ロシアNIS調査月報2024年12月号特集◆制裁と成長の狭間で揺れる |
|
特集◆制裁と成長の狭間で揺れるロシア経済 |
|
調査レポート |
経済制裁論争と制裁耐性経済ロシア |
調査レポート |
公式統計に見る2023年のロシア貿易 |
講演録 |
制裁下ロシアの金融市場の現状と見通し |
調査レポート |
中国依存が進むロシアの自動車産業 |
調査レポート |
2023年のロシアの農業分野 |
ミニレポート |
ロシアにおける外資系企業の国別・地域別活動 |
ミニレポート |
北カフカス地方の水ビジネス |
INSIDE RUSSIA |
制裁下ロシアの鉄鋼輸出動向 |
エネルギー産業の話題 |
ロシアのガス生産・輸出動向 |
データリテラシー |
賃金上昇が継続するロシア労働市場の現状 |
ロシア極東羅針盤 |
廃車税率引き上げと中国車 |
ロシア政財界人物録 |
ミレル・ガスプロム社長 |
データバンク |
2024年版ロシア50大外資系企業ランキング |
おいしい生活 |
モスクワで楽しむワイナリー直営レストラン |
ウクライナ情報交差点 |
原料炭田喪失の危機に立つウクライナ鉄鋼業 |
中央アジア情報バザール |
カザフスタンで原発建設を巡る国民投票 |
シネマで見るユーラシア |
『聖なる泉の少女』:詩的な、あまりに詩的な映画 |
ロシア音楽の世界 |
チャイコフスキー「懐かしい土地の思い出」 |
業界トピックス |
2024年10月の動き |
通関統計 |
2024年1〜8月の対ロシア・NIS諸国出入通関実績 |
記者の「取写選択」 |
百万本のバラは枯れない |
調査レポート
経済制裁論争と制裁耐性経済ロシア
京都大学経済研究所
特任教授 溝端佐登史
世界はレジリエンス(耐性)を試されている。IMF(国際通貨基金)は新型コロナ感染症、地政学的紛争、そして気候変動によって、サプライ・チェーンの寸断、エネルギー・食糧危機が生じ、不確実性が際立っている、そのなかで国家の役割が大きくなっているとみる(IMF, 2024)。一方、世界銀行はより長期の視線から、「耐性社会と強い経済」をテーマに、気候変動への適応こそが必要と主張する。いずれの主張のキーワードも耐性、適応である。
この不確実性の震源というべきロシアは2022年2月24日ロシアのウクライナ侵攻から3年目を迎えようとしている。事態は悪化、拡大しても、終息の兆しはみえない。「先例のない規模と範囲の制裁」がロシアに課せられ、SWIFT(国際銀行間金融通信協会)からの排除をはじめ世界経済、とりわけ国際金融から孤立する措置が講じられ、ロシアの海外資産は没収寸前にまで至っている。しかし、ロシアの経済実績は予想に反して好調にみえる。
本稿は、経済制裁に対する見方を整理した上で、危機と経済制裁が普通になっている中で、ロシアはどのように危機・制裁耐性経済を形成しているのかを考察する。さらに、その耐性が、危機と分断の世界経済の中で持続可能なのかを合わせて検討しよう。一見すると高い政権支持率にはどのような経済的基盤があるのかを考えてみたい。
調査レポート
公式統計にみる2023年のロシア貿易
(一社)ROTOBO ロシアNIS経済研究所
部長 齋藤大輔
小誌では、ロシアの主要貿易相手国側の輸出入データ、いわゆる「ミラーデータ」を用いて、2023年のロシアの貿易動向を詳しくお伝えするレポートを本誌2024年8月号に掲載した。
一方、2022年2月のウクライナ侵攻開始以降、通関統計の発表を取りやめたはずのロシア連邦税関局が今年も、紙の媒体では通関統計の発行を続けていることがわかった。
そこで本稿では、年報を用いて、恒例のレポートをお届けする。侵攻の長期化と西側との関係断絶がもたらしたロシアの対外関係の変化や新しい現実への適応など、ロシアの通関統計を分析することは、現在のロシアの姿をより鮮明にとらえるヒントになるはずである。
講演録
制裁下ロシアの金融市場の現状と見通し
