ロシアNIS調査月報
2022年2月号
特集◆脱炭素化の課題に
立ち向かうロシア・NIS
 
特集◆脱炭素化の課題に立ち向かうロシア・NIS
調査レポート
脱炭素という世界潮流の中で揺れ動くロシア
―政府と石油ガス産業の強かな対応―
調査レポート
欧州グリーンディールの始動とロシアへのインパクト
調査レポート
新潮流の中のロシア石油ガス化学
―始まった脱炭素・環境負荷低減の試み―
調査レポート
ロシア東部のエネルギー部門の発展見通し
イベント・レポート
サハリン脱炭素・水素セミナー
インタビュー
ロシアメディアによる飯島会長インタビュー
キーパーソンに訊く
北極海航路や水素へ協力の多角化を目指す
自動車産業時評
ロシアは水素燃料電池車を有望視
地域クローズアップ
資源豊富なハンティ・マンシも脱炭素を目指す
産業・技術トレンド
ロシアで超電導モーター搭載機の初飛行
ウクライナ情報交差点
ウクライナ鉄鋼業と脱炭素化の難問
中央アジア情報バザール
カザフスタンの脱炭素政策

INSIDE RUSSIA
インフレがロシア経済の焦点に
ロシア極東羅針盤
コロナ危機下の中ロ国境を見る
データリテラシー
ロシアのブラック・フライデー
デジタルITラボ
ウクライナ・スタートアップシーンの魅力
ロシアメディア最新事情
新年を迎えても不安拭えぬロシア
ロシア政財界人物録
ロシア国産ERPシステムの旗手ヌラリエフ
ロシア音楽の世界
プロコフィエフ古典交響曲
シリーズ 工業団地探訪
外国企業側から見たロシアの工場団地の短所
業界トピックス
2021年11−12月の動き
通関統計
2021年1〜11月の輸出入通関実績
おいしい生活
まぜるな危険? ウクライナとロシアのボルシチ
記者の「取写選択」
「ロシアの良心」メモリアル


調査レポート
脱炭素という世界潮流の中で揺れ動くロシア
―政府と石油ガス産業の強かな対応―

石油天然ガス・金属鉱物資源機構
調査部(併)ロシアグループ 原田大輔

 本稿では、欧州発・世界を席巻する脱炭素の潮流の中で、いかにロシア政府が戦略を練っているか、ロシア石油ガス会社はどのように対応してきたか、これまでの動向を追う。なお、筆者は2021年12月21日にROTOBO月例報告会で「COP26後のロシアの脱炭素政策」と題する報告を行った。本稿は、その報告内容をベースにさらにアップデートしたものである。


調査レポート
欧州グリーンディールの始動とロシアへのインパクト

立教大学経済学部 教授
蓮見雄

 筆者は、2021年10月26日(火)にROTOBO月例報告会において「欧州グリーンディールの始動とロシアへのインパクト」と題して講演を行った。本稿は、これを基礎としているが、その後の展開、特に2021年12月15日にFit for 55第2弾として公表されたガス市場の脱炭素化に関する規則、指令の改正案を踏まえて内容を大幅にアップデートしている。
 本稿では、最初に欧州グリーンディールが打ち出される背景について確認し、次いでEUの成長戦略における欧州グリーンディールの位置とその新機軸について概説する。それを踏まえて、欧州グリーンディールのロシアへのインパクトについて、ガス価格高騰、ガス市場の脱炭素化と水素戦略、メタン戦略、国境炭素調整メカニズム(CBAM)、北極圏に関するEUの政策に則して考察する。


