ロシアNIS調査月報
2023年6月号
特集◆新展開を模索するNIS経済
 
特集◆新展開を模索するNIS経済
調査レポート
2022〜2023年のロシア・NIS諸国の経済トレンド
イベントレポート
日本中央アジア・ビジネスダイアログ
調査レポート
制裁下のベラルーシにおける基幹産業の動向
エネルギー産業の話題
カザフスタンとアゼルバイジャンの石油ガス分野
調査レポート
カザフスタン経済の主力を担う非鉄金属産業
―欧米外資が活発に進出中―
自動車産業時評
2022年の旧ソ連の乗用車市場の状況
データバンク
2022年の日本の対NIS諸国貿易統計
イベントレポート
第14回日本トルクメニスタン経済合同会議
ウクライナ情報交差点
農産物輸出めぐりウクライナ・EU間で不協和音
中央アジア情報バザール
キルギスで日本発の「一村一品運動」を国策化
おいしい生活
カザフスタンの伝統的魚料理「コクタル」
記者の「取写選択」
凍結された紛争@ジョージア

INSIDE RUSSIA
ワグネルの創設者プリゴジンの主張
ロシア極東羅針盤
戦略としての物流の東方シフト
データリテラシー
大きく変容したロシア産原油の輸出先
ロシアメディア最新事情
召集令状オンライン化の法改正
―真の影響はどこにあるのか―
ロシア政財界人物録
ウスマノフに対する広範な経済制裁
ロシア音楽の世界
ラフマニノフ幻想曲「岩」作品7
日ロビジネス群像
ロシアで親日感情が芽生えた時代
―河合ミッションとは何だったのかA―
ドーム・クニーギ
河東哲夫著『ロシアの興亡』
業界トピックス
2023年4月の動き
ロシアを測るバロメータ
2023年4月末までの社会・経済の動向
通関統計
2023年1〜3月の輸出入通関実績


調査レポート
2022〜2023年のロシア・NIS諸国の経済トレンド

(一社)ロシアNIS貿易会ロシアNIS経済研究所

 本誌では毎年6月号において、前年のロシア・NIS諸国の経済実績を踏まえつつ、各国の最新の経済動向について論評するという企画をお届けしている。本年も2022年のデータがほぼ出揃ったので、早速それを試みたい(『ロシアNIS経済速報』2023年4月15日および4月25日号より再録)。なお、モンゴルは一般的にはNISの範疇に入らないが、モンゴルも本レポートの対象に加えている。
 執筆は当会ロシアNIS経済研究所のスタッフによるものであるが、ロシアについては北海道大学の田畑伸一郎名誉教授、ウクライナについては北海道大学スラブ・ユーラシア研究センターの服部倫卓教授にご寄稿いただいた。


イベントレポート
日本中央アジア・ビジネスダイアログ

 (一社)ロシアNIS貿易会は、経済産業省の助成ならびに中央アジアとの二国間経済委員会の後援を受け、日本と中央アジア諸国とのビジネス振興を目的として、2023年2月21日に東京・品川プリンスホテルにおいて特別企画「日本中央アジア・ビジネスダイアログ」を開催した。ダイアログの様子はオンラインでも配信され、当日の来場者と併せて総勢約150人が参加・視聴した。以下、ダイアログの概要についてご報告する。


調査レポート
制裁下のベラルーシにおける基幹産業の動向

北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター 教授
服部倫卓

 ロシアの影に隠れがちではあるが、独裁者A.ルカシェンコの政権が悪行を重ね、ロシアのウクライナ侵略にも加担する格好になっているベラルーシは、ロシアとほぼ同等の厳しい制裁包囲網を欧米諸国等により敷かれている。本稿では、そうした苦境にあるベラルーシの最新の産業・貿易事情を、基幹産業である石油精製、カリ肥料を中心に報告する。
 なお、不正だらけだった2020年8月の大統領選後、もっぱら暴力支配によって権力を維持しているルカシェンコ体制を、欧米諸国は正統な政権とは認めておらず、本稿でもルカシェンコ「大統領」という表現は用いないこととする。