AirCapital
投資ストラテジスト セルゲイ・スヴェロフ
2024年9月27日(金)、ロシアNIS貿易会(10月1日よりROTOBOに名称変更)はロシア情報提供セミナー「制裁下ロシアの金融市場の現状と見通し」をリモートで開催した。本セミナーでは、AriCapital(モスクワ)で投資ストラテジストとして活躍するセルゲイ・スヴェロフ氏に講師を務めていただいた。本号では、その報告の要旨と質疑応答の内容をご紹介することとしたい。(構成:中居孝文)
調査レポート
中国依存が進むロシアの自動車産業
(一社)ROTOBO ロシアNIS経済研究所
研究員 渡邊光太郎
戦争・制裁にもかかわらず、経済指標を見る限りロシア経済は好調にも見える。自動車販売や生産でも、回復が報道されることもあった。また、ロシアにおける中国系自動車メーカーの躍進も伝えられた。
しかし、比較の相手が大混乱の2022年である限り、回復は当然である。実態は低迷の状態がマシになったというレベルに過ぎない。確かに、西側の自動車が中国の自動車に置き換わっていった。しかし、2024年の自動車販売台数が開戦前の2021年を大きく超えることはなさそうである。そもそも、2021年のロシアの自動車販売台数は、最盛期と比べ大きくへこんでいた。
自動車生産についても、回復が報道された。中国系自動車メーカーのロシア国内での生産開始が報道される。しかし、生産は販売以上に厳しく、2024年の生産台数は2021年の半分程度と予想される。
元々、発育不良であったロシアの自動車産業は、戦争で大きく劣化した。本稿では、中国系自動車メーカーの躍進の実態と、ロシアの自動車産業が決して好調でないことを明らかにする。
調査レポート
2023年のロシアの農業分野
(一社)ROTOBO ロシアNIS経済研究所
名誉研究員 坂口泉
本誌2024年8月号でロシアの穀物と畜産物(鶏肉、豚肉、牛肉)の生産・輸出状況をご紹介したが、本稿ではそれらの農産物の生産・輸出に関する最新情報に加え、ひまわりの種、てん菜、大豆、ソバ、各種野菜の生産と輸出入の状況を2023年の動きを中心にご紹介する。その他、配合飼料の生産の状況についても言及する。
ミニレポート
ロシアにおける外資系企業の国別・地域別活動
以下では、前年(本誌2023年11月号掲載の「ウクライナ侵攻後のロシア進出企業の国別対応比較」)に引き続き、米国のイェール大学が発表しているリサーチデータ「Yale CELI List of Companies」に基づいて、ウクライナ侵攻後のロシアにおける外資系企業の動向を概観する。(中居孝文)
ミニレポート
北カフカス地方の水ビジネス
―工場見学で知った新時代の課題―
戦時経済と言われているロシアだが、実際は、軍需産業分野以外でも事業を拡大している企業がある。西側企業の撤退によって市場シェアを高めている企業の一例として、本稿では、飲料の製造販売を手がける「メルクリー」を取り上げる。(徳山あすか)
INSIDE RUSSIA
制裁下ロシアの鉄鋼輸出動向
他記事で紹介されていることと思うが、2023年のロシア通関統計が入手できたので、早速筆者も分析作業を試みているところである。その一環として、個人的な研究テーマの一つである鉄鋼の2023年までの輸出動向を集計しグラフ化したので、本コーナーでお目にかけたい。(服部倫卓)
エネルギー産業の話題
ロシアのガス生産・輸出動向
2023年4月26日付けのロシア連邦政府決定に従い、ロシアの石油・ガスコンデンセート・ガスの生産に関するデータの公表が2024年4月1日まで禁止されることになりましたが、その後、2024年3月初旬に公布された政府決定に従って禁止期間が2025年4月1日まで延長されました。ところがどういうわけか、ガスの生産量と輸出量に関しては、ロシアの経済紙に定期的に数字が紹介されています。今回はロシアの経済紙に紹介されている数字をもとに2024年1〜8月期のガスの生産動向と、1〜9月期のパイプライン(PL)ガスとLNGの輸出動向をご紹介します。(坂口泉)