調査レポート
新潮流の中のロシア石油ガス化学
―始まった脱炭素・環境負荷低減の試み―

ロシアNIS経済研究所 名誉研究員
坂口泉

 地球温暖化の問題が顕在化する中で脱炭素や環境負荷低減を志向する動きが芽生え、瞬く間にグローバルな潮流へと変貌を遂げた。そして、主要国の産業はほぼ例外なく脱炭素と環境負荷低減の方向に舵をとり始めている。当然、ロシアの石油ガス化学分野も対応を迫られているわけだが、本稿ではその点に着目しながら同分野の現状を紹介する。具体的にはロシアの石油ガス化学分野のポリマー部門の現状、主要なロシアの石油ガス化学会社の現在地、アムール州、レニングラード州、イルクーツク州等で動き始めている大規模プラント建設プロジェクトの進捗状況について言及した後に、同分野で試みられようとしている脱炭素と環境保護を念頭に置いた動きにつき説明する。


調査レポート
ロシア東部のエネルギー部門の発展見通し

ロシア科学アカデミー極東支部経済研究所
O.ジョミナ

 ロシアNIS貿易会では、ハバロフスクにあるロシア科学アカデミー極東支部経済研究所のオリガ・ジョミナ研究員より、「ロシア東部のエネルギー部門の発展見通し」に関するレポートを寄稿いただいた。本稿では、北極圏を含むロシア東部(東シベリアと極東地域)における石油ガス、石炭、電力に関する今後の発展の展望、並びに水素エネルギーや省エネ・気候変動への取り組みが紹介されている。


イベント・レポート
サハリン脱炭素・水素セミナー

 2021年12月14日、ロシアNIS貿易会ではサハリン州政府と共同で産業協力・企業間交流セミナー「サハリン州の水素プロジェクトとカーボンニュートラル戦略」をオンライン開催した(参加者数は約150名)。2021年10月、プーチン大統領が2060年までにロシアのカーボンニュートラルを達成することを宣言したが、サハリン州では2025年のカーボンニュートラル達成という野心的な目標を定め、その実現に向けて様々な実証実験の実施が予定されている。なかでも注目されているのが水素クラスター構想である。以下では、セミナーの概要を紹介する。(中居孝文)


インタビュー
ロシアメディアによる飯島会長インタビュー

 『エクスペルト』誌はロシアを代表する経済週刊誌である。同誌2021年11月29日号に、飯島彰己ロシアNIS貿易会会長(三井物産顧問)のインタビュー記事が掲載された。以下では、その日本語オリジナル版を紹介する。


キーパーソンに訊く
北極海航路や水素へ協力の多角化を目指す

ロスアトム東南アジア日本支社
代表取締役 S.デミン

 ロスアトム(及びその関連会社)と日本の協力関係は、かつての濃縮ウランの供給から、現在では福島原発事故の事後処理に移りつつあり、さらに今後はロスアトムが積極的に関与する北極海航路の利用・促進や水素の開発・利用・輸出へと多角化しようとしています。こうした協力を進めるため、2018年11月にロスアトムは日本支社を開設しました。今回は、ロスアトム東南アジア日本支社のセルゲイ・デミン代表取締役に日本との協力の現状と見通しについてお話をお聞きしました。(中居孝文)


自動車産業時評
ロシアは水素燃料電池車を有望視

 周知のとおり、ロシアでは電気自動車へのシフトがほとんど進んでいません。そうした中、ロシア連邦政府は2021年8月23日付の政府指令で、「2030年までのロシア連邦における電動自動車の生産・利用発展コンセプト」と題する政策文書を採択しましたので、それをチェックしてみることにしましょう。(服部倫卓)


地域クローズアップ
資源豊富なハンティ・マンシも脱炭素を目指す

 石油大国ロシアでその4割強を生産するハンティ・マンシ自治管区。古代にはマンモスが生息していたとされるシベリアの地で1953年に天然ガス、1960年に石油が発見され、中心都市ハンティマンシースクなどが一躍工業都市として発展するようになった。先住民族が今なお伝統的な生活を続ける傍らで、現代社会に欠かすことのないエネルギー資源が生産されているのだ。そんな炭化水素資源の豊富な地域でも脱炭素・低炭素社会の実現は他人事ではないようだ。(中馬瑞貴)


