
ドルージバPLをめぐる動き
ロシア極東羅針盤
ロシア極東港湾の貨物量
シベリア・北極圏便り
シベリア石炭企業における業績不振
ロシアメディア最新事情
越境攻撃を受けたクルスク州の報道
ウクライナ情報交差点
ウクライナはこの冬の電力危機を耐え抜けるか
シネマで見るユーラシア
『金の糸』:日本の伝統技術が繕う人々の記憶
ロシア音楽の世界
プロコフィエフ 交響的協奏曲 ホ短調
業界トピックス
2024年8〜9月の動き
ロシアを測るバロメーター
2024年9月末時点のロシアの社会・経済動向
通関統計
2024年1〜7月の対ロシア・NIS諸国輸出入通関実績
記者の「取写選択」
ロシアとモンゴルの100年


イベントレポート
「中央アジア+日本」ビジネスフォーラム

 2024年8月9日、「中央アジア+日本」対話の一環行事として、カザフスタン共和国アスタナ市の独立宮殿においてビジネスフォーラムが開催された。以下では、その要旨を紹介する。(構成:ROTOBO)


ビジネス最前線
中央アジアでの展開はバリューチェーン事業を重視

日立建機株式会社
執行役/経営戦略本部長 浜辺哲也

 日立建機株式会社は、鉱山用の超大型の油圧ショベルやダンプトラックをカザフスタンや中央アジア各国で展開しています。最近では、部品・サービスなどバリューチェーン事業に力を入れ、2020年にはカラガンダでコンポーネント修理センターを立ち上げました。今後は同社のもつ強みを生かして、鉱山のグリーン化や環境モニタリングといったソリューション事業も視野に入れていく模様です。今回は同社の浜辺哲也執行役/経営戦略本部長にお話をお聞きしました。(聞き手:中居孝文)


ビジネス最前線
人材育成と日本就職で中央アジアのIT産業に貢献

キャル株式会社
社長 前田明

 今回は、今年4月にウズベキスタンにリクルートセンターを開設したキャル株式会社の前田社長にインタビューをお受けいただきました。同社はIT業界のグローバルエンジニアリングサービス会社として様々なIT関連事業を国内外で展開されていますが、特に、海外企画事業の一環としてグローバル採用事業を進めていて、すでに韓国、モンゴルを中心にIT人材を自社で採用しています。そしてこの度、ウズベキスタンでも同様の事業を展開しており、前田社長に、中央アジア事業の現状や魅力はもちろん、課題や今後の期待などについてお話を伺いました。(聞き手:中馬瑞貴)


ビジネス最前線
生成AIで中央アジアの情報をより身近に

株式会社DEVELOPTONIA
CEO 大場一雅

 今回は、生成AIを活用して中央アジアを含む、新興国・途上国のビジネス情報の配信サービス「KiAI」を運営している株式会社DEVELOPTONIAのCEO大場さんにインタビューをしました。同社は今年6月にウズベキスタン、7月にキルギスとMOUを締結し、8月にカザフスタンのアスタナで文書披露を行いました。中央アジアとの協力関係を積極的に進めているスタートアップ企業です。今回は大場CEOに、中央アジア関連事業を始めたいきさつや、事業の現状、今後の展望などについてお話を伺いました。(聞き手:中馬瑞貴)


中央アジア情報バザール
中央アジアのルネッサンス

 2024年8月9日、カザフスタンの首都アスタナで第6回中央アジア首脳諮問会合が開催されたが、この会合に先駆けて、8日にはサミットの議長を務めるトカエフ・カザフスタン大統領が「中央アジアのルネッサンス:持続可能な発展と繁栄に向かって」と題する論文を発表した。この論文では、「地政学的な不確実性と既存の世界秩序の崩壊に直面する中で、地域協力に基づいてのみ中央アジアの『ルネッサンス』を実現できる」として、中央アジアの今後の協力の発展の方向性を提示しながら、発展のための地域協力の重要性を論じている。特に重視されているのは安全保障、経済・貿易関係、物流拠点としての発展である。
 近年、「中央アジア+α」という枠組みを使って世界の主要国や地域が「中央アジア」という地域に注目する中で、中央アジア自身が「中央アジア」を地域としてどう見ているかという点については非常に重要であり、興味深い。そこで、本稿ではこの論文の概要について紹介する。(中馬瑞貴)