データリテラシー
賃金上昇が継続するロシア労働市場の現状
2024年10月17〜18日にかけてモスクワ市内で実施された経済フォーラム「生産性360」に登壇したオレシキン大統領府副長官は「今後の課題として我々は人材不足、特に管理職の不足に直面している。ロシア経済に最早安価な労働力は存在しない。給与はすでに上昇しており、今後もさらに増加するだろう」と述べました。すでに各所で報じられているとおり、ロシア・ウクライナ戦争の影響で失業率の低下が継続しているロシアでは、名目賃金の大きな増加、さらには実質賃金の上昇も継続しています。2024年はインフレの影響もあり急激な実質賃金増はなくなったものの、その上昇傾向自体に歯止めがかかる様子は見られません。今回は各種労働統計を参考に現在のロシア労働市場について概観します。(長谷直哉)
ロシア極東羅針盤
廃車税率引き上げと中国車
10月1日から廃車税率が50〜70%引き上げられた。これによる増収で、膨張する軍事費を賄うとともに、政府は、国内の自動車産業を保護し、中国メーカーに現地進出を促す。税収のもととなる自動車の輸入は、戦時下での好景気から、中国車を中心に大きく伸びている。(齋藤大輔)
ロシア政財界人物録
ミレル・ガスプロム社長
2024年10月8〜11日にかけてサンクトペテルブルグ国際ガスフォーラムが実施され、ロシアのガス産業に関わる様々な要人の発言に注目が集まりました。今回はその中でもミレル・ガスプロム社長の発言を整理して紹介します。(長谷直哉)
データバンク
2024年版ロシア50大外資系企業ランキング
2024年9月、ロシア版『Forbes』が最新のロシア外資系企業ランキングを発表した。ここでは2023年の売上高に基づいて上位50社が示されている。以下では、このランキングを一覧表にまとめ、若干の解説とともに紹介する。
ウクライナ情報交差点
原料炭田喪失の危機に立つウクライナ鉄鋼業
筆者自身は「戦況」を語る柄ではないが、長くウクライナの経済地理を研究してきた身ゆえ、ロシアによる破壊や占領でウクライナ側の産業基盤が破壊されつつあることに関しては、危機感を持って注視している。目下最も懸念されているのは、ロシア軍がドネツク州のポクロウシクに迫りつつあり、ウクライナに残された貴重な原料炭田が失われる恐れが出てきたことで、今回はこれを取り上げる。(服部倫卓)
中央アジア情報バザール
カザフスタンで原発建設を巡る国民投票
2024年10月6日、カザフスタンで原子力発電所建設の是非に関する国民投票が行われた。(中馬瑞貴)
シネマで見るユーラシア
『聖なる泉の少女』:詩的な、あまりに詩的な映画
いきなりジョージアの雪の中山間地に紛れ込むーーそんな始まりだ。澄んだ水が小さな滝から川へと落ち、画面中央の大きな岩を迂回してこちら側に流れてくる。映像は止まったまま数分続く。見る側の居心地が悪くなる長さ。そう感じるのは、私たちがわかりやすい、ストレスのかからないテンポの物語展開に慣れているからだろう。自然はそんなに都合のいいものではないことを私たちは知らしめられる。(芳地隆之)
ロシア音楽の世界
チャイコフスキー「懐かしい土地の思い出」
チャイコフスキーの生涯で不思議な存在感を示していて彼の目の前には一度も現れなかったのに、1876年から彼と不思議な文通を始めた一人の未亡人がいる。「テンペスト」を聴いて感激したという、大富豪の未亡人、ナデージタ・フォン・メック夫人である。彼はこの夫人から彼の作品への熱い共感・賛辞と資金援助を申し出られる。(ヒロ・ミヒャエル小倉)
記者の「取写選択」
百万本のバラは枯れない
ロシアのウクライナ侵攻後、日本や欧米ではロシア関係の文化イベントが中止になったり、ロシア色を薄めたりと強い逆風を受けている。そんな中、ロシア的なアイコンを高く掲げて活動する歌手がいる。2025年で歌手生活60年となる加藤登紀子である。(小熊宏尚)