ロシアNIS調査月報
2022年9-10月号
特集◆注目と期待を集める
カザフスタン
 
特集◆注目と期待を集めるカザフスタン
講演録
2022年のカザフスタンを読み解く3つの視点
―政治・経済・石油―
調査レポート
カザフスタンの地方行政改革
―新3州の「復活」―
エネルギー産業の話題
カザフスタン石油分野最新事情
INSIDE RUSSIA
ロシアとカザフスタンが穀物輸出で不協和音
データリテラシー
中央アジア向け個人送金の構造変化
データバンク
2022年上半期の日本とカザフスタンの貿易
データバンク
カザフスタンの50大民間企業ランキング
データバンク
カザフスタンの20大イノベーション企業
中央アジア情報バザール
中央アジア・サミットで大統領勢ぞろい

調査レポート
混迷の中のロシア医薬品業界
―2021年の動きを中心に―
データバンク
2022年上半期の日ロ貿易
ロシア極東羅針盤
バム鉄道新線計画の行方
産業・技術トレンド
障碍者雇用促進の自動車部品メーカー
ロシアの二国間関係
敵対と融和で揺れるロシア・リトアニア関係
ロジスティクス・ナビ
2022年第2四半期のロシア港湾貨物量
ロシアメディア最新事情
チェチェン共和国ロシア特殊部隊大学取材
デジタルITラボ
ロシアのスタートアップ・エコシステム
―希望はあるのか?―
ウクライナ情報交差点
ロシアの侵略に立ち向かうチーム・ゼレンスキー
シリーズ 工業団地探訪
ウクライナ侵攻後の工業団地A
―ロシア工業団地の海外展開―
ロシア音楽の世界
ハルチュニャン&ハチャトゥリアン
―アルメニア・イヤー開幕―
業界トピックス
2022年7月の動き
通関統計
2022年1〜6月の輸出入通関実績
ユーラシア珍百景
ウクライナ〜ロシア鉄道旅ルートが戦場に
記者の「取写選択」
ウクライナ、尊厳のピアノ


講演録
2022年のカザフスタンを読み解く3つの視点
―政治・経済・石油―

 ロシアNIS貿易会では、7月4日にオンラインにて産業協力・企業間交流セミナー「2022年のカザフスタンを読み解く3つの視点〜政治・経済・石油〜」を開催しました。カザフスタンでは本年1月、国内で大規模な抗議行動が勃発し、その結果、2019年の辞任後も隠然たる権力を行使してきたヌルスルタン・ナザルバエフ初代大統領とその一族が、政治経済の表舞台から退くこととなりました。続く2月末には同国にとって最重要パートナー国の1つ、ロシアがウクライナ侵略を開始、日本を含む西側諸国による経済制裁が発動されました。本セミナーはこのように激動するカザフスタンの現状を、政治、経済、石油産業という3つの視点から読み解き、同国に対する理解を深めることを目的としたものです。以下、本セミナーの内容をご報告します。


調査レポート
カザフスタンの地方行政改革
―新3州の「復活」―

ロシアNIS経済研究所 研究員
中馬瑞貴

 2022年5月3日、トカエフ・カザフスタン共和国大統領は、地方の行政区画を変更する大統領令に署名した。同大統領令によって、既存の東カザフスタン州からアバイ州(州都:セメイ市)、アルマトィ州からジェティス州(州都:タルディコルガン市)、カラガンダ州からウルィタウ州(州都:ジェズカズガン市)が分割され、3つの州が新しく誕生した。また東カザフスタン州とカラガンダ州の州都はそれぞれウスチカメノゴルスク市とカラガンダ市のままであるが、アルマトィ州ではタルディコルガン市がジェティス州の州都となったため、クナエフ市(旧カプシャガイ市)に移管された。
 同大統領令は2022年6月8日より発効となり、カザフスタンの地方行政区画は新しい3州を加えた17州と「共和国的意義を有する市」と呼ばれる首都のヌルスルタン市、アルマトィ市およびシムケント市で構成されることになった。ただし、今回「新設された」3つの州は、1990年代にカザフスタンに存在していた州でもある。独立後のカザフスタンでは大幅な地方合成改革が行われた。そこで本稿ではカザフスタンの地方について歴史を紐解きながら概説する。