キーパーソンに訊く
タジキスタンに桜の咲く日本庭園を

駐日タジキスタン共和国特命全権大使
ファルホド・サリム

 今回は本年7月に着任されたばかりのサリム駐日タジキスタン共和国特命全権大使のインタビューをお届けします。サリム大使はこれまで駐米大使や外務次官などを歴任され、タジキスタンの外交政策において重要な役割を果たしてこられました。着任前に日本とのかかわりはほとんどなかったとのことですが、今は積極的に日本語を学ばれていて、いつかタジキスタンに桜の咲く日本庭園を造りたいという野望を語ってくださいました。もちろん、タジキスタンの魅力や外交方針、周辺国との関係などについてもたくさんのお話を聞かせていただきましたので、以下でご紹介します。(聞き手:中馬瑞貴)


講演録
カザフスタンのカーボンニュートラル戦略

カザフスタン共和国経済研究所 理事会副会長 K.ベイセンガジン
カザフスタン石油・ガス・電力協会「カズエナジー」 環境規制担当執行役員 Ye.ベルギベコフ

 (一社)ロシアNIS貿易会では、2024年7月23日に中央アジア・コーカサス地域等産業協力・企業間交流セミナー「カザフスタンの2060年までのカーボンニュートラル達成戦略と日本との協力の可能性」をオンライン開催しました。現在、カザフスタンが遂行中の国家プログラム「2060年までのカーボンニュートラル達成戦略」について、同戦略の概要とこれに関わる日本との協力の可能性について、現地の専門家の方々にご説明いただきました。本ウェビナーには日本とカザフスタンの両国から総勢184人が参加、質疑応答も活発に行われました。以下、その内容をご報告いたします。(構成:ROTOBO)


調査レポート
世銀LPI調査に見る中央アジアのロジスティクス環境

(一社)ROTOBOロシアNIS経済研究所
嘱託研究員 齋藤竜太

 本稿では世界銀行が発表しているロジスティック・パフォーマンス指数(LPI)を通じて、中央アジアを中心としたNIS諸国のロジスティクス環境について概観・考察を行う。


調査レポート
ウズベキスタン経済の最大勢力を担う非鉄金属産業

(一社)ROTOBOロシアNIS経済研究所
研究員 渡邊光太郎

 ウズベキスタンは旧ソ連の中では資源に恵まれた国と見做されている。しかし、その定量的実力は必ずしも明らかでないのが実態ではないだろうか。世界の中で比較すると、ウズベキスタンは特定の金属で圧倒的なシェアを持っているわけではない。とはいえ、金属産業はウズベキスタンの税収の38%を担い、経済の中では最大勢力となっている。ウズベキスタンでビジネスをする場合、最大の発注元となり得る産業である。また、金属産業はウズベキスタンの政策の中で、重要視されている。ウズベキスタンとの外交を考える上でも外せない存在である。本稿では、生産される金属、生産に従事する企業、生産規模、生産内容など、非鉄金属を中心に金属産業の概略を纏める。


データバンク
2024年上半期の日本と中央アジアの貿易

 恒例により、日本財務省発表の貿易統計にもとづいて、2024年上半期の日本と中央アジア諸国との貿易に関し、データをとりまとめて紹介する。


コーカサス情報フォーカス
中央アジアと距離を縮めるアゼルバイジャン

 2024年8月、カザフスタンのアスタナで中央アジア5カ国首脳による第6回となる諮問会合が開催された。この会合の拡大版にアゼルバイジャンのアリエフ大統領が主賓として参加した。中央アジア・サミットにアリエフ大統領が参加したのは今回が初めてではない。そして、このサミットに限らず、ここ数年アゼルバイジャンは精力的に中央アジアと距離を縮めようとしているように見える。その背景には何があるのか。(中馬瑞貴)


INSIDE RUSSIA
ロシアが描く強気の経済・財政想定

 ロシア政府は9月24日、2025年の連邦予算案を承認した。ロシアの予算は基本的に3カ年をスパンとしており、2026年、2027年の見通しも含んでいる。おそらく予算案は基本的に原案どおり、連邦議会により可決されることになろう。また、連邦予算を編成する際には、経済発展省が今後3年間の公式的な経済見通しを発表し、それにもとづいて予算を組むのが通例となっており、今回も2025〜2027年の公式経済見通しが同省より示された。経済見通しと予算案は、今後のロシア経済をウォッチしていく上での重要な指針となるので、これらを図表にまとめてみた。(服部倫卓)


データリテラシー
デジタル・ルーブルの法制化と活用動向

 ロシアは制裁適応の観点からドルやユーロなどのハードカレンシーによる決済を避け、貿易決済や資金調達の面で人民元やルーブルの利用を拡大するとともに、暗号資産やバーターでの決済に係る法的整備をも進めています。この次の段階として注目されている動きがデジタル・ルーブル(以下、「DR」と表記)の活用です。ロシア中央銀行(以下、ロシア中銀)は「DR」の利活用に向けた提言レポートを2020年10月13日に公表したことを皮切りに、2021年4月8日には同銀としてのコンセプトペーパーの作成も完了させました。その後、2021年内に基礎的な「DR」活用のためのプラットフォームが立ち上げられました。(長谷直哉)