エネルギー産業の話題
カザフスタンとアゼルバイジャンの石油ガス分野

(一社)ロシアNIS貿易会ロシアNIS経済研究所 名誉研究員
坂口泉

 カザフスタンとアゼルバイジャンは世界有数の産油国であり、ガスの生産量も多くなっていますが、本稿では、両国の石油ガス分野の現状をご紹介します。


調査レポート
カザフスタン経済の主力を担う非鉄金属産業
―欧米外資が活発に進出中―

(一社)ロシアNIS貿易会ロシアNIS経済研究所 研究員
渡邊光太郎

 カザフスタンは、金属資源が豊かであると言われる。一方、世界的にシェアの高い金属はウランとクロムに限られる。また、金属関連企業もノリリスク・ニッケルやルサールほど国際的に知名度があるわけではない。とは言え、カザフスタンの民間企業の売上上位は、金属関連企業に占められる。カザフスタン経済において、金属関連企業の存在感は大きい。
 金属に限らず、ロシアとのビジネスは厳しい状況にある。一方、カザフスタンの金属産業は、販売の対象としても、投資の対象としても、十分に魅力的な存在である。実際、外資系企業によるカザフスタンへの投資事例は多い。日本企業の投資事例も存在する。カザフスタンの非鉄金属大手企業は、日本円で数千億円の売上がある。設備投資も盛んで、欧州の冶金設備系企業の営業成果が目立つ。
 本稿では、カザフスタンの金属産業について、概要と主要企業の顔ぶれを簡単に紹介する。


自動車産業時評
2022年の旧ソ連の乗用車市場の状況

(一社)ロシアNIS貿易会ロシアNIS経済研究所 名誉研究員
坂口泉

 今回は、旧ソ連諸国のうちウクライナ、カザフスタン、ベラルーシの3カ国をとりあげ、それぞれの国の2022年の乗用車市場の状況をご紹介します。その他、ウズベキスタンの自動車生産の現状もご紹介します。


データバンク
2022年の日本の対NIS諸国貿易統計

 恒例により、日本財務省発表の貿易統計にもとづいて、2022年の日本とNIS諸国との貿易に関し、データをとりまとめて紹介する。日本とロシアの貿易については、すでに5月号に掲載済みである。なお、日本とNISとの貿易に加え、モンゴルとの貿易データも取り上げている。


イベントレポート
第14回日本トルクメニスタン経済合同会議

 2022年12月22日、東京において「第14回日本トルクメニスタン経済合同会議(以下、合同会議)」が開催された。日本トルクメニスタン経済委員会は1994年1月の設立以来、両国間の貿易・投資振興と協力関係の発展を目的に日本あるいはトルクメニスタンにおいて交互に合同会議を開催。今回の合同会議は、前回の第13回以来、約3年半ぶりの開催となった。以下、合同会議の概要についてご報告する。


ウクライナ情報交差点
農産物輸出めぐりウクライナ・EU間で不協和音

 ウクライナの欧州連合(EU)向け農産物・食品輸出の諸問題に関しては、以前拙稿で詳しく論じたので、そちらを参照していただきたい。その後、ロシア・ウクライナ戦争により、この分野をめぐる状況も一変したので、今回はこれについて報告する。(服部倫卓)


中央アジア情報バザール
キルギスで日本発の「一村一品運動」を国策化

 2023年3月3日、ジャパロフ・キルギス大統領は新しい国家経済プロジェクト「一村一品」(National Economic Project ≪One Village ? One Product≫)についての大統領令に署名した。当該の大統領令にも記されている通り、「一村一品運動」は日本で地域振興のために考案された運動である。本稿では日本発の村おこしモデルがキルギスで浸透した経緯や背景、今後の展望を紹介する。(中馬瑞貴)


INSIDE RUSSIA
ワグネルの創始者プリゴジンの主張

 ロシアの悪名高い自称「民間軍事会社」の「ワグネル」。その創設者であるエヴゲーニー・プリゴジンは、1961年6月1日サンクトペテルブルグ生まれ。1995年にコンコルド社を立ち上げ、外食・ケータリング事業を始めた。そして、政権高官に食事を提供する機会を利用してクレムリンの中枢に食い込み、「プーチンの料理人」の異名をとるようになった。
 ワグネルが創設されたのは2013年で、それ以来、同社はウクライナ東部ドンバス地方およびシリアでの戦闘に参加した。そして、2022年2月24日にプーチン政権がウクライナへの全面軍事侵攻を開始すると、ワグネルはドンバス戦線でロシア側の主力部隊として戦ってきた。
 プリゴジンおよびワグネル社は、プーチン体制のヨゴレ仕事を一手に引き受け、その限りにおいて政権側から重宝されてきた。しかし、ここ半年ほど、プリゴジンが黒子の存在から、表舞台に這い上がろうとしている様子が見て取れる。その過程でプリゴジンの放つ発言が、物議を醸す場面が増えている。(服部倫卓)


ロシア極東羅針盤
戦略としての物流の東方シフト

 シベリア鉄道東部区間とバム鉄道では輸送力拡張の工事が続く一方で、このままのペースが続けば、増大する需要に対応できないと荷主などから不満が出されるようになり、輸送力拡張を加速するための改革が重要課題となっている。
 拡張事業も20年以上が過ぎ、同区間の輸送力は段階的に拡大してきた。現在の輸送力は1億5,300万tにものぼる。15年前と比べると、輸送力は2倍以上に増えた。ロシア鉄道の取り組みが褒められてもいいはずだった。
 この状況を一変させたのがアジア方面への旺盛な輸送需要だった。加えて、西側諸国による制裁の影響で、行き先を失った貨物が極東経由に流れ込んできたことも大きい。 (齋藤大輔)