エネルギー産業の話題
カザフスタン石油分野最新事情

 ウクライナへの軍事侵攻に関しカザフスタンはロシアと一定の距離を置いており、同国の石油は西側の禁輸対象とはなっていません。しかし、カザフスタン産石油の大半はロシア経由で輸出されているため、「特別軍事作戦」の影響を少なからず受けているようにみえます。その点に留意しながら、カザフスタンの石油分野の2021年から2022年前半にかけての動きを紹介します。(坂口泉)


INSIDE RUSSIA
ロシアとカザフスタンが穀物輸出で不協和音

 ウクライナ侵攻後、ロシア政府が採った緊急経済措置の一つに、ユーラシア経済連合加盟国向けの穀物輸出を一時的に禁止するというものがあった。2022年3月14日付政府決定第362により決まったものであり、3月15日から6月30日を対象とする時限措置であった。(服部倫卓)


データリテラシー
中央アジア向け個人送金の構造変化

 米欧日による対ロ経済制裁の導入、そしてロシアによる非友好国を対象とした対抗措置の実施が、金融や物流をはじめとする産業の様々な分野にグローバルな規模で影響を及ぼし、これまでになかった変化をもたらしていることを日々実感する機会が増えていることかと思います。こうした変化がもたらす帰結のひとつとして影響が懸念されていたのが、ロシアから中央アジア諸国などへ流れる莫大な金額の海外送金です。
 今般危機はもちろんこの海外送金の多寡に影響を及ぼしましたが、より重要な点はこの海外送金をめぐるロシアとこれら諸国との関係に質的な変化をもたらしていることにあります。本稿では、ロシアから中央アジア諸国(またはコーカサス諸国)へと向かう海外送金の現状を踏まえつつ、ロシアと中央アジア・コーカサス諸国間における個人送金に係る構造変化、また対ロ金融制裁の影響を避けるべく、これら諸国で新規に銀行口座を開設するロシア国民の行動とその内実について論じたいと思います。(長谷直哉)


データバンク
2022年上半期の日本とカザフスタンの貿易

 本稿では、日本財務省の貿易統計にもとづいて、2022年上半期の日本とカザフスタンの貿易データをとりまとめて紹介する。


データバンク
カザフスタンの50大民間企業ランキング

 2022年1月26日、『フォーブス・カザフスタン』が同国の50大民間企業ランキングを発表したので、本稿で紹介する。ランキングにノミネートされているのは50%以上の資本をカザフスタン国民が所有している企業であり、2020年の売上高に納税額と従業員数を加味してランク付けされている。ただし、民間企業といっても、銀行、保険会社、投資会社といった金融機関は除外されている。以下の表では独自に調べた本社の所在地と企業URLも参考までに加えた。


データバンク
カザフスタンの20大イノベーション企業

 今や世界の経済発展において欠かすことのできないイノベーション。世界知的所有権機関(World Intellectual Property Organization、WIPO)が毎年発表している「グローバル・イノベーション・インデックス(GII)2021」年によると、132カ国のイノベーション・エコシステムのパフォーマンスを測定した今回のランキングでカザフスタンは第79位となった(2020念は第77位)。


中央アジア情報バザール
中央アジア・サミットで大統領勢ぞろい

 2022年7月21日、キルギスのイスィク・クリ州チョルポン・アタ市で中央アジア・サミットが開催された。第4回を迎えたサミットだが、かつては5カ国首脳が一堂に会する光景はあまり見られなかった。複数の首脳が顔を合わせる機会というのは何らかの国際組織の会合が一般的だが、意外にも中央アジア5カ国が加盟している組織は少ないからだ。例えば、ユーラシア経済連合の加盟国はカザフスタンとキルギスタンのみであるし、集団安全保障条約機構(CSTO)にはウズベキスタンとトルクメニスタンが加盟していない。上海協力機構についてもトルクメニスタンはオブザーバー参加にとどまっている。(中馬瑞貴)


