ロシアNIS調査月報2022年3月号特集◆ロシアの地域情勢から |
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特集◆ロシアの地域情勢から見えてくるもの |
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調査レポート |
方向転換を迫られるロシア電力業 ―2021年の動きを中心に― |
調査レポート |
ロシア極東と中国の経済関係 |
イベント・レポート |
ロシア・アムール州貿易投資セミナー |
イベント・レポート |
大サンクトペテルブルグ圏貿易投資セミナー |
ミニレポート |
憲法改正後のロシアの中央・地方関係 ―国に大統領は1人― |
INSIDE RUSSIA |
ロシアの天然ガス東方シフトは可能か |
ロシア極東羅針盤 |
スケトウダラ輸入制限にみる中ロ関係の現実 |
地域クローズアップ |
共産党が勢力を維持するオリョール州 |
シベリア・北極圏便り |
シベリアから見たカザフスタン騒乱 |
エネルギー産業の話題 |
サハリンのガスプロジェクトの現状 |
自動車産業時評 |
サンクトペテルブルグの外資系完成車メーカー |
ロジスティクス・ナビ |
2021年のロシア運輸動向 |
ロシアメディア最新事情 |
ロシアの地方の世情を映す事件簿 ―危険感覚が日本と違いすぎる― |
シリーズ 工業団地探訪 |
ストゥピノ・クワドラト経済特区(モスクワ州) |
調査レポート |
転換期を迎えたカザフスタン ―「悲劇の1月」から得た教訓― |
データバンク |
2021年の日ロ貿易(速報値) |
データリテラシー |
ロシアにおける半導体製造状況 |
産業・技術トレンド |
MC-21ロシア材料機初飛行と型式証明の発行 |
デジタルITラボ |
ロシアベンチャー投資2021を振り返って |
HOW TO ビジネス実務 |
ロシアの決算書を読む(1) |
ウクライナ情報交差点 |
緊迫するウクライナの経済情勢はいかに |
ロシア音楽の世界 |
プロコフィエフ「ピーターと狼」 |
ドーム・クニーギ |
加藤学著『皇帝兼CEO プーチンのゆくえ』 |
業界トピックス |
2022年1月の動き |
通関統計 |
2021年1〜12月の輸出入通関実績(速報値) |
おいしい生活 |
今後が楽しみなモスクワの女性ショコラティエ |
記者の「取写選択」 |
ナザルバエフの転落 |
調査レポート
方向転換を迫られるロシア電力業
―2021年の動きを中心に―
ロシアNIS経済研究所 名誉研究員
坂口泉
ロシアではソ連解体後も住宅向けの電力料金を原価割れの低い水準に抑制し、そこから生じる赤字を産業需要家向けの電力料金を高く設定することにより補填するという措置が講じられてきた。
また、2009年からは投資義務契約と呼ばれる制度(およびそれに類する制度)に基づき多数の新発電ユニットの建設や既存の発電ユニットの改修が行われるようになっているが、そこでも、大口需要家に負担を強いるという構図が見受けられる。すなわち、大口需要家に割高な容量料金(発電設備利用料)を適用しそこから得られる資金で発電ユニットの新規建設もしくは改修のために投下された資金を回収するという措置が講じられている。
要するに、大口需要家が国に代わり発電ユニットの新規建設・改修のための補助金を出すような恰好になっているのである。新規に建設される原子力発電所や風力・太陽光発電所などにも投資義務契約制度が適用されることになっており、ロシア政府は大口需要家に資金を負担させ電源の脱炭素化を推進することも視野に入れていた。
ただ、2021年11月に国営石油会社「ロスネフチ」のセーチンCEOが投資義務契約に代表される電力の大口需要家に過度の負担を強いる制度の是正を直訴する書簡をプーチン大統領に提出したことからもわかる通り、大口需要家の我慢も限界に達しており、政府は電源の脱炭素化シナリオの見直しを迫られている。
新しいシナリオの具体像はまだ見えてきていないが、本稿では投資義務契約に代表される大口需要家に過度な負担を強いる制度がもたらした歪みに着目しながら、2021年のロシアの電力分野の動きを回顧する。
調査レポート
ロシア極東と中国の経済関係
ロシア科学アカデミー極東支部経済研究所
V.スースロフ