データリテラシー
大きく変容したロシア産原油の輸出先

 今回は、ロシア産原油の輸出先データを紹介します。戦争開始後にどれほど大きな変容が起こったか、分かり易い整理を試みました。(長谷直哉)


ロシアメディア最新事情
召集令状オンライン化の法改正
―真の影響はどこにある?―

 ロシアでは4月14日、兵役義務者の召集にあたり、紙を手渡す方法から、オンラインによる召集を許可する法改正がなされました。ロシア政府は再三、法改正は毎年恒例の春と秋に行われる兵役が対象であり、実質的な運用は今秋からだ、部分動員とは関係ないとの見解を示しています。とは言え、実生活に支障のある罰則もありますし、昨年秋の部分動員も記憶に新しいので、日本では「徴兵逃れ」できなくなる、とセンセーショナルに報道されました。 (徳山あすか)


ロシア政財界人物録
ウスマノフに対する広範な経済制裁

 今回は、米国および英国により自分自身だけでなく関連資産や企業の多くをネットワークごと広範に制裁指定されたロシアの大富豪、アリシェル・ウスマノフ氏のケースについて説明します。ウスマノフはロシア版フォーブス誌によれば、2023年4月時点で総資産144億ドルのロシア第8位、鉱物、鉄鋼、メディア、通信などの分野を包含する巨大コングロマリットであるUSMホールディングスの実質的支配者とされています。近年はビジネスの一線から退き、自身が創設した文化財団を軸にメセナ活動に打ち込んでいるとも言われてきましたが、2022年3月に米国などによって個人制裁の対象となり、支配下にある企業や事業が制裁対象に加えられるかどうか、動静に注目が集まっていました。(長谷直哉)


ロシア音楽の世界
ラフマニノフ幻想曲「岩」作品7

 今月も引き続き、20世紀最高のピアノの名手でもあった作曲家、セルゲイ・ラフマニノフ(1873年ロシア、ノヴゴロド生〜1943年米国ビバリーヒルズ没)の作品を取り上げる。(ヒロ・ミヒャエル小倉)


日ロビジネス群像
ロシアで親日感情が芽生えた時代
―河合ミッションとは何だったのかA―

 前号では民間主体で構成された河合ミッションの計画が立ち上がるまでの経緯について述べた。今回は同ミッションが当時のソ連でどのような視察・交流をしたかを振り返りたい。そこから見えてきたのは、「2000年代のロシアにおいて日本製品への評価や愛着が高かった理由のひとつは河合ミッションにまで遡れるのではないか」という推測である。それだけ意義の大きなものだった。(芳地隆之)


ドーム・クニーギ
河東哲夫著『ロシアの興亡』

 本書は、著者の河東哲夫氏によるロシア・ウクライナ戦争の簡潔な分析と体系だったロシア論の詳細が、ビジネスマンはじめ一般の読者にも分かりやすく紹介されている。著者は、在スウェーデン日本国大使館参事官、在ボストン総領事、在ロシア大使館公使、在ウズベキスタン全権大使などを歴任し、ロシアNIS地域の見識に優れ、ロシア人やロシア社会、ロシア政治経済の内部事情など地域固有の特殊性を把握しつつ、他国との比較を通じた客観性に優れた分析や評論を行っている。(服部雅史)


おいしい生活
カザフスタンの伝統的魚料理「コクタル」

 カザフスタンへの出張で中国国境のホルゴスを訪問した際、地元産のサザンという鯉を使った「コクタル」という魚料理がふるまわれた。半分に開いた大きな鯉にレモン汁や塩コショウで下味をつけ、ニンニクをすり込んでマヨネーズを塗り、その上にスライスしたタマネギ、パプリカ、トマトなどの野菜を重ねて焼き上げたもの。オーブンで作ることもできるが、本来は蓋付きのバーベキューグリルを使用し、香り付けのためリンゴやサクランボなどの小枝を底に敷いて燻製焼きにするアウトドア料理のようだ。(森彩実)


記者の「取写選択」
凍結された紛争@ジョージア

 雪を頂く高山が秋晴れの空に映える。カフカス山脈の南斜面が平らになった当たりに位置するジョージア中部のディツィ村を2013年10月に訪れた。「白い建物が見えるかい。おれが卒業した学校だ」。村に駐留する30歳の治安部隊員ワヌさんが数km先の山の中腹を指さす。しかし、その指の1m先には真新しい緑色のフェンスが大地を分断するように巡らされ、傍らには「南オセチア共和国」とロシア語とオセチア語で書かれた看板が立っていた。(小熊宏尚)