調査レポート
混迷の中のロシアの医薬品業界―2021年の動きを中心に―

ロシアNIS研究所 名誉研究員
坂口泉

 2021年も前年に引き続きロシア政府は新型コロナへの対応に追われ、ワクチンや治療薬の国家買い付け量を増やした。また、医薬品小売部門でも新型コロナ関連の医薬品の売れ行きが好調で、ロシアの医薬品市場の金額ベースの規模は大幅に増加した。その一方で、新型コロナ治療薬やワクチンをめぐっては、ロシア政府サイドがパテントの切れていないオリジナル治療薬のジェネリックの生産をロシア企業に安易に認める一方で、外国メーカーの新型コロナワクチンを頑なに承認しないという、外国メーカーの不興を買う動きも目立った。さらに、輸入代替を急ぐロシア政府は国家買い付けへの外資メーカーの参加をより困難とする「余計な2番目」という制度導入の検討も開始した。
 2022年2月になり、そこに「特別軍事作戦」という否定的要因が加わったものの、外資系医薬品メーカーのロシアへの対応は他の分野の外資系企業と比較すると寛容で、ほとんどのメーカーがロシアでの治験は中止するが、人道的立場にのっとり主要な医薬品のロシア市場への供給は継続するという方針を打ち出した。輸入代替がロシア政府の思惑通りには進んでいないこと、ならびに、ロシアの医薬品製造部門の技術レベルから判断して、その先行きも不透明であると言わざるをえないことを勘案すると、外資系企業が示した寛大な対応は、ロシアの一般市民にとっては吉報であったといえよう。
 本稿では、2021年のロシアの医薬品市場の状況をご紹介すると同時に、「特別軍事作戦」以降の外資系医薬品メーカーのロシア市場での動きなどについてもご紹介することとする。


データバンク
2022年上半期の日ロ貿易

 本稿では、日本財務省の貿易統計にもとづいて、2022年上半期の日本とロシアの貿易に関し、データをとりまとめたので、若干の解説とともに紹介する。


極東羅針盤
バム鉄道新線計画の行方

 サハ共和国南部のエリガ炭田を開発するA-Propertyは6月、同炭田とオホーツク海沿岸のチュミカン間に新線を整備する計画を承認した。A-Propertyは2028年の開業を目指して今年中に事業会社を設立し、2023年から事業に本格着手する(齋藤大輔)


産業・技術トレンド
障碍者雇用促進の自動車メーカー

 2月以降、戦争や戦争中の行いにより、国際社会におけるロシアの評判はガタ落ちである。しかし、一方で、ロシアに行ったことがある人間であれば、ロシア人の心の暖かさや優しさに触れた人は少なくないだろう。この両者をどう頭の中で処理するかという命題は置いておいて、今回はあえて、ロシアに触れた人であれば経験する、ロシア人の善良さを具現化したような企業を紹介したい。
 サマラ市の自動車部品メーカー、サマラハーネス社は、生産の主力として障碍者を雇用し、障碍者雇用率は6割を超える。障碍者の社会進出を企業の目的として掲げ、実際に生産の主力と位置付けている。更に、同社は他社と同じ土俵でビジネスを戦っている。世界的にもここまでの障碍者雇用を成し遂げているケースはレアであろう。(渡邊光太郎)


ロシアの二国間関係
敵対と融和で揺れるロシア・リトアニア関係

 2022年2月24日、ロシアはウクライナに侵攻した。ロシアに隣接し、旧ソ連諸国に含まれるバルト3国は、この侵攻を受けて、ロシアに対して脅威認識を深めている。その中でもリトアニアは、ロシアの飛び地であるカリーニングラード州とロシア本土の狭間にあり、通行問題を抱えているため、地政学的緊張感がより高い。また歴史を振り返れば、帝政ロシアやソ連時代においては、両国は支配従属関係にあり、リトアニアは関係脱却を図っていた。しかし、新生ロシアの時代に入ると、両国は地域枠組みにおける協力関係を模索した時期もあり、必ずしも常に敵対関係にあったわけではない。本稿では敵対と融和で揺れる両国の関係について、主にリトアニア側の視点から紹介する。(服部雅史)