以下では、ロシア科学アカデミー極東支部経済研究所(在ハバロフスク)のウラジミル・スースロフ研究員より寄稿いただいたレポート「ロシア極東と中国の経済関係」を紹介する。本稿では、ロシア極東の経済発展にとって、今や不可欠なパートナーになった中国との経済関係の現状が、具体的な投資プロジェクトとともに紹介されている。著者によれば、ロシア極東と中国の経済関係は、貿易の段階をすでに卒業し、投資のステージに入ったという。
イベント・レポート
ロシア・アムール州貿易投資セミナー
2021年11月26日(金)、ロシアNIS貿易会はアムール州政府と共同で、オンラインイベント「ロシア・アムール州貿易投資セミナー」を開催した。セミナーでは、アムール州のオルロフ知事が出席した他、同州副首相がアムール州の経済状況と投資環境の説明、またアムール州の農業・食品・木材加工に従事する企業の代表が報告した。日ロ双方から約87名(日本側から約54名、ロシア側から約33名)が参加した。 以下では、セミナーの報告要旨をご紹介する(『ロシアNIS経済速報』2021年12月25日号、No.1879より再録)。(服部雅史)
イベント・レポート
大サンクトペテルブルグ圏貿易投資セミナー
2021年11月11日(木)、ロシアNIS貿易会はサンクトペテルブルグ市政府およびレニングラード州政府と合同で「大サンクトペテルブルグ圏貿易投資セミナー」を実施した。今回は@港湾・ロジスティクス、Aグリーン・脱炭素、B都市環境・医療インフラをテーマとし、両政府・企業の代表者たちがそれらのポテンシャルやプロジェクトを報告したほか、日系企業の進出事例として日本たばこ産業が現地での自社事業について紹介した。以下では、それら報告概要をお届けする(『ロシアNIS経済速報』2021年12月15日号、No.1878より再録)。(大内悠)
ミニレポート
憲法改正後のロシアの中央・地方関係
―国に大統領は1人―
2021年12月21日、ロシアで「連邦構成主体の公権力組織一般原則法(以下、新連邦構成主体法)」という新しい法律が成立した。これは1999年10月に採択され、これまで何度も修正が加えられてきた「連邦構成主体立法(代表)国家権力機関および執行国家権力機関の組織一般原則法(以下、旧連邦構成主体法)」に代わる法律で、連邦構成主体の首長、執行機関(=政府)および立法機関(=議会)の権限や選出方法などについての原則を定めた法律である。(中馬瑞貴)
INSIDE RUSSIA
ロシアの天然ガス東方シフトは可能か
2月4日の北京五輪開会式には、30ほどの国の国家元首が出席したと言われている。その中で、明らかにV.プーチン・ロシア大統領は別格の大物であった。欧米日等が外交的ボイコットを実施する中で、一応「大国」の範疇に属し、国連安保理常任理事国でもあるロシアの出席を得たことは、中国としても最低限の面目を保った形であろう。そして、今回のプーチン訪中に合わせ、ロシアが新たに年間100億立米の天然ガスを中国に供給する旨の契約が、ロシア・ガスプロム社と中国CNPC社により調印された。(服部倫卓)
ロシア極東羅針盤
スケトウダラ輸入制限にみる中ロ関係の現実
中国は、2020年後半からスケトウダラなどロシア産冷凍水産品の輸入禁止を続けている。そのきっかけはロシアからのスケトウダラの包装から生きた新型コロナウイルスが相次いで見つかったためだった。中国による輸入制限から早や1年以上が経過した。コロナ対策を理由とする中国側の姿勢は強硬である。(齋藤大輔)
地域クローズアップ
共産党が勢力を維持するオリョール州
2021年に行われた連邦下院選挙および連邦構成主体議会選挙で、議席数を減らした与党・統一ロシアとは対照的に議席を増やしたのが野党第1党のロシア共産党であった。ソ連時代の「共産党」の系譜を引き継ぎ、1993年2月に復活したロシア共産党は、独立後のロシアで過去7回行われてきた全ての連邦下院選挙で議席を獲得し続けている伝統的かつ有力な政党の1つである。85地域すべてに支部を置く共産党は、現政権に脅威を与えるほどではないものの、一部の地域では非常に大きな影響力を持つ。そんな共産党への支持が高い地域の1つが中央連邦管区に位置するオリョール州である。(中馬瑞貴)
シベリア・北極圏便り
シベリアから見たカザフスタン騒乱