産業・技術トレンド
ロシアで超電導モーター搭載機の初飛行

 2021年7月、ロシアで超電導モーターを搭載した電動飛行機の実験機が飛行に成功した。電動飛行機の将来性が未知数である段階であり、この実験機の成功がすぐに何か実用的なものにつながるわけではない。実際、エアバスが同様のコンセプトで開発していた実験機も中止になっている。本稿では、期待を煽らないようロシアの電動実験機について紹介する。(渡邊光太郎)


ウクライナ情報交差点
ウクライナ鉄鋼業と脱炭素化の難問

 ウクライナも世界的な脱炭素化の流れに、一応は歩調を合わせようとしている。2021年にグラスゴーのCOP26でウクライナが表明した「国が決定する貢献(NDC)」の第2版によれば、同国は2030年までにCO2の排出量を1990年比で65%削減した上で、2060年までにカーボンニュートラルを達成することになっている。ウクライナの場合、それを実現する上で、鉄鋼業の占める割合が大きい。(服部倫卓)


中央アジア情報バザール
カザフスタンの脱炭素政策

 世界各国が対応を迫られているカーボンニュートラル。中央アジア各国も例外ではない。中でもカザフスタンでは、2020年12月にトカエフ大統領が2060年までのカーボンニュートラル達成という目標を香椎に宣言して以来、2021年1月に新しい環境法が採択され、同年夏にはEUに対抗すべくカザフ版「国境炭素税」の導入が検討されていることが明らかとなり、同年11月にCOP26に出席したマミン首相(当時)が国際社会に向けてこれらの方針を再確認するなど、ここ1年で急速に進展を見せている。(中馬瑞貴)


INSIDE RUSSIA
インフレがロシア経済の焦点に

 現下のロシア経済で最大の焦点となっているのが、インフレの亢進、すなわち物価の高騰である。2021年8月にレヴァダ・センターが実施した全国調査でも、昨今ロシア国民を悩ませている最大の問題が物価の高騰であることが裏付けられている。(服部倫卓)


ロシア極東羅針盤
コロナ危機下の中ロ国境を見る

 高層ビルが立ち並び、夜になるとライトアップに輝く対岸と比べると、ブラゴヴェシチェンスクは比較的小規模で、街の明るさも歴然としていた。しかし、町の変化は予想以上だった。川沿いには新築マンションが立ち並び、大型ショッピングセンターも開店し、モスクワのレストランチェーンも進出するなど、その変化の早さは私の予想を上回っていた。
 コロナ危機下の中ロ国境の実態を見たいと思った。2021年10月、産業・農業関連の調査でアムール州を訪問する機会ができた。(齋藤大輔)


データリテラシー
ロシアのブラック・フライデー

 年末になると、セール、セール、セールと各所で広告がおどり、財布のひもが緩みやすいのは日本もロシアも共通かと思います。ロシアでの年末年始セールはおおむね12月の第3金曜日か土曜日あたりから、年明け1月の末日まで続きますが、近年はこの年末年始の商戦に先立って、11月下旬の数日間開催されるブラック・フライデーセールも定番となってきています。米国からはじまったこのセールですが、いつの間にかロシアにも浸透し、馴染んだ習慣となりつつあります。今回はロシアにおけるブラック・フライデー導入の経緯やデータ、またその現状などについて簡単に整理して、説明したいと思います。(長谷直哉)


デジタルITラボ
ウクライナ・スタートアップシーンの魅力

 2014年のクリミア併合は、ロシア・ウクライナ間のスタートアップ・ベンチャー産業にも影響を及ぼしたと思っている。二国間で直接の行き来ができなくなったことは、交流を妨げる要因になっただろう。筆者の友人であるウクライナ東部の学生たちは、高等教育と就業機会を求めて、2015年にタタルスタン共和国のイノポリスへ移住した。彼らは故郷のドネツクから、知人のITエンジニアたちを呼び寄せ、雇用や移住を支援している。また、2020年にベラルーシで起きた政府による弾圧によって、1万人以上のITエンジニアやその家族たちが国外へ移住したと言われているが、その多くがウクライナに移り住んだとされている。そして、2021年12月現在、ロシア・ウクライナ間の国境では、大規模な軍事衝突の緊張が高まっている。政治の問題は、テクノロジー産業、ひいてはベンチャー産業にまで、大きな影響を及ぼしている。(牧野寛)