ロジスティクス・ナビ
2022年第2四半期のロシア港湾貨物量

 ロシアが貿易統計を発表しなくなり、同国の貿易動向については間接的な情報から推察するしかなくなってしまった。その際に、有力な手段の一つは、貨物輸送量を参照することである。ロシアの自然独占問題研究所のサイトに、2022年第2四半期(4〜6月期)のロシアの港湾取扱貨物量が掲載されたので、グラフにしてお目にかける。(服部倫卓)


ロシアメディア最新事情
チェチェン共和国ロシア特殊部隊大学取材

 7月下旬、チェチェン共和国のグテルメスにある「ロシア特殊部隊大学」という不思議な名前の場所を訪問する機会がありました。大学という名前はついているのですが、高校生が受験して入学する教育機関ではありません。プロの軍人、警備会社の研修、ただの趣味の人など、様々な目的の人が希望に応じた訓練をする場所です。イメージ的には官民用・多目的専門訓練所といったところでしょうか。(徳山あすか)


デジタルITラボ
ロシアのスタートアップ・エコシステム ―希望はあるのか?―

 ロシアがウクライナに侵攻してから5カ月あまりが経過した。先の見えない情勢の中、ロシアのスタートアップ・エコシステムは根底から破壊と再構築が進んでいる。今回のウクライナ侵攻がロシア経済、とりわけロシアのIT産業やスタートアップ・エコシステムに与えた影響について、スタートアップとして混乱の渦中にいた私の体験談も踏まえて皆様にご共有出来ればと思う。(大森貴之)


ウクライナ情報交差点
ロシアの侵略に立ち向かうチーム・ゼレンスキー

 2月24日のプーチン・ロシアによる軍事侵攻の開始以降、ウクライナは良く持ち堪えている。今回は善戦の立役者であるチーム・ゼレンスキーの人物列伝をお届けする。(服部倫卓)


シリーズ 工業団地探訪
ウクライナ侵攻後の工業団地A ―ロシア工業団地の海外展開―

 前回の本連載では、ウクライナ侵攻後の工業団地の整備と振興の新たな傾向について、「ライト・インダストリアル」や「工業用モーゲージローン制度」に着目して論じた。今回はそれを敷衍し、筆者が注目するロシアの工業団地の展開の方向性についてさらに概観してみたい。(大橋巌)


ロシア音楽の世界
ハルチュニャン&ハチャトゥリアン ―アルメニア・イヤー開幕―

 今年2022年は、日本アルメニアの外交関係30周年の記念の年であり、音楽の分野でも、アルメニアの作曲家のコンサートgあ開催されている。また来年2023年は、アルメニアを代表する作曲家、ハチャトゥリアンの生誕120周年、彼が1963年に来日してから60周年の記念の年となるため、来年にかけても、アルメニア関連の文化イベントは盛り上がって来そうである。
本年9月18日には、アルメニアとゆかり深い福島県南会津で両国の音楽によるエール交換ともなる「日本アルメニア文化交流コンサート」も開催される。(ヒロ・ミヒャエル小倉)


ユーラシア珍百景
ウクライナ〜ロシア鉄道旅ルートが戦場に

 このところ「ウクライナの思い出写真シリーズ」を続けてきたが、今回が最終回だろう。あれは2011年10月だった。私は一度だけ、ウクライナ・ロシア国境を鉄道で超えたことがある。ウクライナ東部のハルキウからロシア西部のベルゴロドへ移動したものだ。ちなみに両都市は直線距離で72kmしか離れていない。(服部倫卓)


記者の「取写選択」
ウクライナ、尊厳のピアノ

 凍える夜だった。2014年2月25日。ウクライナ首都のキーウのメインストリート、フレシャーチク通りの一角に人だかりができていた。青と黄色の国旗色に塗り分けられたピアノが無造作に歩道に置かれ、男性が熱心に何やら弾いていた。曲目は記憶にないが、対ロシア関係を重視してきたヤヌコーヴィチ政権を崩壊させたユーロマイダン革命直後の高揚感が周囲に漂っていたのは覚えている。(小熊宏尚)