カザフスタンはロシアのシベリア地域(ウラル連邦管区に含まれる西シベリア地域含む)と国境を接しており、日常的な往来、移民、ビジネスなどの面において、他のロシア地域よりも色濃い交流があります。シベリア最大都市のノヴォシビルスクは言うに及ばず、カザフスタンを目の前とするオムスク(パヴロダルまで約400q)といった大都市では、ビジネスパーソンだけでなく、多くのカザフ人留学生も生活しています。本稿では、こうしたローカルな視点から、シベリアはカザフスタンでの騒乱をどのように受け止めたのか、紹介しようと思います。(長谷直哉)
エネルギー産業の話題
サハリンのガスプロジェクトの現状
最近、サハリン州に水素産業クラスターを構築するという計画が浮上し注目を集めています。ただ、いくつかのパイロットプロジェクトが話題になってはいるものの、今のところ不透明な点が少なからず存在し、クラスター構築の具体的な道筋は見えていません。たとえば、ガスを原料にブルー水素を生産することが想定されているようですが、サハリンのガスの資源基盤は今のところそれほど強固なものとはいえません。ガス資源の状況は、サハリンの水素関連プロジェクトのポテンシャルを評価する上で重要なポイントの1つになりますので、本稿では同州の主要なガス関連プロジェクトの現状をご紹介します。(坂口泉)
自動車産業時評
サンクトペテルブルグの外資系完成車メーカー
物流の利便性が高いことに加え大消費地も近いという利点を有するサンクトペテルブルグでは複数の外資系完成車メーカーが「工業アセンブリ措置」という制度を利用して、2000年代後半から現地生産を開始しています。本稿では、サンクトペテルブルグに外資系完成車メーカーを誘致する上で重要な役割を果たした「工業アセンブリ措置」につき簡単に言及した後に、同市の外資系完成車工場の現状をご紹介します。(坂口泉)
ロジスティクス・ナビ
2021年のロシア運輸動向
2021年のロシア港湾と鉄道の輸送動向を、速報値を基に概観します。さらに、近日中に公表される予定の正式な統計を用いた分析を次号で紹介します。(辻久子)
ロシアメディア最新事情
ロシアの地方の世情を映す事件簿
―危険感覚が日本と違いすぎる―
ロシアで生活していると、日本と「危険」の許容度が全然違うなと感じるシーンが多々あります。赤信号で横断歩道を渡るのは朝飯前、道路工事中で穴が開いていても立ち入り禁止になっていない、新年に打ち上げる花火は爆竹のよう、飲酒運転に目をつぶる、建物の屋上から命綱なしで雪やつららを落とす、などなど、例を挙げればキリがありません。これらのどれも一歩間違えれば大事故ですが、1月はまさに「一歩間違えた」結果、悲劇が起きたケースが、特にロシアの地方でたくさんありました。(徳山あすか)
シリーズ 工業団地探訪
ストゥピノ・クワドラト経済特区(モスクワ州)
今回は再びモスクワ首都圏に戻り、近年、外国企業の誘致に成功しているユニークな工業団地を探訪することとしよう。民営の工業団地にして工業生産型経済特区でもある「ストゥピノ・クワドラト経済特区」である。(大橋巌)
調査レポート
転換期を迎えたカザフスタン
―「悲劇の1月」から得た教訓―
ロシアNIS経済研究所 研究員
中馬瑞貴
中央アジア随一の政治的安定を誇ってきたカザフスタンが2022年の幕開けから大揺れに揺れた。事の発端は1月2日、同国南西部にある石油の一大生産地マンギスタウ州ジャナオゼンで起きた自動車燃料などに使われる液化石油ガス(LPG)の値下げを求めた大規模な抗議デモであった。辺境の地で起きたデモは同市にとどまらず、カザフスタン最大の人口を誇るアルマトィへと波及し、さらには全国的に緊急事態宣言が発令されるまでに至った。
カザフスタン騒動は、発端となったLPGの値上げ問題だけでなく、国内の社会・経済情勢や政治体制が抱える問題が複雑に絡み合って深刻化した。そこで本稿では、今回の騒動の背景にある経済・政治状況を含めて、カザフスタンの現状をまとめることにする(『ロシアNIS経済速報』2022年1月15日号の拙稿に大幅な加筆・アップデートを施して作成)。
データリテラシー
ロシアにおける半導体製造状況
ウクライナ問題をめぐり、米国や英国、そしてEU諸国などは、軍事的緊張を高めているとしてロシアを非難する姿勢を日増しに強めています。本稿執筆時の1月末時点で、ロシア・ウクライナ国境には大規模なロシア軍の展開が確認されており、偶発的な軍事衝突、そして戦争が勃発する可能性も視野に入れつつ情勢を見なければならない状況にあります。こうした中、段々と凄みを増してきているのが、「仮にロシアがウクライナを侵攻した場合」の経済制裁に関する議論です。米国はこれまで制裁が課されていなかった分野、特にロシアが石油ガス産業依存の脱却という観点から注目しているハイテク分野、ロボット、AIなど先端技術にまで広がる可能性を示唆しています。そして、こうした先端技術産業に欠かせないのが半導体です。米国報道ではこの半導体取引も制裁対象になる可能性があると報じており、ロシア報道もこれをキャリーして懸念を持って報じています。本稿では、こうした議論の土台となる、ロシアの半導体生産および輸出入状況について整理をして、紹介します。(長谷直哉)