ロシアメディア最新事情
新年を迎えても不安拭えぬロシア

 新年を迎えても、心をざわつかせるニュースが続くロシア。年末年始を挟んだウクライナ情勢、そして年始に勃発したカザフスタンの暴動。ロシア周辺が順番に世界のトップニュースになるような状況を鑑みると、いくら新年のにぎわいや美しい街並みを見ても、心から楽しむことは難しいです。また、それは決して国際レベルの話だけではありません。身近ないくつかのニュースから、ロシアの不安感の正体について考えてみたいと思います。(徳山あすか)


ロシア政財界人物録
ロシア国産ERPシステムの旗手ヌラリエフ

 ロシアに行かれたことがあれば。黄色地に赤色のフォントで「1C」と描かれた街頭広告やソフトウェアパッケージを目にした記憶があろうかと思います。もちろん、既にロシアで実務に当たられている方であれば、嫌というほど目にしているかと思います。 この「1C」(アジン・エス)はロシア市場のみならず、ウクライナやベラルーシ、モルドバ、中央アジアおよびコーカサス諸国、またロシア語話者の多い一部欧州諸国にて広く利用されているERPシステムです。本稿では、このERPシステム「1C」の生みの親の1人であり、「1C」社社長のボリス・ヌラリエフ氏(以下、ヌラリエフと記載)を紹介しつつ、同社の事業やその歩みについて簡単に紹介します。(長谷直哉)


ロシア音楽の世界
プロコフィエフ古典交響曲

 セルゲイ・プロコフィエフは音楽院在学中に、ニコライ・チェレプニン教授の研究室で交響曲の父:パパ・ハイドンの技法を習っていた。彼はそこで、いかにも彼らしい奇抜な考えを思いついた。それは、「20世紀のこの時代にハイドン先生がもし生きていたらどんな交響曲を書いただろうか」というものだった。このアイディアに自らのめり込んだ彼が、意気揚々に楽しみながら作曲したのがこの交響曲第1番である。プロコフィエフ自身が「古典交響曲」と名付けている。(ヒロ・ミヒャエル小倉)


シリーズ 工業団地探訪
外国企業側から見たロシアの工場団地の短所

 筆者は過去7年にわたりロシア工業団地協会の顧問として、ロシアにおける工業生産インフラの整備と企業誘致に関わってきた。この間のロシアの工業団地の整備、生産インフラの創設には明らかな進展が見られ、それは官民の関係者の大いなる努力と熱意、志や気概があってこそだったと身をもって感じている。しかし、それにも拘わらず、製造業における外国企業の誘致に、ロシアおよびロシアの工業団地は必ずしも大きく成功しているわけではない。(大橋巌)


記者の「取写選択」
「ロシアの良心」メモリアル

 「アレクシュク、ドミトリー・アダモヴィチ。28歳、機械技師。1938年1月27日に銃殺」。約2000人の氏名と職業、処刑日と年齢を多数の市民が約12時間かけて交代で読み上げる。10月30日の「政治弾圧犠牲者を記憶する日」の前日にモスクワで行われるイベント「名前を戻せ」。2007年以降、毎年実施されてきたが、コロナ禍のため2021年はオンライン開催。氏名に「私の祖父」と付け加える人がいれば、中学生ぐらいの少女5人のグループも。スターリンの大テロルの記憶はこうして維持されてきた。読み上げは例年、旧KGB(現FSB=連邦保安局)前のルビャンカ広場にある「ソロヴェツキーの石」の前で行われる。(小熊宏尚)