エネルギー産業の話題
ドルージバPLをめぐる動き

 ドルージバはロシアのサマラの東方に位置するアルメチェフスクを起点として欧州方面に向かうUrals専用の石油PLで、ベラルーシのモズィルにおいてポーランド経由でドイツに向かう北線と、ウクライナを経由してハンガリー、チェコ、スロバキアに向かう南線とに分岐します。北線は2023年6月下旬にEUの対ロ制裁の対象となり、ロシア産Uralsを同線経由で輸送することは不可能となっていますが、南線経由では今もロシア産Uralsがハンガリー等に供給されています。ところが、2024年夏に南線に関して一連の不可解な出来事が生じました。今回は、南線をめぐる当該の不可解な動きと、北線の現状についてご紹介します。(坂口泉)


ロシア極東羅針盤
ロシア極東港湾の貨物量

 2024年1〜6月のロシア極東港湾(サハ共和国およびチュコト自治管区を除く)の取扱貨物量は1億1,686万tと、前年同期と比べ2.1%の減少となった。このうち、ドライカーゴは7,603万tと3.7%の減少となった。液体カーゴは4,084万tと1.1%の増加となった。(齋藤大輔)


シベリア・北極圏便り
シベリア石炭企業における業績不振

 シベリア地域の主要産業の1つとして挙げられるのは石炭生産であり、2023年末時点の統計に基づけばロシア全体の約79.6%の生産を担っています。クズバス炭田をはじめとして同地域には良質の炭田が豊富で主要な石炭企業も拠点を置いています。ロシアによるウクライナ全面侵攻とそれに伴う対ロ制裁にもかかわらず、同地域の石炭企業は2022年に大きく利益を伸ばしました。しかし、その勢いは続かず、2023年には主要石炭企業の大半で純利益が大きく落ち込みました。図表1に示すとおり、主要な石炭企業の純利益は2023年に前年比で大きく落ち込んだケースが多くなっています。(長谷直哉)


ロシアメディア最新事情
越境攻撃を受けたクルスク州の報道

 9月中旬、ウクライナ軍の越境攻撃を受けているクルスク州を取材しました。クルスク州は東西に広いので、西部のウクライナ国境と東部の州都・クルスク市ではずいぶん様子が違います。避難せず国境付近に残っている人がたくさんいるのは、ベルゴロド州と同じでした。クルスク州の地元新聞と私の実体験から、リアルな市民の生活をご紹介します。(徳山あすか)


ウクライナ情報交差点
ウクライナはこの冬の電力危機を耐え抜けるか

 ロシアは2022年2月に全面軍事侵攻を開始して以降、ウクライナの重要インフラへの攻撃を仕掛けてきたが、特に2024年に入ってからは無人機による電力インフラへの攻撃を執拗に続けている。その結果生じている電力不足により、ウクライナの生産活動や市民生活は打撃を受けており、翻って戦争の行方をも左右しかねない情勢となっている。今回は、主にGMKセンターのレポートにもとづき、この問題を概観する。(服部倫卓)


シネマで見るユーラシア
『金の糸』:日本の伝統技術が繕う人々の記憶

 ジョージアの首都、トビリシのアパートで娘夫婦やひ孫と暮らす作家のエレネは79歳の誕生日を静かに迎えていた。家族も誰も覚えている人間はいない。杖がなければ歩行はおぼつかず、行動範囲のほんどが家のなかに限られ、かろうじてベランダから見える隣人たちとの交流がいまのエレネの一日のすべてだ。(芳地隆之)


ロシア音楽の世界
プロコフィエフ 交響的協奏曲 ホ短調

 ウクライナ生まれのプロコフィエフが、ロシア革命の荒波を逃れて、ペトログラードを発ったのは、1918年5月7日だった。2年前に全線開通したばかりのシベリア鉄道に乗ってユーラシア大陸を横断しウラジオストク、さらにナホトカ港へ。そこから太平洋航路の船に乗り日本経由で最終的にはサンフランシスコへ渡った。横浜港からはもともと南米チリへ行く予定であったが、毎月1便しかない船が出港してしまったばかりだったため、北米へ行き先変更したとされる。(ヒロ・ミヒャエル小倉)


記者の「取写選択」
ロシアとモンゴルの100年

 1986年8月、モンゴルの首都ウランバートルで北京発モスクワ行きの国際列車を降りた私は唖然とした。色味に乏しい駅前広場の数少ない彩りが、ゴルバチョフ・ソ連共産党書記長の大きな肖像画と、彼の発言を伝える赤い看板だったからだ。(小熊宏尚)