産業・技術トレンド
MC-21ロシア材料機初飛行と型式証明の発行
2021年12月、ロシアで開発が進んでいた旅客機MC-21の開発に大きな進展があった。12月25日に、ロシア製材料を使用した主翼を搭載する機体が初飛行に成功し、28日には輸入材料で製造した機体に対し、型式証明が発行された。これらの意味も含め、現状のMC-21開発状況について説明する。(渡邊光太郎)
デジタルITラボ
ロシアベンチャー投資
2021を振り返って2021年12月末に、インク・ロシア(Inc.Russia)が、「2021年最も成功したスタートアップ100社」として、スタートアップランキングTOP100を発表した。ランキングは、@資金調達額、A企業評価額、B売上の昨年対比、という3つの観点から作成された。Inc.Russiaによれば、2021年末時点でロシアのベンチャー市場は約18億ドルで、少なくとも217件のディールが行われた。海外に進出したロシア人ファウンダーが調達したプロジェクトを含めると、資金調達の総額は33億ドル、ディールの総数は262件であった。本稿では、2021年のロシアベンチャー投資市場を振り返りたいと思う。(牧野寛)
HOW TO ビジネス実務
ロシアの決算書を読む(1)
昨年、4回にわたりロシア会計についてお話をいたしましたが、今年はロシア会計の決算書がテーマです。また昨年はどちらかというと経理担当者が連結決算を行うという視点でしたので、今年はより広い視点でロシアの税務や会計に関する書類を見ていきたいと思います。第1回目である今回は、決算書を見る前の準備段階のお話です。(小川弘美)
ウクライナ情報交差点
緊迫するウクライナの経済情勢はいかに
ロシアが国境付近に大規模な軍勢を展開していることで、ウクライナをめぐる情勢が緊迫している。ただ、それに関する情報は巷に溢れ返っているので、ここではそれには触れず、あえて2021年のウクライナ経済をざっと数字で概観するに留める。(服部倫卓)
ロシア音楽の世界
プロコフィエフ「ピーターと狼」
1990年12月8日(土)、私はソ連時代のモスクワにいた。2週間の滞在の中で唯一の休暇だった土曜日、ノヴォデーヴィチ修道院を有名音楽家たちの墓参りのため訪れた。大雪の積もる中、ショスタコーヴィチ、スクリャービン、シャリアピンの墓はすぐに見つかり、見る予定の無かった、前衛作曲家シュニトケ、文豪ゴーゴリ、マヤコフスキーらの墓まで想定外に見つけることができたのだが、最大のお目当てのプロコフィエフの墓だけがどうしても見つからなかった。(ヒロ・ミヒャエル小倉)
おいしい生活
今後が楽しみなモスクワの女性ショコラティエ
今年で20回目を迎えたチョコレートの祭典サロン・デュ・ショコラ東京2022に、モスクワのE-O CHOCOLATEが出店していた。E-O CHOCOLATEは2017年にチョコレート工房をモスクワに設立し、素材にこだわったオリジナルのチョコレートを製造・販売している。ショコラティエのエレーナ・オフシャニコヴァさんは日刊紙コメルサントに約20年勤務していたが、産休中に製菓コースを受講しチョコレートづくりに魅了されショコラティエに転身した。サロン・デュ・ショコラ公式HPでは「今、東ヨーロッパ地域で実力も注目度も急上昇中の女性ショコラティエ」と紹介されている。(斉藤いづみ)
記者の「取写選択」
ナザルバエフの転落
カザフスタン西部ジャナオゼンでの労働者デモに治安部隊が発砲、流血の惨事に発展した。騒乱は商都アルマトイに飛び火。安定した社会≠ノマグマが吹き出す。「政権は石油で得た金で不満を抑え込んできたが、心の中で人々は自由を求めているのだ」
巨大な権限を抱えて奥の院へ移った初代大統領、ヌルスルタン・ナザルバエフの転落につながった1月の動乱の解説ではない。2011〜12年の社会状況について、当時逮捕された野党、全国社会民主党のアビロフ共同議長が2013年2月、私に話したことだ。(小熊宏尚)